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平日の放課後。執事はお嬢様を迎えに行きます。

 姫の通っている小学校。お嬢様学校の周りは緑豊で、正門に面する歩道沿いにも、更には対向の歩道沿いにも桜の木々が、横一線植えられていた。

 一度風が吹くとヒラヒラ花びら舞い落ちて、車や執事の上にちょこんと乗っかって、また、ふとした拍子に勝手気儘(かってきまま)にいなくなる。

 正確には緑豊かではなく、今はピンク豊かな季節です。

 下校時刻に合わせるように彼は少しだけゆとりを持って到着すると、行きと同様に車を停めてお嬢様が見える前から外に待機するのでした。

 今朝と同じスーツに身を包んで。

 「....」

 いの一番に正門からお淑やかに歩き出てきた姿はまさにお嬢さま。気品に満ち溢れ見るもの全てをほっこりさせてくれる。

 見慣れていても例外ではなかった。

 「執事~お待たせー♪」

 状況は一転して。子犬のように、ご主人を見つけた忠犬のようにまっしぐら。

 手を振って、急ぎ足でコツコツ靴を鳴らしながら。そのうち笑顔で駆けてくるお姿は、いつにもなくご機嫌のご様子。

 友達の一人も二人も三人も四人も五...引き連れない、珍しい姿に執事はなんとなく次の一声を察したのだった。

 「買い物行くわよっ!今すぐ!」

 目を蘭々に輝かせ、柄にもなく少し息を上げて、走って。風でスカートが捲れても、恥じらいもなければ気に留めた素振りもない。

 お嬢様として流石にまずいですよ、お嬢様!

 「見えそうですよー、お嬢様ー」

 幸いにも現時点では人っ子一人歩いていなかったのは運がよかった。

 ふぅ...それならまぁいいか。謎の使命感から冷や汗が滲んだが、どうやら安心していいようだ。

 それにしても...見えそうで、見えない。あとちょっとが...見えない。あ..お..惜しい..

 あ、でもこの位置で見えないってことは...今日の下着は...そうでございますか。

 紳士ぶってはいるが内面に邪念が無いわけではない。フムフム頷くムッツリ執事であった。

 はぁはぁ息を荒げて僕の元に来たお嬢様は。

 お手。と言ったなら、ワン!と素直に返してくれる、そうな気配すら感じられる。

 はい、良くできました。よしよしよしよし..頭を撫でましょう。おかわり__

 イメージした姿に自爆しそうになりました。

 「おっ、お嬢様。...コホン。今日もお疲れ様で」

 「遅ーいっ!早く車に乗ってレッツゴー♪」

 いつの間に...。車内から呼ばれました。

 ヒョコ....と窓から顔を出して。

 早く早くと急かしてきます。

 「今すぐに」

 慌て車に乗り込むと、鞄を抱え今度は自分でいいこにシーベルトをしていました。まぁ、いつも通りの光景です。朝がイレギュラーでしたね。

 「カバンをお預かりします」

 「いいわ、このままで」

 「承知しました...で、どちらに向かわれますか?」

 「ランジェリーショップ」

 即答。目を逸らさずに平然と。確かに疚しいことはないかもしれませんが、それはそれは堂々としていました。あまりの衝撃に何故か男であるこちらが狼狽える始末。

 え?...お嬢様?恥じらいと言う言葉をご存じですか?

 「...っ..わかりました。では、いつもの」

 「ウーソ。...あれ?表情が固いわ...」

 そりゃ、そうなりますとも...

 意地悪にニヤニヤと問答無用で僕の口角に触れて、指で押し上げた。

 そのうち遊びだし、ツン、ツン、ツンツンツンツン__

 「...元かられs」

 __ズボッ

 「う!?」 「あっ」

 歯と歯の防壁を掻い潜り一瞬で舌まで達した指を。

 何とかアマガミ程度に押さえ緩めると、スッと直後に引き抜かれるのだった。

 「お嬢様汚いですからすぐに手を拭いてください」

 大急ぎでグローブボックスからウェットティッシュを引っ張り出し、手渡し、謝罪を述べるも...

