44:転生幼女は抱き枕になって欲しい?
ボクがこの世界に来てからもう2日間経った。今は3日目が始まるところだ。
「あれ?」
目覚めたらなぜかボクが緻羽ちゃんに抱きつかれているようだ。でも本人はまだ眠っているらしい。
なんでボクはこの子の抱き枕になっているの? わざとなのか? それとも変な夢を見たから? 確かに子供は常に温もりを求めるようだから。
どうしよう? このまま脱出してもいいかな? しばらくこのまま放っておくか。まだ朝早いし、チオリもまだ起きていないと思う。
と、そのつもりだったけど、そのまま数分経ってもやっぱり離してくれないし、目覚める気配もない。だから結局ボクは無理矢理脱出することにした。ごめんね、緻羽ちゃん。
「姉ちゃん、どこにも行かないで」
「へぇ!?」
「大好き……付き合おぅ……、……スヤ……」
緻羽ちゃんが起きてしまったかと思ったら、どうやらこれはただの寝言のようだ。『姉ちゃん』ってチオリのことだよね? それともボクのこと?
小さな天使の可愛い寝顔……いや、昨日の行為から見れば天使というより小悪魔かも。猫をかぶって人を振り回すなんて。
てか、実は今もわざとではないよね? 本当はもうとっくに目覚めたけどボクを騙しているとか? 緻羽ちゃんならあり得ることだよね。
本当に起きているかどうか試してもいい? ちょっとほっぺた弄ってみるか。
「……ぷにぷに柔らかい」
幼女のほっぺたって艶々で肌触りがいいよね。
いや、それより、この様子ではどうやら本当にまだ眠っているみたいだ。
さて、チオリはもう起床したかな? 今日もチオリの部屋に様子をみてみよう。
・―――――・ ※
「チオリ……」
ボクはチオリの寝室に入ってきた。やっぱり、まだ眠っているね。昨日と同じように無防備だな。
それより、今の部屋は昨日より酷く散らかっていないか? 凄まじい有様だ。まさか泥棒とか侵入してきたのか? そんなことないよね。
こんな部屋なら例え泥棒でも嫌かもしれない。やっぱりチオリってこういうキャラ? まあ、それでも好きだけどね。別にこれくらい幻滅なんてしないよ……。少しがっかりはしただけだ。本当に少しだけ……多分。
でもやっぱりチオリって寝顔が可愛いよね。こんな可憐で静かな寝姿であれば、やっぱり簡単に人を魅了することができるくらい魅力的だよ。
ボクはまたチオリの姿を見つめて見惚ているね。今なんか目に焼きつけたいという気分だ。
「そうだ、こういう時スマホ」
ボクが昨日買ってもらったスマホを手に取って弄ってみた。昨日いろいろ使い方を勉強したし、今は自分一人でもちゃんと使えるようになったことを確かめる時間だ(という口実がある)。
目の前の光景を簡単に登録できる……それは『写真機』というアイテムの機能。チオリからちょっと歴史を教わった。昔の写真機はスマホとは関係なく、独立の道具だったそうだ。だけど現在、写真機はスマホに収束されて、スマホの一つの機能になっている。
ボクは昨日教えてもらった通り、スマホに写真機応用を選択して、眠っているチオリの方へ向けた。
『カシャ!』
やった! チオリの寝顔の写真はボクのスマホの画面の中に。これでいつでも観賞することができる。別に邪な意思はないよ。今はただのスマホの練習のおまけみたいなものだからね。
「……何してるの?」
「あ……」
さっきの写真機の音でチオリが起きてしまったみたい。
「おはよう。チオリ、これを見て。ボク、自分で写真を撮れたよ」
ボクは自慢げに言ってチオリにスマホの画面を見せた。しかし自分の寝顔の写真を見た途端、チオリは恥ずかしい顔になって狼狽えた。
「な、何してるの!? すぐに消して!」
「へぇ? 絶対に嫌だ! せっかく自分一人で撮れた初めての写真だよ」
せっかくチオリの寝顔を取得したのに、手放すなんてまっぴらごめんだ。
「撮った写真を消す方法もちゃんと教えておかないとね!」
「いや、これも昨日教えてもらったはずだけど」
「いいから、スマホを渡しなさい! ほら、こうやって、削除……」
突然奪われたスマホの中からせっかくさっき撮った写真はあっさりと消されてしまった。今ボクは泣きたいという気分になった。
「チオリ、酷いよ!」
「ここ日本では盗撮は犯罪だよ。昨日も言ったじゃないか」
忠告しながら、チオリはスマホ返してくれた。
「ごめん、ごめん」
それは仕方ないことだよ。こんな寝顔を見たらなんか撮ってみたくなったよね。不可抗力だ。本当だよ。
なんか残念だけど、まあいいか。チオリに不満を持たせることなんてボクがするわけにはいかないよね。
とにかくこうやってボクたちの新しい朝は始まった。




