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α(2/2)

 いらっしゃいませー。

 扉を開けて入店直後。カウンターの向こう側に居る大人の女性は私たちに一礼をした。

 反射的に姫はスカートの両側をつまみ、上げる___

 礼節をわきまえた彼女なら、普段なら何気なしに片足を引き、ペコリと一礼返していただろう。しかし今日は違った。

 飲食店ここではどうするのがマナーなのかしら?

 ところ変われば常識は非常識へと一転し、また非常識が常識へと変わってしまうもの。

 私が正しいと、普段から無意識に行っているそれらは果たしてここでも正解なのかわからない。

 とりあえずは相手から目は逸らさず出方を窺うことにした。

 何故かしら。じっとこちらを見つめてくるわ...。いつも通りなにも考えずに頭を下げ返せば良かったのかしら____

 両者睨み合いならぬ見つめ合い。このままでは埒が明かないことに薄々気づいた姫の後方には執事が控えていた。

 何もアドバイスをせずただただ見守ることに徹する執事が、後がつかえてる。

 常識的に考えて一つしかない出入り口を塞ぐ今の私は非常識。これは場所を選ばず共通のことだと確信している。

 ならばと思いきって私は私の中では非常識な振舞をすることに決めのだった。

 ____いいえ、きっと違うわね。ここでは何もしなくていいんだわ...____スカートから手を離すと振り返り執事と答え合わせ。

 「違和感しかないわね」

 「それでも何もしないが正解です」

 「そういうものなのね」

 私と。執事はホッとしたように視線を交わし合って、店内に片足突っ込んだ。彼の手にまた、すぐさま私は手を重ねる。

 「ただ減点と言いますか...ミニスカートをたくしあげられた時はかなり焦りました...ははは。大丈夫です、ギリギリセーフですよ」....世間的にはアウトですが。「あの角度ですと誰にも見られていません」

 下着に救われましたね。とは口が裂けても言えない変態執事の事などお構いなしに黒リボンの付いた白のブラウス、ミニスカートを身に纏った姫は固まっていた。

 「わたしが...ミニスカートをたくしあげた?...」

 ぇ?スゥーッと声は消えてゆく。

 足元に目線が落ちれば普段ばきの物とは大きく異なるスカートだが、色は黒の単色で左程変化はない。ただ膝上までしか丈がないから太股の全てまでは覆えていなかった。

 大方ニーハイソックスに覆われ素肌の露出は最小限に留められているが。

 いつにも増して足がスースーしてるのはそのせいだったんだと、何故か今更理解した。

 ミニスカートなどはき慣れないくせに気合を入れ過ぎた結果、デート早々恥をかく。

 私がデートというものを教えてあげる。そう意気込んだ浅はかな過去の自分に警告してやりたい。あんまり浮ついちゃ駄目よって。

 だが、もう遅い。

 顔からは血の気もスーッと引いていく感覚に。

 つまり私がしたことは____認めたくない。

 しようとしたことは、まるで....。

 「....痴女...そのものだわ...」

 「姫」

 なんて...はしたないことを...

 視線を上げればいらっしゃいませーの笑顔女性は。

 身動き一つしないで、表情を崩さないでじーっと。

 その顔でみ...わたしを見ないでっ!

 人知れずに恥ずかしさから目元に涙を浮かべるのだった____

 彼女は庶民的な飲食店に入るのは初めての経験で一般的な人の振る舞い、普通の振る舞いを知らなかった。

 幾ら飾った振る舞いが奇麗に出来ても世間一般的な常識というものをほとんど知らない姫は。

 習わなかったから。不必要の知識とされ前任者の爺に指導されなかったからだ。

 また、学校以外で外と関りをあまり多く持てていなかったから環境的に常識が自然に身に付くということも少なかったに違いないと僕はそう考える。

 屋敷やそういう階級?金持ちが集まるような場では満点かもしれない。でも広い世の中で生きて行くには、今の姫の常識では赤点。なんなら...マイナス点になってしまうかもしれない。

 酷かもしれませんが、自ら助けを求められるまでは僕は見守ることに徹します。今回に限っては最低限自力で....いえ、社会というものを多少なり知ってください。

 姫...がんばれ。

 陰ながら執事は姫の成長を応援しているのだった。手に汗握って。

 その姿はまるで。参観日の親の心情かな?

 ____無様にも。醜態を晒してしまったにも拘らず、相手側からのフォローも目を逸らすなどの些細な気遣いもないことに戸惑い。

 何故かにこにこ目を逸らそうとしない相手にこころがぽっきり、身体からも力が抜けていた。

 ぁぁ...なんて厳しい世界なの...何気ない優しさというものがないわ...。飲食店を軽く見てたけど...私にはハードルが高すぎたわ...

 「執事...ちょっと...」

 声から察するに...

 「(....あちゃー。きっと今涙目ですね...)は、はい」

 挙動不審にもゆっくりと彼の背に隠れるように位置取った姫は、執事を盾兼杖代わりにしてちょこちょこ押し進む。

 「え..なになになになに」

 「な、なんでもないわ...」

 「あ。...なるほど」

 「さ、察しないでいいの」

 「(こういうところも可愛いなぁ...まったく。だけどこう...すぐに執事に頼られてはあまり意味がないのですが...)挙動可笑しいですよ(笑)これは赤点ですねお嬢様。いずれ追試と致しましょう」

 「なっ!?」

 今しがたロリコン呼ばわりされた仕返しとばかりに。ニヤニヤしながら執事は進みカウンターまでくると手元のメニューに一通り目を通す。

 モズバーガーというだけあって、バンズに肉や野菜がサンドされている商品がズラリと並んでいた。他にもライスバーガーだったり、サイドメニューにはポテトやオニオンリング、カップサラダや。

 へぇー...スティックケーキ何てものまで売ってるんだぁ...

 興味津々な執事は目を丸くした。

 値段は...お手頃価格かな?

 あぁそうだ。メニューを見ていて一つ思い出したことがあった。昔、似通った雰囲気のお店に来たことあった気がする。モズバーガーだったかは、まるで覚えてないけど。

 確か、これらはジャンクフードと呼ばれていて...

 ジャンクフード?

 これって身体にあまりよくないとかどうとかこうとか聞いたことがある。

 揚げ物も夜間の摂取は好ましくない。

 胃は凭れるし、内臓脂肪だの皮下脂肪だの...とにかく脂肪へと変わりやすいとか。

 あれ..僕の店選択、お嬢様にとっては不味くないか?

