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迷子の火竜、おあずかりしてます  作者: 碧衣 奈美


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10/15

連れ去られたルビー

 今日はアルバイトの日じゃない。だから、シェルリスはディルアで自主練習をしているか、ルビーにゆっくり構うために寮へ戻っているはずだ。

 小竜夫妻にシェルリスがルビーを保護したいきさつを話したレイザックは、彼らを連れて魔法使い協会ディルアへ向かった。

 ファルジェリーナはどこかで休ませ、レイザックがそこへルビーを連れて行くと言ったのだが、早く子どもに会いたいからと無理について来ているのだ。

「かなりシェルに懐いてたって聞いたし、親と離れた淋しさも少しは紛らわされてると思うぜ」

 街の中で小竜の姿に戻る訳にもいかず、ファルジェリーナはレイザックと一緒に馬に乗っていた。オルフォードはマグテスと一緒だ。

 魔獣売買禁止法で捕まったジェインズについては、彼自身が魔法使いではないため、一般人を対象とした役人が拘束することになる。まだ細かい捜査は残っているが、一旦ワイマーズ家の後のことはまかせて来た。

 だが、ようやく着いたディルアに、シェルリスの姿はない。職務部へルビーの情報が入ってないかを聞きに来たらしいが、敷地内に彼女はもういなかった。寮へ戻ったのかと向かったが、やはりそこにもいない。

「シェルちゃん? 今日はまだ帰って来てないはずよ。あの子、いつも行く時と帰る時に元気よく挨拶してくれるし、黙って部屋に戻ってることはないと思うけどねぇ」

 寮長のエヌムに言われ、レイザックはもう一つの可能性であるアトレスト、彼にとっての自宅に連絡を入れた。父のブレイズにシェルリスが来たかを尋ねたが、来ていないと言う。

 ここに至って、レイザックは青ざめた。

 どこへ行ったんだ、あいつ。修学部にも寮にもアトレストにもいないなんて。

「レイ、今アトレストへ向かっている途中、ということもあります。一度、向かってみましょう」

 マグテスがありえそうなことを言い、レイザックも(うなず)く。小竜夫妻もここまで来て待ってはいられない、と言うので、そのまま連れて行くことになった。

 だが、馬はすぐにアトレストが見える場所まで来てしまう。そして、シェルリスが歩いている姿はない。

 ここまで来るルートはいくつかあるが、寮から最短の道をシェルリスは使っているはず。今はルビーも一緒だから、なおさら遠回りはしないだろう。

 とにかく、レイザック達はアトレストへと向かった。

「あれは……親父?」

 もう少しで到着というところで、レイザックはブレイズがイルバの森へ向かっているのを見付けた。

 それだけでも何か妙な気がするのだが、ブレイズは狼にまたがっていた。彼と契約している魔獣だ。翼のある魔獣では森の中で存分に羽ばたけないので、走ることに特化した狼を呼び出したのだろう。

 だが、何のためなのか。さっき連絡を入れ、シェルリスがいない、と話したばかりだ。あれからまだそんなに時間は経っていないのに急ぐ父の姿に、レイザックは強い不安を覚えた。

「親父!」

 レイザックが怒鳴り、それに気付いたブレイズが狼を止まらせてこちらを向いた。

「何かあったのか」

「イルバの森で大きな火を見たと言って、緑の妖精達が駆け込んで来たんだ」

 森に棲む草や花の妖精は、アトレストにいる魔法使いが悪い人間ではないことを知っている。だから、社交的な妖精はたまに遊びに来たりするのだ。

 しかし、今はそんなに社交的ではない妖精までもが駆け込んで来ていると言う。緑の妖精達にとって、火は何より恐ろしい。さらに森の奥へ入って逃げるか、アトレストに助けを求めるかの二択になったのだろう。

