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「お嬢様も人が悪い...」勘違い腹黒執事の日記帳  作者: 月と兎と雪
お嬢様11歳 爆竹事件(4/13~4/14)
3/9

お嬢様という一人の少女

 食後のホットミルクを一口啜った彼女は、はぁ...と小さく漏らしていた。

 8名で囲んだとしても余裕のある食卓にポツンと一人取り残されて。

 どこか憂鬱そうにしている姿は大人びて○○ちゃんというよりもやはり、お嬢様と呼ばれている方がしっくりくるものがあった。

 卓上には同じようにちょこんと、ソーサーが置かれ、丁度一人ぼっちのお嬢様のように場を持て余していた。

 唐突に彼女はぐるぐるゆっくりとその細い指でソーサーの縁をなぞり円を描く、その目は心ここに在らず。


 「美味しいわ...」

 

 執事が私の為だけに注いでくれた一杯。他の誰の為でもなく私の為だけに...。

 その事実だけで、身体と共に心までがポカポカとしてきて頭がボー...っと。心地よい睡魔に襲われたような感覚で、満たされていた。

 肝心なミルクはというと味わいに味わい。既にぬるま湯ならぬ、ぬるミルクになりつつあったが、それはそれでありなので、もう一口。

ようはそこまでのこだわりはないのだが彼女自身その事には気づいていなかった。


 キーポイントは()()()()()()()()()である。

 

 食後の給仕も彼からしたら結局ただの仕事のひとつに過ぎないのかもしれない。でも私の中では何か特別なものに感じられた。

 それはきっと、この一杯がとても美味しいからだと思う。

 私のお気に入り。

 味はいつも安定していて、提供されるときの温度も同じくらい。最初の一口目はいつも飲み塩梅。

 流石は私の執事。私のことをよくわかっているわね。

 お嬢様は猫舌である。


 「!」


 完璧だわ。

 これ以上の男性はいるかしら?

 仕事とはいえ私に優しくしてくれる。

 わたしが困っていたら解決してくれる。

 私が望めばいつでも構ってくれる。

 私の誘惑にも動じない紳士さ。

 おまけに顔もいい。

 

 超がつくほどの良物件。

 

 「...好きよ執事。私が大人になったら結婚しましょう。....いいえ、貴方に拒否権はないわ」

 

 ませたお嬢様は11にして誓ったのだった。

 その頃。執事はというと...くしゅん..と可愛くくしゃみをするのだった。

 

 「あぁ...絶対お嬢様が何か変なこと企んでる...はぁ...」

 くしゅん....。



 「問題は...お父様ね。反対すること間違いないでしょうから...どうしましょう....」

 

 声が溶けていくと瞬く間に一室はシーンと静まりかえって、やはり物寂しげな印象を与えてきたが。

 そもそもの原因はというと彼女自身によるものだった。


 「......」


 最近まで、この邸宅にも4名の使用人がいました。

 でも、鬱陶しかったのでお父様に伝えたところ私の執事だけ残り。

 他は解雇となりました。

 以上です。


 でも、問題はありません。

 彼さえ居てくれるなら。

 料理から掃除、洗濯...一人でなんでもこなしてくれます。

 家庭教師のようにお勉強すら見てくれます。

 

 とても有能なので彼さえ居れば事足りています。


 お父様は仕事で家をいつも留守にしています。お母様は....いません。

 でも、寂しい時は執事に甘えるので、私は一人でも大丈夫です。

 

 空のカップをソーサーへと移すとスカートのポケットからスマホを取り出した。

 待ち受けは当然、愛しき執事の写真です。私と2ショットの。


 ポチ..ポチ...ポチ..


 ぷるるるる...ぷるるるる...


 (はい、お嬢様。どのようなご要件でしょうか?)

 「執事、今どこに居るの?」

 (今ですか?ええっとですね....外です。外に居ます)

 「ま、まさか、私を置いて一人で買い物に行ってるんじゃないでしょうね!?」

 (...違いますよ、今...対策を講じてました....よいしょ..)

 「対策?」

 (はい。あの害鳥共...コホン...鳥さんたちが来ないようにですね....おっとっとっととと...危ない危ない..)

 「執事?大丈夫?」

 (はい、平気ですよ。心配して頂きありがとうございます)

 

 何となく嫌な予感がした私は、窓の方へ歩き始めました。

 一見すると外は何も変わったところはありません。

 ですが念の為、窓を開け放ち目を凝らしてみると、木々の中にわさわさと不自然に揺れ動くものを見つけました。

 それが何なのか、誰が居るのかもすぐにわかりました。


 「...降りなさい」

 (え?)

 「いいから早くその木から降りなさい!」

 (.....。わ..わかりました....)


 ガサガサと木が揺れた後、トン...と執事が無事着地するのが見えました。

 怪我は...なさそうで、一安心です。

 タタタタと慌て駆けてくる姿にホッと胸を撫で下ろして私は窓を閉じるのでした。


 (お嬢様、大変申し訳ありませんでした。あの木が大切なものだとは知らず土足で踏んでしまいなん____)


 ぶぶー!違いまーす。大切にしている木なんて我が家にはありません。

 あったとしても私は知りません。そんなものどうでもいいのです。


 「違うわ」

 (え?あ?....違うと言いますと?)

 「はぁ...わからないのね?執事」

 (あぁ..ええっと...はい...)

 

 真意がわからないようなら、反省してください。


 プツリ.....。


 (__お嬢様?お嬢様っ!?どうかご慈悲を!クビだけはっ!クビだけはーーーっ!!!!)





 後に息絶え絶えの青ざめた顔の執事が到着したのは容易に想像できるだろう。


 「本当にすみませんでしたっっ!!!」と即土下座。

 そんな姿に彼女は容赦なく説教を開始するのでした。


 「いいですか?あなたに怪我をされては()()困るんです。あなたの代わりはいませんので。だから、二度と無理はしないでください、約束、ですよ?もし約束を破るようならこちらにも考えがあります。その時は______」

 

 当然話の内容など耳には入らず、自分の処遇にただただ怯える執事は合いの手のように、はいはいはいはい繰り返すのでした。

 実はその身を案じられていたとは露ほども考えられない少し抜けた執事でした。

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