いつも通りの朝。平日の日中、執事は一人ぼっちになります。
平日の朝は決まった時刻に車を走らせる。
執事は一足早く乗り込むと暖房をガンガンに効かせ、一度全てのドアを開け放った。
__かと思うと後部座席の下から薄手の木箱を引っ張りだして、その中のハタキを掴み取り。
手際良く座席一つ一つを払いドアを閉めなおす。
手馴れたもので迅速な行動には一切の迷いはなかった。
掃除に片付け終了。全てを閉めてっと...おっと。その前に背負っていたお嬢様のリュックサック型のスクールバックを後部座席へと丁寧に下ろしてゆく。
最後に暖房を弱めに調整しなおして密室をつくりあげると、額を拭った。
平日の日課と呼ぶにはいささか弱いかも知れませんが、こうした地道な行いこそがお嬢様へ還元されるというもの。お嬢様に少しでも快適に過ごしてもらう為にも日々の試行錯誤は欠かせませんね。
「そろそろですか」
後は、玄関口でお嬢様が出てくるのを待つだけ。
そのまま踵を返し、一歩二歩。階段五段、計10歩先の玄関扉の前で回れ右。
そこからは邸宅の一部でもあるガレージ内部を見渡せた。
一部白塗りのシャッター。全面ピカピカな白の壁に囲まれた一室には反対色の、スポーツカー。大衆車。そして、今から使う予定のとても頑丈な高級車。王族が乗るような車まで並んでいる。
王族が乗るような車に関しては記憶している限り過去数回使われたかどうかだった。
それももう、12年程前...僕が8歳のときに乗せてもらった記憶がある。
「懐かしいなぁ~...あの頃は...」
時が経っても存在感だけは妙に際立って、見てよ。もっと僕を見てよ。と、まるで主張してくる車は。
相変わらず過去を忘れさせてはくれないようだ。いい思い出も、目を背けてしまいたい今はもう遠い日の過ちすらも。
だって、端から狙いは僕への報復なのだから。
お父様...旦那様の指示によって定期的なボディのメンテ、手入れも欠かさないから当時の色艶を保ち続けているが旦那様の真意は。
当時を絶対忘れさせないとメッセージを込めてのことだと察しがついている。
「忘れねぇよ.....おっと....」口に出ていたとは....
駄目ですね。と大きく息を吸って―......吐いてー....。吸ってー...以下、割愛。
現状4台もの車が停められているが、それを加味しても、控えめに目算してもあと二台は置ける広々設計。
まじまじ見ると凄いものだなと、今だ空いてるスペースと、車、スペースと車を目で行ったり来たりする執事であった。
間もなく、はわわ...と背後から小さく欠伸が聞こえると、執事は振り返り、お嬢様とすれ違うようにして直ぐ様鍵を閉め。小走りで彼女の前へと回り込む。
「昨夜はよく眠れなかったのですか?」
「そんなことないわ...寧ろ、野鳥の目覚ましがなくなって寝過ぎたくらいよ...」
口元を手で覆い、はわわと再び欠伸をしながら執事が開けたドアから車へと乗り込むお嬢様。
座席の背もたれに寄り掛かるとシートベルトも締めずにすぐに目を瞑ってしまった。
「いつも通り、着いたら起こして」
「承知いたしました。それまではごゆっくり、お休みください」
「....」
恐らくは全幅の信頼から見せてくれる無防備な姿は、今のところ世界中を探したって僕以外の誰にも見せはしないのだろう。
どこか嬉しいよな、彼女にはもっとしっかりしてほしいような。
せめてシートベルトくらいは自分で締めてほしいと思う執事だった。
助手席に絶対座るんだと敢えて前に腰掛ける以上は何がなんでもしてもらわなければ。取りたて二年の僕の運転免許に傷が__
いえ、お嬢様の命を危険に晒すことに繋がりかねないので、そーっと。
制服との摩擦が最小限、なるべくタッチが軽くなるように、ベルトを引っ張り出し、カチッと慎重に挿入した。
じゃあ、行きますか。
上体を起こそうとするも思いがけない至近距離にお嬢様のお顔があって。
ブロンドツインテールの髪からはコンディショナーが甘くふわり香って、僕の世界から一瞬音が消えた。
が、すぐに彼女の呼吸音。静かな穏やかな寝息が漏れ出ていたのを確かに耳にした。
「もう、眠られたのですか?」いや、まさか....。
「.....」
「.....」
「.....」
「.....」
あまりの衝撃にクスリと笑ってしまった。
普段通り渋滞がないなら。仮にあったとしても、もう少しだけ時間には余裕がある。
それなら、もう少しだけ失礼します。
まじまじこうする機会もないもので。
僕は呼吸と共に微かに揺れ動くお嬢様のお顔に見入ってしまった。
それはそれはキメ細やかなキレイな肌でした。触ったらモチモチしてそうな。それより引き寄せられたのは____微かな艶を帯びた唇は....触れたくなるような、奪ってしまいたくなるような言葉に言い表せない、そんな...魅力を...
