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坊っちゃんとロタ好き執事  作者: さもてん
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家族との会話

「つかれた……。」


ポツリと零すように俺……アルバート・バイル(15歳)は長いソファに横向きで体を預けた。

朝から学校、貴族の顔合わせ、ダンス・ダンス・ダンス。


入学してから定期的に社交場に出席しならないのは、嫌というほど分かっていたが……。今日の忙しさには流石に執事もベッドではなくソファで寛ぐ主人に何も言わなかった。


「今の内に他の貴族との関係を作っていけば、後々楽になりますからね。ここが頑張りどころです。」


「はぁ……この歳で人脈作りあげている貴族は俺くらいだと思うけどな。」

ニコリと執事は笑みを作る。当たり前だと言わんばかりの顔だ。


勉強させるだけさせて、食事のマナーから礼儀作法、人脈の作り方まで叩き込んで俺は王にでもさせるつもりか?


「明後日休めますから、明日まで頑張って下さいね♡あっそうだ。これ坊ちゃんの為に作った服なのですがどうでしょうか?サイズもピッタリだと思うのですが。」


「………。」


フリフリにキラキラヨーロッパの青い目の人形が身につけていそうなほどよく言えば『可愛い』、悪く言えば『ふざけた服』を持ってきた。


「そんな恥ずかしい服着ていけるか」


「えー、可愛……カッコいいじゃないですか………ふふっ……。」


「自分で笑うな。」


「すいません………この服を着た坊ちゃんを想像しちゃいまして……。」


「アハハッ、お前は俺の神経を逆撫でするのが上手いなぁ(怒)」


「エヘヘ」


「褒めてねぇよ。」


俺はソファに、寝転がったまま不貞腐れる。


「………エド、ちょっとこっちに来い。」


「はい、何でございましょうか?」


ソファの近くまで来た執事のネクタイをグイリと引っ張る。倒れる。

 

「ちょっ……。」執事は俺にぶつからないように俺の顔の両サイドに手をつく。


床ドンならぬ、ソファドンだ。


「……あの、……坊っちゃん?」

恐る恐るといった表情で執事はたずねる。

さしずめ、怒られると思ったのだろう。


「今日は、疲れた。


      ………だから癒やして?」


子供っぽいのは分かってる。俺がそう言った後の反応だって、分かってる。


「…………〜〜〜〜〜ッ尊い………ううっ、カワイイ……まじでかわいいっす。坊っちゃん………。元の子生意気な性格を忘れてしますほど可愛いです。」


片手で口元を抑えて嗚咽を堪える執事は今日も今日とて変態だ。


かわいいかわいい、と連呼するこの男は、子供なら男女関係なく興奮する異常者だ。



   

(こういうのを求めているんじゃない)




俺は知っている。

この男は小さな子供なら誰でもこうなるってことを。

別に俺じゃなくてもいいんだってことを。


俺が大きくなったらきっと、俺の元を離れていってしまうのだということを。 



だから……俺はいつも否定する。

「子供扱いするな。」



俺を見ろ。誰でもいいとか言うなよ。


もう一度、強くネクタイを引っ張る。

体制が低くなったところで、俺は体を起きあげそのまま唇に………







当たることなく、執事の手に拒まれた。

「おやめください、坊っちゃん。」

執事の声のトーンが変わった。


俺は知っている。


……こいつはショタコンだが、決して(子供)に手を出してくれないことを。


✱       ✱


カリカリカリカリ



ペンの音が静かな部屋に響く。

11歳になった俺はあれ以来バーに足を運ばなくなった。

今では毎日のように勉強机とにらめっこの日々を過ごしている。

執事は今日までに勉強はもちろん、ダンス、食事のマナーから乗馬の乗り方、剣の使い方、更には裁縫やら料理やら、人形遊びやら……絶対必要ないだろ!!と思わずにはいられないものまで触れさせた。


「ものは経験です。」と爽やかに笑う執事の顔をこの時だけ本当にぶん殴りたくなった。


「ここの分野はほぼ完璧ですね。」

ノートに丸をしながら執事は嬉しそうに微笑んだ。


「いや、まだまだだな。もう少し先までやっておかないと。」ふと呟いた俺の言葉に執事は目を大きくする。


「………。」


「な、何だよ。なんか文句あるのかよ。」


「いえ………坊ちゃんからその言葉が出るとは思ってなくて、思わず。」


確かに、ほんの一年の俺からは考えられない言葉だな。


「俺は一年分学校の授業が遅れてる。そもそも行ってなかったからな。入学すると決まった以上ここまでやらないと笑い者にされるだろう?」


「坊っちゃん……。」

執事はジーンと感動した。



(ですが、坊っちゃんは同い年の人と勉強することなく、次の代で入学するつもりですよ?)

