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坊っちゃんとロタ好き執事  作者: さもてん
14/16

困ったな

「いい加減にしろよ。」


軽ーく頭をかかえながら、俺アルバート・バイル(16歳)は唸った。


ただいま夜の12:00。明日も学園があるから早く起きなくてはならない時間のはずなのだが、俺は『とある理由』より起きていた。


……これは、由々しき事態だ。


「なんで睡眠を取らない。お前このままじゃ死ぬぞ?」


俺は目の前のバカな執事、エドワードに冷たく言った。


この男はもう何日もソファーで仮眠しか取っていない。いくらショートスリーパーだと言っても限度がある。


「いえいえ何勝手な事言っちゃってくれているんですか?半分は……ほぼ8割はあなたのせいですからね!?」


エドワードの目の下に少し隈ができている。

昨夜も余程眠れなかったと見る。


「坊ちゃんが私のベットを占領するせいで私が眠れなかったんですよ………(泣)」


「じゃあ入ってくればいいだろう?」


さも突然のように俺は言う。


「私は執事で貴方様は御子息です。身分を弁えてください。」


「これからの時代は身分は関係がなくなるのだとお前が言ったんだぞ?エドワード。」


……ぐっ、と小さな声が聞こえた後に、ため息も聞こえる。


「……寝顔を見られたくないんです。」

もちろんそれだけではないですが、と小さく付け加えながら彼は言う。


「お前のアホ面をいつも見てるから大丈夫だ。」


「………ひどい。」


「ほれ、さっさと来い。」


ゴリ押しに話を進めてみたが一歩も動く気配のないエド。


もー変なところで真面目なんだからなコイツは。良いって言ってるのに。


「アホですか?……いいえ、坊ちゃんはアホでしたね。」


信じられないと言った表情をする執事。

久々に聞くエドワードの毒舌に落ち込むどころか、不思議と笑みが溢れてしまう。


普段は俺がツッコんでばっかりだったから尚更だ。


こいつのバカ真面目な所も気に入っているが、付け入る隙がないのがなんとも癪だ。


「全く、坊ちゃんは当主の自覚が足りません!これでは婚約者様にも呆れられてしまい………ぁ。」


『婚約者』


後悔するような声でエドは言葉を止める。

俺の先程までの楽しかった気持ちがその言葉でシュルシュルと萎んでいく。無意識に目が細まり、エドを睨みつけるようになってしまった。


エドは咳払いをして「とにかく!」と素早く話を変えた。


「これ以上ここに居座る気でいらっしゃるのでしたら、私は部屋に鍵をかけます。」


「それは困るな。……じゃ、鍵をかけられる前にさっさと部屋に戻って寝るかな。」


俺もこれ以上は迫らず「おやすみ、エドワード。」とだけ言って部屋を後にした。




残ったエドワードは複雑そうな顔をしてため息をついた。


(あと五年。)


長いようで短い月日

アル様には一刻も早くその気持ちを諦めてもらわなければならない。


だって私には、時間がないのだから。



☆☆☆★


はじめての舞踏会を終えた俺、アルバート•バイル(11歳)の学園生活は目に見えてほどではないが、ほんの少しだけ変わってしまった。


『元不良(貴族)の首席』


違和感しか抱かない二つの文字の羅列は一気に生徒達の間に噂として広まった。


近づいてきたのは、自分を仲間だと勘違いした本物の不良貴族だった。


初めは教室に入るのも少し不安だった。

なんて言われるか分かったものじゃなかったし、バーでは金を持ってて勝負に強い者が勝つ(ほぼ反則で勝ってたんだけど)と決まっていたが、ここではその出方すらわからない。


