53:転生幼女が一緒にお風呂に入りたいようだけど
夕飯の後、夕方ボクたちはホテルに入ってきた。ここは3人部屋。ベッドは3つ並んでいる。
「やっと休み。本当に疲れたねー」
「あたしたち結構歩き回ったからね」
「まあ、あっちの世界の旅と比べたら大分楽だけど」
「あはは、確かに比べ物にならないかもね」
「とにかく楽しかった。やっぱり東京ってすごい。本当にありがとうね、チオリ」
「イヨヒくんが喜んでくれたみたいだね。これはよかった」
ボクが満足しているところを見ると、チオリも嬉しいみたい。
「はー、気持ちいい。ベッド、柔らかい……」
緻羽ちゃんは部屋に入って来た途端すぐ一番扉に近いベッドに倒れた。
「チハネはもう先に寝る」
「ちょっと、緻羽、このベッドはイヨヒくんの。緻羽は真ん中のベッドに寝て」
「もう動きたくない」
「駄目! お風呂もまだだよね」
「明日でいいよ!」
緻羽ちゃんは子供らしく不満そうな顔をして泣きそうな声を出した。
「駄目だ。我儘言うな」
「チオリ、やっぱり緻羽ちゃんはまだ子供だから仕方ないよ。ボクたちと一緒にあそこまで歩いていたから、疲れ切ったみたいだね。休ませて」
中身はともかく、身体も精神も子供だからしょうがないね。前世は優秀な騎士で、体がよく鍛えられたから、本来ならこれくらい全然平気であるはずだけど、今の体はただのか弱い女の子だ。
そういえばこんな時あっちでなら浄化魔法を使えて便利だけど、今使えないから残念どうしようもないね。
「イヨヒくんは緻羽には甘すぎるよ。甘えさせすぎてこの子がグレてしまったらどうするの?」
「そこまでは……」
さっきのもんじゃ焼きの件もそうだが、チオリは緻羽ちゃんに厳しいよね。
それに対し、ボクはいつも緻羽ちゃんに遠慮している。中身は大人だからグレるという心配はないはずだと思ったけど、やっぱりもっと厳しくした方がいいかな?
でもそんなことより、今ボクがもっと心配しているのは……。
「ところでチオリ、ここのお風呂は家と同じなの?」
この3日間ずっと緻渚さんと一緒に無理矢理一緒にお風呂に入らせられていたから、ここのお風呂の使い方や体の洗い方は大体わかった。今夜こそ緻渚さんがいないからやっと一人で入ることになるね。
「あ、実はそこが問題かもね」
「え? どういうこと」
「実はこのホテルのお風呂は銭湯……つまりたくさんの人が一緒に入るお風呂だよ」
「はい? 人いっぱい一緒に……。入る時は……、全部人に見られるよね?」
なんか嫌な予感が……。
「まあ、そういうことになるね」
「それは困るよ!」
確かにボクは緻渚さんと一緒に入ったことがあるけど、あれは使い方の勉強のためだよね。それにあんなたくさんな人の前で裸? やっぱり抵抗感がある。落ち着いていられる自信がない。
「やっぱり、イヨヒくんにとってこういうのはきついよね」
「うん、その通りだよ。どうしよう?」
「それは……。えーと、そうだね。あはは……」
チオリもどうしたらいいかわからなくて苦笑いしている。
「困ったね。チオリだってボクと一緒に入るのが嫌だよね?」
「え? 嫌だなんて、そ、そんなこと……」
ボクにそう言われたらチオリは顔が赤くなって目を逸らした。そんな反応わかりやすすぎ。
「わかっているよ。別にチオリは無理しなくても」
「いや、無理ではない。やっぱり大丈夫。イヨヒくんが大丈夫ならあたしも……。うん、一緒に入ろうよ!」
気を遣われてしまったね。チオリは明らかに無理している。
「たとえチオリがよくてもボクはよくない」
「それってやっぱり、イヨヒくんはあたしと入るのが嫌?」
ボクにそう言われたらチオリはちょっと拗ねたような顔をした。今のボクの言い方だとまるでチオリを否定するみたいだ。ちゃんと説明しないとね。
「ち、違う。でもなんかね、今のこんな体をチオリに見せるのはやっぱり恥ずかしすぎる。ごめん」
「そ、そうか。そうだね」
先日だって、チオリではなく緻渚さんと一緒に入ることになるとなんか一安心って感じだ。チオリには悪いけど、やっぱり一番裸を見られたくないのはチオリだ。
とにかくこれではっきりした。つまり一緒に入りたくないって思っているのはお互い様だ。恨みっこ無し。
「イヨヒお姉ちゃん、じゃチハネと一緒に入って」
「え!?」
緻羽ちゃん、また突然とんでもないこと言ってボクを驚かせたね。
「チハネはイヨヒお姉ちゃんと一緒にお風呂に入りたい。お母さん独り占め狡い」
「いや、そう言われてもね」
大体この子もボクと同じく元男だよ? まさか抵抗感がないの? いや、まさか女の裸を好きなだけ見放題できて喜んでいるかも? これなんか最低ではない? そんなことないよね?
