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02 アルフレッド

 アルフレッドは、不安だった。

 初めて会った時からほとんどの時を一緒に過ごした。

 遊ぶ時も寝る時も、いたずらをして怒られる時も、自分を救ってくれたあの日から離れた事はない。

 そして、出来るならこのままずっと離れるつもりもない。


 この国では、異母姉弟の結婚が認められている。

 少なくなったとは言え、認められているのであれば何の問題もない。

 彼女がずっとこの家にいてくれれば、自分を弟以上に見てくれる時もあるかもしれない。

 例え弟としか思われていなくても、側にいられるのであればそれだけで良かった。


『ずっと僕が守る、そのためなら何でもする』あの時から自分の心は決まっていた。


 アルフレッドは人の感情に敏感だった。

 記憶にある限り、最初に感じたのは、冷たい感情だった。

 辛い、苦しい、というような人の感情。

 自分を見つめている茶色の瞳からそんな気持ちが流れ出していた。


それから、恐れるような瞳や、ねっとりと絡みつくような気持の悪い瞳、そして、困惑したような緋色の瞳。


 自分を見つめるいくつもの瞳から感じる人の感情にアルフレッドはいつも傷つけられていた。


 それらを感じる度、泣き叫び、癇癪を起こして、自分も周りを傷つけた。

 自分が深く黒い何かに落ちていくようで、冷たくて辛くて目を開く事も出来なかった時、ふっと暖かいものに触れる事ができた。


 柔らかく暖かい緑色の瞳、自分をやさしく包む感情。


 その暖かいものに触れた時から全てが変わっていった。

 辛く、苦しいものや、気持ちの悪いものはなくなり、まわりにあった自分をおそれる瞳が困惑し、安心し、穏やかなものになり、緋色の瞳が暖かくなっていった。


 その緑色の瞳は自分の側に度々やって来て、自分の周りをにぎやかにし、自分の周りを暖かくしてくれた。


 その瞳の持ち主と共に育った。

 三つ年上の彼女は、自分の教師であり、共に学ぶ生徒でもあった。


 必要な事は共に学び、不必要な事をするときは、彼女に従った。

 どんな時でも一緒にいたのに、一カ月以上も離れるなんて考えられなかった。


「姉さま、これを絶対外さないでね。何かあったら心配だから」とリングを外さないよう頼んでおく。

「大丈夫よ、ジャルドだっているし。あなたこそ私がいない時に無理をしてはだめよ?」


 彼女は、自分の事より、弟の事を心配する。


 姉は、リングの本当の使い方を知らない。


 リングには、姉に好意を持って近づく人を排するような力があるが、彼女は、魔力を溜め込む便利な魔道具だと思っている。


 父達が、自分より弱い者が娘に近づくことすら許さなかった為、今まで姉の所には縁談話が全く来なかった。

 ウエストリアで最強の魔力を持つ彼らに喧嘩を売るような無謀な人間はいない。


 そんな事情を知らない彼女は、自分の事を外見も中身も一般的な普通の人だと思っている。

 それ故に15歳になった今でも男性からのアプローチも、貴族からの婚約の申し込みも無かったのだと。


 陽の光で輝く淡い金髪も、好奇心旺盛でいつも楽しそうに輝いている緑色の瞳も、魅力的なものだとは思っていないし、自分に好意を持ってくれる人がいるとは全く思っていない。


 もちろん自分も姉に近づく者は、排除してきたし、そういった事柄から意図して遠ざけて来た。


 王都に行っても、害意を持つ者に関しては、ジャルドがいてくれれば姉に危害は及ばないだろうが、今まで自分がしたようには出来ない。


 彼女に気が付く者が現れたらどうすればいいのだろう。

 姉が惹かれ、姉を大切にしてくれる人であればいい。


 彼女が幸せになるのであれば、それでもかまわないが、彼女の地位や美しさだけを欲するような者に、姉を渡す事など出来ない。


 やっぱり王都に行かすべきでは無いのではないだろうか。

 自分が側にいない間に彼女がどんな人達と知り合うのか心配でならない。


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