 「....」

 振り返ろうしたが、すぐに視界に写りこみ。

 手遅れだった。

 あれだけすぐに隠れたくせに、今では僕の横に来て目をキラキラさせてメニューを凝視。

 店員さんの苦笑いなど気にもしていないようで先の醜態も忘れてるご様子で。

 どれにしようかなぁ~♪どれにしようかなぁ~♪

 幸せオーラが目に見える。浮き浮きしているのが音で聞こえる。

 今さら、違う店にしようなんて野暮なことは言いたくない。

 でも...姫の健康のことを考えるとこの時間からジャンクフードは控えたい。

 ここは頭を下げてでも後日に出直す方向で__

 「__姫__」

 「モズチーズバーガー食べてみたいわ」

 キラキラ✨

 「いや...姫__」

 「モズチーズバーガーを食べてみたいわっ」

 キラキラキラ✨

 「いや、だからその__」

 「モズチーズバーガー食べてみたいわ、わたし」

 キラキラキラキラ✨

 その純粋な可愛さの前に執事はいとも容易く折れるのだった。

 「...はい。分かりました。他にはどうしますか__」

 「えっと、ええっと...モズバーガー」

 「え?一緒じゃないですか」

 「違うのよ執事。こっちはチーズが入ってないのよ。知ってた?」ドヤッ

 「いや、名前と絵からわかりますよ、そんなの」

 「あらそう?じゃあ他にはこのバーガーと...このバーガー..それから____」

 「まだ頼むのですか?」

 「当然よ。あとはジュースにケーキにポテトにサラダにオニオンでしょ...それからこのバーガーもあとこれも____」

 「もう好きにしてください。姫が食べないものから僕も貰いますからね」

 「わかったわ♪」

 ついつい無邪気な姿に甘やかしてしまう執事でした。

 呆れたような顔をしながらもなんやかんや言って...許しちゃうのね、彼は。

 この二人が俗に言うバカップルね。

 店員さんは入力を忘れ二人のやり取りを見物していたが、そのうち耐えきれなくなったようにそっぽを向いた。

 「こっちにはチーズが入ってないのよ」、ドヤッ。思い出すだけで...

 可愛いとばかりに肩を震わせ静かに笑っているのだった。

 ちらほら聞こえた姫に、執事という単語。

 もしかしてこのお客さんたちは本当にどこぞのお姫様と執事さんだったりして..なんてね。ふふふ。

 当たりである。

 現実離れしたような、ほんわかした雰囲気にあてられた彼女は只今仕事中という現実を忘れしばし癒され、ふと思い出し、お決まりでしたらどうぞ。注文内容を執事と姫に窺う。

 遠慮なしにバンバン注文する姫に、やたら注文多いなぁ...とは思いつつも、入力を済ましていった。

 当然支払額は可愛くなることはなかったが、二人からしたらなんでも良かった。

 請求先はどうせ鈴羽(すずは)父、旦那様になるのだから。

 「会計10,740円になります」

 「カードで。一括でお願いします」

 自分はまったく痛くない魔法のカードを差し出す執事は困ったようにチラリと。横を見て微笑んだ。

 柄にもなく、ワクワク。ワクワク。と無邪気な子供のように目を輝かせる姿に。心から喜びを感じていた。


 本当にいい顔で笑うようになりましたね...お嬢様。

  

 ◇ ◇ ◇

 

 まだかなまだかな~♪ご機嫌に座して足をプラプラ。品物が運ばれてくるのを待つ姫は机を挟み僕の正面の席に居る。

 二人は四人掛けの席。窓側の席を利用していた。仕事帰りであろうスーツに身を包む男性や私服に身を包んだヒョロ長の男性。偏見で悪いがいかにもジャンクフード大好きな、そんな体型の方はバーガー片手にPCを弄り。二人掛けの席を利用し既にいっぱいになっていたためである。

 着席するにあたり自然に解放された僕の右手はここぞとばかりに上着からスマホを引っ張り出していた。

 今です!あ....

 「よりにもよって初デートでスマホ弄るなんて....」

 当然現場を目撃されるが、文句は言われるが、その程度ではしまいはしない。

 ま..まぁ写真を撮り損ねても動揺だってしない僕は冷静そのもので、画面から目を逸らすと本物の姫と今度は直接目を合わせるも。

 ふくれっ面すら可愛いものだから困ったものだ。素直にポケットに戻してしまいたくなる。

 でも____痛っ...蹴るのは可愛くないと思います...。

 執事は無音で彼女を写真に収めた。

 「...すみませんついつい癖で。気を付けないといけませんね」

 「そうよ、待ち時間ですらデートには変わりはないの。家に帰るまでがデートだと思いなさい」

 顔を背けた姫からは、フン!と効果音が聞こえてきそうだった。

 姫のご機嫌メーターはMAX(100)だったが、そこからは-1されたが。

 初犯を許さないほどわたしの器は小さくない。

 小説や漫画から得た知識からわたしは知ってるけど。デートすらまともに知らない執事はデートに禁止事項というものがあること自体当然知らないに決まっている。

 デートを教えてあげると言った以上自分の言葉に責任を持たなくては。それに...私が(入店直後)醜態を晒してしまったことにより執事もそういう目(悪意あるニコニコ顔)...で見られたに違いない。その分も取り返さないと....

 (注意。店員さんの悪意0%である)

 そう考えると、わたしが少し大人気なかったかもしれないわ...。

 11歳は20に気を遣うのだった。

 「ち、ちなみに彼女の前でスマホに触れる行為はデート中にしてはいけない行為第三位よ、私の中では。よく覚えておきなさい」

 へぇー。とはがりに相槌を打つ執事の知識が+1された。

 デート中にしてはいけない行為ですか。参考になりますね...。もしかしたら今後の人生に役立つこともあるかもしれない興味深い話についつい。

 「じゃあ、二位と一位はなんですか?気になります」

 予想だにしていなかった食いつきに、返しに。

 と..当然そう来るわよね...ええっと...。姫は頭を悩ませた。

 「二位は...そうね。....執事が...私の名前を呼んでくれないとか...いつも通り敬語で話すとか?かな」

 それはまた...曖昧な。それに姫限定の話じゃないですか....。一気に聞く気の失せた執事であった。

 「一位は...執事が私以外の異性に目移りすること。と一口に言っても一切女性を見るななんて不可能なことは言わないわ。つまり私が言いたいのは..その...ええっと..執事を他人に奪われるのが嫌なだけなの..それだけは何が何でも...キャッ♪言っちゃったぁ~わたし...____」

 お嬢様、ご機嫌のようで何よりです。

 手を添え、頬を薄ピンクに染めた姫先生。の、ありがたい?お言葉もそこそこに聞き流した僕は愚かにも画面に視線を戻していた。

 無断撮影も手慣れたもので開いたフォルダーには数枚の姫の画像があった。

 「.....」

 しかしながら、どれも目が表情が冷めきっている。

 それもそうだ。つい最近まで学校が終われば習い事だのなんだのと結果的に一日中誰かの監視下に置かれていたし、言われたことをただ行う。自由がない日々をほぼ毎日長年に渡って強いられてきたのだから。

 屋敷では考える自由すらまともに与えられなかったのだから表情も乏しくもなるのは必然だろう。

 写真の中でも。特に酷いのはテーブルマナーを機械人形のように淡々と反復していた時のもので。幼少期から講座みたいなものは始まっていたが、写真自体は約一年前の物。


 僕の前任者。執事でもあった、クソ(ジジイ)はその日も事細かに所作の指導をし。自分が納得するまで何時間でも姫を監視し見えない縄で縛り続けた。あの時、姫は体調を崩していたのに関わらず自ら声を発しなかった。

 「迂闊にも風邪をひいてしまいました。お手数をお掛けしますが今日の予定すべてキャンセルでお願いします。任せましたよ」

 そんなニュアンスを含んだ言葉を僕だけにでも言ってくれていたらと。今でも思います。

 だから平常通りに振舞う姫に事態に気づくのが遅れた。そのお顔が次第に赤みを帯びて..頬には汗が滲みそこでようやく...僕は姫の身体の異常を察知した。...僕が止めに入らなかったらきっと限界まで倒れるまで動作を繰り返していただろう。...だが、一番近くで見ていたはずのクソ(ジジイ)は知っていて尚、自らの判断で止めることはしなかったから許せねぇ...