気づけば。あと一寸のところまで指先が伸びていた。
あわや触れるかと、僕がお嬢様を汚してしまうかと、自分がただただ怖くなるのでした。
「......。大変失礼しました。それでは閉めますね」と囁き。
名残惜しいながらもそっと離れました。
彼女の為に、何より僕自身の為に。
なるべくゆっくりと、振動と音が極力出ないよう細心の注意を払い執事はその場を離れるのだった。
直後、パッと目を開け放った彼女の顔は徐々に血色が良くなって。
運転席のドアが静かに開いたとき、鼓動が一段と跳ね上がる。
既に耳は真っ赤か。
無理があるかもしれないけど、私はもう一度寝たフリをします。
気づかれないようにと、一心に。
執事に声をかけられる、その時まで。
執事の手によって遠隔操作された電動シャッターの稼働音は微か。横から不意を突くように聞こえた操作音にビクッと弾みそうになる肩を必死に押さえ堪えると。
ついに車は動き出すのでした。
◇ ◇ ◇
いつもはない囁きに、妙に長かった沈黙に、ドキドキと。
心の持ちようからいつもより異様に長く感じた道のりがまもなく終わる、沈黙が終わってようやく気まずさから解放される、そんな気配を感じていた。
何度めとも分からない加速減速もこれで最後。
薄目で現在地を把握し、また狸寝入り。
車が止まる気配、扉が開く気配。
執事が降りる気配、閉まるドア。
また開く気配、閉まる音。
やっと、私の番が来る気配。
「着きましたよ、お嬢様、」
優しい穏やかな声を心の底から渇望していたように、待ってましたと主張するように私の鼓動は再び否応なしに大きくなる。
「お嬢様」
ですが、何度呼ばれても、まだ、目を開ける訳にはいきません。
未だにその時ではありません。
「そろそろ起きてくださりませんと困ります。学校、遅刻しちゃいますよー」
執事は起きない私の耳元で囁くということをしてくれます。
怒鳴られるよりも、揺すられるよりも、私にはこれが一番よく効くと分かっているからです。
何せ、常に起きてますから。囁いてもらえるまで、何が何でも反応すらしないのです、私は。
「.....」
帰りまで会えないので登校前に執事を、執事ボイスを心の欲するままに存分に補給します。
原動力あってこそ学校生活を頑張れるというものです。
「もしもーし。聞こえてますかー?聞こえたら起きてくださーい。....あれ?今日は起きないんですかー?....そうですか。なら、バージョン2です」
耳が幸せ....満タン補給されたところで、そろそろ起きま____
「早く起きないと、イタズラ、しちゃいますよー?3...2...1...」
な...なにを...ふ、ぶざけてるのかしらっ!?
普段と違う執事の態度にセリフ。
起きてるからこそ逆に、このような時にどのように動き出したらいいのか分からない。
ど、どどどどどどうしよう!?と思っても、テンパっていても時間は止まってくれません。
「では、何されても文句はありませんね?お嬢様____」
え?えっ?何、私何されちゃうの執事に。
彼からならキスでも...な、何でもOKよ!
寧ろ、普段は私の方から誘惑するくらい。
華麗に流されて一人恥ずかしくなっているのはどこ誰れかしら?
でも、いざ彼の方から悪戯宣言されると...
