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The 7 knots 『deadman Joke』

 ここはいつ来ても嫌だ。

 全く慣れない。

 窓がないから日の光が全く入らないし、空気の換気もされないので酸素が薄く感じられる。


 閉塞的な空間であるここは、警視庁近隣にある大学の法医学教室。

 私はここに今日発見した死体の司法解剖の立ち会いをしに来た。

 ・・脳が剥き出しにされた死体の事だ。


 名前は永瀬 凉子。


 凉子は仰向けに解剖台に乗せられている。

 教会で発見された五人の死体の内の一人だ。


 現場にいたテロリストのリーダーである利公路 凡人を含む三人組を取り逃してしまった。

 しかもその内の一人がまるでマンガやゲームのように技の名前を叫んだと思ったら、私は気絶させられていた。


 超能力か何かだろうか?

 我ながらオカルトな思考をしてるなと気づくと冗談でしょ、と失笑する。


 岬がそうこう考えてると入口が開いたので視線を向けると、解剖着を着た女性が部屋に入って来てすぐに岬に気付く。

 「あれ岬、久しぶりね〜。

 居酒屋でみんなで飲んだ時以来ね。

 もうあれから十年経つのかぁ。」

 そう言ってしみじみ頷き出すので岬は間髪入れずに、

 「いやそれ去年の話でしょ!?

 そんなに久しぶりではないでしょ、私達は。

 しかも十年前は私達未成年だったでしょ!?」と下手なツッコミを入れる。


 それを聞いて満足そうに笑顔になっているのがマスク越しにでも分かるこの女性の名前は越奈希こえなき 真実まみ

 岬とは小学校の時からの友人で、まみって呼んでいる。

 法医解剖医をしているので犯罪の疑いがある死体はまみが解剖する。

 年齢は岬と同じ二十七歳。

 黒髪のショートカットで目が大きく、背は岬より少し低いが、胸は岬より大きいDカップなのを高校の時から岬は羨ましがっている。

 今は解剖着にエプロン、キャップにゴーグルにマスクを装着しているのでそれらは見えてはいないが。


「冗談は置いといて、さっさと始めるかな!」

 まみはそう言うと解剖台に立ち、作業を始める。

 冗談も何もあなたから言ったのに、と岬は再度ツッコもうと思ったが、まみは解剖台に入ると周りの音が一切聴こえなくなるくらい集中するのを知っていたので、止めておいた。


 まみはこの脳を剥き出しにされた死体を見た瞬間に分かりやすい位の違和感を覚えた。

 しかもそれは一つや二つの違和感ではない。


 まずはこの頭蓋骨の切られ方。

 頭蓋骨を切り抜かれてる。

 綺麗な円形に。

 この世の中に頭蓋骨を綺麗に切れる方法はそんなに多くはない。

 物凄く切れ味の良い刃物なら頭蓋骨を刺す事はできるかもしれないが、円形に切るなんて真似はできない。

 なぜならそれをやろうとすると自分の手が無事ではないからだ。

 医学では頭蓋骨を切る、つまり開頭する場合、小さいドリルで切る範囲のアウトラインを複数穴を開け、電動ノコギリでその穴を繋ぐように切る。

 この頭蓋骨も同じような切り方で開頭されている。


 つまり、犯人は現場で開頭手術をしたという事になる。

 かなり場数を踏んでる医師並みの手際で。


 しかも結構な出血量であった事から、犯人はまだ生きている人間の頭蓋骨を切り抜いた事になる。

 開頭手術は本来、設備の整った所で全身麻酔下で実施するのが常識だ。

 そうでなければ麻酔の調節が上手くいかず、過量による副作用の呼吸抑制で死亡させてしまう。

 現場は当然設備がない所だから、気絶か何か、本人の意識を失わせてから犯行に及んだ可能性が高い。


 次に頭蓋骨の中の剥き出しになった脳を調べる。

 特に損傷もなく脳へのダメージが原因で死亡した訳ではなさそうだ。


 「あれ?

 何だろうこれ?」

 まみは眼を見開いて凝視すると、左脳に一ヶ所、右脳に一ヶ所に何か太い針のような物が刺された跡があるのを見つけた。

 穴の大きさは直径三ミリメートルもないので、これが原因で死亡した訳ではなさそうだけど・・。


 だとすると犯人がどういう意図でこの行為を行なったのかは皆目見当がつかない。


 その後、全身を確認したが特に外傷もないどころか、争った形跡もない。

 良くドラマに出てくるような首を何かで締められた跡も、体に抵抗した時の傷などもない。

 頭蓋骨以外、とても綺麗だった。


 以上の解剖結果をまみは私見を挟まず岬に伝える。


 「・・猟奇殺人ってやつなのかな。

 しかも、医師並みの知識と場数がある。

 精神異常な医師が犯人像なのかしらね。」

 岬がそう言うとそれを聞いたまみは頷かず、首を傾げながら呟く。

「うーん・・。」


 「何?

 私の予想は的外れって事?」

 岬は不満そうにまみを見る。


 まみは岬を見てから、その目線を解剖台の凉子に移し数秒沈黙する。

 そしてまた呟く。

「岬さ、今回の死因って何だと思う?」


 岬は数秒考え、

「頭蓋骨を切られた事による出血死?」


 それを聞いたまみは首を振って言う。

 「一般的に生きたまま頭蓋骨を切られたらもちろん出血多量で死ぬわ。

 でも今回は頭蓋骨からの出血量は致死レベルではないの。」


 それを聞いて岬は身を乗り出して再び尋ねる。

 「・・どういう事?

 頭蓋骨以外は一切外傷がなかったんでしょ?

 死因は明らかに頭蓋骨を切られた時の出血以外ありえないんじゃないの?」


 「そう、その出血以外はありえない。

 なのに、その出血量では死亡しない。

 当然、人は頭蓋骨を切られただけでも死なない。」

 まみは矛盾だらけの事実を提示する。


「それじゃあ、死因が分からないじゃない・・。」

 岬はそう呟く。


 まみはいつも冗談を良く言う女性だ。

 ツッコミが欲しくて、いつも冗談を言っては岬からのツッコミを期待し過ぎて、言う前からニヤニヤする女性だ。


 そんなまみが真顔で冗談を言うのだ。


「この人は・・頭蓋骨を切られた後から、出血多量になる前に死亡している。」


脳を剥き出しにされた死体は語る。

現代医療で解釈できる死ではない事を。


次回、The 8 knots 『Welcome to the fold』


揺らぐ価値観。

いつだって未知と気づくのは、既に終わった後。

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