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24:騎士は幼女として姫君の前に現れた

 「緻羽(ちはね)ちゃん……。これはどういうこと?」


 部屋に入った途端、緻羽ちゃんは扉をロックして、変わった雰囲気や喋り方でボクに話しかけてきた。


 何この状況? これはどういう意味? この子が何かしたいのか? 二人きりになるとどうするの?


 「キミは一体?」

 「そんなに警戒されるとはね……」


 実はこんな小さな子供だから何も怖がる必要なんてないよね? 武具などもないし、魔法もここでは使えるはずがない。だからこの子はボクに何か危害を加える手段がないはずだ。だけどなんかこの子は何か隠しているような気がする。先ほどからずっと何か引っかかっている。だから警戒心が湧いてきた。


 「どうして突然扉を……」

 「あ、いきなりごめんなさい。ただ、ボク(・・)はエフィユハ姫様にだけ話したいことがあります。誰にも邪魔されたくありません」

 「またその呼び方と一人称……。それになんでボクに敬語を使うの?」


 確かにこれは部屋の中の方からのロックで、ボクもすぐ解いて開けられる。つまり、これは外へ逃げさせないためではなく、ただいきなり外からの人の邪魔が入らないためだ。


 「不安にさせて申し訳ありません」


 やっぱり今の緻羽ちゃんの喋り方に違和感だらけ。さっきからこんな慇懃(いんぎん)な態度だ。これはまるで……。


 「一体何のこと?」


 なんの秘密なの? 案の定、この子は何か隠し事をしているようだ。


 「もう限界……」


 そう言って彼女はいきなりボクに近づいて体を抱きついてきた。さっきボクは彼女の態度の急変を見て驚いて警戒していたけど、今の彼女の様子を見たらなんかホッとして、警戒を(おこた)って、素直にそのまま抱かせた。


 「あの……」

 「ごめんなさい。またいきなり抱いてしまいました」

 「ううん、いいけど」


 ボクは抱かれるのは今日でもう何回目? もう慣れたかも。


 「だって……久しぶりに、姫様ともう一度会えるなんて、全然思いませんでした。これは夢じゃないですね?」

 「は?」


 こんな言い方だと、まるでボクたちはこの前にも会ったことがあるみたい。それにさっきからこの子がボクのことを『姫様(ひめさま)』と呼んでいた。なぜ?


 「あれから元気に生きてたみたいで嬉しいです」

 「あの……もしかしてボクたち、どこかで会ったことがあるの?」

 「やっぱり、ボク(・・)のことわからないんですね」

 「それは……まあ。大体ボクは今日ここに来たばかりだから、ボクがキミと会ったことがあるはずがないよね?」


 わかるわけがない。この子が昔の知り合いだなんて、どう考えてもあり得ないはずだ。


 「ううん、ここではなく、会ったのはあっちの世界で8年前のことですよ」

 「キミ()ボクと同じ世界から来たの? でも8年って、今キミはまだ7歳ではないか? まだ生まれていなかったはず」


 何を言っているかまだ話が見えない。それに8年前ってのはボクが8歳の時……つまりあの政変(クーデター)から逃げた時? まさかあの事件の関係者?


 「ごめんなさい。いきなりだからわからないんですね。今とは姿が全然違っていたから」

 「キミは……本当に緻羽ちゃんなの? それとも別人なのか?」

 「自分は誰なのか今でもはっきりしていない。ボク(・・)は……チハネはチハネで間違いなく……。でも8年前姫様と出会ったのはボク(・・)だけどチハネではありません」

 「それはどういう意味なの?」


 緻羽ちゃんはなんか結構混乱しているみたいだ。要領が足りなくて、言っている意味はボクがあまり把握(はあく)できない。


 「あ、まさか……」


 今ボクがついその可能性を思いついてしまった。こんなことなんか聞いたことがある。でもそんなこと……、あり得るのか?