 「し、執事のクセに、なかなかやるわね...わたしの指を..ペ...ペロペロ舐め回すなんて..」

 ご..誤解です!お嬢様...

 ポッと頬が染まった彼女の視線は、未だ舌ベロの感覚残る人差し指に釘付けで、今彼がどんな顔をしているのかすら見えてはいない。

 独自の世界に片足突っ込んだような状態にあった。

 問題は今だ拭かないこの指をどうするかということだけ...。

 なんて、魅力的な...

 ここには彼の唾液すなわち濃厚な__以下規制。

 「....(ゴクリ)」

 「....」

 盛大なまでの捏造と悪意が込められた一言にちょっと待ったをしたいところだが、やってしまったことは事実に相違ない。

 ならばと目を閉じ、次の言葉を待つばかり。

 イサギの良さはいい方だと自負している。

 さぁ、お嬢様。煮るなり焼くなりなんなりと。

 クビは...それだけは勘弁してください...

 「(ペロッ)...ま...まぁいいわ。気分がいいので、私の指をペ..ペロペロしたことは...お咎めなしにしてあげる。...(くぅ~っ!!!)」

 大胆にもすぐ横で。執事の知らないところでゆっくりと、だが着実に大人の階段を登るお嬢様の顔は赤色だった。

 「あ、ありがとうございます。以後このような事故がないように」

 「い、いいのよ?どうしても執事が舐めたくなったなら、また舐めても..」

 今しがた経口摂取した経験値によりレベルアップした彼女に怖いものなし。

 正常値overやや振り切れ気味で自分では何を口走っているのかももうわからない。その瞳にすら理性と呼べるものが残っているか甚だ怪しい。

 恐らくだが、本質はS。ドが付くほどのS、その片鱗を露わにする。

 可愛い顔した小悪魔だった。

 悪戯とも、誘惑ともとれる大胆発言に度肝を抜かれた執事は冷静になり、またいつもの悪戯か。程度にしか捉えていなかった。

 「お嬢様、洒落になっていません。ご冗談もそこそこに反s」

 既に時遅しに感じるが。ここで言葉を何とか呑み込んだが、彼女は少し、シュン...と、うつ向いてしまった。悪戯がばれた子供のように。冷めたわと言わんばかりにおとなしく口を噤む。

 いくら容姿が大人っぽくても、こういうところはまだまだ子供ですね。今回でわかったかもしれませんが、あんまり大人をからかうと、いつか本当に痛い目に遭いますよ?

 

 なんなら...今日のことも書きますよぉ?

 急にサイコ感が滲みだす執事であった。


 無理ですね...流石に子供には刺激が強すぎます。

 この事は僕の胸の内だけに。

 「ゴミ、回収致します」

 「...え..ええ」

 人差し指を今度は拭い、手渡して。 

 執事は胸ポケットにしまいました。

 「お詫びといってはあれですが...何処にでも、今日はお連れ致します。お嬢様の行きたい場所へとお供します。本当に()()()()()()()()()()()()()()()ー?...これで、お許し頂けませんか?」

 何でも言うことを。そのパワーワードを聞いた瞬間、全てが吹き飛んだ。暗い気持ちも恥ずかしい気持ちも、理性すらもまたしても。

 「デートしたい!ちゃんとしたデート。執事は執事としてじゃなくて私の彼氏としてね、それでねそれでね私の名前をちゃんと呼んで、普通に話してーそれからそれから...ぁ.......」

 目をキラキラ輝かせて出てきたのは、いつもみたいな背伸びした言葉ではなくて年相応の無邪気な言葉。いや、もしかしたらそれすらも下回ったかもしれないが。これこそ心の底から飛び出した紛れもない本音だった。