11歳の少女はまだまだピュア故に抵抗力はなく。
ドクドクドクと胸が高鳴って高鳴って、苦しくなって、私は思わず。
「んん~...まだ寝るのむにゃむにゃ...」
寝惚けたフリをして逃げてしまった。またとないチャンスを。
も~...私のバカ~...
「まだ寝るの、じゃありませんよ。起きてください」
「はわわ....ん?....着いたのね...」
さも今起きたとばかりに演じる私はまた欠伸を。
完全にやってしまいました...。
「はい、到着でございます」
鞄を抱え笑顔で佇む、そのキラキラした姿に私は癖のように自身の金髪を撫で付けていた。
さ、流石は私の執事。切り替えが..早いのね...
だけど。あんなに私をドキドキさせておいて...自分は何でもないなんて...
ぷくっと頬が膨らんだお嬢様だった。
「どうかなさいましたか?」と楽しそうに。
「...な、何でもないわ」と照れる私に。
「左様でございますか。さぁ、お手をどうぞ」と追撃を。
差し伸べられた手に手を重ね、ゆっくり地に足を下ろす。
それが私。
でも、今日ばかりは、これ以上無理~っ!
執事の、執事による、獣執事ボイスを取り入れ過ぎて、既に頭の中が執事で一杯。
リピートされ過ぎて、もう、彼のことしか考えられない。
本物を見ると更にクラクラしてきて...目が回る。
寸でのところで止まるこの手。彼の手とても近い距離。
「?すみません。少し強引ですがお手を失礼しますね」
歩み寄って。伸ばしかけのこの手をとって起してくれた。
私のより一周り大きな手は、少し固くて温かい。
思考が驚くほど纏まって、冷静になれた気がした。
なんだ、別に平気じゃない、私。
「.あ.あ.ありがとう、執事...きょ..今日は....、太陽が、き、綺麗ね...」
「はいっ、そうですね...え?」
太陽?空じゃなくて?
目を鳴門のようにグルグルさせて、回して、ゆでダコと化した彼女に執事はおかしいとばかりに微笑んで、ゆっくり、ゆっくり、その手を解いた。
◇ ◇ ◇
「お嬢様、どうかお気をつけて」
「...行ってきます..」
「はい、行ってらっしゃいませ」
いつも通りに振舞う執事はいつも通りの見送りを。
いつも通りに学校のある通りまで車で送ってもらった私は、いつも通りに鞄を受け取って。
そして、いつも通りに別れて行く。
歩道をまっすぐ歩いて最後に左に曲がると学校の正門がある。
ここもいつも通りなら、だんだん遠くなる執事は私の背中に笑顔で手を振り続けるのです。そう、わたしが曲がりきる、その時まで。
コツコツ音を鳴らしながら私は歩きます。
曲がる直前、チラッと横眼で。最後に執事の姿を捉えた時、彼は____
「____あ。どうしてやめちゃうの?執事。私からまだ、あなたは見えているわ...。...ねぇ、あなたから私はどう見えているの?」
穢れを知らない眼の光が怪しく揺れた。
最後に執事の姿を捉えた時、彼は、天を仰いでいました。
手を振ることも忘れ、笑うことも忘れ、放心したように。
「私は大好きよ...執事のこと。だから、あなたの本心が....知りたいわ...」
◇ ◇ ◇
「.....。さて、帰りますか。帰ったら洗濯、掃除に........」
視線を下ろした時、そこにはお嬢様は居ませんでした。
「.....帰りますか」
ここに居ても、他の生徒さんや交通の妨げになってしまうだけですからね。
道路脇に停めていた車のエンジンをかけると、ウィンカーを出して走り出し。
通り過ぎ様にチラリと正門を確認したが、やはりお嬢様の姿はないのだった。
