29:次から次へと
「着いたよ。ここは羽咋駅」
道案内しながら歩いてきたら、いつの間にか『駅』と呼ばれる建物に辿り着いた。駅名はこの町の名前である『羽咋市』と同じ。
駅の建物の中に入ってきたら、更にその中に何個も連なっている長くて大きい箱みたいなものが見えた。下にはたくさんの車輪が付いている。箱の面に家の部屋みたいに硝子の窓がいっぱいあって箱の中身を見ることができる。これは何なのか見れば大体何となくわかる。
「あれは電車?」
「うん。でもあれは七尾行きだ。これももう一つの町の名前。今あたしたちが行くのは反対側の方面、金沢行き。あっちだ。まずは自動券売機で切符を買おう」
ここでボクはチオリに『自動券売機』と呼ばれる箱の使い方を教えてもらった。ボタンを押したり、お金を入れたりしたら、数字の書いてある小さな紙切れが、釣り銭と共に箱から出てきた。
「これは?」
チオリが紙切れ1枚をボクに持たせた。
「切符だよ。これを持って電車に乗るんだ。ちょうどもうすぐ出発の時間だ。早く行こう」
そしてボクたちが電車の中に入った。
・―――――・
「本当に速いね」
窓から見える周りの景色がぐるぐる変わっていく。あっちの世界で馬車に乗っている時よりも速いようだ。
ちなみに、緻羽ちゃんはまだ眠そうなので、電車が出発した後すぐ眠ってしまった。体は子供だからたくさん寝る必要があるよね。
「こんな速さ、電車ってすごいね」
「これはまだただ普通の電車だよ。もっと速い電車もある」
「もっと速いものあるの? この電車でもこんなに高速なのに」
ここではボクの世界とは違って、『科学』がとても発達している。いろんな技術が発明されてきて人々の生活はとても楽になっているそうだ。いろんな種類の車もそう。
「あれ? もう着いたの? やっぱり速いね」
電車が止まって、数人の人が降りていったけど、座ったままちっとも動かない人の方が多いようだ。
「いや、違うよ。電車は通った様々な駅に止まってそこで降りたい人だけが降りるんだ。あたしたちが降りる金沢駅はまだ先」
「なるほど。ところで金沢ってどんな場所なの?」
今ボクたちが向かっているのは金沢って場所だったね。さっきも聞いた名前だ。確かにお父さんがあそこで仕事をしているとチオリが言ったね。
「この地域で一番大きい都市だよ」
「どれくらい大きいの?」
「えーと、イヨヒくんの国の帝都ウハリレン市と同じくらいかな? いや、ひょっとしてそれ以上大きいかもね」
「あんなに大きい都市なの? なんかなかなか想像できない。数万人もいるの?」
そう聞いてボクが驚いた。ウハリレン市はフレイェン帝国の帝都で、あそこは帝国の一番大きい都市で、人口は数万人もいるらしい。あれ以上大きい都市だなんて。
「えーと、そういえばどれくらいだっけ? 母さん知ってる?」
チオリもどうやらよくわからないようなので、質問を緻渚さんに振った。
「今は多分、40万人くらいね」
「すごい! こんなに大勢ですか」
今の緻渚さんの答えを聞いて、ボクは更に唖然とした。随分予想外だから。
「これくらいではまだ驚くほどじゃないわ。この日本の首都……東京ならもっと大きいわよ。百万人を越えてるね」
「百万人!? ……ここの首都ですか。どんなに大きいか、ボクはあまり想像できないかも」
やっぱりあっちとこっちの尺度は違いすぎる。
「機会があったらイヨヒくんを東京までも連れて行きたいね」
「それなんだけど、実はね、ちょうどこの土曜日イヨヒちゃんを連れて東京に行くつもりなの」
「土曜日? 今日は木曜日だから、つまり明後日? 急に何をしに行くの? 母さん」
「イヨヒちゃんの戸籍のことよ。あっちとの連絡はできたけど、とりあえずまず東京に行ってあの人と直接に会うことになった。詳しくは後で話すね。今ここで話すような内容ではないの」
昨日晩ご飯の時に話した『戸籍改竄』ってことだよね。ボクがここで暮らしていくために必要なもの。
東京……この国の首都か、見てみたいね。どれくらい大きいだろう。
その後も電車に乗っている間にチオリと緻渚さんからいろいろ教えてもらった。スマホを使って地図も見せてもらった。スマホって遠くにいる人と会話をするだけではなく、いろいろできる万能なアイテムみたいだ。写真を撮ることもできるし。さっきチオリにボクの写真を撮ってもらった。
これは初めての写真。自分の姿がスマホの画面に映っているところを見る時はなんかわくわくした。こんな簡単に見たままの人や景色を刻み込めるなんて素晴らしいよね。
実はボクの世界でも魔法を使えばこのようなことは可能だけど、専用な魔法なので、誰でも簡単に使えるわけではない。
スマホって魔法よりも便利ではないか? こんなアイテムはボクも使ってみたい。買ってもらえたら嬉しいかも。でもこんなものはきっと高そうだよね。
ボクたちがお喋りしている間に、電車はまだ南の方へ向かって走っていく。『金沢』という巨大都市へ。




