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坊っちゃんとロタ好き執事  作者: さもてん
3/16

薄い思い出は思い出じゃない。

結果は、………はーい俺の勝ち。

まぁ当たり前だが。

先程までナイルを取り巻いていた女も姦しく俺の周りを飛び跳ねる。

さすがは貴族様で勝ち取ったかなりの額が机の前に置かれる。


「そこをどけ。」

ナイルは降参するように両手を上げると上着を羽織バーの出口ドアに手をかける。


「僕はここにくるのをやめるよ。」


そして振り返りこう言った。 

「言っておくけど、僕がそこの席に座ったのは最初に君の大切なお友達が『ここに座りなよ』って言ってくれたからだよ?」


シンッ………………



空気が一瞬にして固まる。




「じゃあね、リトルキング♡」

ドアが閉まると同時に彼等は俺の方を見た。


「あの………アル……あれはな、その」


「分かってる。どうせあの男ハッタリだろう?」


「そ、そうよ!私達あんなこと言わないわ。」


その後も、俺の再開パーティーは続いた。

最近流行っているファッション、写真、歌、そんな事ばかりを飽きもせず、ずっと話していたんだ。


ズキリッ



「…………?」


久々に飲んで酔が早く回ってしまったのか、少し胃のあたりが気持ち悪くなった。

ダンスも、酒も、音楽も、お喋りも、一つの不調で全てがうるさく感じた。


「すまん…、ちょっと……出てくる。」


仲間にそう言うと、堪えきれず外に出た。


✱      ✱


俺が胃を押さえながら外で気持ちを落ち着かせていると「あぶなかったなぁ。」と少し空いた窓から男女の声が聞こえた。

二人は俺が初めてバーに来たときからの親友だ。

彼らは下級貴族なので馬車もなく、ほとんど朝から晩までここに入り浸っている。


「ね。もうバレるかと思ったもん。アルが単純で良かった〜。でも今回のでナイル様は来なくなっちゃうかもよ?」


「それは困るよな。……よぉし、俺手紙書いて送るわ。」


「アル達が稼いでくれるお陰でうちら、飲み代タダだもんねー♪」


「アハハッ、だな。」



………まさか、な。

なんて思いながらも膝は震えていた。


なんとなく、心当たりがあったのだ。

それは一年前、気分が向かず一ヶ月ほどバーに行くのを控えた時期がある。

そんな時に来たのが親友からの一通の手紙だった。

 

温かい、心をほぐすような優しい文章で、『お前が来なくて寂しい』と書かれていた。

それを見た俺はまたバーに足を運び始めたのだ。


『坊っちゃん。それはあのドラ貴族達と一緒にいた経験が裏付けているのですか?』


『貴方様は確かにお金で解決できたかもしれません。でもそれは貴方様とドラ貴族達の位が天と地との差があるからでございます。金払いの良い者に皆が媚びるのは当然でしょう。』


あのクソ執事の言葉が鮮明に思い返されて腹がたった。


ここに初めてき始めたきっかけはあの二人なんだ。

「お前が来たらもっと楽しい」って明るい顔で俺の手を引っ張って…………。


俺は、ただの飲み代の為にここにいるのか?


あの時の手紙とか、全部嘘だったのか?



今の俺は不思議とバーに戻りたくなかった。

でも屋敷にも帰りたくなかった。


親友達が出ていったタイミングで、俺は戸を開けた。

気持ちが悪い。胃がグチャグチャとする。思考もうまく働かない。でも屋敷に、あの閉じ込められた苦しい空間にいるよりかは遥かにマシだと思った。


「アルゥ!このお酒頼んでもい〜い〜?」親友たちは当然のように俺に群がった。


「あ、あぁ。平気だ。……それよりさっきの」

「アルぅ〜〜!一緒に飲もうぜ!!ちょっと高いやつ〜、マスターの新作なんだってぇ。」


「アルっ、今度さ買い物付き合ってくれない。前みたいにさっ♪」


「アル♡私とダンスしようよぉ!!」


「アル!そんなことよりぃ、アッチで私と前やりそこねたイイコトしない〜〜!!」


不意に、俺は悟った。

『あぁコイツら何にも考えて無いんだな、』って。


ただ楽しいことして、気持ち良いと思える事を呼吸するかのようにやってるだけなんだ、って。


そこに居たいのなら、俺もそうした方がいいんだ。


……もうなんか、どうでもいいや。


「あぁ。いいぞ。」女の手を掴む。







「駄目です。」女の手を払いのけたのは執事のエドワードだった。


「あ……お前……なん」「坊っちゃん。帰りましょう。」


有無を言わせず、あろうことか俺の膝と肩に腕を回すとぐいっと持ち上げた。いわゆるお姫様抱っこと言うやつだ。


「すいませんが、坊ちゃんは体調が優れないので帰らせて頂きます。」


「おい……や、め」「喋らないで下さい。舌かみますよ。」


羞恥とか怒りとかの前より腹がとてつもなく痛かった。


「し、執事………腹が……い、痛い。」

エドワードは辛そうに歪む主人の顔に鼻を近づけて「どれほどのアルコールを飲んだらそうなるんですか。」と叱った。


「…………。」


「でもまあ、私にもたくさん否はあります。あの時は言いすぎてしまいました。すいません。」


「…………。」


「………屋敷に帰って体調を治しながら、お互いもっと話合いましょう。」



「………エドワード。」彼の名を初めて口にする。


「なんでございますか?」


「…………俺の方こそ、……ごめん。」


思わずそう言わずにはいられなかったがよくよく考えてみればお姫様抱っこでありがとうだなんて年頃の俺としてみたらすごく恥ずかしくなって、手で口を覆った。  



ギュッ


エドの腕に力が入り、ギョッとして彼を見る。

彼は顔を最大限背け、あまり表情が見えなかったが、一瞬垣間見えたのは何やら堪えているような顔だった。


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