 その素直な心の声に執事はホッとしたように目を細めわらった。僕が姫の役に立てるならと。

 でも姫は違った。そのうちじわじわと来る焦りに。

 なんてことを口走ってしまったのかと。

 断られたらどうしよう。ドン引きされたらどうしよう、嫌われたらどうしよう。泣きたくなって目元がじんわり熱くなった__

 「()()()()()()()()()()()()()()

 __が、難なく受け入れられたことが信じられなくて、ポロっと嬉し涙が一粒零れた__それを見て言葉を訂正、言い直す。

 「いいや。()()()()()()()()。...但し、僕が姫と呼んだことはくれぐれもお父様...旦那様にはバレないよう内密に。これさえ守ってくれるなら喜んでどこにでも行きましょう」

 初めて執事が私の名前を呼んでくれた。姫って。

 それがまた堪らなく嬉しくて嬉しくて、そして二人の距離がぐっと縮まった気がした。

 突然、彼が名前を呼んでくれたのは私が泣いたからに決まっている。

 執事と普通に話したい、名前を呼んでほしいと言った直後に、執事はいつものように固い言葉で話し、お嬢様と。

 私が拗ねて泣いたと思われたも知れないけど。

 そんなことで泣きたかったわけじゃない。悲しかったわけじゃない。

 私が本当のデートをしたいって言ったら、嫌な顔ひとつ見せないで、寧ろとっても綺麗な笑顔で行こうって言ってくれたから。

 

 執事の優しさからだった。

 

 それでも次々溢れ出してしまうこの涙を執事が見たらきっと動揺して心配をかけてしまう。また、いつもの調子で謝られるに決まっている。

 でも不思議と止まってくれないのです。

 この嬉し涙は。

 例え執事が私のことを好きじゃなくても、それでも、とても嬉しかったのです。

 「泣かせるつもりはなかったんだけどなぁ...。ごめんな...」

 ポンポンと頭の上に手をおいた執事に、初めての経験にポカーンとした私はきっとすごい顔をしていたと思う。涙で既に顔がぐしゃぐしゃになっていたから。

 頭ポンポンなんてお父様にもされた記憶すらなかった...

 私の中で執事は()うにお父様を越えた存在になっていた。お兄ちゃん兼お父さん。そんなところ。

 一緒にいる時間はお父様より圧倒的に長く。私が本当に本当に小さい時からずっと一緒にいてくれた。その時は執事が執事になるずっと前。彼は召し使いというよりは遊び相手になってくれていた...。

 「お嬢様、今日は何して遊びましょうか?」

 「おままごとーしゅるー」

 「はい、わかりました。じゃあニンジンさんをどうぞ__」

 「はーいっ!」

 でも、距離があった。主従の関係を弁えて...

 気安く..それだと何故かトゲがある言い方になってしまう。読んだことあるマンガや小説のご令嬢が、私に気安く触らないで!とよく言ってるからだろうか。

 普通にタメ口すらきいたことはなかったから、今この場で起きた出来事には本当にびっくりした。

 使用人が、頑なに名前を呼んでくれなかった使用人が、私の名前を呼んでくれた。呼び捨てで。姫って。

 いつしか驚きは戸惑いへ。戸惑いは抑えきれぬ思いへと変わって、爆発して、いとも簡単に本音が漏れた。

 「____執事~だぁ~い好きーー♡」

 きっとここが車の中じゃなかったら、姫は今頃僕の首に細い腕を絡めて、強引にでも唇を奪いに来たことだろう。それをするだけの行動力を持ち合わせているし、現に行動を起こしていた。

 可愛い顔を大人の顔に変えて迫り来る。

 本当は僕は知っていた。姫は僕のことを好きでいてくれていること。からかわれていないことを。

 でも、ゴメン。今の僕では姫の一番欲しい答えはあげられそうにない。そうゆう決まりなんだ。お父様...旦那様の指示で。

 ゴメン。ゴメン...


