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03 園遊会(1)

 王都に来て二週間。


 フレリア様の所に行った以外は、ひたすら礼儀作法を教え込まれる。

 王都の事、王室の事、貴族たちについて学び、空いた時間は、園遊会のドレスや宝石の用意をする。


 そろそろ限界に近づいた頃、やっと園遊会当日がやって来た。


 そこは美しかった。

 ウエストリアとは違い造形された庭園は、人工的なものだったが、それさえも美しいと思える場所だった。


 おまけにこの園遊会には、王都に滞在中の貴族の子息や令嬢達が集まっているように見える。

 忘れてしまいそうだったが、自分が王都に来た本来の目的を思い出す。


 庭園に入ると視線を感じてそちらに目を向けると、菫色の瞳が自分を見つめている。

 銀色の髪を後ろで一つに結んでいる所を見ると、ガルス国の獣人だろう。


 ウエストリアでは、獣人を見る事はないので知り合いではない。

 それに、あんなに印象的な人を忘れるはずもない。


 『誰だろう?』と考えるが、一旦、意識を目前の人に戻す。

 この園遊会の主催者であり、この国の第一王子との初顔合わせは無難に終わらせてしまいたい。


「初めまして、リディア・フォン・ウエストリアと申します」


 両親に続き名乗って、正式に礼をすればここでの私の役割は終了だ。


 ここでも相変わらず、「母に似ている」、「先が楽しみ」など余り嬉しくない賛辞を貰った後、少し離れると周りの声が聞こえてくる。


 今まで社交界に全く姿を見せなかったウエストリア辺境伯の娘が、わざわざこの園遊会に来た意味を推測しているらしい。


 自分がこの歳で社交界にデビューする事になったのは、数年前までほとんどを森で過ごしていた為、社交界に出るには礼儀作法が不足していたからであり、また、この園遊会をデビュー場所に選んだのは、手っ取り早く多くの人に自分の顔を覚えて貰えるからで、特別な理由が存在しているとは思えない。


 父が一番効率の良い方法を選んだだけで、それ以外の意味を考えても仕方が無いと思うが、周りにいる貴族達は、どうやら他も意味を考えているらしい。


 またその噂を聞いていると、どうやら私が予想しなかった意図を父が持っていた様子も窺え、それもあながち間違ってもいないようなので、社交界の噂話も馬鹿に出来ない。


 その後、何人もの人に紹介され、同じ様に挨拶を返す。

 だが父の意図が解った以上、ここで自分を知って貰っても意味がない。


 先程自分を見つめていた菫色の瞳の主が、ガルス国の王子と知り、初めて会った獣人族に興味も引かれるが、明らかに視線を外されてしまえば、こちらも無難に礼を返すしかない。


 多くの憶測を含んだ噂の種になるのに疲れて園遊会の中心から外れるように歩く、いつも側にいてくれる弟がいない事を寂しく感じるし、今日は気の合う友人もどうやら出席していない。


 アルフレッドの言う通り、来年一緒に来ても良かったのではないかと考えながら庭園を歩いていると、大きな音が聞こえる。


 弟より少し幼いくらいの男の子が転んだのか、膝から血を流しているのが目に入る。


「どうしたの?」

「何でもありません。ちょっと転んでしまっただけで、、、」

「随分思いっきり転んだのね、膝が大変な事になっているわ、ちょっとこっちに来てちょうだい」


 黒っぽい髪を後ろで結んでいるのを見ると、獣人族の子どもだろう。


「いえ、大丈夫です」と、どこかに行こうとするので、弟にするように手を握って連れて行くと、近くの噴水の淵に座らせる。


 服の汚れを払い、噴水の水で膝を洗い、持っていたハンカチを膝に巻こうとすると、

「いけません、そんな綺麗なもの」とびっくりしている。


 気にする事は無いと答え、簡単に手当てをすると、


「すみません、こんな事」

「なぜ?」

「僕は、半人だから、、、本当はこんな所に来てはいけないのに」とずっと下を向いて話している。


 懐かしい。

 下を向いている様子は、拗ねている弟にそっくりだし、ふわふわとした黒髪は、なじみのある色だ。


 弟にする様にキュッと耳を引っ張る。


「イタッ」とびっくりして顔を上にあげるので、

「はじめまして、私はリディアよ」と右手を差し出す。


 しばらく戸惑うようにしていたが、差し出された手を無視できず、


「えっと、僕はフェイです」と言ってくれたので、彼の右手を握って挨拶する。


「これでフェイは、私のお友達だわ、よろしくね」


「友達だなんて、ダメです、そんな事を言っては」


「なぜ? フェイは、私の事が嫌い? 友達になるのはダメなのかしら?」

「いえ、そうではなく」


「嫌ではない?」

「嫌だなんて」


「良かった。王都には初めて来たの、弟もお友達もいなくて、、、とっても寂しかったの」

「弟?」

「ええ、フェイより少し年上かしら? ちょっと思い出すわ」


 そう言って柔らかい黒髪を撫ぜていると、(とが)めるような声が聞こえる。


「何をしている!」


 振りかえると先程紹介された菫色の瞳が、怒った様に自分を睨んでいる。


 獣人には独特のルールがある。フランツにも言われていた事を思い出し、


「申し訳ありません、殿下。

 たいした事ではないのです。少し怪我をされたみたいだったので、、、失礼を致しました」


「いや、咎めた訳では、、、すまない。その、怖がらせてしまっただろうか?」


 声に驚いてこちらが恐縮してしまった為か、大きな体をかがめて、困っている様子を見るとなんだか可笑しくなってしまう。


「いいえ」と答えると、安心したような顔をする。


 安心してしばらく話していると、また菫色の瞳が曇って見えるので、理由をつけてここを離れる。

 フェイとはもう少し話して居たかったけれど、彼が側にいてはそれも難しい。


 何を考えているか判りづらい貴族たちに比べると、気持ちがよく見えて自分には付き合いやすいが、どうやら私は嫌われているらしい。


 人族のためか、私自身のせいか。

 出来れば私自身で無い事が望ましいけれど、獣人族の事はよく判らない。


「社交界への顔見せの日に、どうしてこうなるのかしら?」


 既に自分を嫌っている人がいるのに、出来ればこれ以上嫌われたくはない。

 リディアとしては、このまま園遊会が、何事もなく終わる事を願うしかない。


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