 「もしかして、あなたは転生者(てんせいしゃ)?」

 「……よくわからないが、そう……だと思います」


 やっぱり、そうしか説明がつかない。


 『転生』という単語は、ボクが帝都ウハリレン市の国立師範学院に在学していた時に聞いたことがある。『転生』ってのはつまり、死んだ人の(たましい)(あら)たに生まれた子供に入り込むということ。


 普通は転生しても前世の記憶がないはずだから、前世は誰であろうと何の影響もないし、わかるはずもないけど、たまたま何かしらのきっかけで先世の記憶が(よみがえ)ってくる人もいる。それは『転生者』と呼ばれる者。(転生しても記憶が(よみがえ)らなければ、正体が把握(はあく)できないので『転生者』とは呼ばれない。)


 その中に自分の住んでいたのとは(こと)なる世界に転生する人もいる。それは『異世界(いせかい)転生者(てんせいしゃ)』。


 他の世界からの転生者だと思われる人物の話も記録にあるが、他の世界への転生者はもちろん、たとえあったとしても知る(すべ)なんてないので、まだ聞いたことがない。でも確かに存在するという可能性が十分にある。


 そして今、まさかその『異世界転生者』は、実際にボクの目の前にいるとはね。


 つまり、この子は緻羽ちゃんで間違いないけど、同時に前世の人格が入っている。そしてその人物は恐らく……。


 「あなたは……、テンソア様?」

 「……はい、ボクですよ。お姫様」

 「やっぱり……」


 彼女は……、ううん、彼はテンソア様、8年前わたくしの命を救ってくれたお(かた)だ。つまり大事な命の恩人。あの時の彼は16歳……のはずなのに、今はこんな幼女になっている。不思議な感じだけど、『転生』ってのはこういうもののようだ。


 「どういうことですの? なんでテンソア様は緻羽ちゃんに転生しましたの?」


 相手の正体を確信できたら、わたくしも喋り方を変えた。


 「ボクもよくわかりません。今日お姫様が姉ちゃんと一緒にここに現れた時から、いきなり頭がジクジクして、どんどん変になってきました」

 「これってまさかわたくしの所為(せい)ですの?」

 「それはよくわかりません。でもお姫様がここに現れたあの時からなんか懐かしい感じはしました。気がついたらお姫様の髪を(さわ)っちゃって……。その後、抱きついたりしちゃって……」

 「そういうことですの?」


 最初にいきなり緻羽ちゃんに髪を()れたり抱きついたりしたから、あの時びっくりした。


 「それで、どんどん知らない誰かの記憶が頭に入ってきてね」


 これって、つまり緻羽ちゃんはわたくしと会ったことで前世の記憶が(よみがえ)ってきたってことだよね?


 「最初はまだはっきり覚えていなくて混乱していたけど、その後みんなと一緒に姉ちゃんからいろいろあっちの話を聞いてどんどん思い出せるようになってきた」


 さっき食堂で話していた時、緻羽ちゃんはあまり何も喋らずにずっと黙っていたのは、チオリの話に付いていけなかったからなのではなく、じっと聞きながらいろいろ思い出そうとしていたってことか。


 「あんなに混乱していろいろ考えこんでいましたの? わたくしは全然気づいていませんでしたの」


 わたくしはチオリの話で頭いっぱいだからね。チオリも緻渚(ちなぎ)さんも多分そうだった。


 「なんかお姫様と抱き合ったら不思議と落ち着いたからです。その後はみんなずっと姉ちゃんの話を聞いていて、チハネのことあまり構っていなかった。それに、チハネはそもそも大人しい性格だった。いろいろ考え込んだことがあってもあまり口に出さなかったんです。悲しい時は泣きやすいですけど」

 「なるほど……だからさっきわたくしの過去のことを聞いた時も?」

 「はい」


 あの時緻羽ちゃんがいきなり泣いて、しかもテンソア様のことをわたくしに訊いてきた。最初はなんかおかしいかと思っていたけど、なるほど。これは本人だからだよね。


 「ってことはあなたもお亡くなりになりましたの?」


 転生できるということは、もちろんそれはつまりすでに命が絶えたってこと。


 それに緻羽ちゃんは7歳……。それってつまりわたくしを助けた後その直後テンソア様も……。


 わたくしを助けた後、テンソア様とは一度も会えることができなかったのはその所為(せい)だったね。帝都ウハリレン市に戻ってきた時、実はテンソア様の行方を検索してみたこともある。あの時処刑されたという(うわさ)だけは耳に入ったけど、あまり信じなかった。まさか本当に亡くなったとは……。