と、思ったこだが、それを伝えるのは藪というものだろう。


坊っちゃんはその気を出させればできる。やれば出来る、地頭はいい方なのだ。

ただそのやる気と勉強の基礎を教わることが出来なかった《環境》に問題がある。


エドワードは元主人の言葉を思い出す。



『見てやってくれないか、あの子を。』

 


今となってはここに来て良かったと思っている。そうでなければこの子供は自滅してしまうところだっただろう。


他人に金を与え、体を与え、そして自らの魂さえも与えてしまいそうだった。


子供は何が良くて、何が悪いのかちゃんと線引してくれる親がいないとだめなのだ。


それをあのアホンダラ両親の代わりに教えるのも、自分の使命だと考えている。


それにしても…………。 

大きな勉強に向かう小さなアルを見て。



…………………尊い。



この一言に尽きる。


少しつり上がった子供ながらにクリクリな黒い目!

黒い髪の毛はクセのないサラサラ!!  


極めつけに!!!腕で顔を支えながらむ〜っと問題に四苦八苦しているその姿!!!


かわいい!!可愛すぎます!!アルお坊ちゃま!!!


はぁ〜……こんな子供の近くで働けるのは幸せの極みだ。

我儘?理不尽?かわいいものです。


ですが。そんな私でもさすがに前回の坊っちゃんには苛立ってしまった。


坊ちゃんが部屋から抜け出したのに気づいた時は本気で「あのクソガキ」と言って他のメイドをビビらせた。


このまま順調に成長していって欲しい…………いや、成長はしなくていいから、せめて!慎ましく暮らして欲しい!!


✱      ✱


やがて入学証明証が家に届き、その知らせを聞いた両親が珍しく家に帰ってきた。


「聞いたわよ〜アル。首席で入学したんですって?」


「さすが私の息子だな。そうだ、何か買ってほしい物はあるか?何でも買おう。」


ディナーを食べていた俺は嬉しくなって最近流行でオーダーメイドの服の色違い全部を頼んだ。


「それはいくらだい?」


俺は値段を言うと父親は笑いながら自分の執事に命令し、そのお金の価値を引き出す紙を書いて渡した。


「これで足りるかい?」小切手と呼ばれるものでこの金の分が父の口座から引き落とされる。


「ありがとう、お父様。」

アルが受け取ろうと手を伸ばすと執事が素早く一礼し、代わりにその紙を受け取った。


「失礼します。失くされては困るものなので、こちらでお預かりします。アル様、後ほどご一緒に買い物に行きましょうね。」


「……あぁ。」

確かに食事の時には必要ない。


「ご主人様、奥様。食後のデザートはいかがでしょうか?旬のラズベリーが取れましたので、ジェラートをお作りいたします。」


「まぁ!」「ぜひ頼むよ。」


「承知いたしました。」


エドの後ろ姿を見て、ホゥと両親が呟く。

「あれがポッター家から来た執事か。」


「中々出来る男ねぇ。アルあの人どんな方?」

 

「口うるさい。細かいし、うるさいし、あとなんか時々ちょっと変なんだよ。


それから毎日勉強だの、乗馬だのダンスだの。

………あっ、でも聞いて父上。前に乗馬していた時さ、エドワードが」「そうかぁ、やっぱりアルには合わなかったかぁ。」

父上は頷く。


「え……。」一瞬なんのことか分からなかったが、すぐに察した。


「…いや、まぁ!口うるさいけど悪い奴じゃない。勉強の教え方も悪くはないし。」急いで訂正する。


「まぁ、そうだったのね。仲良くなって良かったわね。」


「仲が良いかは別にして、……まぁ今までの執事に比べたら良いかもしれないな。」


「ハハハッ、なら残念だなぁ。もうすぐ辞めちゃうなんて。」

 

「…………………は?」一瞬、息ができなくなる。


「一応、お試し期間として私の知人から借りた執事なんだよ。いやぁ、やっと返す事ができてよかった良かった。ほらぁ偉い人の執事だとやっぱり気を遣うだろ?彼も向こうにいた方がいいと思うんだけどなぁ。」


エドワードが………

           やめる?






久しく考えていなかったその言葉に俺は酷く狼狽えた。

父上と母上がその後もなにか話していたが俺の、頭には入ってこず、ただ貼り付いた笑みを浮かべるので精一杯だった。


「あぁ、そろそろ仕事の時間だ。私はこれで席を外すよ。」


「あら、もうそんな時間。私も行かなくちゃ。久しぶりに会えて楽しかったわ。アル、愛してるわよ♡」


いつも帰り際の決まったフレーズ。

額に優しくキスされたので俺も母の頬に優しくキスを返した。


滞在時間一時間もしない、とても短い家族の時間だった。

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