 「姫様にはどんな状態でも完璧に振る舞ってもらえたらと思いましてな。これもまたとないいい機会でしたが...貴方に止められては致し方ない...。姫様、今日もお疲れさまでした。また明日はいつも通りの流れで行いますので、悪化させぬよう今日は一刻も早くお休みになられてください」とか鬼畜発言を、戯言を抜かしやがった。(実際は休みとなったが。)

 その時僕は、今にも椅子から崩れ落ちそうな彼女を。発熱発汗した姫を抱き抱え。

 看病することを第一に行動した。

 「大丈夫ですか、お嬢様!」

 「....ぁ」

 だから、爺に言いたいこともあったがその場は堪え早足で立ち去り階段を登って。姫の部屋に急ぐことしか出来なかった。

 感情をあまり出さなかった当時のお嬢様もあの時ばかりは...熱に浮かされ甘えてきたのだった。

 それぐらい...心身共に疲弊していたのでしょう...

 「わたし...今日は頑張ったよ....だから...ご褒美が欲しいなぁ...。また...昔みたいに遊ぼうよ...えへへ...ハァ...」

 「...お嬢様...。お嬢様が元気になられたらたくさん、たくさん、昔みたいに遊びましょう。ですから今はご自身の身体を休めるこ」

 「嘘吐き。騙されないわ..ハァ...ハァ....」

 「......。そうですね。確かに今の私には...無理そうです。執事が私に執事としての在り方や作法をみっちり指導するものですから...。それにシェフには料理を、メイドには...ははは。三角板挟み状態で....時間が取れません。すみません。でも約束します。近いうちに必ず時間を作って、お嬢様にお相手してもらいます。その時は是非」

 「うん...約束...ハァ..ハァ...待ってるね...。ずっと......」

 「.....」

 「....」

 「...」

 「..」

 「.」

 「今はゆっくりお休みください、お嬢様...」

 すみません。私はお嬢様に嘘をついたかもしれません....すみません....


 もう過去の話だが、許さねぇ。俺は(お前)をぜってぇ忘れねぇ...。

 使用人の分際で意図的に姫を苦しめやがった。

 次もし顔を見せようものなら____いや...見せに来ないでくれ...姫の辛そうな顔は...もう..見たくない...悲しげな顔だって...嫌なんだ..

 「....」

 今の表情豊かな姫の方が僕は断然大好きなんだ。

 だから、もう誰も姫から表情を奪わないでくれ。

 輩が二度と現れないことを心から願う__どうか、1ヶ月続いたこの楽しい日々がこれからも続きますように____僕は願いを乗せて過去の写真を削除してゆく____一枚、また一枚、また一枚、最後の__

 「あーまたスマホ見てる...そんなに悲しそうな顔してどうしたの?」

 「あ。..いえ。なんでもありません、すみません大丈夫です」

 「本当に?」

 「本当です」

 じゃあ...スマホをしまいましょう。さりげなく回収されそうになったが一足早く回避に成功するも。

 ちぇ...とばかりに更に腕を伸ばし追い討ちをかけてくる。攻防戦が繰り広げられた。

 「素直に見せなさい。早めに諦めるのが自分のためよ」

 「いえ、それだけは出来ません。ははは」

 「「....」」

 シュッ...シュッ..シュッ.シュッシュッシュッ__

 「し、しまいますから!少しだけ時間をください。やらなければいけないことが...いえ、確認しないといけないことがありまして...」

 確認しなければ。それも事実だが、画面の中にはに未だに悲しげな姫のお顔が残っていて。

 一刻も早く過去と決別したいのが正直なところだったが。

 ふと我に返り。...というか、僕が姫の顔を隠し撮りしていた事実を知られるわけにはいかないだろ。

 発想が変換された。

 ロリコン!盗撮魔!を一例とした罵声がバンバン飛んでくることは想定内だが、純粋に...僕が姫の写真を隠し持っているなんてバレたら恥ずかしかったから。

 姫が調子に乗って更に積極的になったら僕の理性がついに危うくなってしまうからバレるわけにはいかなかった。

 死活問題のため必死に手を搔い潜っていると、やがて渋々諦めてくれるのだった。

 この勝負どうやら..僕の勝ちみたいですね、お嬢様。

 「はぁ..はぁ..」

 だが満身創痍で表情には一切の余裕がなかった。

 「そこまで必死に隠すなんて...さてはまたお父様からのメールね」

 上手く勘違いしてくれたと、執事はコクコクと頷いて一芝居____

 「はぁ...確認くらいならいいわ。でも今夜のことを報告するのはなしよ。こんな時間に外出していたことをお父様に知られたら何を言われるかわからないもの...。それに...」

 少しの間が空けられた。

 「報告した場合。それを口実にほぼ間違いなくあなたは()()になるでしょうから絶対ダメよ、事実をそのまま返信しちゃ。メールは罠よ」

 脅迫紛いでもしっかり釘を刺しておく。念には念を、注意を促して危機感を募らせるのを目的としていた。

 今日のデートはお父様だけには絶対知られてはいけないものだから。

 情報統制は徹底しなければいけなかった。

 誰であれ私はクビにすることはない。実質決定権を持つのはお父様。ならやりかねない。

 会う度に。執事に対してどこか存外な態度で接しているように見えたから、クビに出来るだけの判断材料を与えるわけにはいかなかった。自分でデートに誘っておいてあれだけど今日の案件だと執事の一発解雇も十分視野に入れていいと思う。

 流石の執事も脅しではないと察したようで「クビ..」に反応し態度が豹変する。

 ____スマホを机に置くともう一芝居。

 「はぁ...罠ですか。報告してもクビ...それは...非常に不味い事態になりましたね...」

 ただ事ではないとばかりに開き直ったかのような執事は天井を見上げた。

 その声はひどく落ち着きを保っていて何か良からぬことを次の瞬間には口にする気配を察知したわたしは「執事?」と不安から彼のことを呼んでいた。

 「お嬢様...いままで大変お世話になりました...最後にこうしてお嬢様とデート出来たこと幸せに思います」

 一礼に。発言から遠く離れた突飛な笑顔に、事の重大さを理解した私はフリーズした。

 「報告してもクビ」そもそもメールなど来ていないが。「怠っても」何も起こらないが。「クビ」と息をするように嘘を吐く。「..これが本当の詰みってやつですか...」事実無根なことをスラスラと並べる執事は俳優以上の演技力で。

 自然に俯いて。いかにもの空気を漂わせる。

 黒い。服装だけではなく纏うオーラまでも。どんより黒く項垂れる。

 「ぇ...」執拗がこのままじゃいなくなっちゃう?...だめ、そんなの..