 だから僕は...今日もまた衝動を押し殺し。姫を好きな気持ちをひた隠す。


 「.....。残念、届きませーん!」

 急に伸びたシートベルトの本来の仕様により阻まれて、うっ!と座席に引き戻されるシュールな姫の姿に僕は初めて彼女の前で声を上げて笑った。

 苦しいからこそ、泣きたくなるからこそ、感情のまま声を大にして笑った。

 「初めて見たわ...」

 「....ぁ」...しまった...

 普通に話したいとは言われたものの、笑っていいとは言われてはいない。つまりこれは...アウト?セーフ?

 調子に乗りすぎたと。ついついばつが悪くなって目が泳ぐ。チラッとみると思いの外、彼女の顔が近くにあったが。

 今は不思議と真顔のまま。落ち着きを取り戻し興味深そうにうんうんと頷き、シートベルトと共にゆっくり定位置へと収まりにゆく。

 目的不明な謎行動に、こちらも謎に平静を取り戻せた。

 「謝らなくていいわ。見たいものが少しだけ見れたから。____コホン。そーれーよーり~ねぇねぇ、今日は何処に連れてってくれるの?ダ..ダーリン..?」

 ダ、ダーリン!?コホン..お嬢様が望むのなら__

 「__うーん。なによりハニーに楽しんでもらいたいからなぁ...ハニーの行きたいところにしよう」

 演じ慣れない姫はたどたどしく。何故か余裕、意外にも平然と返す、突然の振りでも順応できる彼はやはりただ者ではなかった。

 流石、普段から本音を隠し続けるだけのことはある。     

 執事たる者、これぐらいできないでどうするんですか。少し得意げに唇が動いた。

 「君さえ居れば僕はどこだっていいんだぜ?ハニー?」ウィンク☆

 「そ..そう~?ダーリン...や、やっぱりなしよ....。とぉっても恥ずかしいわ...こんなの全然私らしくない....。それに..なんか嫌。こんな執事。....ハッキリ言って...逃げ出したいくらいきもかったわ..」

 ぁぁぁぁぁぁぁぁぁ....

 何度、好き好き言われても華麗に躱す癖して、たった一度の嫌にクリーンヒット。ライフポイントは底をついて。

 マジ引きされて、渾身の演技も拒絶され、見た目は涙目、中身はズタボロ、執事は沈黙した。

 尚、復旧するのに約1分の時間を要したが、その間ほっぺを突かれても、ほっぺを引っ張られても、ほっぺを揉み揉みされても反応を全くもって示さない。

 「どうしたのかしら?」と無自覚なお嬢様は首を傾げるのだった。

 「.....。今すごく泣きそうです、お嬢様...」

 「ヒーメっ!姫って言ってくれないと..やだ...」

 「..ごめん...ヒーメっ」

 「いや、そこは普通に姫でいいの!」

 「....」

 今日ばかりは何となく慰めてほしい。そんな意で発した言葉を無自覚にも姫はなかったことにして見せた、いとも簡単に。

 100%悪意はない。だからこそ...何とも物悲しい。

 感傷に耽るより現実逃避をするタイプの執事は、切り替えた。

 お嬢様とついつい口から出てしまう。どうも長年染み付いた習慣の方は、気が緩むと出てしまうみたいです。僕もまだまだですね...。あ。不味い...

 いつからかはわからい。でもそいつはそこに居た。直接目と目が合ってしまった。

 合わせたまま先程姫が開けた窓を閉めてゆくも、そいつは気にせず僕にスマイルを向けたまま。何なら更にその薄っぺらな作り笑いを輝かせた。

 「と、とにかく、出発しましょうお嬢__」

 「むぅ」

 「__様。後は走りながら考えればいいかと....左です、左」

 「....あ。...う、うん、そうね...」

 「時間切れ」ね」です」

 「...あ。待って。ここまで来たら皆さんに挨拶してからにするわ」

 「承知いたしました」

 歩道に。つまり姫側には彼女と同じ制服を纏った少女が一人立っていた。

 しかもそいつは人様の車の中を、その持ち主が乗っていようと開いてる窓からどうどう覗き込むようなやばいやつ。何かいいものを見たと言わんばかりに未だにニコニコとしている。

