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07 王都にて(ザイード)

 魔鉱石はガルス王国の主要産業で、貴重な資源だった。


 王都にある魔鉱石を扱うこの店は、王国直営の店のため必ず顔をだす。

 店主と話をしていると、忘れられない金髪の少女が店に入って来るのが目にはいる。


 少し年上の女性と従者を連れた彼女から視線が外せなくなっていると、あちらも気が付いて軽く会釈をする。


 園遊会では上手く感情をコントロール出来ず、怖がらせた事には気が付いていた。

 あれからいくつか社交の場に出かけてみたが、彼女を見かける事はなかったので諦めかけていた所の再会なので、殊更気を付けて話かける。


「何かお探しですか?」


 自分の叔父の為の買い物と聞けたので、「では、石の説明をしましょう」と話を続ける。


 先日は近づき過ぎたため、魔道具を発動させてしまっている。

 距離を間違わないよう少し離れる。


 こちらが距離を取って話している事を確認すると、従者は離れた所で待ち、彼女は連れの女性とまるで友人の様に話しながら石を選ぶ。


 その様子は普段の生活を想像させ心ひかれたし、石の説明を聞いては、その度にコロコロと表情が変わるのも可愛らしい。


 フードの中から零れ落ちる淡い金髪は美しく、活き活きとした緑の瞳からは目が離せなくなる。


 従者とも気安く話しているのを聞きびっくりもしたが、彼女がフェイに対しても同じように接していた事に納得もする。


「まだ王都の社交界も始まったばかりなのに、帰る準備をされているのですか?」と気になった事を聞いてみる。


「ウエストリアの秋はとても忙しいのです。

 収穫を手伝ったり、お祭りの準備をしたり、他の所から商人の方々も沢山来てくださって、にぎやかにもなりますし。父がいない分、私でも出来る事がありますから」と楽しそうに答える。


「では、もう領地の方に戻られるのですか?」

「はい、そろそろ戻る事になるかと思います。私は夜の社交場に出かけられる年齢でもありませんし」


 確かに秋の社交シーズンは、夜の舞踏会などが多い。

 16歳に満たない女性は参加する事はあまりないが、もう少し時間があるとも思っていた。


「屋敷の方にお届けします。」


 彼女が気に入った魔鉱石を見付けたので、そう告げる。


 小さな石をわざわざ届けると言うもの変な話だが、あまり手段を選んでもいられない。

 彼女の方が届けて貰うのは、と恐縮していたが、辺境伯に話がしたいと理由をつけると納得してくれる。


 なんとか彼女の父親に会う算段を付けて、彼女を店から送り出す。


 店主にもびっくりした顔をされたが、なにも言わず彼女が買った魔鉱石をポケットに入れて帰る事にする。


 明日、自分は彼女の父親に会って、何と言って話をするつもりなのだろう。


 彼女はおそらく来年の春、この国の王子と婚約する事になる。

 この国で婚約するという事は、自分達が番になるのとほとんど同じ意味を持つ。


 出生率の低いこの国では、婚約中に子どもが出来て結婚するという場合が多い。

 逆に子どもが出来なければ、婚約を解消して別の相手を探す。


 自分が人族を番に望むとは思ってもみなかったが、彼女が他人のものになると考えただけで、腸が千切れそうに苦しくなるのでは疑いようもない。


 出来れば彼女を他人にふれさせたく無い。

 自分の腕の中に入れ、守り、愛しんでいたい。


 しかしあの辺境伯が、簡単に自分を認めてくれるとも思わない。

 おまけに婚約に関しては、おそらく彼女も納得している。


 彼女は園遊会の後、王都での社交に出席していない。

 数日後に領地に戻るという事は、王都にいる必要がない事を知っているからに違いない。


 だがこの婚約に感情が伴っているとも思えない。

 自分の希望かも知れないが、園遊会で会った相手に恋をしている様には見えなかった。

 

 おそらく婚約や結婚を義務のように受け入れていても、それに伴った感情を知らない。

 彼女は、婚約者にも自分にも全く興味を持っていないのだ。



 翌日、ウエストリアの屋敷を訪ねる。

 訪問は伝えてあったので、書斎らしき所に案内されると、面白そうに西方辺境伯が聞いて来る。


「さて、何の話かな?」


 外交や交易の話は、大使と既に話し合いはできている。

 自分が個人的にやって来た意味など判っているだろうに、この男は本当に食えない。


「ウエストリアに伺う事をお許し頂きたいのです」

「ほう?」


「王都に来て、イーストリアや北の方には行きました。

 ウエストリア地方には伺った事もなく、先日、お嬢様から領地の話を伺いこの目でみたくなりました。お許し頂けるのであれば、伯がお戻りになる時同行させて頂きたい」


 変に取り繕っても仕方ないので、そのまま伝える。


「ふ~ん」


 気のない返事をしていたかと思うと、辺境伯がこちらを真っすぐ向いて答える。


「殿下、来年の秋においで」


「来年、、、一年待てと」


「そう、今年は私も戻るのが遅くなる。 

 さすがにガルスの王子を自分の留守中に招く事は出来ないからね。来年なら歓迎しよう」


 彼女は来年の春、婚約が発表される。

 待てという事は、婚約は既に決まっていて、今はダメだという意味だろうが、一年後であれば許すと言われたのであれば、それを待つしかない。


「では、その時を楽しみにしています」


 了承した旨を伝えると、この意地悪な男は、よろしいと言うように、にっこり笑うと続ける。


「今日は、リディアの買い物を届けてくれたのだったね。会って行くかい?」


 もう一度と思う気持ちはあったが、先程一年待てと言われたばかりなので、「いえ、これで失礼します」と屋敷を辞する事にする。


 少なくとも道は繋がった。

 彼は自分に許可を出した意味も判っているはずだ。

 ならばその時まで待つしかない。


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