 今までこんなにも落ち込んだ執事は見たことないだけに、急過ぎる展開に頭の整理が追いつかない。

 対処方も解決方法もまだ浮かばないけど、せめて安心させようと姫は気丈に振る舞った。

 「だ、大丈夫、何かあればわたしが執事のことま、守るから。安心して。クビには絶対させないわ。あなたは私の家族も同然...いいえ、私の大切な家族だもの。だから...ずっと...ずっとずっと私の傍に居なきゃだめ。だめなの」

 そうじゃないと私が...。震えそうになるのを意識して堪え手を伸ばし。執事の頭を優しく優しく撫でつけた。

 彼の為に。何より私自身の気持ちを落ち着かせるために彼の温もりに触れたかったから。

 私は彼に強く依存している。身の回りの世話をしてくれる執事だからというわけではなく、彼という一人の異性に惹かれてる。今の私があるのは彼という一人の人間の存在があったから、彼にもっと私を見てもらいたかったから。 

 そんな健気な姫を構成するのは彼への思いだけ。その彼が居なくなってしまえば...私はまた...過去の私に戻ってしまう。いいや...彼という光を完全に失った私は...今度こそ空っぽになってしまう。

 そんなの嫌...

 「..それでも...私の力及ばずもしもの場合は...私は...。あなたと一緒に家を出るわ...どこまでもどこまでもあなたに付いていくわ...絶対あなたからは離れないわ...執事を絶対一人にはさせないわ」

 姫...。僕のことめちゃくちゃ大切にしてくれてるじゃないですか。..今までクビにされるかもって怯えてたけどその必要なかったのですね....。はぁ....

 流石に。流石にやり過ぎましたね..とは思いつつもあまりにも幸せな時間に、「今までのは嘘です。演技なんです。あははは」なんて馬鹿げたネタばらしは出来そうになかった____

 もう...駄目ですね。いつから僕はこんなにも涙脆くなったのでしょう....ここまで姫に言われたら...マジ泣きしそうです...。(ぐすん)

 ____結果。引き際を誤った僕の。

 正真正銘の僕の本音は更に火に油を注いでしまうこととなった。

 「...ははは...お嬢さまは...本当にお優しいですね...。どうか...そのまま優しさを忘れず立派なレディになってください。はぁ...僕はお嬢様の執事になれて本当に良かった...姫に出逢えた僕は間違いなく幸せ者です」

 まるでお別れのセリフを言う執事だが本人にはまったくその意志はない。これから先も鈴羽邸に残るつもりだし姫のサポートを継続予定(断固)。しかしながらあまりにも紛らわしく更に姫の心を乱すこととなった。

 「..執事」

 「....」

 俯き加減に作られた薄っぺらな笑顔すら暗い。(そんなことはない。心から執事は笑っていた)暗すぎる。(決してそんなことはない)

 目元に涙を浮かべたこんなにも弱った執事わたしは知らない...

 その涙は、笑顔は喜びから来ているものだったとは彼女は知ることはなく。

 ...ぐすんとつられたように姫の鼻が鳴った。

 対応に困り果てて。今にも泣き出しそうな音にチラッ。と執事も顔を上げた。

 「「....」」

 目が合った。

 良かった...まだ泣き出してはいないですね。

 ギリギリをの線を見誤る執事ではなかったようだ。

 だが、気まずくて、どう収集を付けたらいいのかに困り果て挙句の果てに。

 頭を下げた。

 これがまた姫の目にはマイナスに映ってしまった。

 やっぱり黒かった....。この世の終わりだとばかりに生気がない目に。「どどどどうしよう!?」本格的にあわあわ慌てだす姫を他所に。執事はそんな言葉をリアクションを実は密かに待っていた。

 そもそも何故こんなバカげた芝居を打ったかというと、ある確認をするため。

 姫たるものいかなる時も大きく取り乱すことなかれ、ですぞ。そうクソ(ジジイ)が口を酸っぱくして長年姫に言い続けてきて、律義にも姫はそれを守り続けて。自制することを常に行っていたように思う。

 表情が乏しかったのにはこれも少なからず影響しているだろう。

 長年の習慣...もはや洗脳。呪術の類のようにしつこく染み付いた悪習が消えうせたかどうか...この一か月で急に明るくなられた姫を見てきてもしや解呪できたのでは?と、確かめるテストをしたかっただけなのだが....

 今ではその呪いの効力も完全に消えているようで。

 この取り乱しよう。

 涙目で口をパクパク。席を立って手が意味もなく動き続けて。まるで、お嬢様の品位の欠片すらない姿は。


 普通の一人の女の子に成り上がったようで僕は嬉しくなった。


 相も変わらず....取り乱した姿も超可愛い...。

 彼女の荒れに荒れた心情も知らないで..もはや執事はサイコパス。

 ちょーやばです...マジでやばいですお嬢様。口元を手で覆い照れ隠し、動揺を隠す。

 写真。写真に一枚....いや何枚でも欲しいぐらい。

 だが、いつまでも静観していても解決はしないもの。雲行きはは次第に悪くなるもの。ならば、

 「お嬢様一つ提案があります。上手く行くかは運次第、旦那様次第となりますが僕がクビにならない可能性を思いつきました。それにはお嬢様..いえ、姫の協力が絶対条件な」

 「なんでもするわ!」

 グイっと姫の顔が急接近して涙がポロポロっと零れるのを見た。

 あぁ...やり過ぎました....。

 「...コホン。姫にお願いしたいのは口裏合わせです。しかし嘘を」

 「やるわ」

 即答に。姫に嘘をつくこと、そして噓を吐いてもらう覚悟をしてもらうことに罪悪感を募らせながらも。

 「...。では説明します。...いっそのこと夕方から夜間にかけて外出していたことを旦那様にお伝えします。...そうですね。僕が体調を崩し、心配したお嬢様が付き添ってくれたってことにしましょうか。診察に思いがけず時間がかかりそれでやむを得ず...夜間飲食店に立ち寄ったと...そんな感じでどうでしょうか?返信もこのような内容にしようと思うのですが...」

 まるっきり嘘である。返信など出来はしない。そもそも旦那様からの通知など来ていないのだから。それでも収取をつけるためそれっぽい新たな嘘を必死に並べる執事の茶番劇はようやく幕を降ろすのだった。

 「...いいわよ。それに賭けてみましょう。じゃあ返信して頂戴。......良かったわ..執事が戻ったわ...(ぐすん)」

 姫は安堵から目元を拭うと着席するのだった。それを確認してスマホを掴み上げる。

 ほんとーーーーーに申し訳ありませんでした。...二度と。二度とこんな演技しません...