 本当いつからかはわからない。気づいたのはつい先ほどだが、そんなに前から居たわけでないのは確か....な筈。

 何故かその顔を見ていると確証が持てなかった。

 何でニッコニコ?どこから見られた?しっかり頬を染める姫だったが対照的に執事の目はひどく冷めきっていた。

 畳み掛けるように間もなく合流した黒髪おさげの眼鏡っ子。筆頭に一団が形成されつつあった。

 「貴女は節度を守るということをしないんですか?前にも再三忠告した筈ですよ私は?姫様に」

 「姫様に手出しは厳禁ですよ、と。ですね?」

 「....そ、そうよ。わかっているなら」

 「なんでそんなことするのか...ですね?大丈夫です、誓って言いますが話しかけてすらいませんよ。私はただ黙って姫ちゃんと...お隣の執事さんをよーく眺めていただけです」

 「そんなこと」

 「そんなこと信じられない?...でも、何もしてないのは本当ですよ。あなた達と一緒で姫ちゃんをただ眺めていただけ。これって....あなた方と私で何が違うんですか?姫様親衛隊隊長の黒柳(くろやなぎ) (なぎ)さん♪」

 「....。」

 どうやら覗き見少女が眼鏡っ子にガミガミ言われているようだったが、覗き見少女は上手く切り抜けたようだ。余程口が上手いのかもしれない。

 お嬢様に付き纏うような迷惑なご学友(奴ら)はそこにたくさんいるが、こいつだけは特に、近づけてはいけない人物な気がしてならない。

 何かがおかしい。何かが狂っている。

 そう執事の目には映っていた。

 今後は侮れないな...顔は覚えたからな。

 執事の中のブラックリストに要、要注意人物として覗き見少女の顔が刻まれた。

 ここにたくさん居る彼女らは、姫様親衛隊と呼ばれていたりいなかったり。 

 どさくさに紛れてお姫様に仕える噂の執事目当ての女子生徒が何人も紛れていたり、紛れてなかったり。

 一先ず言えるのは、ここに留まることは今後更に大勢の目に晒されるということ。

 「執事」

 合図と共にウィーンと窓ガラスが下がっていくと、キャーーーーーーーと歓声が上がった。

 それはとても五月蠅くて、群がる鳥のよう。つい昨日の朝ことを思い返す。執事は決して視線を横には向けずただ前だけを、神経集中。左手はシフトレバーに乗せ構え、即行で逃げ出す支度は出来ていた。

 後はGoサイン待ち。

 「皆さん、ごきげんよう。また明日も学校でお会いしましょう____それでは」

 振舞がお嬢様の中のお嬢様。本からそのまま飛び出してきたような、まさにお嬢様の鏡というようなお嬢様の。

 ごきげんよう。いつ聞いても違和感がないのは何故だろう。

 オウム返しのように、多重に、過剰に帰ってくるごきげんようは分不相応に感じられるというのに。

 降り注ぐ雨のような歓声を浴びながら、ようやく車が出発した。手際がいいことでお嬢様のお振りになった手が下りた瞬間のことでした。

 最後に執事は一際冷めた一瞥を覗き見少女へと送る。

 嫌味のように返される笑顔に目を背けた。

 「あの二人...できてますね、えへへ~♪」

 元気溌剌(げんきはつらつ)な、銀髪ロング少女はさも自分の幸せのことのようにほっぺを抑え浸っていた。

 車内で何があったのかを一部、唯一知る者として。

 去り行く車の輪郭を最後まで見届ける彼女はうっとり顔で立ち竦んでいた。

 「いいなぁ~...あの執事の..私を見る、あの目..ハァ...最高♡」

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