それから執事は無心で邸宅を目指す。
◇ ◇ ◇
日中。お風呂掃除を始めとする家事を黙々とこなしてゆく執事だったが、ふと我に返る。
「...お屋敷って、本当に広いですねー...」
スーッと伸びる廊下を見て何故か無性に笑いたくなってしまった。
やってもやってもきりがない。多勢に無勢とはまさにこの事か。はっはっはぁ...。
まともにやっちゃ終わりの目処など立ちはしない。時には見て見ぬフリするのも必要なことだと溜息を溢す。
現在邸宅で働く使用人は彼を除いては他にはいない。
4名居た使用人も1ヵ月程前にバタバタとクビにされ、分割されていた負担が一身へと注がれる現状は、どう考えてもキャパオーバー。
それでも邸宅の気品を落とさぬよう日中の執事は文字通りに全力疾走、モップ片手に廊下を行ったり来たり。(お嬢様が居ないとき限定だが。)
「うおおおおおおおおおおおーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!」
邸宅の隅々までお掃除なんて言った日には1日が24時間ではとてもとても足りないのだ。
だから優先順位を考えて、常に行う仕事と週に一回行うもの、何なら月一回行うものまで..。そんなふうに書き出して予定表のようなものを作成、実行していた。
昼食はしっかり取るものの、常に頭を動かし続け。今より効率よくするにはと....。本当に休みがないぐらいに大忙し。
しかし、馬車馬の如く動き回っていた彼の手が突然ピタリと止まった。
「......」
以前は女性の使用人が居たため目にすることすらなかったお嬢様の洗濯物を前にして。完全に思考と動きが停止した。
顔面蒼白とはまさに現状の執事の顔色のことをいう。
「......」
毎度毎度お嬢様の下着が、特にパンツが見えると固まってしまうのだ、執事は。下着に触れてしまっていいものかと。
プリントが入っているようなお子ちゃまパンツならまだしも、よりにもよって今日は..ティーバック...。
お嬢様...今何歳でしたっけ?
だが今はもう不思議と疾しい気持ちは沸いてこない。それよりも、トラウマがすごいのです。
以前一回だけ。初回だけ、煩悩に支配されかけた私は、ある手段を講じました。
手袋、マスク、スモークゴーグル装備でお嬢様の下着をはじめとする衣服を手洗い洗濯始めました。その姿を、運悪く見られ...顔を真っ赤にしたお嬢様はポロポロ涙を流されてしまわれたのです..。
「ないもん....」
「お、お嬢様!?こここれは、別に疚しいことをしようとしたのではなくてですねっ!純粋に」
「..わ..私のパンツ...そんなに汚くないもん....すぐ変えてるもん執事の馬鹿~~~っ!」
「もももも申し訳ありませんでしたあああああああ!!!!!」
それを機に洗濯機を買ったのでしたね....。
とはいえ、洗濯済みの下着とはいえ、見るとお嬢様の泣き顔が蘇ってきてしまうのです。
普段決して泣かないあの子が.....覚えてる限り初めて流した涙でした。
真面目に死んで詫びようとしましたが、更に大号泣されましたっけ。
「もう....泣き顔なんて見たくない....。....。さーて、他のを先に干しちゃいますかねぇ...」
自分が今まさに掴み上げたものこそがお嬢様の、おパ
「ぁ.....。(チーン)」
最終的に意図的に後回しされたそれを干し終えた。
「ふぅ...。今日の戦いもきつかった...」
やりきったオーラ全開で執事は汗を拭うのだった。
気分転換をしましょう。そうですね....
