喧嘩と友達
あ、言い忘れてました。
この小説はけっこう15歳と10歳を行き来します。
……飽きるまで、行き来します(笑)
ステーキをナイフとフォークできれいに切りながら俺、アルバート・バイル(15歳)は執事に尋ねる。
「このステーキ……美味いな。どこの物だ?」
「ベネストロイド産でございます。先日のお礼にと、ある方が持ってきて下さったのですよ。本当に上等なものなのでそれだけしかございませんが……。」
「……そうか、お前は食べたのか?」
「いえ、ですがお気になさらず。我々は我々で普段の食事がございますので。」
「じゃあ、一口やろう。」フォークで肉を刺し、執事の方に向ける。
「いや……ですからね坊っちゃん。こういうのは貴族の礼儀としての問題がありましてね。」
「エド、命令だ。」
「……駄目です。坊ちゃまにそれを全て平らげてもらう執事としてのプライドがあります。」
「一口ぐらいいいだろう?誰も見やしないって。」
実際、毎朝の食事は移動が面倒臭いので部屋で食べている。そうすればエドワードが食事を運んでくれるからだ。
「ゴクリッ………って冗談はそこまでにして下さい。」キッと睨みつけられたらさすがのアルも身を引かざる得ない。
ちっ……もう少しで行けそうだったのに。
全くとぼやきながら背を向いた執事を見て、俺は最後の切り札を使うことにした。
「……エド。」
「はいはい、今度はなんてございま………す……か」振り返った執事が見たものは。
「エドがせっかく喜んでくれると思ったんだけど…………駄目?」
上目遣いで人差し指をやんわりと唇に当ててアルは甘えた声で問う。
必殺:ショタ攻撃
「あぁぁぁぁぁぁぁ!!か""わ"い"い"ぃ"〜〜〜!!坊ちゃま!あゝアル坊ちゃま最強にカワイイですっ!!」
せっかくの美形が崩れるほど鼻血を垂らしながらエドは震える口で高級肉を頬張った。
この男はショタロリ好きの変態なのだ。
「はいはい、じゃ。用が済んだからどっか行け。」
「……えっ、ちょ。ひどくないですか!?さっきのアル様を返してくださいよ。」
「んなこと言われたってこれが俺なんだよ。」
「はぁ、はぁ〜〜〜〜、世界って残酷ですね。」
深く、深くため息を付きながら執事は嘆く。
「……お前クビだ。」
「私何回クビにされてるんでしょうね。」
「528回だ。」
「……スゴイデスネ。そろそろ本気でクビにされそうですよ。」バタリとしまったドアを見て俺はハンッと鼻で荒々しい息を吐く。
一生するか、ボケ。
口には何もさしてないフォークを咥えながら俺は心の中で思った。
✱ ✱
10歳の夏、あの変態執事と俺は出会った。
その頃はまだ奴の正体を知らなかったわけだが…
まぁその話はまだいいだろう。
とにかく俺は毎日のようにあの執事に脅されながら勉強やら食事のマナーを覚えさせられていた。
「坊っちゃん。またフォークの使い方が間違っております。まずナイフで切って、それからフォークを裏側に向けて刺して食べるのです。」
「…………ッ。」
興味のないものをやらさせるのは苦痛な物だ。
たまにこいつは俺に嫌がらせをしているんじゃないかと本気で思う。
「坊っちゃん、クチャクチャと食べては駄目ですよ。」
「坊っちゃん、口の周りにソースがついていますよ?」
「坊っちゃん。しっかり聞いていますか?」
「あ"あ"ぁ"ぁ"ウゼェェェ!!!何なんだよお前!?もう金やるから本当にどっか行ってくれねぇか!?」
「いえ、それは無理な相談です。私はある高貴な貴族の方から貴方様のお世話係に任命されました。これは旦那様も納得された決定事項ですので変更することはできません。あとその口調はおやめ下さい。」
「俺が許す!父上に口添えしてやるから。」
「おやおや、ただの10歳のお子さんが位が高く高貴である貴族様にそんな事言えますか?」
「言える。」今までも必要な事は全て金で解決できた。なら今回もいけるはずだ。
「………はぁ〜。」
