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03 その後(3)

 人々から隔離された屋敷での休憩の後、懐かしい我が家に帰るまでの道は、快適なものになった。


 バーナード様が用意してくれた仰々しい馬車と騎士達は、見た目はともかく乗り心地も良く、思っていた以上の働きをしてくれた。


 面倒な人達に煩わされる事も無く、体調も良くなれば、ザィード様の眉間のシワも自然に無くなってくる。


 気になったのは、途中、イリノアの街で友人に会えると思っていたら、今は無理だとザィード様に言われた事くらい。


 それにウエストリアの部屋に戻ると、ここが一番落ち着くのも本当で、ゆっくり眠れば体調が悪かった事も忘れてしまいそうになる。


「何しに来た」

「ひどいなぁ、僕は彼女の仕事のパートナーだよ」


「仕事?」

「そう」


 赤毛の男が、ニコニコしながら屋敷の入口に立っている。


「僕は、ウエストリアの布やお茶をミリオネアで売っているんだ。彼女にとって大切なパートナーだからね、覚えておいて欲しいなぁ」


「仕事のだろう」

「まぁね。もちろん、人生のパートナーでも構わないけどね」


「帰れ」

「そんな事を言ってもいいのかなぁ、彼女が困ると思うなぁ」


 ニコニコと笑っている顔を見ていると、本気で追い返したくなる。

 呼び鈴がなって見に行った自分が戻ってこないので、リディアが様子を見に来る。


「ザイード様、お客様ですか?」

「そのようだ」


「まぁ、アレス様。早かったのですね、到着は明後日になると思っていました」

「少しでも早くお会いしたかったので」


 アレス様が手を取ったかと思うと、手の甲に唇をふれる。

 この人は相変わらずだ。

 彼とは王都で会った時に話はしているので、彼をわざと困らせているのだと分かっている。


 ザイード様が隣で本当に嫌な顔をしているし、それを見て、アレス様が逆に嬉しそうな顔をしている。


 父にしても、アレス様にしても、彼と友人になりたいのなら、そう言葉にすればよいのにと思う。


 人との間で、一番怖いのは無関心であることだ。

 自分の存在を見てもらえない、感じてもらえない事は恐ろしいが、こうして彼を困らせているのは、彼に関心があるからで、本人は歓迎していなくても良いことだと思う。


 元々彼は、とても穏やかな真面目な人で、探求心も強く、人に教えを受けたり、物事を指摘されても強く反応する事はないが、番に対しては、とてもわかり易く反応する。


「アレス様、あまり彼を困らせないで下さいね」

「私の事など、微塵も考えた事がないと教えていないのですか?」


「私がどう思っているかではなく、彼がどう感じているかでしょう?」

「なるほどね」


「ですから、あまり困らせないで下さい」

「喧嘩にでもなりますか?」


「ふふっ、どうかしら?」

「なんだ、つまらないなぁ」

「それより、状況を教えて下さいな」


 アレス様から、ミリオネアでの布の売上やお茶の流通の状況。

 改善点や商品の見直し、こちらが用意したフレの糸や布の見本を見せて話を続ける。


 こうした時、仕事の相手が異性であっても彼は絶対に邪魔をしない。

 これが私にとって大切な事だと知っているし、必要な事だとも分かっている。


 仕事場に自分がいても仕方ないと分かると、屋敷の内外で使用人達を手伝ってみたり、畑の方まで出かけて行く事さえある。


 それが一旦仕事を離れると、途端に変わって、片時も離れようとしない。

 それなのに、食事を一緒に取ることを嫌って、自室で済ませようとする。


 元々、晩餐でもなければ、自分たちも私室で済ますけれど、一人である必要もない。


「ザイード様、ガルスでは一人で食事をするものなのですか?」

「いや、そうではない。番のいない者は食事場で、番のいる者は部屋で食事をする」

 

「部屋で、別々に?」

「、、、いや」


 妙に言葉を濁す。

 ガルスについては、知らない事が多い。


 知っている事と言えば、

 国土のほとんどが山と深い森で覆われていて、獣人と人が暮らしている事。

 その深い森の奥で、魔鉱石を産出している事。


 それに獣人の食事には意味がある事。


「ザイード様、ちゃんと教えて下さい」

「私達にとって食事に意味があると話した事があるだろう?」

「はい」


「ガルスには、エルメニアの様に寝室と居間との区別がない」

「どうしてですか?」

「寒いからな」


 確かに部屋を二つ暖めるより、その方が効率もいい。


「では、食事をするのも、眠るのも同じ部屋で?」

「そうだな、夜の食事をした相手とは、そのまま朝まで共に過ごす、わざわざ別の部屋で食べる必要はない」


「まぁ」


 いけない、相変わらず私は同じ間違いばかりしているみたい。


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