31:王宮でも駅舎でも
『次は金沢、金沢』
「イヨヒくん、次だよ。もうすぐ到着だ」
金沢行きの電車に乗っている間に、先ほどまでボクは昔のことを思い返してみたり、チオリとお喋りしたりしていたら、もう一時間くらい経って、やっと目的地に辿り着く。
電車が金沢駅に止まって扉が開いたら、電車の中のみんなが出口に向かって電車から降りていく。
ボクたちは電車から出て乗降場に降りて改札から出て周りを見たら、ここは広い建物の広間の中みたい。
「ここは駅の中? 結構広いね。まるで王宮の中みたい」
こんな宏大な空間を見たら、なんかつい王宮のことを思い出したね。さっきの回想にも出たばかりだし。あの時の馬車が王宮へ向かったのと同じように、今この電車の行く先はあの王宮と見紛うほど壮麗な金沢駅だよね。
「王宮と並べて比べるなんていかにも大袈裟かもね。このような大きい駅は日本中たくさんあるよ。ここみたいな大きい都市では人が多いから、駅も大きく作られた」
あの時チオリも一緒に王宮に入ったけど、どうやらここは王宮と同じように考えるのはボクだけ。まあ、確かにここはあまりにも人が多くて騒がしくて、いろいろ全然王宮と違うけど。でもなんか本当にいろいろ似ている気がする。
「また周りの人の視線を感じているね」
ここでも人の視線はボクに集まっているようだ。
「ここ人いっぱいだからね。でもこんなところなら外国人もいるから、イヨヒくんだけは目立ってるっていうわけじゃないよ」
周りの人混みを見たら確かに金髪や赤髪の人も少しだけど混ざっている。なるほど、ボク以外に目立つ人もいるみたい。
「でも確かに、イヨヒちゃんが可愛いから、他の人より視線が集まるのも仕方がないよね」
「……っ!」
緻渚さん、また……。なんか恥ずかしいよ。ボクは昔こんなたくさんの人に見つめられたことはないのに。とにかく気にせずに無視しておこう。
・―――――・ ※
「すごい! こんなに美しくて、壮観だね! あのでかい門も感動的」
駅舎から出てボクたちは駅前の広場を歩いていて、この駅舎の外見がよく見えた。こんなに大きい硝子の建物。そして駅舎の前に聳え立つ壮大で豪奢な門。
「駅前の『鼓門』だね。この金沢駅は、世界で最も美しい駅の一つだと言われている」
「本当に綺麗で大きいね。羽咋駅とは全然違う」
ボクたちの町、羽咋市の駅はなんか平凡で小さくてこんな大きな門はなかったね。それに比べて金沢駅はすごく豪華絢爛で目立つ。
「ここは大きい都市だからね。しかも日本の有名な観光地でもあるよ。電車は町と町を繋ぐことが多いから、遠くからの人はまず駅に到着する。だから駅が綺麗にすると、この都市の第一印象もよくなるよね。あたしもここの駅とても気に入ってるよ」
「ボクも気に入った」
「じゃ、一緒に写真を撮ろう。母さんと緻羽もね」
こう言ってチオリはスマホを取り出した。
「うん!」
「緻織ったらすでに観光気分ね。まあいいけど」
緻渚さんはそんな楽しそうなチオリを見て少し呆れたような顔をしながらもニコニコした。
こうやってボクたちはこの駅との写真を撮った。
「で、どうやって病院まで行くの?」
ボクもつい観光気分になってしまったけど、今ボクたちの本当の目的は病院に行ってお父さんのお見舞いをすることだよね。忘れてはいないよ。
「歩けない距離でもないけど、ちょっと遠いみたいだからバスに乗った方がいいと思う。えーと、バス乗り場はあっちだ」
そしてボクたちはバスの乗り場に行ってバスに乗った。
ここでの日常は簡単に言うと、町と町との間では電車に、町の中ではバスに乗ることが一般的みたい。大体こんな感じだね。
・―――――・ ※
「お父さんはこの都市で働いてるの?」
「うん、このように近くの田舎に住んで毎日会社とかで働くために都会に来るって人も少なくない」
「毎日電車で家からここへ行き来するの? 大変じゃないか」
「そうだね。仕事が特に忙しい時期になると、家に帰らない日も多い」
これはバスに乗っている間のボクたちの会話。
その他にも、「ここの人は電車やバスの中ではスマホを使って、ゲームをやったり、ニュースを見たりしているから、長い時間乗ってもあまり時間の無駄にはならない」って聞いた。スマホって、本当に魔法みたい……いや、多分魔法より万能なアイテムかもしれないね。
そして病院の近くのバス停でバスから降りて、そこからもう少し歩き続けていく。
「この辺り、大きい建物が多いよね」
ここみたいな都会には見たことがないくらい大きくて高い建物がいっぱいあるらしい。本当に、驚かせるくらい想定外なものは次々と現れてくるね。
「イヨヒちゃん、本当に燥いでるね。もし東京に行ったらもっとびっくりするだろうね」
「そうだよね。まあ、あたしがあっちの世界にいた時もこんな感じだからね。何を見ても興奮しちゃった。気持ちがわかるよ」
「自分の住んでいた場所とは全然違うところに来たからね。私が初めて欧州へ旅行に行った時もドキドキしたよ」
そういえば、初めてあっちの帝都の案内をした時チオリもこんな風に燥いだよね。いや、多分今のボクより楽しそうに笑ったり走ったりしていたよ。
「こう見たらやっぱり子供みたいだね」
「チオリには言われたくないね! あっちに行った時のチオリの方は、今のボクよりもずっと燥いで子供っぽかったはずだからね」
「え? そこまでなのか?」
ボクにとってあっちは普通でこっちの方がすごいのに、チオリにとっては逆みたい。お互いに自分とは違う世界に憧れているよね。
こうやってお喋りしながら歩いていたら、いつの間にかボクたちは病院に辿り着いた。




