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坊っちゃんとロタ好き執事  作者: さもてん
7/16

アリス嬢の館を後にし………

「おはよう。」


俺が声をかけると掃除をしていたメイド達は手を止めて恭しく礼をする。

優しく笑みを浮かべるとメイドの頬が少し赤くなるのが分かる。


アルバート•バイル(15)は使用人にも優しいのだ。




「坊っちゃん、今日のご予定は学園を終えた後、ガーター家のブランドの視察に行きます。その後ラサイン家との会食がございますので、バイル家の家の者として恥ずかしくない振る舞いをしましょうね。」


「………。」


朝食早々、執事のエドワードがそんなことを言った。


今日は美しい色とりどりのサラダに畑で採れたラズベリーのゼリーとフランスパンだ。


俺はフランスパンの一切れにかぶりつこうとしているのを止める。


「お前は将来俺にブランドでも建てさせるつもりか?」15歳の貴族の子供とは思えないハードなスケジュールにため息が溢れる。


「はい、将来的には。私からみて坊っちゃんは物事の駆け引きに長けていると見えます。


そして何より!猫被りが半端なくお上手でございます。これまで見てきた御貴族のお子様でも坊っちゃんほど化ける人はいないでしょう!」


「褒められてる気がしないんだけど。」


「別に経営でなくても、他に何か興味のあるものがあったらおっしゃって下さい。すぐにやめますよ?」


「……ないな。」


「だと思いました。」


変わっていると思われるかもしれないが、こういう商売の駆け引きは嫌いじゃない。

何を言ったら相手が折れるのか、どこまでだったら妥協してくれるのかを考えるのはどうやら俺の性に合っていたようだ。


その勉強の場として実践をやらせているのだ、この男は。


「俺みたいな子供が相手にされるとは思えないけど?」


「いいではありませんか。子供だと甘く見られたら隙をついて良い値で仕入れが出来ますよ。」


「………エド、お前は他の子供にもこういうことさせていたのか?」


「いえいえ、お子様によって全然違います。


ですが最初に教養を身につけさせることは皆同じですよ。将来どこの道にすすんでも学があれば人を黙らせることが出来ますからね。」

今まで五人の子供達を育ててきたエドワードはフッフッフッと不敵に笑う。





「……怖いな」


「お子様のなかにはパン屋になった方もいらっしゃいますよ?」


「え!?……いいのか?貴族なのに。」


「ですから、貴族とパン屋のニ本ワラジです。屋敷を街の中に入れることで両方可能にしたんですよ。」


なんかあんまり想像出来ないが……。


「坊っちゃんの人生ですから、坊っちゃんの好きなように生きてください。」エドワードは最後にそう締めくくった。


「……アリス嬢はどうなる?」触れないと誓ったハズの言葉が堪えられずに出てしまった。


「お前の事が好きだったアリス嬢は好きな人生を歩めたと思うか?」


エドワードを諦め、好きではない婚約者を結婚すると決めたアリス嬢。


それは自分の為ではなく家の為だった。


つい責めるような口調になってしまったが、止まらなかった。


だって、いまなら彼女の気持ちが痛いほど分かるから………。



「うわーーーーーー!!それ言わんといて下さい!!本当に告白されるまで全然気づかなかったんですよーーーー!!まさか自分がそういう風に思われるとは考えてなかったし、お嬢様の容姿を褒めるたびに『やめろロリコン』って冷たい目で見られ続けていたので、全っ然気づけなかったんです!!」


「うわぁ………」


エドワードはこういう所がある。

なんか、どことなく鈍いのだ。


「でもまぁ、婚約者様はアリス嬢を溺愛してるからいっか。……それにアリス嬢は女で俺は男だ。そこら辺も進める道の違いが出てくるんだろうな。」

どことなくフォローしてやる。


「そう言って頂けると心が救われます。」


「……お前は?エド。」


「?」


「お前はこの仕事、楽しいか?」


純潔の執事家の長男であるエドワードはこの道以外なかった。自分で選ぶことが出来なかった。








「天職です。」満面の笑みでそう言った。



「そっか。」俺も釣られて少し微笑む。


「坊っちゃんにも出会えましたしね。坊っちゃんの成長は目を見張るほどです。教えがいがありますね。」


「そりゃどうも…………。あ、待てエド。」


扉から出て行こうとしている執事に対して俺は呼び止める。


「はい、なんでございましょうか?」 




「俺はお前が好きだ。 

     そのことを忘れんなよ。」


執事は不意を突かれたかのように目を見開く。

「……ありがとうございます。」


気まずそうに横を向くエドワード。


ハイスペックなくせに鈍感な奴には、手っ取り早く思いを伝えるのに限る。

もう何回、何十回と言っている言葉を……


あと5年。あと5年しかない。

それまでに………




俺にはもう、時間がないのだ。



☆☆★☆


「坊っちゃん、今日は私も学園内までお荷物をお運びさせて下さいませんか?」


目を爛々とさせて執事は、俺……アルバート•バイル(11歳)に言った。


(どういう心の心境だ?)


