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35:可愛いキミはどんな服を着ても素敵だから早く適当に選べ

 いろいろ必要なものを買うためにここに来たはずなのだけど、服の店を見掛けると、すぐ緻渚(ちなぎ)さんに誘われてボクは着せ替え人形(・・・・・・)にされた。また店が視界に入ったらこのような出来事は何度も繰り返してきた。


 裙子(スカート)庫子(ズボン)連衣裙(ドレス)襯衣(シャツ)、それぞれいろんなデザインがあって全部違うように見える。選ぶのはかなり難しくて夢中になったよね。だからボクも緻渚さんも夢中になって、服を買うのに余程(よほど)時間がかかってしまう。


 ボクもいろいろ服を試着できるのは楽しいし、ここの服装についてもいろいろ勉強になって、綺麗な服をたくさん買ってもらえて満足している。だけど、一緒に歩いているチオリの方は心配ね。なんかあまり楽しんでいないみたい。


 「母さん、服はこんなにたくさん必要なのか?」


 チオリはものすごくつまらなそうな顔をしている。チオリはずっと買い物の邪魔をしたがっていたみたいだけど、ボクが楽しんでいるのを見て遠慮したからか、結局なかなかちょっかいを出せなくて、今までほとんど緻渚さんのペースに乗っている。


 緻渚さんはボクと一緒に楽しんでいるようだけど、なんかチオリには本当に悪い気がする。


 「可愛い格好を着ているイヨヒちゃんをたくさん見たくないの?」

 「今のイヨヒくんなら何を着ても可愛いよ。服のことなんて気にしなくてもいいのに」

 「……」


 そういえば、さっきからボクが何を着てもチオリが『可愛い』と褒めてくれたし。


 「これはこんな時に男がよく使うような台詞(せりふ)ね。『君が何を着ても可愛いからさっさと選んで帰ろう』って。褒めているように見えるけど、これはただの早く買い物を終わらせたいための言い訳だってのはバレバレね」


 「そうですか?」


 なるほど、そういう下心(したごころ)がある褒め言葉なのか。あれ、でもチオリは男ではないし? むしろ立場は逆? なんかおかしいかも。


 「そうよ。イヨヒちゃん、緻織の口車(くちぐるま)に乗るな」

 「母さん、あたしがイヨヒくんを(だま)そうとしているような言い方だな? あたしはただ本当に心からイヨヒくんが可愛いと思ってるよ」

 「……っ!」


 そんな……『心から』だなんて……。そこまで言われるとはね。


 「なんかこのような口説(くど)き方は既視感(デジャヴュ)ね。緻織(ちおり)、まさか今のは父さんの見真似かしら?」

 「違うし! あー、やっぱり、父さんもあたしと同じように考えたよね」

 「まあ、まったくこういうところは親子似ているね」

 「なら、あたしだけが悪いっていうわけじゃないってことだよね」

 「まあいいわ。男はみんなそうだよね」


 緻渚さんは(あき)れたような顔で文句を言った。それを聞いてボクは何か引っかかった。


 「え? チオリは男ですか?」


 なんか今の話ではまるでチオリが男みたい。だけど、実際にはチオリが女の子だよね?


 「違うよ。母さん、誤解を招くような言い方はしないで」

 「だって、こういう話になると、なぜか緻織がいつも男側。女の子なのに」


 まあ、確かにチオリは外見が可愛い女の子だけど、性格や振る舞いは男っぽいところも多いよね。


 「買い物にたくさん時間をかける人は、一緒にいる相手をイライラさせて逃げられちゃうよ。イヨヒくんにもわかっておいて欲しいね」

 「え? そうなの?」


 ボクが考え込んでいる間に、チオリはボクに話を振った。でも、ボクはまだ話に付いていけていない。


 「まさか、ボクの所為(せい)でチオリはイライラしているの?」

 「え? それは……」


 チオリは答えないけど、目を()らした。それは明らかに答えの代わりになるだろう。やっぱり、ボクが買い物に夢中になりすぎた所為(せい)でチオリが困っている。


 「えーと、ボクもこれでもう十分だと思います」

 「チオリに遠慮しているのね?」


 緻渚さん、よくわかっているね。……その通り。正直ボクもまだもっと歩き回ってもっとたくさんな服を着てみたいけど、まだこのまま続けたら、チオリがもっと不機嫌になりそうだ。そんなの絶対嫌だ。


 「それもそうですけど、まだ必要なものがいっぱいありますよね? ボクももう他のものを見てみたいので」

 「イヨヒちゃんがそう言うのなら」


 緻渚さんも譲歩してくれたみたいでよかった。


 「次は……そうね。そういえば、イヨヒちゃん、あっちの世界では衛生(ナプ)(キン)とかあるの?」

 「ナ……キン?」


 聞いたことない単語。何かのアイテム?


 「あ、あれですか? ……人を部屋に閉じ込めて外に出さない、ってこと?」

 「あれは軟禁(なんきん)よ!」


 緻渚さんはすぐツッコミをした。やっぱり違うみたい。

 

 「どうやら、なかったみたいね?」


 納得したような顔をした緻渚さんは、すぐに真剣そうな顔に表情を変えて、次の質問をした。


 「じゃ、質問を変えるね。あっちでは『生理(せいり)』が来る時どうするの?」

 「セイリって? 何ですか?」


 よくわからない。でも『車厘(ゼリー)』なら、ボクも食べ物のことだとわかるけど。


 「毎月来るアレのことよ?」

 「毎月? 満月や新月のことですか?」


 空に浮かんでいるお月様(・・・)は一ヶ月くらいという周期で姿形(すがたかたち)が変わるってのはこっちの世界でもあっちの世界でも同じ常識のようだ。でも今の話はお月様とどういう関係あるの?


 「まさかそこまで何も知らないとはね。あ、そうか。イヨヒちゃんはあっちで8歳から男だったよね」

 「はい」


 緻渚さんは納得したような顔をした。まさかこれは女しかないもの? 何のこと?


 「まさか、チオリも……あるの?」


 ボクこの話題が始まってからそっぽを向いて黙っていたチオリに訊いてみた。


 「えっ? まあ、そうだよ。あ、当たり前だろう」


 チオリの声はなんかあまり答えないようなに聞こえるけど。


 「まったく、緻織ったらまたこんな態度ね。イヨヒちゃんも女の子なのに」


 あれ? これは普通なら男には話せないことなの? まさかこれがボクは本来訊くべきではないこと?


 「イヨヒくんは昨日まで男だけど」

 「でも、今は女の子に戻ったから、恐らくアレ(・・)が来るのよね。他人事ではないわよ」

 「それは……、わかってるけど」


 チオリはまだ納得いかないような顔だけど、別に異論があるわけでもなかった。


 「やっぱりイヨヒくんにもこれに関する知識を教えておかないとね。とにかく今イヨヒちゃんの分の衛生巾(ナプキン)を買っておいてあげるわ。後で必要な時のために使い方を教える」

 「……ありがとうございます」


 結局、あの(ナ?)……(キン)って一体全体何? 生理(せいり)って何? どんな位置づけなの? まだよくわからないことだらけだけど、この後で緻渚さんから教えてもらえるらしい。


 とりあえず、今のところ服選びのことはここまでだ。その後は靴とか、靴下とか、アクセサリーとかも、いろんなものを買ってもらった。どれも時間はかかりそうだけど、時々チオリに()かされたから、ある程度時間は(はぶ)けた。


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