「イヨヒお姉ちゃん、なんで嫌そうな顔でチオネを見てるの?」
「いや、何でもないよ」
考えすぎて、顔に出たか。
「そうだよね。緻羽とイヨヒくん一緒でいいかも」
「え? チオリまで」
「しょうがないし。そもそも緻羽はまだ子供だから一人お風呂に入らせるわけにはいかないよね。イヨヒくんも緻羽となら問題ないはずだよね?」
「それは……」
それはどうかな。問題はね、あるとすればやっぱり緻羽ちゃんの中身のことだよね。あれ? でもそれなら男同士ってことになるのでは? いやいや、そもそも緻羽ちゃんはほとんどボクが女の子だと認識しているようだ。前世で会った時もボクがまだ女の子だった時だから。
しかも緻羽ちゃんの前世のことはまだチオリには言えない。ということは、ボクが今緻羽ちゃんと入るのが嫌だと言ったら、それは不自然だよね。
「でも結局チオリと一緒ってことになるね?」
「いや、2人で行って。あたしはその後」
そうか。それはよかったかも。チオリの代わりに、緻羽ちゃんと……。
「わかった。それでいいかもね」
「姉ちゃんも一緒で。3人でいいよ」
「いや、それは……」
「ね、3人でいいようね? イヨヒお姉ちゃん〜」
緻羽ちゃんがニヤニヤ笑いながら愛嬌のある声でボクに言った。この様子だとやっぱりわざとボクたちを揶揄っているね。この転生幼女!
「緻羽、我儘言うな」
「チハネはイヨヒお姉ちゃんと一緒に入りたい。姉ちゃんとも一緒に入りたい」
「そう言われてもね。困ったな……じゃ、こうしよう。あたしが先に緻羽と一緒に入って、先に出て、その後イヨヒくんは入ってね。こうやって緻羽はあたしともイヨヒくんとも一緒に入ることになるよね」
「あ、そうだよね。ボクもこれがいいと思う。うん、こうしよう」
ナイスアイデアだ。これで問題はひとまず解決かも。
「え〜。姉ちゃん、3人一緒でいいのに」
緻羽ちゃんはまだ文句を言っている。お願いだから、もういい加減にして。
「じゃ、決まりだね。さあ、緻羽、お風呂に入ろう」
「イヨヒお姉ちゃんも一緒で……」
「駄目! また我儘言ってイヨヒくんに迷惑かけてるよ」
「イヨヒお姉ちゃん、迷惑なの?」
「え? それは……」
緻羽は可哀想な顔でボクを見つめながら訊いている。そんな顔と声で、ボクはつい迷ってしまったけど……。
「うん、まあ。やっぱりボクもちょっと迷惑……かな」
「へぇ~」
ボクにそう言われて緻羽は拗ねた。ごめんね。今は心を鬼にしないと。大体ボクがチオリと一緒に入らない理由は緻羽ちゃんもわかっているはずだよ。
「……わかった」
緻羽ちゃん、やっと譲歩したね。それでいい。チオリのおかげで助かったよ。
「じゃ、あたしと緻羽は先に入ってくるね」
「うん」
その後やっとチオリと緻羽ちゃんが一緒にお風呂に入って、ボクしばらく一人で部屋に残る。
それはいいけど、結局その後ボクは緻羽ちゃんと一緒にお風呂に入ることになった? まあ、今更もうそれでいいか。
なんか今ボク、またこの転生幼女に振り回されて疲れた! 後でお風呂の時にちゃんとお仕置きとかしておいた方がいいかも?