 「はい、帝都に帰ったらすぐ捕まえられてしまって、そして……」

 「そんな……」


 やっぱりそういうことになったね。


 「本当にごめんなさい。わたくしの所為(せい)で……」


 間違いなく、わたくしを救った所為(せい)でテンソア様が命を落としてしまった。なのにわたくしだけ生き残ってきた。


 彼は一体どんな(ひど)いことをされて、どんな結末になったのか……、そんな詳しい事情はまだわからないけど、今訊く気もない。


 「気を病む必要がありません。エフィユハ姫様が無事だとわかっただけでボクは嬉しかったです」

 「でも……」

 「それにこうやってまた再会できましたから。ここで会えるだけでもなんか奇跡みたいですね」

 「そう……ですのね」


 これは『転生』と『転移』がたまに重なった結果だ。本当にただの『たまたま偶然』なのかは疑っているけど、それはさておき……。


 「わたくしもあなたともう一度会えて本当に喜んでいますの。やっぱりチオリにここまで付いてきてよかった」


 そもそもここに来たのは、ただチオリと一緒にいたいという理由だけだから。こんなことになるとはまったく予想外だ。


 「そうですね。姉ちゃんのおかげです」

 「これはただの偶然なのかしらね? それとも神様の悪戯(いたずら)?」

 「そうですね。ボクも知りたいですよ」

 「神様っていつも好き勝手ですのね。まったく、人間の運命を(もてあそ)ぶのだなんて」


 つい神様に八つ当たりしてしまった。でも、実際にわたくしたちがやって再会を果たしたのもあの神様のおかげのようだから、神様に感謝しないとね。


 「お姫様は本当にあの時とは随分雰囲気が変わりましたね」

 「やっぱり、そう見えていますのね」

 「はい。今はあの時みたいな喋り方をしているとはいえ、あの時と比べて表情は(ゆた)かで、こんなに上手(うま)く喋れるようになってきたんですね」

 「はい、もう8年ですから。でも多分わたくしが変わったのは、一番の要因はチオリですのね。本当にチオリのおかげ」


 あれは運命の出会いだった。


 「そうですね。姉ちゃんはすごい人ですよ。お姫様は姉ちゃんと出会えてよかったです」

 「本当にそうですのね。チオリも知ったら喜ぶはず」

 「あ、それについては……やっぱり、その……」

 「どうしましたの?」


 なぜかチオリの話をすると、緻羽ちゃんが不安そうな顔になった。


 「実は……チハネの前世のことは、誰にも言わないで欲しいです」

 「え? それって、チオリにも? 家族のみんなにもですの?」

 「はい、そうです」

 「なんでですの?」


 わたくしには言えて、家族には言えないなんて……。


 「なんか怖くて……」

 「怖い? 何を、ですの?」

 「今の家族との関係が変わっちゃうこと」

 「そんな……」


 みんな緻羽ちゃんのことを大切にしているようだから、そんなことがないはずなのに。


 「いきなり自分の娘や妹が他人だと知ったらどうなると思います?」

 「それは……チオリならすぐ受け入れられる……はず」


 多分だ。保証はないけど、チオリのことだから少なくとも……。


 「そうかもしれませんが、それでもそうじゃなければどうなるか……怖いです。チハネにとって今の家族は一番大事なんです」


 緻羽ちゃんはそう言いながら涙目になった。その気持ちはわたくしにもわからなくもないと思う。


 「そうですのね。でも、なんでわたくしにこんな秘密を(さら)け出してくださいましたの?」

 「せっかくまた会えたんです。あの世界の話もしたくなってきたのですから」

 「なるほど」


 緻羽ちゃんにとってたとえ異世界の記憶が(よみがえ)ったとしても、ただの夢物語に過ぎないかなと、混乱するだけかもしれない。でもその世界から来た知り合いが一緒にいれば別の話だ。その世界のことは現実だと確信できるから。


