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坊っちゃんとロタ好き執事  作者: さもてん
6/16

主人と従者

「お久しぶりでございます。アリスお嬢様。」  


「ひ、久し振り………エド。」アリスは先程のヒステリックが嘘のように静かになった。


「フフフッ、やはりお嬢様のお転婆は一年経っても治りませんねぇ。」先程のお怒りっぷりを見えいたのか執事はクツクツと笑った。


「な、何よぅ!そっちだってその口の悪さが治ってないんじゃなくて?」


「確かに………私の唇にしっかり叱っておきますね?メッ。」


「いらないわよ!そうゆうの!!」


「アハハッ、やはりお嬢様はいつでもからかいがいがありますね。」


ウォッホンと低い咳払いをする。

……アリスの父親のケビン様だ。


「アルバート君、ごめんね。エドワードは僕が呼んだんだ。『坊っちゃんがそちらに来たら連絡がほしい』と言われてね。」


「………ッ。」

やはり全て筒抜けだったということか。





「エド……お願い。帰ってきてよ。」執事の袖を軽くキュッと握りながら18歳の美女は泣きそうな目でおねだりした。彼女の膨らんだバストは身長の高い執事から見れば絶景だろう。


「………。」何も答えられず、ただ笑みを浮かべることしかできない執事。


俺はどこか焦りだし、急いで言葉を紡ぐ。

「おい、エドワード!……俺を裏切るのか?どこにも行くなと言っただろ!?」


「はわぁ〜〜〜………。」顔をへニョリとさせ、溶けた笑みを浮かべる執事。


「チッ。」アリスは舌打ちする。 

そして俺に近づき……


「私はね、アンタより年齢も上で身分も高くてよ。貴方ほどの爵位で反抗なんていい度胸ね?」


上から目線に煽ってきやがった。まぁ……ここで折れる俺ではない。


「身分身分……その凝り固まった思考でエドワードの側にいては、愛想を尽かされるのも納得ですね。」


「……ッ!貴方ねぇ……私達の何を知ってそんな口を聞けるのかしら!たった一年の月日で?私達の7年間を「まぁまぁまぁまぁ、落ち着いて下さい。坊っちゃん、お嬢様。」


「………。」「………。」


間に割り込んできた執事に二人はジト目で見つめる。

「……な、何ですかその目は。」


「エドワード、お前が決めろ。まさかとは思うが……こんな女に仕えるだなんて言わないよな。」


「エド、こんなコドモの戯言は聞かないで。貴方ならどちらを選ぶべきか分かるわよね?」


「え……え〜〜……っと。」

執事は困惑した。


彼らはよく似ている。

二人共気が強く、素直で、よく言えば人を惹きつけるが、悪く言えば自信家で我儘だ。


エドワードはそこを重点的に改善させたつもりだが、そう簡単に変わるはずがなかった。


「おい、エドワード。」「エド。」

ズイッと二人は近づく。






「………検討します。」執事に言える精一杯の答えだった。


✱      ✱


「なんでこの俺があのデカ女の屋敷に泊まらなくちゃならないんだ!!」来客用の豪華な部屋で俺は吠えた。


「まぁまぁ。泊まると言っても1日だけですって。それにここは、料理人が腕によりをかけて作ってくれるのでとても美味しいんですよ。」


「…………。」

その時の俺の心中は穏やかではなかった。

ふとした瞬間にコイツはこの家を選んでしまうのではないか。気がついたら俺の側からいなくなってしまっているかもしれないか。

そんか不安に取り憑かれていた。


お父様もお母様も俺を見ていない。

友達だと思っていた奴もそうではなかった。

 

俺を俺として見えくれたのはこいつだけだった。


「お前は、……どこにも行かないよな。」

思わず、弱気な声が出てしまった。


執事は驚いた顔をしてそして微笑んだ。

優しく、優しく頭を撫でてくれた。


「どこにも行きませんよ。」


「……本当か?」


「本当です。」


少しの間の後執事は…

「お嬢様はもうすぐご結婚なさるのです。小さい頃からの婚約者もいらっしゃいますしね。ですから『教育係』として配属された私も、もう不要な存在です。」

どこか寂しそうな目でそう言った。


「そんな事はないだろ。」

気がついたら否定していた。何を言わなければいいものを、エドワードのそんな顔を見てしまっては言わずにはいられなかったのだ。


「お前と一緒にいたいからアリス嬢はお前を強引に連れ戻そうとしたんだろ?良かったじゃないか、それだけ重宝されて。」


「………坊っちゃん。」


「だからこそ、ちゃんと別れを済ませてこいっ。

それが俺にできる唯一の許可だ。」

そこだけは譲れないとばかりに念押した。


✱      ✱


トントントン

アリスの部屋のドアがノックされる。


「………はい。」

沈んだ気持ちを隠しきれず小さく答える。


「失礼します。アリスお嬢様。」


「………っ。」


そこにいたのは自分を7年間育てた男の姿だった。







「坊っちゃんがご迷惑おかけしたことを、主に代わって謝罪いたします。」アリスはソファに座りながら、綺麗な礼をする男を見ていた。


「もうすっかりあの子の執事なのね……。」


「………。」微笑む執事。


少しの沈黙の後。

「……貴方がいない一年の間。私、貴方を思い出さなかった日はなくってよ。」ポツリとアリスは声を漏らす。


「それはそれは……執事冥利に尽きますね。」


「貴方にはなかったの?」


「いいえ、たくさんありましたよ。例えば……幼いお嬢様が病気になってお洩らししてしまった日とか、ピーマンを残した時とかの事を思い出しました。」


「なっ……良いのよ!そんな余計な記憶は思い出さなくて!!」執事は続ける。


「他にも貴族試験まで勉強してなくて『陣痛です。』と言って休もうとしたり、友達と話題を合わせたいからってとんでもなく高いアクセサリーを買おうとドレス全部売ろうとしてましたよねぇ。……ふふっ、これから何を着るつもりかと思いました。」「いーーーやぁぁぁ!!やめて!本当にそれ黒歴史なの!」 


