12 ウルフレッド
「結局、どうやって入り込んだんだ。ロクサーヌ嬢は、薬を飲ませただけだと言っているのだろう?」
「そうだね。眠ってしまうだけだと思っていた。と言っていたね」
「なら、どうやって」
「貴族院の令状を使って王宮に入り込んだようだね」
「あの特使かよ」
貴族院の令状は、基本的に本人に直接渡すとされている。
その為に、特使と呼ばれる人は証文が無くてもあらゆる所に行く事が出来る。
しかし、その分貴族院の特使になれる者は厳しい審査が必要になるはずだった。
「貴族院って、まさかヘイズなのか?」
「よく分かったね」
「冗談だろう?」
「僕も流石にね。息子をマクシミリアン家の領地に戻した時、ヘイズも領地に戻っていたしね。
今更、彼のためにならない事をするとは思わなかったよ」
「息子はどうするつもりだ」
「難しいね。彼に罪は無いが、周りが納得しないだろう」
自分がまるで私怨のようにゾルド教の排除に動いているが、それを国の王が知らないはずがない。
かつて、父王を退位させ、弟を幽閉する原因となったゾルド教をタリム王は許していない。
そのゾルド教に手を貸したとなると、息子はまず貴族社会に戻ることが出来ない。
「今は、謹慎させているよ。まぁ、あれは腕が立つからね」
「ファーレンの元に行かせたのはお前だろう」
「そんな事もあったね」
「あの半人は?」
「彼は巻き込まれただけだ。 魔力を持たない彼は、元々古都で荷運びなどをしていたみたいだね。
真面目で大人しく、安価で使うことが出来ると便利に使われていたようだよ」
怪我をしていたので緑樹院に頼んでいた彼は、事情を知らないため姿を隠してしまって、何処にいるか分からなくなっている。
「だが、彼のおかげでリディアを見つけることが出来た」
「リディアはどうしている」
「今は、ロニが側にいるよ。体の中に残っている毒を外に出さなくてはならないからね。私達には会いたく無いだろう」
「大丈夫なんだな?」
「うん、彼が離れているからね」
「そうか」
「それで、逃げた使徒達はどうなっている?」
「教祖がいなくなったからな、薬が抜けそうな奴は隔離してるよ。しかし、殆どが籍無しだぞ、どうするつもりだ」
「どうするかな。まぁ、何か考えるさ」
飄々として、いつも何を考えているか分からない男だが、最愛の娘を失いかけたことで、珍しく疲れた様子を見せている。
この男は、王室との話や、ガルスの獣人の問題から、ゾルド教の使徒まで、全てをひとりでなんとかしようとしている。
「寝ているのか?」
「愛する妻と離されて、娘の顔も見られない状態ではね」
偶然、公爵邸にいたメリッサは、そのままフレリア様に頼んである。
メリッサが急に屋敷に戻ったりすれば、何かあったのかと要らぬ推測をされるし、何よりあんなリディアに会わせる訳にはいかなかった。
今では殆ど魔力も残っていないが、癒しの使い手であった妻が、命を削ってでも娘を助けようとするのは目に見えている。
「全く、仕方のない奴だな」
「だが、お前が居てくれて良かったよ、流石に疲れた」
「で、何をすればいい」
「街の噂を誘導して欲しい」
「獣人のことか」
「僕とガルスが近づく事を嫌がっている奴らがいるからね、今は動きたくない」
「なる程ね、それなら早い方がいいな」
「頼んだよ」
「任せておけ、、、ウル、少し食べて寝ろよ。そんな顔をしていると、リディアに怒られるぞ」
「判っているよ」
これでガルスの方はどうにかなるだろう。
獣の姿で王都の中を移動しているが、怪我人が出た訳でもない。
『人を助けるためだった』、『頼まれて獣の姿になった』など曖昧な情報を上手く流して、彼らの意志では無かったのに、それさえも罪に問うのは正しいのか?
そう言った風潮を作ればいい、それをあえて問題にするような、狭量な貴族と呼ばれたい者はいないだろう。
「フランツ、リディアは?」
「カリナ様が来てくださってから、少し召しあがれるようになっていらっしゃいます」
「そうか」
「比較的落ち着いていらっしゃいますので、顔を見に行かれても大丈夫かと思いますが、、、」
「ん?」
「その様な状態では、お嬢様に叱られますよ」
「判ったよ、何か食べるものを持って来てくれ。ちゃんと食べるし、眠るようにするさ」
フランツの口調からリディアの様子が推測出来る。
これだけ声色が落ち着いているなら、安心して良いと言うことだ。