小さなキッカケ一つで皆の目の敵になるなんてことは学園という小さな箱庭の中ではあっという間のことだった。


案の定、俺の顔を見ても昨日楽しく会話していたはずの友は近づいては来ず、入ってくるなとばかりに男同士なんかで円なんて囲って話をしていた。


机に座る。教科書をキチンと用意して、エドワードが用意してくれたとびっきりと面白い本を読む。


読んでみたものの、内容がなかなか頭に入ってこず、それどころか他の人の声ばかりに耳が聴き入ってしまう。


「アルバート•バイルは不良貴族なんだってね。」


「ギャンブルやってたらしいですわよ?」


「お酒も薬物も女遊びもお盛んだったそうですよ?」


「ま、怖いわ。」


「人は見た目に寄らないものだな。」


「本当、騙されたわ。」


うるさいうるさいうるさいうるさい。


耳を塞ごうと思ったが、気にしてしまっているように見られるのが癪だったからしなかった。


エドワードの言った通り本当に貴族は噂が好きだ。それも、ある事ない事の尾鰭をピラピラつけるのが。


……っていくら思った所で半分は真実なのだから何も言えやしない。


(帰りたい………)


エドワードに会うまで思いもしなかった事をたった今、初めて感じていた。


☆☆☆★


「学園はどうでしたか?」エドワードが紅茶をティーカップに注ぎながら訊ねた。


「……別に、普通だったよ。」


軽く無視される以外は別に大したことなかったので言わなかった。


「さ、左様でございましたか。」


ホッとしたかのようにいう執事に俺はジト目で見る。


「心配しなくても、学校ではこれ以上ボロは出さないよ。曲がりなりとも一応バイル家の息子だからな。」


「いえ、そこは心配していないのですが……」


「じゃあ何だよ。」 

いまいちハッキリとしない執事に口調が強まる。


「………あそこは貴族社会を学ぶにはうってつけの場所ですが、色が少し違ってしまえばそこからハブレものとして扱われてしまいます。」


「仕方ない事だ。実際はその通りだし。今更気にも止めないよ。」


「いいえ!貴方様は好きでハブレモノになったわけではありません!!貴方様のご両親がポンコツだったから」


「それでも、バーに居続けたのは俺だ。そこに父上も母上も関係ないよ。あと、さり気なくポンコツって言うなよ。一応雇い主だゾ?」


「………ッ。」


エドワードが口をつぐむ。俺の言うことに否定出来なかったから。


「……アル様一つだけ、忘れないでください。」


「なんだ?」


いつものアホみたいな顔ではなく、どこか神妙な面持ちをするこいつにドキリとする。


「友達だと思っていた人が離れていってこれから一人になってしまっても、恐れないで下さい。」


「…………。」


「孤独を嫌わないでください。それも貴方に必要なものです。」


「……じゃあ、このままずっとボッチで居ろってこと?」


思わず、語尾が強くなる。


「そうは言っていません。人が将来ずっと一人なんてこと、世界が自分以外ゾンビにならない限り絶対にないのです。だから孤独は寂しいものではありませんよ。人間、一人になる時も必要なんです。」


それは、分かってる………分かってるけど。


「……それでも、一人は寂しいよ。」


今日一日過ごしてみて、実感した。

人間は群れていないと生きられない生き物なんだって。


俺はいつもその中心にいたから、全然気づいてなかった。蚊帳の外がこんなに寂しいんだって。


けれど、エドワードはそれを否定する。


「噂に惑わされてアル様の側を離れていく人は見る目がなかった人なんです。例えその噂が事実であっても、しっかりと『貴方』を見てくれているのなら側にいるはずです。去った人達の事を気に病む必要はありません。」


彼は続ける。


「周りをよく探して下さい。見てください。絶対に貴方を見てくれる人がいます。私でもいいですし、ケビン様でも誰でも、誰でもいいんです。いつでも、どんな時でも話を聞きますよ。」


「………うん。」


震えるような声が出た。

彼の言葉に心が温かくなるのを感じる。


ちゃんと、俺を見てくれている人がいるんだって、一人ではないんだって事を教えてもらったから。


俺はきっと、もう大丈夫だ。


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