「フッフッフッ、まだまだありますよ♪」


「あ、貴方だって!私の部屋に『美少女、美少年写真集〜ファンブック〜』を仕舞ってたじゃない!お父様に見つかって大変だったの覚えてないの!?」


「あぁぁぁぁーーー!!!それは言わないでください!!本当にあれは悪意があったんじゃなくて、執事やメイドの部屋の大掃除でどうしても隠さなくちゃいけなかったんですぅぅ!!」


「それがなんで私の部屋なのよ!!」


「お嬢様の部屋は熟知してるので♡」


「お陰で私が変な性癖持っちゃってるみたいに思われているですけど!!」


「すいませぇぇん!!!!」



はぁ……はぁ……とお互い息を切らす。


「……知ってるわ、貴方が私から離れていった理由も、あの子の境遇も。どっちの方に貴方がいて支えてあげるべきかも。」



親から愛された自分。


親から愛されなかった彼。


それを繋ぎ止めておくのが出来る優秀な人物はエドワードくらいなものだ。



でも、とアリスは続ける。

「でも駄目なの。……側にいて欲しい。隣りにいてほしい。いつもみたいに辛いときに笑わせて欲しいし、貴方にも笑っていてほしい。………例え私が他の男と結婚したとしても。」


「…………。」


月光が窓から入り込み、アリスの美しい金髪を光らせた。


あぁ……あのお嬢様はこんなにも大きく、美しく成長したのだと改めて思い知らされた。







「……………好きよ。」

まっすぐと自分を見つめて言う。


「あなたが好き。頭がおかしくなりそうなくらい……大好き。」


それは7年越しの、自分の育てた姫からの甘い告白だった。


「………ありがとうございます。」

執事は本当に嬉しそうに微笑んだ。全て分かっていたかのように。最初からこう答えるのを決めていたかのように……。


アリスはそんな執事の態度に笑いながら大きなため息をついた。

「あーー……もうっ、フフッ……なんでこんな奴好きになっちゃったのかなぁ。どっからどう見たって変態じゃない。」


「えぇっ!私のどこが変態なんですか!?」心外だと言うように驚く執事。


「全部よ!小さい頃は可愛い可愛いってアホみたいに言ってたくせに私が成長すると共に言わなくなるんだもん。小さい頃のお茶会には進んで足を運んでたくせに!小さい頃はやたらめったらへんなコテコテな服着せてたくせに!

これのどこか変態じゃないって言い切れるのよ!!」


「うっ………。」思い当たる節がありすぎて胸が痛い。


「……それでも、良かったの。貴方が私の小さい頃が好きでも側にいてくれたら。……側にいてさえくれれば、いつかは振り向いてもらえると思っていたから。」


「…………。」


「ねぇ、もし私が貴方と出会った時くらいにこの思いを伝えていたら……貴方は私を好きになってくれた?」わずかな期待を込めて、涙目で聞いてみる。


執事は……

「私は、アリス様の教育係です。ですから手は出せませんよ。」彼は淡い期待を持たせる、優しい嘘もつかなかった。


「…………そう。」

お嬢様は背を向けた。


「話はそれだけよ今までお勤めご苦労さま。さっさとあの子の所に帰れば?」

震える手を隠しながら、最後は傲慢なお嬢様らしく冷たくあしらう。そうでなければ己を保てそうになかった。



「アリスお嬢様………今までありがとうございました。お嬢様と過ごした日々はどれも私の中の宝物です。」


そんなズルい別れのセリフをはいて。

執事はアリスに近づく。そして後ろから優しく頭を撫でて……


「お嬢様は、いつでも可愛いですよ。」

だなんて抜かした。


「…………ッ……知ってるわよっ。」

嗚咽が止まらない。

涙が止まらない。

止めようと思ってもとめどなく溢れてくる。


『『私は、アリス様の教育係です。ですから手は出せませんよ。』』

先程の彼の言葉を思い出す。


全くもって相手にされていない。悔しかった。

けれど





そういう誠実な所も、私は好きだ。


✱      ✱

家に帰る前、俺はアリス嬢が見送りに来てくれた。エドワードは馬車を確認すると行って席を外している。


「………。」「………。」

  

エドワードは俺を選んだのだ。

だからアリス嬢の文句の一つや二つ聞いてやろうと思ってた。


「……貴方、私達の話聞いていたでしょ。」


「………ッ!」

ふいにそう言われて、つい顔に出てしまった。


「どこから聞いてたの?」


俺はハァーとため息を吐き出すと正直に話しだした。

「エドワードがでかい声で謝っている所から。」


「………そう。」アリス嬢の口角が自然と上がる。





(つまり、エドの秘密をまだ知らない訳ね。)



彼女は俺に近づき。

「惚れちゃだめよ。」と耳元で囁いてきやがった。



「は、はぁ!?……なに言ってやがっ………んですか?アイツは男ですよ!」


アリス嬢はそんな真っ赤になった俺の様子をみて、熟女らしからぬ大きな舌打ちをした。

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