 天使過ぎる彼女に胸を貫かれそうなほどに、なくなるほどに抉られる執事は誓う。

 自業自得とはこのようなことを指す。

 とはいえ、ここまでして獲得した権利を使わなければ、何のために姫の心を弄んだか...うっ...僕はなんてことを...

 己が欲求を満たすためためだけに____

 自責する執事とは無関係に指が一枚の写真をクローズアップ。

 目にした瞬間、僕の反省会は終わった。

 今日撮ったこの一枚が今までで一番いい表情で写っている。

 比較するまでもなく明白に。

 ブレなし、障害物なし、オッケイ。文句無し。

 本来なら商品待つ姿。待ち焦がれている躍動感あるキラッキラな笑顔を撮りたかったが、膨れっ面もかわいい。まぁ...いいでしょう。

 「以後スマホの使用は気を付けます」

 分かればいいのよとばかりにこくこくと頷く姫は返信がきたら教えて頂戴と。執事はわかりましたと嘘を吐く。

 ようやく、ようやく一件落着です。

 気が抜けたのか、ほっとしたのか。それとも空気を一新したかったのか。はたまた思い出しただけののか、また、まだかなまだかな♪目を輝かせるものだからチャンスがあれば是非とも一枚撮りたいものだが。

 スマホを構え直すと目付きが変わるんだ。これが不思議と。...何でかなぁ...。

 「....」

 「....しまいます」

 普段スマホを弄る時間すらまともにない執事は。

 使うとしても寝る前に通知確認を行う程度。いつ旦那様から連絡がきてもいいように対応できるようにと常時携帯はしている。

 その他使用用途は姫との電話。レシピ検索少々。姫の写真をごくごく希に。

 普段は着信音とバイブ機能を入りにしているが、今夜ばかりは切りにしていた。

 だが今。微かに振動があった気がしたが気のせいか__今日も連絡はなし..と。

 画面には一切の通知が表示されていなかった。

 スマホを上着にしまい込む直前に確認。しまうと一息つくのだった。

 ぁ...。

 あと一枚消し損ねた姫の画像がふと頭をよぎったが、きっとそれも何かの縁だろう。

 つまり「...忘れちゃいけない過去だってある...」そういうことだろう。

 「....。過去がどうとかって聞こえたけど...どうしたの?今日の執事は...何か変よ」

 「ぇ?....僕、何か変なこと口走りましたか?すみません、だとしたら無意識で。お嬢様の気に障るようなことを言ったなら何度でも謝ります。本当にすみ」

 「変なことは何も言ってないわ、だから謝らないで。でも....そう...今の発言も無自覚なのね..。きっとあれも...これも...全部全部」

 「...」全部全部?

 「そう」朝のことも当然。(獣執事ボイス)他。

 カーッと顔が熱くなる前に振り払う。

 それって、つまり____執事が少しずつでも、変わりつつあるってことよね...


 お嬢様と執事の関係から、もっと踏み込んで。

 気が緩む...違うわ。気を許せる相手だと私は認識され...無意識では、執事の中の私の立場は既にお嬢様じゃないところまで引き下げられたのかもしれない。

 つまり、執事が偽らないで普通に話せる...隙を迂闊にもみせてしまうぐらいの一人の年下の女の子。あわよくば一人の女性って扱いになってくれていたら嬉しいけど...そこまで期待すると悲しい結果になりそう。

 ともあれ。

 彼が私の前で安定して感情を隙を見せるようになったのは、一か月前から始めた執事弄りや悪戯の甲斐あってのことだと思う。

 厄介だった使用人たちを追い払ってから始めた私の計画。

 その名も『執事失墜計画』が順調に進んでいる証拠とも言える。

 『執事失墜計画』は執事に構ってもらうために考えたものだったが今は違う。

 ※『執事失墜計画~後々二人は親の反対を押しきって結婚します~』に1日前にバージョンアップ済み。


 1ヶ月。1ヶ月私は罪悪感に苛まれながらも執事に迷惑をかけてきた。

 そして、ここ数日。

 執事の対応に変化が出始め。

 ようやく確かな手応えを得た。

 ようやく執事がボロを出すようになってきた。

 朝の出来事、帰りの出来事、家での出来事...(プシュー)...は事故としても。

 コホン。デート中()の出来事。


 とっても、順調だわ。すべて計画通りね。


 でも...もっと彼のいろんな表情が見たいわ。

 怒った顔、悲しんだ顔、笑った顔、呆れた顔。

 もっともっと遠慮しないでグイグイ来て欲しいわ。

 頭ナデナデや頭ポンポン、手だって普段から繋ぎたい。おんぶやお姫様抱っこだって昔のようにしてもらいたい。

 

 執事()お嬢様()の隔たりを有耶無耶にして、末永いお付き合い。お父様には秘密裏に、行きつく果ての結婚に気づかれたところで既に手遅れ..完璧なプランね。

 そのためにも、私____執事弄りや悪戯。

 継続するわ!

 執事()が役職を忘れて本音で、対等に私と話せるようになる、その時まで。

 今に見てなさい。真っ先にその言葉遣い、私の前では使えなくしてやるわ。

 

 「しーつじ♪」

 「はい。何でしょ____」


 腹に一物あるように。ニコニコが一段と輝く姫を見て、何故か僕の背にはゾゾゾと駆け抜けていく。


 「ただ、呼んだだけ♪」

 「...そ..そうなんだ...」

 「うん♪」

 

 目には目を歯には歯をという言葉があるように。

 笑顔には笑顔で。執事は苦笑いで対抗するのだった。

 

 本当に...いい顔で笑うようになりましたね..


 ◇ ◇ ◇

 

 その頃、少し前。厨房の方では。

 「いやー...閉店間際に大量注文とかマジでやめてほしいっす...」

 「いやいや、その分売り上げが伸びるからいいことだよ。うん」

 一人の青年がぼやき、一人の青年が窘める。包みを巻いていく手は動かしながらも、口も動かす。

 「それに閉店間際って言ったけど...今はまだ____」

 厨房の壁に設置されたデジタル掛け時計を見ると21時56分。閉店は...オーダーストップは22時。

 この時間だと珍しいくらいの大量注文に調理、提供、食べ終わる?時間を加味すると....