俺の頭の中は[?]でいっぱいだった。


アリス嬢の屋敷から帰ってきて以来、執事のエドワードは何事も無かったかのように淡々と仕事をこなした。


ただ気がついたらボォっとすることが増えた。


俺はあえてそのことに触れなかったし触れたくもなかった。


しかしそれから一ヶ月後ようやく学園に慣れ始めた頃、執事は興奮気味でこんな変なお願いをしてきたのだ。


不気味にも程がある。



「まぁ……いいけど。」


馬車に揺られながら俺は承諾した。


そういう俺はというと、アリス嬢から「オメェ、エドワード好きやろ」と言われたことがずっと心に引っかかっていた。


んなわけねーじゃん。

あいつ男だし、俺女の子好きだし。


そう思いながらも最近は変にエドワードを意識してしまっている節がある。

というわけで検証してみることにした。


学園についてスキップ気味でエドワードは荷物を運び入れる。


荷物といっても教科書くらいしかないのだが……


俺はエドワードと歩きながらそこら辺にいた貴族のお嬢様に話しかける。


「おはようございます。ミーナ様。」


「あ、お、おはようございます。アルバート様。」


ピャッと肩をびくつかせ、頬を赤らめる姿が

初々しくて可愛らしかった。会話を続ける。


「今日のドレス、とても素敵ですね。よく似合っています。」


「あ、ありがとうございます。その、あ、アルバート様の帽子も、もしかして……」


「ポッター卿のものですよ。」


「や、やっぱりそうですよね!私もアルバート様が好きだと聞いてポッター卿のドレスを着てきました。」


「着心地いいですよね。僕も重宝してます。」


「あ、……………あの、アルバート様。もし宜しければ、その……我が家へ来ていただけませんか。父上が是非アルバート様にお会いしたいと。」


いわゆる遠回しなデートのお誘いというやつだ。俺は作った笑みを浮かべて言った。


「お誘いいただきありがとうございます。ですがまだ僕は社交界に足を運んでいません。……また機会があれば。ぜひ。」

やんわりと断りを入れる。


「そ、そうですわよね。すいません、突然。」


俺は彼女に笑みを浮かべながら、視線は執事のエドワードの方に向けていた。



エドワードは…………



ニコニコしていただけだった。






(……つまんね。)


何もない反応に心で舌打ちする。


……ってアレ?

俺は結局何をしたかったんだ?と。


自分で自分に、突っ込まずにはいられなかった。


俺は女の子の方が好きだと証明したかっただけなのに、満面の笑みの執事の姿を見ていたらそんな気持ちすら萎えてしまっていた。


というか、執事のニコニコしている顔を見てから【俺があの子のことを好き】だと思われているんじゃないかと考えてしまった。



俺は別にあの子が好きな訳じゃない。

でも、執事の事が好きな訳でもない。




あーーもう、わけわかんねぇ。


☆☆☆★


私の名前はエドワード。今、目の前を歩いている坊っちゃんの教育係兼、荷物運びです。


あぁっーーーーー天国。本っ当に天国。


360度どこを見渡しても、可愛い男の子、女の子、あ、あっちには双子のお子様まで。


ドレスもピンクや青でフリフリな物ばかりだけど、アイタタタとならずに着こなせるのは子供の特権だ。


「おはようございます。ミーナ様。」


「あ、お、おはようございます。アルバート様。」


アル坊ちゃんがご友人の令嬢に声をかける。

ピャッと肩をびくつかせ、頬を赤らめる姿が

んんっ!!か"わ"い"い"!!



[ここでエドワードの妄想が始まります。]


挨拶は交わしたもののモジモジしながら、なかなか話をしようとしない二人。


「あの……アルバート様。昨日の約束覚えていてくれていますか?」「ミーナ様……いやミーナ、大丈夫。ちゃんと覚えてるよ。僕、昨日嬉しくて眠れなかったもん」


「……!ほ、本当ですか。私のこと大きくなったらお嫁さんにしてくれるって。本当に!?」


「うん、本当だよミーナ。ずぅーっと一緒!」


「えへへっ、嬉しい!」


「ミーナ……。」


「ん、なぁに?アルバート様。」


「僕はミーナのことを呼び捨てで呼ぶでしょ?だから……あ、アルバートじゃなくて……その……」

モジモジとしながらアルバートの声はだんだん小さくなる。


ミーナもその言葉で顔をカァッと赤くして、


「……あ、アル。」ミーナも小さな声で彼を愛称で呼んだ。


「ミーナっ!」「アル!」







ハイ!!!!可愛い!!ハイ尊いぃ!!


