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06 王都にて(リディア)

 侍女のロニと一緒に王都の中心地に出かける。

 この辺りは、王都の中でも古都と呼ばれる古くからの街並みになっている。


 王都と言え女性二人で出かける事も出来ず、ジャルドが一緒に付いてくる。


 父との話で来年の春以降は、王都に来ないのは解っている。

 春の社交界で婚約が発表されれば、おそらく自由に動けなくなるだろう。


 古都を歩いてアルフレッドへのお土産を探す。


「あら、魔鉱石のお店だわ。レオンおじ様のお土産に何かあるかしら?」


 ジャルドに店に入っても良いか確認し、中にはいると、先日の園遊会で見かけた銀色の髪が目に入る。


 相手もこちらに気が付いたようで、近づきながら話しかけてくる。


「先日は、フェイがお世話になりました。」


 この前は怒っているみたいでなんだか怖かったけど、今日は笑っていて怖くない。

 フェイが世話になったと申し訳なさそうに話す。


「では、魔道具作りを趣味にしている叔父に魔鉱石を選んで貰えますか?」

「喜んで」


 石を選んでくれる様にお願いすると、ザイード様がにっこり笑って答えてくれる。

 獣人である殿下は体が大きいので、迫力があるが、石の説明をする時もちゃんと距離をとってくれる。

 なによりジャルドが少し離れた所にいるので、安心して良いという事だ。


 お店の中は広かった。

 色や形・大きさの違う石が、整然と並べられていて美しかった。


 自分には魔力がないので、魔鉱石をみてもさっぱり判らない。

 何も知らない小娘に殿下はいやな顔一つせず説明してくれるが、あまりに申し訳ないのでジャルドに声をかける。


「ジャルド、少し選ぶのを手伝って欲しいわ」

「俺は、良く判んないっすよ。道具は専門外なんすから」

「時々、叔父様の所に行っているでしょ?」


「じゃぁ、その手に持っている石とかいいんじゃないすか?」

「これ?」

「そおっす、お嬢の瞳の色と同じだし、気に入ってくれると思いますよ」

「そこなの?」


 どうしようか迷っていると、教えてくれる。


「石は、良いものですよ。大きさは無いが、何にでも使える魔道具向きの石です」

「では、この石を頂きます。」


 ロニがお会計のために離れたので、その場で待っていると、殿下から申し出がある。


「明日、石を屋敷の方にお届けします」

「いえ、そんなお手数をお掛けする訳には、、、」


 別に荷物になるような物でのないので、なぜかと思っていると、


「ウエストリア伯にお願いしたい事もあり、屋敷の方に伺いたいと思っていました。手間のかかる事でもありませんので、お気になさらず」


 何か父に仕事の話があるのだと理解し店を後にする。


 先程の対応は、お父様のおかげなのね。とちょっと残念に思う。


 それでもウキウキした気分は続いていた。

 私に石の説明をしてくれる時は、楽しそうだったし、ジャルドとの言い合いは、驚いているように見えた。

 明日、屋敷に来るなら、また会う事もあるだろうし、、、など考える。


 通りに出れば見た事のない物は沢山あるし、屋敷のみんなへのお土産もまだ買い終わっていない。


『アルには何がいいかしら?』と、今日の目的を思い出す。



「あら、こんな所でお会いするとは思いませんでしたわ」


 色とりどりのリボンが並ぶお店で声を掛けられる。

 嫌な人に会ったなぁ、と思うものの顔には出さず「こんにちは、ロクサーヌ様」と答える。


 ロクサーヌ・ファルコーネは、カシム王子の婚約者候補の一人だ。

 園遊会でも何かと突っかかってくるので、逃げた先でフェイに会う事になった。


「まだ王都におられるとは思いませんでしたわ、辺境の方はそちらの方がお似合いだと聞きますし、何が欲しくてこちらに残っていらっしゃるのかしら」

 

「私は、父の言葉に従っているだけです」

「15歳にもなって、、、父親の言いなりだなんて情けないですわね。さすが辺境の地で育った方は違うわね。王都には合ってないのではないかしら?」と嫌味が続く。


 彼女が自分を嫌う理由は理解できるが、言われっぱなしも腹が立つ、とは言え、こんな街中で噂を広げるような事もしたくない。


 上手く切り抜ける方法が無いかと考えていると、近くにいたジャルドが先に切れる。


「失礼ですが、今のお言葉は、お嬢様がウエストリア辺境伯の娘と承知した上での発言ですか? 我が主が大切にされている方への言葉であるなら、聞き捨てなりません。」


「失礼な。私はファルコーネ家の者ですよ。従者ごときが、、、」


 反論しようとするが、ジャルドが引く様子も見せず、周りに人も集まって来たのでそのまま振り返って離れていく。


 店での買い物を諦めて、通りを歩きながらジャルドと話す。


「めずらしいわね」

「お嬢が何も言わないからっすよ。そっちの方がめずらしいっしょ」

「色々あるのよ」

「あれ? 俺、まずいことしたっすか?」とちょっと心配そうな顔になる。


「大丈夫。それより大切な方ねぇ、いいこと聞いたわね」

「いや、違うっすよ。だんな様が大切にしている方って言ったんすよ」

「あら? そうだった?」


「ロニには内緒よ」と一応念を押しておく。

「俺だってロニさんに怒られたく無いっすね」


人混みに酔って馬車で休んでいたロニの所に戻り、今日は帰る事にする。


「嫌だわ、王都に来てから自分を嫌う人ばかり増えている気がするわ」

「他にもいるんすか?」

「本人よ」

「カシム王子っすか? 何したんすか、嫌われる程会ってないっすよね?」


「何もしていないわよ、、、たぶん」

「王子様に嫌われているなんて、お嬢様の気のせいではないのですか?」

「園遊会で私が挨拶した時の顔を見せてあげたいわ」


「まぁ確かに、ロクサーヌ嬢が王子の好みなら、お嬢はちょっと違ってすかね」と体のラインが違う事を表す。


「殴るわよ」


「そういう乱暴な言葉も使わないっすよ」と言って、馬車の扉を閉め、自分は御者台の方に座る。


「ロクサーヌ嬢にも、お会いになったのですか?」

「ええ、ちょっとね。確か、カシム王子とロクサーヌ様は、幼馴染みでもあるのよね」


「そう聞いております。幼い頃から仲が良かったため、婚約者候補になられたと」


「私もそう聞いたわ。だったらひょっこり出て来た辺境の娘など、気にすること無いと思うのだけど」


「だからではありませんか?」

「どういう事?」

「ずっと自分だけの人だったのに、他の人と共有する事になって、受け入れられないのでは無いですか?」


「王子の婚約者なのに?

 私が婚約者にならなくても、必ず三人の相手が選ばれるわ。カシム王子だけ一人の后妃になる事などないと思うけど」


「分かっていてもどうしようもないのでしょう。

 恋をしていればそういうものですよ、理屈で解決できるものではありません。お嬢様も人を好きになれば判りますよ」


「そうかしら?」

「そうですよ。少なくとも王子様との婚約話を、お仕事の一つのように話したりする事は、出来ないと思いますよ」


「恋をするほど彼の事を知らないもの」

「王宮に行って、これから知る事は出来ますよ」


「止めておくわ、すでに決定事項だもの。せっかく自由に王都を動けるのだから、今の間に色々行っておきたいわ」





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