執事はこめかみを押さえ、ため息をついた。
「坊っちゃん。それはあのドラ貴族達と一緒にいた経験が裏付けているのですか?」
「は?」
「貴方様は確かにお金で解決できたかもしれません。でもそれは貴方様とドラ貴族達の位が天と地との差があるからでございます。金払いの良い者に皆が媚びるのは当然でしょう。」
ピクリっ、フォークを動かす手が止まる。
「…………それは、俺の友達に喧嘩を売っていると捉えてもいいか?」思いっきり執事を睨みつける。
俺がアイツらとつるんでいたのは媚びていたからじゃない。俺のことを慕ってくれていたからだ。
俺が悩んでいる時にはどんな悩みも聞いてくれるし、俺の誕生日の時にはいつもサプライズしてくれた。だからその借りとして俺も時には話を聞き、家のパーティーに招待していただけだ。
「友達……ですか。面白いことをいいますね。」執事は鼻で笑った。
って言っても、その場面を見てすらいないコイツには分からないだろうが。
「…………部屋に戻る。入ってくんなよ。」
話してもまだだと悟った俺は立ち上がった。
「え……坊っちゃん。まだご食事が。」
「いらねぇよ。」ギロリと睨みつけて威嚇する。
執事は何も言わずただ突っ立っていた。
✱ ✱
窓からはシーツを繋げて脱出し、辺りを確認しながら馬車に乗り込む。
「いつものバーに行け。」運転手は困ったように「ですが………」と言ったが圧をかけて向かわせた。
あいつらがただの金づるじゃないことを証明したかった。だから俺はバーに向かった。
扉を開けると店内にいたいつものメンツが固まった。それも束の間、次の瞬間にはワーっとみなが俺に駆け寄った。
「おいアル!今までどうしたんだよ。急にパーティーもやめちまって。」
「アル〜〜会えなくて寂しかったー!!」
「お前が来てくれなきゃイマイチ盛り上がりに欠けるよ!!」
中には涙を流してくれている奴らもいる。
みんなそれぞれの理由があってここに集まる貴族限定のバー。
そうだ。こここそが俺の世界。
「アル、お前の席開けてるぜ?ゲームやろうぜ。」アル専用の特別特等席。俺の小さな体がすっぽり入るほどの大きな赤い革張りの椅子だ。
「あぁ。」
いつものようにトランプでゲームをする。ただ普通のゲームじゃない。
十、二十、時には百を超える額の万札をここで賭ける。
一度負ければ一気に金が吹っ飛ぶリスキーな賭けだが………。
「さっすが、アルだぜぇ!」
「やっぱりうちらのキングだわっ♡」
トランプは仕掛けてきた相手にほぼ全勝。負けしらずのギャンブラーだ。
もちろんタネはある。
アルが使うトランプは全て新品のを使っているのだ。その上に出るカードはだいたい決まっている。その番号を俺は全て覚えているんだ。
トランプを半分に分けてシャッフルするやり方も把握していればどこにどのカードがあるかなんてすぐ分かる。
他にもこれに似たイカサマが十を超えるほど覚えている。
その方法を使いならしているのはこのバーの中でも俺だけだろう。
相手が悔しそうに金を出すと、周りにいるギャラリーも騒ぎ出す。
「イエーイ!!またアルが買ったわ!」
「なぁアル!これで乾杯しようぜ。な?いいだろう?」
「あぁ。」
俺たちは立ち上がり、カウンターの席に向かう。
久しぶりに飲む酒は美味かった。執事が来る前は毎日のように飲んでいたが………奴はどうしているのだろうか?
まぁ、知ったことではない。
カランカラン
「やぁ、お邪魔するよ。」
そう言って現れたのは白い服を着た金髪頭の青年紳士だった。
「あ!ナイル様!!」
「きゃ〜〜ナイル様だわ!」女達は俺の元から離れ、彼の周りに取り付く。
その様子を俺は面白くなさそうに見つめていると、なんとあの男のあろうことか俺の特等席にどっかりと座ったではないか!
喧嘩をふっかけるのには十分すぎる理由だった。
「おい、お前。そこは俺の特等席だ。」
理由ができた俺は彼に近づき、「俺と勝負しろよ。」と
宣誓布告をしてやった。