有りです!アル坊ちゃんとミーナ様の組み合わせ!!大好きです!!


鼻血を出すわけにもいかず、エドワードはニコニコと後ろで笑みを浮かべて必死に耐えていた。




☆☆☆★




放課後、いつものようにエドワードが迎えにくる。


馬車に乗りながら窓の外を見つめる。

山々は青く茂っていて、少し開けた窓からの風が気持ちいい。


「なぁ、エドワード。」


「なんでございましょうか。坊ちゃん。」


「好きってなんだ。」


「ゴフッ、ゴフッゴフッ……な、なんですか、突然。」少し顔を赤くしながら慌てふためくエドワード。


「ちょっと気になったんだ。お前も女性に好きの一つや二つしていたことはあるだろう?」


「それは……ないこともなくはなくもないと言えなくもないと思いますが。」


(どっちだ?)


茶を濁すエドワードに俺は続ける。


「俺は俺が好きだと、犯したいと思っていた女の顔さえ、今ではうまく思い出せない。


母様や父様も俺を好きだと言っていたが、全く帰ってこない。」


窓にうっすらと映る自分の姿を見る。そこには無表情の自分がこちらを見ている。

「好きとかそう言う気持の前提が俺には分からなくなってしまっている。」


何をもって好きだと言うのか。

そもそも俺にはそう言う感情があるのか?

そういう風に考えてしまうことも、しばしば。


「………奥様や旦那様がいなくて、恋しいですか?」


「別にそういう訳じゃない。バーで飲んでいた時よりもバカ騒ぎは減ったけど、今はやるべきことがあるから寂しい訳じゃない。


………お前は?アリス嬢が恋しいか?」


「……っ。」


「俺はお前をアリス嬢の所から引っ張り出した。それ自体に後悔はない。でも………



お前がそんな顔をするのは俺にも責任の一端はある。でもお前をアリス嬢の元に帰すことはしたくない。出来ないんじゃなくてしたくない。」



……………。


……………。



「なんか言えよ。」


執事は優しく微笑む。


「心配してくださってありがとうございます。ですが、これは私の問題です。私がお嬢様とのいる期間が長かったばっかりに引き起こしてしまったことなのです。

………これは、これだけはきっと時間が解決してくれます。

ですから坊っちゃんが気を落とすようなことはありませんよ。」


「俺はお前のために何か出来ることはあるか?……給料上がるとか、些細なことでもいい。」


「で、では!私のこ…………




………失礼。勉強に励んで頂ければ。」思わずと言った感じエドワードは何か言いかけた。そしてやめた。


「何だよ、『私のこ』って。ちゃんと言えよ。」


「い、いえ!勉強して頂ければ、それだけで十分嬉しいですアハハハ。」


「………わかった。」


ニッコリとエドワードは微笑むと、続けた。

「大丈夫ですよ。きっといつかそういう感情に出会えますから。」



☆★☆☆



俺は寝る前にカリカリと勉強を進める。

正直言って、俺は勉強がそこまで好きじゃない。


どこの学校だって、俺の家と金を持ってすれば簡単に入ることができた。


でも、そうじゃないんだと執事が言った。


お陰で俺は金じゃ入れない所を目標にさせられ、ここの学校がどのように素晴らしいかをプレゼンさせられ、諭され、乗せられたのだ。


勉強はほぼマンツーマンでテストの範囲をひたすら反復に反復。


食事中でさえ、問題を出してくるもんだから皿を投げてやろうと思った。………怖いからやんないけど。


一時期あいつの顔を見るのも嫌だった時期もあったし、ていうか毎日嫌だった。


うるさいし、細かいし、怒るし。


でも、褒めてくれるんだったらエドワードが一番良い。



カリカリカリカリ......



(ん?ここの問題難しいな。)


頭をうんと捻ってみたが、これっぽっちもわからない。


仕方ない。気が滅入るがアイツの所に行くか。



トントントン


「おい、エドワード。いるか?」


返事がないので、無断で入ってやった。


そこは殺風景で、机と椅子、本棚とベットしか置いていない簡素な部屋だった。



エドワードのベットを見る。


アイツが寝ている所を一度も見たことがない。


いつどんな時間な尋ねても、執事服のまま涼しい顔で「どうなさいました?」と言うだけだ。


ベットを横目に、俺は本棚の方に目を向ける……そして。






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