 そして、安全を考えれば魔法使いのいる所がいい、となったのだ。

「まさか、私達の子か?」

 どんな魔獣にしろ、普段から火を吐きまくっている訳じゃない。自分達の力が誰にどんな心証を与えているか、ある程度は知っているつもりだ。

 しかし、子どもとなれば話は別。それに、何か不測の事態が起きていることもある。

 森の中での大きな不審火と、火の小竜の子ども。

 現在の状況下では、非常につながりやすいワードだ。もちろん、別の要因による発火とも考えられるが、その可能性はどれくらいあるだろう。

 迷っている時間はない。レイザック達は急いで森へと入った。

 イルバの森には細い道が通り、そこを歩けば小さな村へと続いている。その途中で火が見えた。あそこには、じきに壊す予定だった古い小屋があるはずだ。

 レイザック達がそちらへ近付くと、小屋はすでに焼け落ち、周囲の草に燃え広がろうとしていた。

 魔法使い達は、すぐに水魔法でその火を消す。元々骨組みだけだったような小屋は、焼けてすっかり炭になっていた。

「今の火は……自然の火ではなかった」

 ファルジェリーナを抱きかかえながら、オルフォードがつぶやく。

「自然の火じゃない? つまり、魔法の火ってことか」

 レイザックの問いに、オルフォードは小さく(うなず)く。

 今は火を消すことに集中していたので、魔法使い達には細かい部分まで認識する余裕がなかった。火の魔獣が言うなら、間違いはない。

「もう少し厳密に言えば……私が使う火の気配に似ていた」

「それじゃ」

 オルフォードの言葉に、魔法使い達は息を飲む。

「私達の子がしたのかも知れない」

「ルビーの仕業だって言うのか? 生まれて間もない子どもにそんなこと……ルビーがやったのなら、シェルはどこだっ」

 シェルリスはルビーの近くにいたはず。この火事がルビーのしたことなら、何かよくないことがシェルリスとルビーに起きたのだ。

 レイザックの言葉に、ブレイズとマグテスも急いで周辺を調べ始めた。

「シェル!」

 小屋から少し離れた木の陰で、シェルリスが倒れているのをレイザックが見付けた。すぐに駆け寄って抱き起こす。顔や服にすすが付いていたが、見たところ火傷したような傷はない。

 しかし、レイザックはシェルリスの乱れた胸元を見て血の気が引いた。

「シェル……シェル、起きろ。頼む、起きてくれ」

 レイザックがシェルリスの頬を軽く叩き、身体を揺らして覚醒を(うなが)す。すぐに反応があった。

 シェルリスが眉をひそめ、小さく呻く。さらにレイザックが呼び掛けると、シェルリスはゆっくりと目を開けた。

「え……レイ?」

「シェル! よかった……」

 とりあえず、意識が戻った。

 その安堵感に、レイザックは思わずシェルリスを強く抱き締めていた。

「あ……の……レイザック?」

 突然のことに、シェルリスは目を白黒させる。

「シェル、ケガはしてないか? 痛むところはないか?」

 抱き締められたかと思ったら、今後は顔を覗き込まれた。近い。

「え? ううん、どこも何ともない、と思うけど。えっと……」

 目を覚ましたらレイザックがいるのも妙だし、周囲の雰囲気も何だかよくわからない。

 頭がぼんやりしていたシェルリスだったが、徐々に記憶が戻って来た。

「あ、そうだ。ルビーが」

「トゥールティアは? 私の娘はどこっ?」

 レイザックが少し離れたと思ったら、次は突然現れた赤い髪の美女に迫られ、シェルリスはまた目を丸くする。

「トゥール……? 娘って」

「ルビーのことだ。彼らがルビーの両親なんだけど……詳しくは後で話す」

 レイザックがとりあえず今必要な情報を伝えてくれた。

「あ、うん」

 ルビーって女の子だったんだ。お父さんとお母さんがいて、よかった。

 まだ彼らがどんな状況だったか知らないシェルリスは、とりあえずルビーの両親が現れたことを素直に喜んでいた。

 だが、喜んでばかりもいられない。その肝心なルビーがここにいないのだ。

「シェル、ここで何があったんだ」

「あ、大変なの。ルビーとお母さんをさらったっていう魔法使いが来たのよ。それで」

 シェルリスは、ラグトムが現れてから火事になるまでのことを話した。

「シェル、その魔法使いにおかしなことはされてないか」

「おかしなこと?」

「あ、いや、だから……」

 シェルリスはきょとんとするが、レイザックは視線を外してしまい、それ以上聞けない。

「きみに何かひどい仕打ちをしなかったか、ということです」

 レイザックが言いよどむので、マグテスが補足する。

「最初に暗示で無理に歩かされて、その後で手を縛られたけど、それ以外はないわ。縄も小屋から逃げた時に何とか切れたし」

「本当にそれだけですか? それならいいですが、制服のシャツは大丈夫ですか?」

 マグテスに言われ、シェルリスはやっと彼らが何を心配しているのか気付いた。見えそうで見えない状態まではだけているシャツを、シェルリスは慌てて抱き寄せる。

「あ、そっ、それは何もないわ。本当に何もないから。首にかけてた鍵を取られただけで……ああっ、ボタンがなくなってる」

 無理矢理襟を引っ張られたため、ボタンが二つばかりなくなっている。ラグトムにやられたあの時に飛んだのは、視界の端に映った。たぶん、あの小屋のどこかに転がっているはずだ。

 修学部の制服は、見習いが失敗した時に少しでも魔法事故の被害を防ぐため、特殊な防御加工がされている。なので、少々お高い。ボタン一つでも、家計が苦しい家は買い換えるのが大変なのだ。特殊加工があっても、火事の中にあっては黒焦げだろう。

「それなら事情が事情だし、補償が出るはずだろう。出なかったら、ボタンくらい俺が買ってやる」

「ほんとっ? よかったぁ」

 小さなボタンでも、シェルリスにすれば小さくない話。レイザックのおかげで、ボタン問題はまず解決だ。

「火事になってから、そいつがどうしたかはわかるか?」

「ごめんなさい。その魔法使いがどこへ逃げたかは見てないの。あたしより先に小屋を出たし」

 それを聞いた小竜夫妻は、肩を落とす。

 ようやく会えると思っていた娘が、母親を捕まえた魔法使いによってまた捕まえられたのだ。その落胆は大きい。

 ファルジェリーナは気配を消されなかったので、オルフォードはその気配をたどって妻を見付けられた。しかし、娘は気配を消してしまう袋に入れられていたのだ。道理で捜せないはずである。