 そもそも記憶が(よみがえ)ってきた原因も、多分わたくしにあるのかもしれない。いや、きっとそうだ。だからこれはわたくしの責任だ。


 「でもまさかこんな形でボクがお姫様と再会できるとはな。でも立場は逆転ですよね」

 「そうですのね。あの時わたくしは8歳、あなたは16歳でした。わたくしの方が小さかったのに」


 年齢はちょうど逆だね。


 「でも身長差は逆だっていうほどではないようですね」

 「え? 身長も今のわたくしの方が高いですのよ」


 あの時子供のわたくしがテンソア様に見上げていたのと同じように、今子供の緻羽ちゃんがわたくしを見上げている。たとえわたくしがちんちくりんでもさすがに7歳の子供に負けるはずがないよ。


 「でも、あの時お姫様の頭はボクの腰くらいしかなかったんですよね。でも今チハネの頭はお姫様の胸くらい」

 「それはそうですのね。仕方ありませんの。あなたは殿方(とのがた)だから……」


 悔しいけど、この様子だと『逆』だと言いにくいかも。


 「でもさっき姉さんの話によると、男だった時も今と変わらないって感じ?」

 「そんなことありませんの。少なくとも今より高いはず……。一応150センチくらいはありますの……」


 多分152センチまで伸びてきたよ。今はまた縮んだけど。


 「姉ちゃんは162センチですよ。ボクはあの時確かに172センチでした」

 「うっ……」


 緻羽ちゃんがドヤ顔で言った。やっぱりテンソア様って背が高かったね。というより、これは普通の男の平均くらいだよね。自分の方こそ小さすぎ……。


 そもそもわたくしはずっと前からテンソアのことを(あこが)れていた。彼みたいに強くて人を守ることができる人になりたいって思っていた。


 そしてお師匠様の魔法でせっかくわたくしも男になれたのだから、もしかして自分でもあんなに背が高くてかっこよくなれるかもしれないって、期待していた。それなのに、結局16歳になってもボクはまだこんなちびのままだ。


 それどころか、いきなり女の子に戻って背が更に縮んだ。まったく不覚だ。


 「この話はもう終わりにしてくださいまし……」

 「はい。うふふ」


 悩んでいるわたくしを見て緻羽ちゃんがニコニコ笑った。もう……。


 「意地悪(いじわる)ですのね……」

 「あ、申し訳ありません。騎士たるもの、お姫様に失礼な行動をしてしまいました」


 わたくしが不機嫌そうな顔をした所為(せい)か、緻羽ちゃんがすぐ謝った。


 「いいですのよ。わたくしはもうお姫様なんかではないから」


 今の立場なら居候(いそうろう)のわたくしよりも、この家のお嬢様である緻羽ちゃんの方が上であるはずだ。また元の立場に戻るつもりもないし。今更そこまで遠慮されるとむしろ困るかも。


 姫とか騎士とか、そんなのただの昔のことだ。今はもう……。


 「緻羽、イヨヒくん……あれ? ロックしてる?」


 その時チオリの声が寝室の扉の向こう側から響いてきた。


 どうやらチオリのお風呂が終わったようだ。さっき緻羽ちゃんが扉をロックしておいてよかった。今の話は聞かれなかったよね? でも今すぐ扉を開けないとね。変だと思われるから。


 「さっきも言ったけど、今の話は内緒でお願いします。お願いね、イヨヒお姉ちゃん(・・・・・・・・)

 「はい……うん、わかったよ。緻羽ちゃん(・・・・・)


 ボクに小さな声でそう言って、緻羽ちゃんが部屋の扉に向かった。


 そうだったね。これについて『2人だけの秘密にしておく』と、緻羽ちゃんと約束したからね。


 とりあえず、(わたくし)騎士(テンソアさま)の再会の話はこれで一旦終わりだ。


今回の話は今までと比べたら特に長いので、投稿遅くなりました。


次はそろそろ1章の最後です。

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