 「____うわー、最悪だぁ...」

 「ほんとそれっす」

 背後から聞こえてきた若者たちの悲痛な声に眉を顰める注文会計担当のお姉さんだが、入店直後から賑やかだった珍客(バカップル)の時折どこからともなく聞こえてくる(アップダウンの激しい)声にクスっと笑うのだった。

 世の中にはいろんな人が居るなぁ...。


 ◇ ◇ ◇


 「大変お待たせいたしました。すみません、量が量のだけにトレーが多くなってしまうんですが...」

 言葉通り、どこか申し訳なさそうにトレーを運んで来たお姉さん筆頭に3名の店員さんが列を作っていた。

 「大丈夫です。ただ...乗りきらないと思うので隣の席も借りてもいいですか?」と執事。

 「あ、はい。どうぞどうぞ。使っちゃってください。この時間だと他のお客さんは来ないと思いますから...」

 時刻は10時13分。本来なら営業時間終了である。

 気遣いから、マニュアル通りに発せられた言葉の真意を執事たちは知ることはなかった。

 「では、お姉さんが持っている二つはここで、後は私の後ろでお願いします」

 「はい、わかりました」

 幸い閉店間近のおかげなのかお客さんはいない。実質貸し切り状態だ。

 空席が多くさっぱりとした雰囲気の中。

 僕と姫が座る席に二つのトレイを置いた女性はバケツリレーの要領で隣の席へとトレーを並べ、他の店員同様に戻ろうしていた。

 「ではごゆっくり__」

 「すみません」

 「__はいなんでしょうか?」

 「はじめに...注文時にお姉さんにお伝えすればよかったのですが...後ろの物は食べきれないので、袋かなにか貰うことはできるでしょうか?」

 どうせなら...最初に言ってほしかったかなぁ...。そんな思いも表情にも、おくびにも出さないのは流石はプロだ。

 「はい。そうしましたら...宜しければ早速お詰めしてもよろしいでしょうか?」

 「あ。いいんですか?お願いします...すみません」

 やり取りが聞こえ内心店員たちはホッとしたのだった。よしっと握り拳を作る始末。

 「いえいえ、大丈夫ですよ。お客様は気にせず召し上がりください」

 「は、はぁ...」

 普段自分に向けられることない言葉。何なら自分が普段から用いるような言葉遣いで対応されるなんて違和感しかないですね...。

 それに営業スマイルも忘れない精神、作られた表情に、執事は何か自分と似たものを感じていた。

 対人関係の仕事はどこでも大変そうですね。

 慌て袋を取りに戻り来ると、テキパキと詰め始めた女性を尻目に執事は姫に向き直る。

 「どう?初モズバーガ―を食べた感想は____」

 え?

 あまりにも静かで。黙々と食べているものだと決めつけていたが、違ったようだ。

 包みを開けるところまではしている。

 しかし、そこで固まっている。

 お肉が焼けた香ばしいような香り、タレだろうかソースだろうか...食欲誘るいい香りは漂っているというのに、ゴクリと喉を鳴らしているにも拘わらず手を未だに付けていない姫に。

 何故?と聞いてしまいたいが。

 「執事...ナイフとフォークはないのかしら?」

 「....。(なるほど。)」

 確かに昔、屋敷で出された料理の中にもバーガーがあった。その際は、包みには入っておらずお抱えのシェフの力作で。野菜やお肉がバンズから零れ落ちんばかりに...もはや一部お皿に盛りつけられていたのでした。あれは...芸術的一品でした....。当然、お嬢様のお手元にはカトラリーが用意されており、執事の指示通りの手順で召し上がっていたのでした。

 外食でのバーガーはもちろん初見のお嬢様は。カトラリーを用いない食べ方を知らないのも無理はないですね...

 ならば、ぼくがモズバーガー(ここ)での正しいマナーを示しましょう。

 「いいですか姫、ここでは包みの上からバーガーを持ち、ガブリと食べるのです」

 モグモグモグモグ。食べた方を伝授するために包みを開きお嬢様より先にバーガー頬張った。

 ウマッ。ジャンクフードウマッ。モグモグ...

 「....。げh.....。面白い食べ方ね、執事」

 「...。(よくぞ堪えました)えぇ..まったくです」

 パクリ。モグモグモグ...ジャンクウマッ

 あまりの姫の衝撃発言に、常識外れなやりとりに女性は自身の耳を疑った。え?どういうこと?固まらずにはいられないのだった。

 「....執事。私やっぱりフォークとナイフを使いたいわ」

 「「「....」」」モグモグモグ...ごっくんと執事。

 「恐らくはカトラリーはありません。諦めてください」

 「...そうなのね。わかったわ...郷に入っては郷に従えってことなのね...」

 キラキラキラ...美化された。美味しそうなバーガーが私に食べられるのを今か今かとを待っている...

 「....(ゴクリ)」

 「....」

 そろーり...手を伸ばす____

 も沈黙を破った勇者(愚者)お姉(店員)さんに____ぴたりと制止する

 「すみません、すみません...本当にすみません」

 泣きながら笑う。器用なことをして見せる女店員さんは仕事を完遂し逃げるようにその場を立ち去るのだった。

 「何が可笑しいのかしら?ねぇ執事。私にはあの人がなぜ笑ったのか理解が出来なかったのだけれども、あなたにはわかるものなの?」

 僕は姫の顔を直視出来なかった。その声は穏やかで。

 きっと、純粋な困り顔。それ以上でも以下でもない表情は見るに耐えかねたから。

 お嬢様、それ馬鹿にされているんですよ。

 言えるか、そんなこと。

 「....。お嬢様、この後どこか...公園にでも行きましょうか。きっと夜風が気持ちいいですよ」

 「執事?」

 「外で食べる方が絶対に美味しいですから行きましょう、さぁ...」

 何故か無性に悔しい気持ちでいっぱいになった。

 馬鹿にされたのは僕じゃない。

 姫だけれども、姫だからだ。

 なんでだろう。姫は理解すらしてないのに、僕だけなんでこんな気持ちになるんだろう。

 一刻も早くここから飛び出したい衝動に。

 え?え?と戸惑う姫を他所に執事は机の上の物を撤収。後ろの紙袋の隙間へと強引につめてゆく。

 あぁ....私のバーガー...。と名残惜しそうに手を伸ばしかけた姫を他所に。

 何とか袋に詰め込むと袋を抱え外へ出ていった。と思ったら手ぶらで戻ってきて、また抱え...最後に姫の手をとって歩きだした。

 「執事どうしたの?なんで__」

 続きを言うことは私には出来なかった。

 彼は今までに私に見せたことない程、静かに怒ったような冷たい目をしていた。

 なんでそんなに怒ってるの?執事。

 私が車に乗り込む前に店員さんが何人も外に駆け出してきて何かを言っていた。頭を下げていた。

 でも、私にはその意味がわからない。執事は....気にせず、私の乗り込んだ車のドアを優しくしめた。

 すぐに執事も乗り込んで車はゆっくり発進した。

 駐車場にある数台の車と頭を下げる数人の店員さんを置き去って。

 車はゆっくり進みだした。


 どうしたの...今日のあなたは...本当に変よ..


 ◇ ◇ ◇


 ピリピリとした雰囲気のまま車での移動中。

 車内には美味しそうな揚げ物の匂いが立ち込めていて、迂闊にも私のお腹はグ~っと鳴ってしまった。

 「ぁ...。」(...嘘よ...執事の前で...)

 穴があったら入りたい。生憎シートベルトにより拘束され、走行中の為逃げ場など何処にもありはしないのだが、恥ずか死しそうな姫はお腹に力を込めて、お腹を押さえつけて丸くなる。

 これ以上被害が拡大しないように防音対策を練っていたが、答えは出ていた。

 解決方法は至ってシンプル。


 お腹が空いてるいるならバーガー(パン)を食べればいいじゃない

 

 でも、こんな空気で一人夕食になんて...私にはできないわ...。

 涙目である。いろいろな意味で。

 「あ」...そっか僕だけ図々しくも食べて...姫はまだ何も食べてなかったのか...