 今度はシェルリスから子どもを奪い、それからどうしたかは不明。だが、気配を消すケージがラグトムの手元にあるなら、それを使わない手はないだろう。

 だが、彼にそのケージを使われると、こちらは追うことができなくなってしまう。魔獣にその気配がわからなくなるように、魔法使いにもわからなくなるのだ。

 そもそも、ケージは魔法使い達の手元にあることを前提として作られている。盗まれてしまうと、追い掛けることはほぼ不可能になってしまうのだ。

「奴がどこに売るつもりでいるのか、そこから探るしかありませんね。ジェインズから売人のことは聞き出せるはずですし、そこから次に売り込む先を見付ければ」

 マグテスの言葉に、レイザックも小さく(うなず)いた。

 この場で再会を果たせなかった小竜夫妻は気の毒だが、まだ終わった訳ではないのだ。少なくとも魔法使い崩れの男はルビーを殺すつもりはないはずだし、希望はまだ残っている。気配でたどれないなら、周囲の情報で詰めるしかない。

「レイザック。ルビーの行き先はわからないけど、追い掛けることはできるわよ」

「え? シェル、どういうことだ」

 この状況から考えて、ルビーを捜すことは不可能に近い。

 なのに、シェルリスがお気楽に言うのでレイザックはもちろん、マグテスやブレイズもきょとんとしている。

「あたし、ルビーのしっぽにリングを付けておいたの」

「リングを?」

 魔法使い三人が異口同音に聞き返し、小竜夫妻はその言葉を理解できずにいる。

 シェルリスの言うリングとは、アトレストで使用する魔法道具の一つ。名前の通りに輪っかだ。

 魔法使いが魔獣をアトレストに預ける際、必ずこのリングを装着するのが決まりである。魔獣の角や足首、しっぽなどにはめるのだ。

 通常、アトレストの魔獣預かり料金は前払い。一度の支払いで、最長丸一日利用できる。さらに延長する場合や、時間内に魔法使いが魔獣を引き取りに来ない場合は追加料金が発生し、それは後払いとなるシステムだ。

 だが、アトレストができた当初、その追加料金を払うのが惜しくなった魔法使いがいた。大した金額でもないのに出し渋った魔法使いは、魔獣にこっそり抜け出すように指示したのだ。

 一応、使用名簿に魔法使いの名前があったのでちゃんと請求はなされたのだが、他の魔獣と間違えたのだろう、としらばっくれて払うのを拒否した。

 そういった料金踏み倒し事件が何度か起き、それを阻止するべく各所のアトレストの魔法使いが集まって創り出されたのがリングだ。

 前払い料金を受け取る際、このリングを魔獣に装着する。これには特殊な専用の鍵が必要で、魔獣がこっそり抜け出して魔法使いが外そうとしても外れない。

 さらに、アトレストの魔法使いは特殊な魔法によってそのリングの行き先を追うことができるので、抜け出してもその魔獣を確保できる。魔獣に装着したリングを証拠に魔法使いへ追加料金を請求できるので、取りっぱぐれがなくなった。

 ブレイズの経営するアトレストでも、当然そのリングは使用されている。誰の連れて来た魔獣にリングを付けたか、ちゃんと外したかの確認も抜けることなくチェックされているのだ。

 シェルリスは、アトレストの受付でアルバイトをしている。つまり、魔獣に付けるリングを取り扱う場所にいるのだ。もちろん、取り扱い方も知っている。

 ルビーはとても小さいし、いつどこでまた迷子になるかわからない。

 そう思ったシェルリスはリングを一つ拝借し、ディルアへ行く前にルビーのしっぽに付けたのだ。

 追う側は、そのリングを追う(すべ)を持っている。ケージは魔獣の気配を消してしまうが、魔法道具の気配は消さない。ケージに(ほどこ)された細工は、あくまでも生物の気配を消すためのものだから、問題ないのだ。

 伸縮自在のリングは火の魔獣用に赤いため、ラグトムがすぐに気付くことはないだろう。あんな火を吐く魔獣の入ったケージをそう頻繁に覗き込むとは思えないし、鍵がなければリングは外れないからラグトムにはどうしようもないのだ。

 売り物にするつもりなら、まさかしっぽを切り落としてリングを無理矢理取る、などという暴挙には出ないだろう。

「シェル、よくやった!」

 レイザックにほめられ、シェルリスはちょっと照れたように笑う。

「大丈夫だ、ルビーは必ず俺達が取り返すから」

 レイザックは今度こそ、自信を持って請け負う。事情は完全に飲み込めないものの、不安の色が濃かった小竜夫妻はそれを聞いて、少し希望が出て来た。

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