38:来まっし……長町→尾山神社→金沢城
「旧市街はここまでだよ」
いろんな会話をしながらボクたちはさっきからずっと細い堀のある巷に沿って歩いてきて、気がついたら周りはもう古風の建物ではなくなったようだ。
「じゃ、次の目的地は金沢城……。でも、その前にここから歩けばまずは尾山神社があるね」
チオリはスマホで地図を調べながら道を案内している。
「チオリ、ずっと歩きながらスマホを見るのはよくないってさっき緻渚さんも忠告しておいたけど」
「それはそうだけど、スマホの中の地図が必要だから。地図を見ないと道わからない」
「確かにそうだよね」
確かにこの辺りの道はかなり複雑だから、地図がないと簡単に迷子になるかもね。
「実は母さんからもよく言われたよ。『今時の子はスマホ依存症』って」
「それはどういう意味?」
「スマホがないと何もできなくなる、ってこと」
「昔の人にはスマホが必要ないのか?」
「スマホは昔……というより、つい最近までなかったみたいだ。母さんがあたしたちの年くらいだった頃にはスマホがまだ存在していなかったそうだ」
「スマホってこんなに新しい時代のアイテムなの?」
「うん、母さんがまだ子供だった頃は全然使わなくても何も困らなかったと聞いたよ。でも、一旦こんなものが開発されて普及になってしまったら、もう必要不可欠なものになった」
「電気とかもそうだよね?」
「そうだね。時代の流れによって人々の生活は変わっていくわけだ」
「どんな世界でも同じだね。あっちの世界の歴史を読んでも同じような流れだ」
詳しくはいろいろ違うけど、どちらも知性のある人間だから、時間が経てばどんどん新しいものを発見していく。
「地図を見る時にはいつも気を配って、道路を渡る時にはちゃんと周りの人や車を注意しながら歩いていたら大丈夫だよ」
「そうか。わかった」
「でも一応あたしが歩きスマホをしたことを母さんには言わないでね」
「え? さっき大丈夫だと言ったのに?」
「母さんは心配性だからね」
結局いいのか駄目なのか? それは人や状況によって違うらしいね。
「着いたよ。この階段の先には尾山神社」
しばらく歩いてきたらボクたちは地図に描かれた目的地に着いた。
「なんか綺麗で風情がある門だね」
階段の先を見上げたら、豪華に作られた門みたいなものが見えた。
「これはこの神社の入口。神門……神様の門と呼ばれるそうだ」
「ここにも神様がいるの?」
「神社ってのは神様を祀る社だから。まあ、こっちの世界……というより、日本の神様のことだけど」
「あっちの世界の神とは違うの?」
「さあ、よくわからない。どっちも神様だから、何か繋がりがあるかもしれないね」
「もしかして親戚同士だとか?」
「神様にも親戚とかいるの?」
「いや、ボクもよくわからない。神のみぞ知るってことかな」
神門を通ったら中には木々に囲まれた境内。その奥には大きな木造の建物が鎮座している。
「ここの神社でもあのグルノ(後略)って神様と連絡することができるのかな?」
「あの『グルノティトゥヨヨイェンタフェー』という神のことだね」
チオリはよくもまたその超長い名前を口に出したね。
「さすがにそれはできないと思う。でも、こっちに来たらここの神様に挨拶しておいた方がいいかもね」
「どうやって?」
「イヨヒくんが神社に来たのは初めてだよね。作法を教えるよ。ほら、こうやって両手を合わせて。これは『拍手』と呼ぶ」
こうやってチオリからここの神様や文化についていろいろ教えてもらった。
・―――――・ ※
「次はあっちだ!」
「都会の中で森が? いや、これは庭か?」
神社から出てもっと東の方へ向かって歩き続けたら、目の前にはたくさんの木が見えて緑いっぱいだ。
「ここは公園だよ。金沢城公園。中には『金沢城』というお城がある。あっちから入るよ」
そして、中に入ったらやっぱりここはただの庭だけではなく、建物もたくさんある。
「これは金沢城か。綺麗で豪奢な建物だね」
「昔の日本の各地の領主はこのような場所に住んでいたそうだ。江戸時代にこの地域は『加賀藩』と呼ばれていた。そしてここ……金沢城はその加賀藩の領主の居城だった」
「あっちの世界の各地の領主もそうだよ。領主っていつも一般庶民より特別な場所に住んでいるね」
自分も昔お姫様で、大きな王宮に住んでいたから、あまり他人事言えないかもね。
「今の時代では領主がもういないけどね」
「そうか? なら今は誰がこの地域を管轄しているの?」
「えーと、『知事』と呼ばれるらしいけど……昔の領主と似ているようなもので……でも同じではない。どう違うかな? あたしもよくわからないね。これも母さんならわかるかも」
「難しそうだね」
「まあ、あたしは勉強苦手だからまだいろいろわからなくて」
「ううん、ボクから見ればチオリは十分知識を持っているよ」
少なくとも異世界から来たボクより詳しいはずだよね。
「お城の中にも入れるよ。城内を見に行こう」
そしてボクたちはお城の中に入って、中での観光をした。
「ここは本当に古い建物なの?」
「ううん、実は昔の金沢城はとっくに壊れたから、今この建物は最近復元されたもの」
2階に登って窓から外を見れば周りの景色が遠くまで見られる。
「すごい! この都市は本当に大きいね」
「このお城は高い場所にあるから周りの景色がよく見えるよね」
「領主が自分の町をよく観察できるためだよね?」
「え? 関係あるかもね。あたしも詳しくはよくわからないけど」
チオリはいろいろ知っているみたいだけど、わからないことも多いようだ。
「あっちには兼六園という庭園がある。実は金沢城に来たら、次は兼六園に行く観光客も多いけど、もう時間は足りないようだね。それに今はまだ夏だし。秋の方は見どころがあると思う。紅葉がすごく綺麗だよ。雪吊も見せたい」
「紅葉がわかるけど、雪吊って何?」
「えーと、説明しにくいね。とにかく秋に兼六園に来たら紅葉と共に見られる」
「秋か……楽しみだね。この国でも秋になると紅葉が見えるの?」
「あっちでも見られるのか? あたしがあっちに滞在していた時期は春と夏だけだから、あっちで紅葉を見たことないね」
「うん、秋になったら木の葉が赤色や黄色に変わるのはどっちでも同じだよね」
「11月くらいまたここに来ようね。きっとすっごく綺麗になるから。今はまずあっちに行こう」
そしてボクたちは金沢城から出て北の方へ向かって歩き続けた。




