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ブルースライム討伐後

 戦闘終了後。


「……いやー、スッキリしたわー」


 実に晴れ晴れとした表情でエストはひたいの汗をぬぐった。


「やっぱチェーンソーでぶった切るのはたまらないわねー。木もいいけど、魔物もまた格別と言うか。冒険者になって正解ねー」


「……なあ。聞いていいか?」


 ブルースライムの魔石を回収しながら、俺は口を開いた。


「何?」


「……お前、里でもあんなだったのか? あんな風に雄叫び上げながら木を切ってたのか?」


「そうだけど?」


 さも『当然でしょ?』ってな感じで言ってるし。


「……いや、だけどさ。ちょーっと抑える事ってできないのか? 正直うるさい

し。何より、内容が物騒で怖いし」


「うーん……。里でもそう言われる事あるのよねぇ……」


 でしょうね。


「……でも無理。抑えられないもの。私、何か形のあるものをぶった切るの大好きだから。あれはもう、興奮するなって方が難しいわよ」


「………………うわぁ……」


「特に木とか最高よね。"エルフが木を切り倒す"って事実に背徳感があって、たまんないのよ。里にいたころは、そりゃあもう切って切って切り倒したわ。何しろ周りは森だから。木には事欠かないし。気持ちを抑えろって方が無理よ」


 危険人物そのものの発言である。


 ドン引きする俺にはまるで構わず、どこかうっとりとした様子でエストは語り続けている。


「…………引くわー。普通に引くわー」


 至極まっとうな感想をこぼすと、エストが口を尖らせる。


「何よ。ひどいわねぇ。私はただ、自分の好きな事を思いっきり楽しんでいるだけなのに」


 字面だけならば"周囲からの偏見に負けず、自分らしさを貫き続けている人"なんだが。


 実態がだいぶアレなので、全く心に響かない。


「ノルだって分かるでしょう? あなたはファイアボール一本で行くって決意を持った求道者なんだから。きっと、その過程で私と同じように理不尽な言葉をぶつけられてきたんでしょう? それに、私と同じように村を追い出された経験だってしているじゃないの」


「ちげえわ。お前が里を追い出されたのは単なる自業自得じゃねーか。俺の理不尽極まる事情と一緒にすんな」


「ふぅん? 具体的に、どんな事情があってノルは村を追い出されたのよ?」


「よくぞ聞いてくれた。実はカクカクシカジカ――」


 手短に、エストへ俺の身に降りかかった悲劇的事情を語る。


「――なるほど。つまり、義理の祖父であるアウスさんの資産を当てにして、将来寝ながら楽して暮らそうとしてたんだけど、アウスお爺さんから性根を鍛え直す目的で冒険者にさせられた……と」


「そう言う事だ。……どうだ? 分かってくれたか? お前と違って、俺はこんなにも悲しい事情を抱えているだぞ。そこの辺り――」


「そりゃお爺さんが正しいわよ。妥当な判断じゃないの」


「な……っ!?」


 信じられない事に、エストの口からジジイを支持する言葉が吐き出された。


「おま……何でだよっ!! 何で孫が祖父の資産を受け継いだらダメなんだよ

っ!!」


「いや、資産を受け継ぐなって言ってんじゃないわよ。保護者として、そのだらしない性格を直したいって考えるのは当然でしょ」


「いや待てよ……っ!! 俺はただ自分らしく生きたいと願い、その実現のために将来の具体的な計画を立てていたのにっ!! それをぶち壊されそうになってんだぞっ!? 涙のひとつくらい見せたって……っ!!」


「ものは言いようねぇ。"自分らしく"って言うのは、私みたいに逆境に立ち向かいながら生きていく人間だからこそ説得力が出る言葉なのよ。あんたみたいにグータラしてるだけの人見たって、涙なんていっこも出ないわよ。瞳カラッカラよ」


「うっせえっ!! つーか、お前の方こそ説得力ゼロだよっ!! 里のエルフ達は妥当な判断してるよっ!! ぶっちゃけ、お前がチェーンソー振るう姿見たらドン引きするわっ!! ドン引きしたわっ!!」


「な……何ですってぇっ!? チェーンソーでぶった切る快感を知りもしないでよくも言えたものねぇっ!!」


「あんま知りたくねえよっ!! まじめな林業従事者に謝れっ!!」


「しかもさっきのカクカクシカジカによると、ノルがファイアボールしか使わないのって、単に"それ以外の魔術覚えられなかった"ってだけじゃないのっ!! 全っ然、こだわり無関係じゃないのっ!! よっくも騙してくれたわねぇっ!!」


「知るかバカッ!! お前が勝手に早合点しただけじゃねーかっ!!」


「んじゃ何ですぐ訂正しなかったのよっ!!」


「何となく圧感じてたのと、黙ってりゃうまくごまかせるかなー、って思ったからですっ!!」


「それを騙したって言うのよバカ――ッ!!」


「お前こそバカだよっ!! バーカバーカッ!!」


「バカって言った方がバカなのよっ!! バーカバーカッ!!」


「バーカバーカバーカッ!!」


 俺とエストによる、一歩も引けない戦いが始まらんとしたその時――


「――シッ。静かに」


 にわかにエストの表情が引き締まる。その場でかがんで、地面に耳を当てる。


「……これは……獣が走る音? 森の方だわ」


 俺は草原の向こう、数百メートルほど先にある森へ視線を向ける。


 木々がざわめき、鳥達が一斉に飛び立つのが見えた。


 何かが出て来る。


 エストが立ち上がりチェーンソーを構える。俺も杖を握りしめ事態に備える。


 その直後、森の中から大型の四足獣が飛び出して来た。遠目からかなり興奮している様子がうかがえるその獣は――


「――ウソでしょっ!? あれ"ジャイアントボア"じゃないっ!!」


 巨大な獣の姿に、エストが驚愕の声を上げた。

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