23:お風呂は気持ちいい?
「あの……、やっぱりボク一人で入ります」
緻渚さんと一緒にお風呂に入ることがさっき(勝手に)決定されて、今ボクは緻渚さんと一緒に浴室の前の脱衣所まで入ってきた。
「今更まだ何言ってるのよ。さあ、早く脱いで」
「またですか」
緻渚さんに急かされているけど、やっぱりなんか……。
「やっぱり私は脱がしてあげた方が……」
「ボク、すぐ脱ぎます!」
このやり取りはなんか既視感だ。確かに今日トイレの時でもこのような状態だったね。
「やっぱり、イヨヒちゃんは可愛いね。白くて滑々な肌〜」
「……」
またジロジロ裸を見られている。もう2度目だから初めての時よりはましかもしれないけど、やっぱり恥ずかしい。
だけど今回のもっと厳しい課題は多分これからだ。
「じゃ、私も脱ごう」
「……」
やっぱりこうなるよね。お風呂に入るのはボクだけではないのだから当然緻渚さんも……。この人はなんかボクと一緒に入る気満々だ。
緻渚さんはもう30代であるはずだけど、まだ案外若いように見えてすごく魅力的だね。さすがチオリのお母さん。美少女の母親は美女だ。母娘揃って素敵だ。
緻渚さんのこの綺麗な肌は柔らかそうで、なんか触り心地がいいだろうね。
「触りたいなら触ってもいいわよ」
「えっ!?」
緻渚さんに心を読まれた!?
「イヨヒちゃん、さっきからジロジロと私を見ていたね」
「ごめんなさい!」
そう言われてボクは反射的に謝って目を逸らした。いつの間にかボクが緻渚さんの肌をあんなにじっと見つめてしまったから考えていたことはバレバレだよね。
「謝らなくてもいいのに。あふふ、こうやってすぐ謝るところも可愛いね」
楽しく揶揄われている。今はやっぱり子供扱い……というよりも、なんか人形や玩具扱いだ。
「あの、本当にボクに見られても恥ずかしくないのですか?」
「全然よ。むしろイヨヒちゃんの照れている顔を見て感謝してるわ」
「……」
緻渚さんは満足そうな笑顔で答えた。やっぱり、駄目だ。この人。
「一応、ボクは男だったのですが」
「でも今は女の子でしょう」
「そう言われても……」
ボクの心はまだ男のままだからね。多分。
「それにイヨヒちゃんは元から女だったよね。だから別に大丈夫よ。私は全然イヨヒちゃんのことを男だと認識していないわ」
「……」
そこまで言われたらなんか……よく説明できない複雑な心境だ。
「イヨヒちゃん、とりあえず落ち着いてね……」
「……っ!」
緻渚さんがそう言ってボクをぎゅっと抱き締めてきた。今『落ち着いて』って言われたけど、むしろこうされると逆効果だ。
ただ抱きつくだけならまだしも、今はお互い何も着ていないのだから、つまり肌と肌が触れ合っている。どの部分の肌が触れ合っているって? そんなの言うまでもないはずだと思うけど。
でも結局意外と落ち着いてきたね。こんな柔らかい肌触りと芳しい匂いと温もり……。
「さあ、もう入ろう〜」
「え……」
つい緻渚さんの腕から解放されてしまった。さっきまで感じていた温かさと安らぎは去っていく。なんか寂寥感が……いやいやなんでもない。違うよ。抱かれて気持ちよかったからこのまま続けたいとか、そんなことは別に。やっぱり解放してもらって助かったと思っているよ。本当だよ。
「あら、まさかまた抱いて欲しいの?」
「いや、違います。もう……」
べ、別に抱かれたいとか、そんなこと……。
「大丈夫、お風呂に入ったらたっぷり抱いてあげるから」
「……」
不本意だけど、なぜかまた抱いてもらえると聞いて、ボクの心の中からつい喜んでしまった。
なんかまだお風呂に入っていないのに、ボクはもうすでに駄目かも。もうどうでもいい……。
・―――――・ ※
その後お風呂の中でいろいろあって……。うん、本当にいろいろだ。緻渚さん、ボクの体でいっぱい楽しんでいた。本当に満足させたからそれでいいかも(?)……。これはボクがちゃんと役に立ったってことだよね?
