47:いとになぐさと
ボクがこの世界に来て、今日はもう4日目になる。そして初めてこっちで……日本での上京の日でもある。
この世界でボクが住んでいる家、つまりチオリの家は、日本の石川県能登半島にある羽咋市という町だ。東京から随分遠く離れていて、この距離は馬車を使ったら数日ほど時間かかりそうだね。
ただし、日本には『電車』という、とても高速で走れる車がある。その中で特に速い電車は『新幹線』と呼ばれる電車だ。そして今ボクたちはその新幹線に乗って東京へ行くところだ。
新幹線に乗るためにはまずボクたちは金沢まで行く必要がある。一昨日と同じような、ボクたちは家から最寄りの羽咋駅まで歩いて七尾線の普通の電車に乗って、金沢駅まで行ってそこで新幹線に乗り換える。
そして今ボクたち4人はもう新幹線に乗っている。
「本当に速いね! 想像以上に……」
「以前あたしもこの北陸新幹線に乗って東京に行ったことがあるよ。金沢駅から東京駅までは2時間半くらいだね」
「すごく速い! 風景ぐるぐる変わっていく!」
「緻羽、燥ぎすぎ。イヨヒちゃんもね」
今ボクたちこの4人の中で、緻渚さんとチオリはすでに新幹線に乗ったことがあるからかなり大人しくなっているけど、ボクと緻羽ちゃんは初めての経験なのでなかなか落ち着けなくてさっきからずっと燥いでいる。
こんな速い乗り物は初めてだからこんなにドキドキするのは当然だよね。先ほど羽咋駅から金沢駅まで乗ってきた普通の電車も随分速いけど、新幹線はそれより高速。
「私はいつも石川と東京の間で行き来しているから何度もこの新幹線に乗ったことがある」
「緻渚さんは元々東京から来た人だから、今は『上京』というより、『帰郷』ですね」
「うん、私が旦那さんと結婚して初めてここに来た時はまだ普通の電車しかなかったね。新幹線が金沢まで延伸されたのはつい最近だから」
スマホで地図を見ると、現在位置はどんどん動いていく。ボクたちは今高速で東の方に向かっている。
「ここ景色すごい!」
新幹線の速さで周りの風景はぐるぐる変わってゆくけど、遠くにあるあの山の変化は比較的にゆっくりとして、しばらくの間に眺めることができる。今日は雨がなくていい天気だから、景色はよく見えて良かった。
「ここはもう富山県ね。これは立山よ。富山県にある有名な山。北陸新幹線に乗ったらよく見られる。富山県ってのは私たちのいる石川県の隣にある県なの。同じ北陸地方に属している。家からあまり遠くないから登山とかに興味があればここはおすすめね」
緻渚さんはいつもこの北陸新幹線に乗っているからこの辺りについてとても詳しいみたいで、ずっと周りの風景をボクに見せて説明してくれた。
「ほー、この町綺麗! あっちの方は海が見えるね」
「ここは新潟県糸魚川市ね。海岸にある町よ。糸魚川駅は北陸新幹線の中で一番海に近い駅だから、この辺りを通ったら絶景ね」
これはこの世界の海か。ボクがここで海が見えたのは今初めてだ。やっぱりこっちも海は海だね。色も同じ青色だ。こんな風に遠くから眺めるのも美しいけど、浜辺まで行ったら別の美しさを鑑賞するのもいいかもね。
「あれ? いきなり周りが暗くなったの」
なぜか窓の外の景色が突然真っ暗になってきてしまった。
「隧道に入ったんだよ。ここでは山を掘って新幹線の通る鉄道を作ったのだから」
「なるほど」
隧道を作ることで、高い山を超える必要もなくなり、時間が省けて随分便利だね。あっちの世界でもこういうのはあるけど、大体は徒歩で通るためのサイズだけで、馬車とかは入ることが難しい。
「……あ、明るくなった」
「今隧道を出たからね」
やっぱり新幹線が早いから一瞬で山から抜け出すよね。
しかし、その後たった数秒後……。
「あれ? また?」
「この辺りはあっちこっち山々いっぱいだからね」
また隧道か。だから周りが見えなくなっている。そしてしばらく経ったらまた明るくなった。
他にも新幹線でいろんな経験ができてすごく充実だね。このように初めての新幹線はドキドキいっぱい溢れてきてとても感動的な旅だった。




