日記No,1『クレイジーガール』
お嬢様ノート No,1 記 お嬢様の執事
今日から、お嬢様の悪戯や悪事を記録していこうと思います。
尚、本文を万が一お嬢様に見られた日には...クビ..でしょうね...僕は。
それでも、記録しましょう。
お嬢様が大人になられたとき、反省してもらえるように。
これは、お嬢様への復讐帳です。
「え~?お母さんって、こんなに悪いことしてたのぉ?」
「え~!?そんなことまで...」
っと、お子さんにも言ってもらいますかね。
ふふふ。ふふふふふふ...。
未来のお嬢様の真っ青な顔が浮かんできますねぇ...。
お嬢様 11歳 4月13日 『クレイジーガール』
チュンチュンと窓の外では小鳥たちが鳴いている。
とても天気の良い早朝に事件は起きました。
今日は前触れもなく、パーン!と、何かが破裂するような音が屋敷中に響き渡ったのです。
これは...銃声..
ではないと、気づいていながらも僕の身体は動き始めました。
それはもう、条件反射のようなものでした。
執事故の習性みたいなものです。
職業病...みたいなもの...です。
やれやれ、何をやっていますのやら...
「お、お嬢様っ!お嬢様!」
一歩踏み出す間にもパーン!パーン!と二発、三発、止まらず、休みなく破裂音は続きました。
あぁ...お嬢様、どうか..どうか..
「それ以上、爆竹を投げるのはおやめくださいっ!」
ガバッ!とお嬢様の寝室の扉を開口一番に制止するも。
ン?細められた眼を向けてくるのでした。
だけどわかります。あれは未だに寝ぼけている眼でした。
その手にはライター。その手には導火線に着火された、手遅れの爆竹が握られていましたが。
まぁ、お嬢様なら寝ぼけながらもやりかねないかと。
一人納得しちゃいました。
「はぁ...危ないですから、最後投げちゃってください、お嬢様...」
「ん...」
お嬢様が、ぽいっと窓から投げ捨てると下からは景気のいい音が聞こえてくるのでした。
パンパンパーンパーンパパパーン...
早朝から冷や汗たっぷりで、眠気の眠の字もありません。
シャワー浴びたいくらいです。一日の始まりだというのに疲労感がすごいです。
お嬢様、反省してください。
そういえば、小鳥たちも...何処かへ飛び去ってしまったようですね...。
◇お嬢様ノートNo,1『クレイジーガール』おしまい◇
「で、お嬢様。今朝はいったい何があったんですか?爆竹なんか持ち出して」
「....」
ホットミルクをカップに注ぎながら促したが返答はないまま。
変わりにプーと小さな頬っぺたが膨れ、目が泳ぐ。
あまりにも子供らしい愛嬌のある姿に口元が緩んでしまった。
まったく...可愛いじゃないか。お嬢様。
やれやれ、困りましたね。
にしても、何故爆竹?
「怒りませんから、正直に言ってください。お父様...旦那様にも内緒にしますから」
コトンと机の上にソーサーを。そして、カップを静かに乗せ押し出した。
その流れでシーッと。人差し指を唇の前に運んでみせると、警戒心を少し解いてくれたようで目と目が合った。
「絶対に言わない?執事...」
「ええ、言いませんとも。絶対にです。約束します」
「...え..ええっと____」
「..鳥の鳴き声が..煩くて...煩くて......」
ハハハハ..なんだそれ。爆竹の方が断然煩いわ。
「毎日..毎日..起こされて..それで...その..倒せないかと...ドカーンって...」
お嬢様。発想がかなりクレイジーかと思います。
それに爆竹はダイナマイトではないんですよ?花火ですよ?
「執事...ごめんなさい...もうしないから..許して?...お願い..」
そんなに素直に謝られたら、
「....はぁ。...それは、鳥が悪いですね。完全に」
許しちゃうよね~。
「今後、鳥たちが来ないよう対策しときますんで任せといてください。何人たりともお嬢様の睡眠を邪魔させませんので」
「いつもありがとう、執事。大好きよ」
「...hahaha、アリガトウゴザイマス」
クレイジーに言われてもなぁ....
「あーっ。またそうやってふざける...。まぁ、そういうところも嫌いじゃないわ」
ニコリと上機嫌になったところで、彼女はカップを傾けこう言った。
「執事のホットミルク...凄く美味しいわ」
ペロッ..と舌なめずり。
心なし上目遣いで見るのだから...困ったものだと頭を掻いた。
まぁ、僕の勘違いに過ぎないのだろうが。
カップから上がる蒸気。舌。表情。セリフ。
そのどれもをとっても、なんか...エロイ。誘っているとしか考えられない。
煩悩にまみれ妄想力豊か過ぎる自分にこの時ばかりは罪悪感を覚えた。
だって、お嬢様はこんなにも綺麗で純粋なのですから。
「お嬢様、欲しい時はいつでも言ってくださいね」(必死な偽りスマイル)
「!」
「おかわり」
「.........ば..馬鹿」
「はい?」
「何でもないわ。そろそろ着替えるから出て行って頂戴。ありがとうね、執事」
「はい....かしこまりました。御用の際はお呼びください。それでは」
プイっとそっぽを向いた彼女の耳がほんのり赤くなったことをトボトボ出て行った彼は知らない。
「執事の馬鹿。執事の馬鹿。執事の馬鹿。執事の馬鹿...」
彼は知らない。カップを置いた彼女が恥ずかしさ故にベットの上を転げまわっていたことを。
「でも....好き~~~~~~~~~~~~~.....好き」
お嬢様は心の底から執事のことが好きである。Loveであった。
彼以上の運命の相手はいないと言い切るほどに。
猛烈に好きである。