お嬢様は某小学校、いわゆるお嬢様学校と呼ばれる所に通う現在六年生。
現役JSです。髪は金髪ですが地毛です。...彼女の母親...譲りの......。
「.......」
な、何となくもう一回言っておきましょうか。
現役J____
ですが、発育が良く...いえ、別にやましい意味で言っているのではなく、そのままの意味です。
身長は160半ば...僕が170だから...ええっと....165?に近いかもしれませんね。それに抜群のスタイr____執事たるもの時に己を律せねば。
はあっ!と己の頬をビンタした。
要約すると。
お嬢様のお姿は、既に子供には見えないということです。
服装は学校指定の制服で、通学用鞄もランドセルではないことから、一見すると清楚感漂うとてもとても綺麗な金髪JKです。
学校終わりお出迎えに行きますが、油断すると変な輩がすぐ群がるので、そういう輩は捻り潰してやりたくなりますねぇ....。
今年は新入生に「お姉ちゃん、何で同じ服着てるの?」と、ついに大人と間違われてしまったとぼやいていましたっけ。
「ねぇ執事。...私ってそんなに年齢不詳?」
「?......そんなことはないですよ、安心してください。...誰かがもし、そのようなことをお嬢様に言われたとしたら、きっとそれは、お嬢様に憧れの眼差しを向けてのことでしょうね」
「そ..そう。...執事が言うなら...そうなのね...あ..ありがとう」
「はい」
「....」
「....」
「ほっ..ホットミルクのおかわり頂けるかしら?」
「?.....はい、喜んで。少々お待ちください」
学内では通称、「姫お姉様」または「姫様」と呼ばれているとかいないとか。
以前お嬢様のご学友が屋敷に遊びに来てくれた時に教えてくださりました。
お嬢様自体は顔を真っ赤にしながら否定していたのですが、どうやらその通称みたいです。
「姫お姉様、遊びに来たよー」
「きゃあ~!ついに姫様のお家に来ちゃったぁ~♪...あぁ..嬉死んでしまいそう....(バタリ)」
「あ...ホントに倒れた。.....はっ!じゃなかった、じゃなかった。ヘルプヘルプ執事さ~ん...って、本物!?うわっ凄いイケメン!写真撮っていいですか~?」
「は、はい。今すぐに.....はい?.....ん?」
「...ち、違うのよ執事?二人は私のこと..ひ..姫様..とか呼ぶけど、学校ではこうは呼ばれてないんだからね...いい?絶対に勘違いしないで....ね?」
「.....(ニヤッ)」
「あっ、今は笑ってたでしょ?」
「.....いえ(プルプルプルプル)」
「素直に白状しないとクビよクビッ!」
「笑ってません、お嬢様。それよりも人命救助に行ってきますね」
「んも~~!執事の馬鹿~~!!」
姫様。いいじゃないですか。鈴羽 姫 様。
僕もこれからはそうお呼びしましょうか?
姫様。いえ、姫。
年齢以上、身体相応の振舞で、下級生や同級生から慕われファンクラブなんかもあったりして....。
これは僕の想像に過ぎないのでどうでしょう。真相はわかりませんね。
「いい?何度も言うけど姫様に手出しは厳禁よ。あの高貴なオーラが貴女にも見え」
「み、見えました!眩いばかりですね」
「...そ、そうよ。だから私たちはあの輝きを」
「曇らせるような輩が近づかないように、時に見守り、時に行動しなければなりませんね、悟られないように」
「.....。なによ貴女」
「「ちゃんと、わかっているじゃない」」
「ですね?」
「.....。貴女、本当に...何者です?」
「えへへー♪」
素直に白状しますが、お嬢様は外では大変ご立派です。私の知る限りに留まりますが。
立ち振舞い一貫して華があります。
困っている人がいれば手を差し伸べるような。
思いやりがありパーフェクト超人です。
なんと表現するのが正しいのか分かりませんが...所作一つ一つが絵になるというか、なんというか...。
常にお嬢様の周りには等身大の額縁が見えます。
そんな気がします。
学校でのお嬢様はあまり知りませんが、ご学友が遊びに来た時の雰囲気は普段より大人っぽく尚且つ生き生きとしているように見えました。
互いにとても信頼もされているようでした。
お嬢様のカリスマ性ですか...
そんな新たな一面ばかり、姿ばかり見せられたら、貴女様のお傍に居ていいのかと、不安を覚えてしまいます。...まったく、嫉妬しちゃうなー....。
ですがいいんです。お嬢様がしたいようにしてくれたら。
貴女様だけは貴女様らしく。そして、なにも知らずにまっすぐな大人になってください。ここからはゆっくりでいいのです。ここまでが早すぎました。今からモタモタするくらいで丁度いい。もっとわがままを言ってもらっても、甘えてくれても構いません。悪戯をされても今は許しましょう。その代わりどうか、こんな僕ですがいつまでも近くに置いて頂けると嬉しいです。姫の成長を見守ることだけが、それだけが僕の生きる理由なのですから。
気分転換の筈が、寧ろ重くなりましたね...。
「よーし。お嬢様が終わるまでもう少し、頑張りますかー」
執事は笑顔で駆け出した。