61:銀髪ツインテールロリとセーラー服
今日ボクは朝から起きて、シャワーを浴びて、学校の制服に着替えてみた。
「これからボクは毎日この服を着て学校に通うのか」
この白銀色の長いツインテールは今まで通りだから慣れたけど、この服は初めてだ。白いブラウスと赤いリボン。こういうのはここで『セーラー服』と呼ぶそうだ。膝まで長い藍色のチェック柄のスカートと、靴下とローファー。これは日本の学校の制服? なんか可愛い。こんな服は本当にボクなんかに似合うのかな?
「イヨヒお姉ちゃん、似合ってるよ! 可愛い!」
着替えた後のボクの姿を見て緻羽ちゃんは絶賛した。こんな風に女の子にジロジロ見てニコニコ笑われると、なんかちょっと恥ずかしい。
ちなみに、今ボクはまだ緻羽ちゃんと一緒の部屋だ。でもこれはこの土日までのことだ。ようやく新しい寝室の準備が完成して一人寝ることになる。
「緻羽ちゃんの格好も可愛いよ」
高校と違って、ここの小学校は制服がないみたい。緻羽ちゃんの格好は白いシャツと赤いスカート。とにかく幼女らしく可愛い。
「イヨヒくん、緻羽、どう?」
チオリもこの寝室に入ってきた。ボクと同じ学校制服を着ている。
「うん、やっぱり似合ってるよ。こんなセーラー服姿のイヨヒくん」
「そう? チオリこそ、その格好は……」
「え? そんな珍しいものを見ているような目は何? イヨヒくんと同じ学校制服だけど」
「まあ、そうだけど、チオリのこんな格好はなんか見慣れていない」
「やっぱり、似合わないのかな? あたしらしくないよね?」
「いや、違う。でもチオリがスカートを着るのを今日始めて見たね」
あっちの世界の頃はいつも勇者服だった。ここに戻った後もズボンばからで、スカートやワンピース姿はまったく見たこと
ない。
「あたしだって好きで着てるわけじゃない。女子高校生だから仕方ないよ! 校則だからね」
「あ、そうか」
やっぱりその理由で着ているか。高校に制服があって本当によかった。そうでなければチオリのこんな可愛い格好を見ることはできなさそう。
まあ、別にこんなスカートではなくても、チオリは元々可愛いからどんな格好でも可愛いけどね。たとえいつものようなダサ……コホン、素朴なTシャツとジーパンを着てもだ。
「イヨヒくんこそ、やっぱり順応力は高いよね。今の様子、あまり違和感を感じない。少なくともあたしの読んでいた『TSもの』の展開とは少し違う」
「え? TS?」
この単語は、確かに一緒に東京の秋葉原に行ってきたあの日も一度チオリが言ったね。意味は訊き忘れたけど、どうやら「Tokyo Station(東京駅)」のことではないみたい。あ、もしかして「TenkouSei(転校生)」のこと? 今日からボクは転校生になるからね。
「いや、何でもない。とにかく、こんな可憐な銀髪ツインテールロリでセーラー服……。今のイヨヒくんを見たらなんか、その……、今まで男だった時のイヨヒくんの姿を想像できないくらい、可愛らしい女の子だね」
「うっ……」
そう言われてなんか『褒め殺し』って感じだ。でもやっぱり今のボクはすっかり女の子としての生活に慣れているね。
というか、チオリはボクが『子供の頃も女の子だった』という事実を忘れていない?
「チオリも似合っているよ。ボクよりも」
ボクのことはさておき。とにかくチオリの方は可愛い。やっぱりこれがいい。こんなチオリをこれから毎日見られるのか。
「イヨヒお姉ちゃん、姉ちゃんばかりじっと見てニコニコしている」
「……!」
つい見惚れてそのまま夢中になってしまったボクは、緻羽ちゃんのツッコミでやっと意識が戻ってきた。
「あ、姐ちゃんもさっきから顔赤くなってるね」
「ち、緻羽……!」
緻羽ちゃんはニヤニヤ笑いながらボクたちを揶揄っている。相変わらずだな。この転生幼女さんは……。
「とにかく、もうさっさと行こうよ。朝ご飯」
「うん」
チオリは先に部屋から出ていった。その後ボクと緻羽ちゃんももう少し支度してから部屋から出て食堂に行って合流する。
・―――――・ ※
「「「行ってきます」」」
「行ってらっしゃい」
朝ご飯を食べ終わった後、緻渚さんに挨拶して、チオリと一緒に家から出てきた。
「イヨヒくん、初登校、どう? 緊張している?」
「まあ」
「大丈夫。あたしがそばにいるからね」
「うん、チオリが一緒だからボクは心強いよ」
本当にチオリと一緒に学校に通える日が来るなんて夢みたいだ。
「でも、もし違うクラスだったら……、と思ったら……」
「あはは、そうか。クラスのことはまだわからないから不安だよね。あたしもそうだよ。一緒のクラスにいたいよね」
「もし違うクラスだったら? ボク一人でちゃんと友達作れるのかな? あまり自信がないかも」
ボクはそもそも人付き合いが苦手だ。チオリと出会っていろいろ自分を変えて大分よくなってきたけど、まだまだだと思う。
「その場合仕方ないよね。でも今のイヨヒくんならきっと大丈夫だよ」
「そうかな?」
「先週深昼と会った時も問題なかったじゃないか」
千里浜海岸に行ってきたあの日のことだね。
「あれは……、深昼はチオリみたいに親切に接してくれたから」
そうだよね。深昼はチオリと似て、優しくて気安く話しかけてきた。彼はこういう友達が多そうなタイプの人間だから、ボクも気楽に接することができたかも。でもここの人はこればかりではないはずだよね?
「とりあえず、ここの人に接し方はあたしが教えておいたし。しかも自己紹介の練習もしておいた。自信を持って」
そうだよね。せっかくいろいろチオリから教わったのだから、ここからボク自身も頑張らないとね。
「うん、本当にありがとう。わかった。たとえ違うクラスになっても大丈夫な気がしてきた」
「よかった。でもなんか今の台詞はちょっとフラグっぽい」
「フラグ?」
以前『死亡フラグ』という単語などはすでにチオリから教えてもらったけど、これはまた何か似ているもの? まだ何かの『フラグ』があるの?
「『違うクラスになる』フラグ……かな? いや、漫画やアニメの話だから気にしなくてもいいよ。多分……」
「そう?」
チオリは相変わらずわかりにくいこと言っているね。
・―――――・ ※
そしてやっと学校に着いた。
「じゃ、これで。また教室で会おうね」
ボクを事務室に連れてきて、その後チオリは先に自分の教室に向かっていった。
「うん、またね」
もし同じクラスだったらね。必ず同じクラスになるという確信があるの?
その後ボクは事務室で先生と話して、自分のこれからについて教えてもらった。
「じゃ、私のクラスの教室に連れていくね」
「はい、よろしくおねがいいたします」
ボクの入るクラスの担任先生である、30代くらいの優しそうな女性教師と一緒に歩いていく。教室へ……。
こうやってようやくボク……ううん、ワタシ、稲根夷世姫の学園生活が開幕するのだ……。