 謝るよりも先にしなければいけないことができたのだった。

 「ちょっと待っててね」

 そう言って執事は信号待ちをいいことに後ろに手を伸ばし後部座席に置かれた適当な袋からバーガーの包みを一つ無作為に引っ張り出し姫に手渡す。

 「はい、これでいい?」

 「あ...ありがとう。......。じゃぁ....遠慮なくいただきます....」

 「どうぞどうぞ」

 受け取った包みを開いてゆくとこれは偶然にも...食べかけだった。

 でも、黙って頂くことにした。許可も貰ったわけだし。

 これはどれくらいのものだろう。四袋?五袋?いっぱいに詰まった中から執事が先程口を付けた物を引き当てる確率は....。

 「運命ってあるのね」そう思った。

 「え?どうしたんですか?」と声は平常。

 だから初めて私はモズバーガーを口に含む。ハムっと小さく。

 「ぁ..美味しい」

 モグモグモグモグ。気づけばペロリと平らげていた。姿を、満足げな声を聞いて執事はたまになら外食も悪くはないかと微笑んだ。

 これで一先ずはお腹は鳴らない...と思う____けど、もう一個くらい食べたい...それくらい美味しかった____だからといって、あまりにも沈黙が長引けば気まずいものがある。それにいつまた、車内の空気が悪くなるともしれない。

 天秤にかけた結果。

 我慢を選択。何か話題を持ち出すことに決めるのだった。

 だが、店内の出来事を蒸し返すのは愚かというもの。空気が再び悪くなるだろう。

 ともなれば、あの確認をしよう。私も執事も有耶無耶にしたけど私は気になって気になって仕方がない。

 これを確認しないでおちおちデートすることも眠ることすらままならない。

 大なり小なりダメージを負うこと覚悟で、玉砕覚悟で聞くしかない。

 執事の返答次第で私の一生が左右される。一世一代の問いを。

 大きく空気を吸い込んで____私は問う。

 「ねぇ、執事。執事がさっき、わたしと将来結婚したいって言ってくれたことなんだけど...あれは本心ってことでいいのかしら」

 「あ、え」

 「本当にそう思ってくれてるようなら....わたし...凄く、凄く...嬉しいわ」

 ふぅー...左耳に温かい風を吹かれ。不意を突くような会心の一撃を見舞われ、たじろぐ執事はあわや交通事故を起こしていた。アクセルに乗せられた脚が一瞬深く沈みこみグッと急加速。

 慌て緩め事なきをえたが。

 仮に車が前に居たならばとそういう状況だった。

 姫、大丈夫だった?なんて簡単な確認も謝罪も出来ない。するだけの余裕すら僕にはなかった。

 己がモズバーガー入店前に迂闊にも投下してしまった時限式爆弾の処理に追われて、追われて。

 なんとか解除...撤回するのに頭と呂律を必死に回す。

 「あ、あれは...口が滑っただけと言いますか...何と言いますか...あれですよ、あれ...あははは」

 笑って切り抜けられるほど事は単純な話ではない。馬鹿者が。

 「ふ~ん口が滑っただけ、ね...じゃぁ、本心なんだ...ふ~ん♪」

 左から聞こえるからかうような声色からも、いつもより高いような甘えたような声からも、姫が異性であることを、一人の女性であることを強く認識させられた。それは、デートというシチュエーションも多分に影響してのこともあるが、この場は切迫していると理解した。

 安易な僕の言葉選びで今までのお嬢様と執事の関係から一転も二転もすることすらも明白で。

 この状況自体が非常に厳しい。逃げ道も迂回ルートも見つからないまま、きっとドロドロの甘く絡み合った...腐ったバッドエンドを迎え僕はジ・エンド。最終的に僕は屋敷を追放される。

 最もこのままでは悪手ルートに直行してしまいそうな気が....本能的に直感するが。

 わかったところで平和的に事も起こらず波風立たず解決するだけの、姫が納得してくれるような完璧な答えを僕は持ち合わせていなかった。

 結果黙るという安直な手段に出て、運転に意識を集中させることにしたが。ここまで来て逃がすほど優しい姫ではなかった。

 運転からも分かったけど。

 執事は今、大きく取り乱している。けど、わたしの確認に対し否定はしなかった。つまりは発言は覚えているし、内心私と将来結婚したいと思っている。そう捉えてよさそう。でも何かが引っ掛かる。

 執事の普段の態度からはそんな邪念(気持ち)を微塵も汲み取れなかっただけに。

 (わたし)と将来結婚したいって言っていたのも急場凌ぎの嘘だったんじゃないかと、どうしても疑ってしまう。

 確証が欲しい...

 執事がわたしの事を好きだって、確証が。

 「...ねぇ、執事。あなたは私のこと...どう思っているのかしら?本音を知りたいわ」

 「.....」落ち着きを取り戻した声に。都合が悪くなるとすぐ黙る...

 でも、後に引けない私は突き進む。

 「執事は私のこと好きなの?どうなの?ハッキリ聞きたいわ、この際だから...教えて」

 ドクドク脈が上昇していくのがわかる。

 時機に呼吸すら乱れてしまいそうだが、言うことは言い切った。

 後は彼が逃げないように追い詰めて行くだけ。

 執事はもはや網に掛かった魚も同然。あとはじわじわ

 「そうですね、この際だから言いますが。うーん...好きか嫌いかと問われたら好き一択ですよ間違いなくそれ以外にありえませんね」

 「ぇ?」

 予想外なところから包囲網に穴が開けられた。

 「ただ恋経験ないので僕の内にある思いがこれが人を好きになるっていう気持ちなのかどうかわからないんですよ正直それに関しては姫も僕のことを好き好き言うけどそれが本当に恋愛の好きなのか信頼できる人だから好きなのか兄的ポジションの僕を好いてくれてるだけって可能性もありますよね....好きって難しいなぁ~ははは」