何をされたって? そんなの、詳しくは……いちいち説明したらなんかあまりいけなさそうだからとりあえず割愛する。
大したことないよ(?)……。結局無事に終わったよ。お風呂の使い方も大体わかった。それと女の子の体のことも……。まあそれなりに。
それにしても、今のボクって本当に体力がないね。さっき緻渚さんに抵抗することさえできなかった。自分がすごく弱いのだと実感してしまった。体も小さくてちっぽけな存在だ。
あっちにいた時のボクなら強くて冒険に出て魔物と戦うこともできていたのにね。でも確かにあれは魔法のおかげだった。強化魔法を使って身体能力や忍耐力の上昇は何倍も可能だったから。だけどこっちでは魔法が全然使えない。ボクの実際の体力ではすごく貧弱だ。しかも今女の子になったから更に弱がった。
ここではもう戦う必要なんてないから、強くなくても大丈夫だと思っていたけど、弱い自分を見てやっぱりがっかりして悔しいよ。魔法が使えないボクなんて……。
いや、駄目だよね。今また暗いことを考えてしまった。ボクが自分でちゃんと決めた上でこの世界にやってきたのだから。今更後悔なんて……。
ここで一緒に暮らしていく許可ももらったし。緻渚さんも優しい人だし……。しかも裸まで見られ……って今は関係ないし!
でもさっき、明日も一緒に入ろうと緻渚さんから誘われた。もちろんボクは断っ……いや、実はただ断ろうとしたけど、断りきれなくて結局明日も……。まあ、こういうことだから。そんなことはどうでもいいでしょう。
とにかく大変なこともあったけど、やっぱりお風呂は気持ちいいよね。うん、変な意味ではないよ。
・―――――・ ※
「チオリ、お風呂もう終わったよ」
ボクがお風呂から上がった後、チオリの部屋に入ってきた。
「どう?」
「ふん? どうって?」
チオリの質問の趣旨はわからない。
「母さんとお風呂に入って、気持ちいい?」
「どういう意味で訊いたの!?」
別に変な意味があるってわけではないよね。確かに気持ちいいってのは本当だけど……。
「別に、冗談だよ。今何か変なこと考えてない?」
「いや、ないよ。ない」
「何? そんなに取り乱して、怪しい」
「チオリこそどんなこと考えているの!?」
「まあいいか。どうやら問題なさそうだね」
「ボクが何か問題を起こすと思っていたの?」
「何でもない。うふふ」
チオリがニコニコ笑った。どうやらボクを揶揄っているようだ。さっきボクが緻渚さんと一緒にお風呂に入ったことでチオリが不満のように見えたけど、やっぱりそんなことないか。
「今着ているのはお母さんのパジャマなの?」
「うん、やっぱりサイズが合わないよね。ボクが小さいから」
今ボクが身につけているのは水色のパジャマ。緻渚さんから借りた。彼女はチオリより小柄だけど、ボクよりまだ大きい。ぴったりのサイズがないから仕方ない。なんかちょっと大人っぽく見えるけどね。まあいいか。今夜だけ。明日一緒に出掛けて自分の服を買うことになったから。
「それより、チオリ、今お風呂だ」
ボクと緻渚さんがお風呂終わったから、次はチオリが入る番だ。
「あ、そうか。じゃ、あたしもお風呂に入ろう」
「うん、ボクは緻羽ちゃんの部屋に行くね」
・―――――・ ※
ボクは緻羽ちゃんの寝室に入ってきた。とりあえず今夜は緻羽ちゃんと一緒にここに寝ることになるよね。
この寝室もチオリの寝室と似ている。ベッドや箪笥や机が一つ。確かにベッドは2人一緒に寝られるくらい広いけど、どう見ても一人のための部屋。本当にボクが一緒にここにいていいのかな? でも他の部屋の準備ができるまでここに寝るしかないよね。
「緻羽ちゃん、よろしくね……。え?」
寝室に入ってきたら何も言わずに緻羽ちゃんは部屋の扉をガッチリと閉じて、しかもロックした。
「えーと、緻羽ちゃん……?」
何で? いきなり扉をロックするなんて、何のために? その必要があるの? やっぱり何か変だよね。
「ふー……」
緻羽ちゃんはホッとしたような顔をして溜息をした
「ついに二人きりになれたんですね」
「……?」
緻羽ちゃんの態度は今までと比べたらなんか今いきなり一変している。口調も先ほどまでとは全然違うような……。
「本当に久しぶりです。エフィユハ姫様。またあなたと再会できてボクはとても嬉しいです」
「……は?」
今は一人称やボクへの呼び方まで変わった。『ボク』って、まさかボクの真似か?
それより、『エフィユハ姫』って? これはわたくしがお姫様だった頃の元の名前だ。なんで今この名前を?
この状況、どういうこと? 今日はもうこれで終わりだと思っていたのに、結局今はまた何かが始まろうとしているみたい。
緻羽ちゃん、キミは一体全体何者なの?
お風呂の時の出来事は読者のご想像に任せます。詳しく描写したらR15になる恐れがありますので。
それより、次回です。ようやく緻羽ちゃんの出番になります。