 ゴリゴリの言葉の圧力にも。うわっ!こいつめんどくさ!とは露ほどにも思わぬ姫は。

 脳内で今度は執事の『好き』と言ったボイスがリピートされていた。

 「..好きって言われたわ....好きって...本当に...え?」

 未だに現実味がないが。

 「えぇ好きですよ姫のこと」

 「うっ!」

 駄目押しの一撃は重く、私はダウン寸前。

 確認も取れ、空気も晴れたことで本題をなんとか切り出す。

 「....で、執事?将来あなたは私と....結婚してくれるのかしら?」

 「.......。それは...どうでしょう。それは将来姫が大人になった時に分かりますよ」

 なんかずるい...。結婚に関しては、うん。と素直に言ってくれない。

 好きって聞けただけでも御の字なのだけれども。

 でも普通、こういう言い方をする場合は....過去に読んだ少女漫画を参考にするも..うん。最後には...そういうことだろう。

 まぁ...答えとしてはギリギリ合格ね。

 「じゃあ、私が大人になったらその瞬間から覚悟してなさい♪」

 「はい、今のうちから覚悟しておきます」

 「はぁ....なんだか気が抜けてお腹空いてきちゃった...」

 「後ろにたくさんありますから、どうぞ。責任もって食べてください」

 「じゃあー....取ってー」

 「自分で取ってください、僕今運転中ですよ?事故ったらどうするんですか」

 「ケチ...さっきは取ってくれたのに...」

 「さっきのはサービスです、サービス」

 「...はぁい」

 「はぁ...仕方ないですねー取りますよ」

 「ロリコン属性ってだけでもお腹いっぱいなのに...ツンデレは流石にちょっと...」

 「なっ!?姫、そこまで言わなくてもよくないか?」


 ふふふふ。賑やかになった車内。車の行先は遊歩道のある公園です。

 もう少しだけ、デートは続きます。

 

 

 ◇ ◇ ◇


 「姫っ。.....」

 「.....」

 街灯がいくつもある大きな駐車場に到着した時、既に姫は気持ちよさそうに眠っていました。

 照らし出された表情は満足げで、お腹も満たされたようで、起きそうな気配がありません。

 ついつい手を出したく...コホン。悪戯したくなる執事だが自らを制して。

 代わりに着ていたジャンパーを姫にそっとかけるのだった。

 現在時刻は23時03分。普段21時には眠ることを考えたら22時の食事は...23時に自室のベットに寝ていられないのは...今日は十分不摂生です。

 僕にデートを教えてくれると自信満々に言っていましたが...途中でリタイアなんてやっぱりまだまだ子供ですね...。でも、内心かなりホッとしています...。これ以上姫のペースに乗せられていたら...僕は...

 姫の。微かに揺れ動く唇に息を呑んだ。

 「起きてください。起きてください。よし....起きないようなので帰宅しますね?一応、何回も起こしましたからね...あとで怒るのはなしでお願いしますよ?」

 起こす気もない癖に。小声であえて聞こえないくらいに声掛けを行う。保険をかけてから執事は車を走らせ帰路につくのだった。


 ◇ ◇ ◇

 

 邸宅に到着すると執事は車の扉を開けて、玄関を開けて、二階の彼女の部屋の扉を開けて。

 姫をお姫様抱っこで二階へと。彼女の自室を目指す。

 なるべく丁寧に優しく運ぶが途中起きるものだと思っていたが熟睡中のご様子。

 ふぅ、よかった...ダブルベットへと下ろし。

 彼女を起こさず無事に送り届けると布団をかけた。

 「今日は...初めてのデートはとても楽しかったです。うっかり気が緩んでしまうこと多々ありましたが...それ以上に姫のいろんな表情が見れたことがなによりも嬉しかった、可能ならまた」

 姫の笑顔を思い出すと胸が騒ぐ。大したことはしていないのにこの幸福感。

 姫の顔が頭から離れない。目を姫から離せない。

 幸せな時間に可能ならもうしばらく浸って。

 「.....いけませんね。僕はやはり根っからの執事にはなりきれませんね...ははは...。はぁ...では、おやすみなさいお嬢様。今日は貴重な体験をさせて頂きありがとうございました」

 寝顔に優しく微笑みかけた執事は静かに部屋を出た。

 廊下から部屋に漏れ入る光が徐々に狭まり糸ぐらい細くなったとき姫は____

 「しつじ...zzz」

 ____寝言を言っていた。


 ◇ ◇ ◇


 階段を下りて自室に戻った執事は明かりを灯し真っ先にベットの元へ、床に片膝をついて手を伸ばし、

 がさごそと。ベットの下から薄めの木箱を取り出して開封すると中から一冊の書を取り出した。

 ててて、てっててー____エロ本____ではなく。

 「....どうしようかなぁ...」

 中身だけ取り出すと箱はそのまま床に。向かいにある机に向かい椅子に腰かけると机上のペンを掴み上げ動きを止めた。

 今日の出来事は書きたいことも多いけど...うーん...葛藤した挙げ句に。

 「まぁ...今日くらいは目を瞑ってもいい気がしますが....そうしましょう____」

 執事はパタリと日記帳を閉じた。 

 かと思えば開き、ページを捲る。捲る、ともう白紙。

 No.にして未だに3。お嬢様の悪戯や悪さを記録すると決め書き始めたばかりなのだから記入済みページは当然少ないに決まっている。

 だが、これ(復讐帳)をいっぱいにするのが僕の最初の目標だ。

 

 僕が復讐帳と題し書き始めたノートは、姫と僕のかけがえのない、笑ってしまうような日々を要約した物。本当は復讐なんてそんな気持ちは微塵もない。はなから恨んでいないし、寧ろ活発になられたお姿に喜びしかない。でも...素直に書きたくないからその題だ...。今はまだ書き始めだけど、これからもっともっと笑ってしまうようなくだらない思い出を記録していく予定だ。

 姫と僕の平和な、だけど奇抜な日常を。これから数年、姫が本当の意味で大人になられるその時まで日記を付けようと思う。何冊、何十冊に渡るかはわからない。でも、それを見返した姫が、将来の姫のお子さんが、笑ってくれたらと願いを込めてあえて普通の出来事は書かない予定。書くことがなければやむ無し....。


 「____代わりに僕と姫デート出来た記念ということで今日の記録変更....」

 

 フリーズしそうになる僕は頭を振りそれを阻止した。


 「こほん。そのようなことは記録する必要はない筈ですよ。まったく...」


 執事は先の手順とは逆にノートをしまいこみ隠す。

 身体をベットに投げ出した。


 今日は楽しかったなぁ...出来ることならまた、姫とデートした____

 「...ヤバい、明日からどう姫と..お嬢様と接したらいいのかわかんねぇ...」

 悶々とした執事は目を瞑り、心を沈めようと試みるも。

 「あぁ...無理だ。目を瞑ると...お嬢様が見える。眩しいくらいの優しい笑みを浮かべた姫が...可愛過ぎてやばい...今日は寝れそうにないですね...」

 

 と言っていた執事だが、数十分もしない内に眠りにつくのだった。

 

 ◇ ◇ ◇


 お嬢様の部屋にある時計が12時を示した時、姫は静かに目を開けるのだった。

 「...あれ...わたし....執事とデートしてた筈なのに...。....!」

 姫はそろーりと部屋を抜け出すのだった。


 いいこと思いついちゃった♪

まずは、最後まで読んでいただきありがとうございました。


すみません。時間がなく最後の方バタバタとしてしまいました。

また誤字脱字、矛盾は多々あると思いますが、修正・変更はしばらくできそうにありません。


一先ず完結にしてしまいますが、続きを書く予定です。

※ただし、自分の文章力ではこの程度が限界です。


そして、環境的に?一年近くは書けないと思うのですが、来年の三月以降に再開できるようならする予定ですので、その際よろしければまた読んでいただけたら嬉しいです。


長々失礼しました。

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