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20:べ、別にあの人は恩人だけど、恋とは違うんだからね

 「その後のことはチオリも知っている通りだな」


 ボクが自分の過去の話を終えた後、話を聞いていたチオリと緻渚(ちなぎ)さんと緻羽(ちはね)ちゃん3人(そろ)って悲しい顔をしている。


 「イヨヒくんがこんな過去があったなんて知らなかった」

 「言ったことなかったから当然」


 チオリがボクの過去について聞いたことがあるけど、あの時はただこの8年のことしか言っていなかった。8歳までのことは秘密だから、口に出したのは今始めてだ。なんかすっきりしたって感じ。


 「あ、緻羽ちゃん……?」


 緻羽ちゃんがボクのところに来てボクに抱きついた。彼女の目から涙が(あふ)れ出ている。ボクの代わりに悲しんでくれたのか?


 「どうしたの? 緻羽ちゃん……」

 「お姫様、辛かったよね?」


 今緻羽ちゃんはボクのことを『お姫様』って……。


 「ボクはもう大丈夫だよ。緻羽ちゃん、心配してくれてありがとうね」


 まだ小さい子供だからこんな話に敏感だよね。


 「ごめんなさい。緻渚さん。なんかボクの所為(せい)で緻羽ちゃんが泣いてしまった」

 「いや、緻羽はいつも泣いてるのよ。この年の子にとっては普通だから気にしないで。しばらくほっといてね」

 「はい」


 確かに、ボクが7歳の時もよく泣いていたね。


 「ね、あの騎士さんはその後どうなったの?」

 「え? ボクを救った騎士……テンソア様のこと?」


 なんで緻羽ちゃんがこんなことを訊いた?


 「わたくしをお師匠様のところに預けた後、どこかに行ってしまってあれからもう会えなくなった」


 今更どこにいるのかな? 無事に生きているのか? もう8年経ったけど、ボクはテンソア様のことを一生忘れることがないだろう。


 「もう一度会いたいの?」


 緻羽はまだ質問をした。


 「え? もちろんだよ。本当にできれば」


 できればまた会いたい。でもやっぱりたとえまだ生きていても今更会えるわけないよね。


 「彼のことが好き?」

 「は!?」


 なんで緻羽ちゃんはそんなことまで!? 別に変な意味ではないよね?


 「大切な人だと思っているよ」

 「これは恋?」

 「え!? ち、違うよ!」


 あの時わたくしはまだ子供だったから、恋なんてまだあまり考えていなかった。それに彼はあの時16歳だったよ。年齢は8歳離れている。彼にとってわたくしはただの親友の妹で守りたい子供にしかないはずだよ。


 それに、あの後すぐボクが男になったから、恋愛対象も女の子になってしまった。今更男の人に恋するなどと考えるだけでも……。


 そもそも今ボクの初恋の相手はチオリだよ。今他の人のことなんて考えられない。


 「イヨヒくん……?」


 あ、今つい無意識にチオリの顔に視線を向けてしまった。


 「いや、何でもないよ。とにかくテンソア様は恩人だけど、恋のことなんて全然考えていないのだからね!」


 大切なことだからチオリにはっきり言わないとね。誤解されると困る気がする。ボクの好きなのはチオリだから。本人にはまだ言っていないけど。


 「本当に?」

 「なんで訊くの!? 本当に本当だよ」


 まさかチオリも気になっている。嫉妬(しっと)してくれているとか? そうだとしたら嬉しいかも……いやいや、そんなわけないよね。ボクはつい自分の都合のいい妄想をしてしまった。みっともない。


 「とにかく緻羽にはそんな話はまだ早すぎるんじゃないかな。この話はここまでにしよう」

 「はーい」


 チオリの言った通りかもな。だって緻羽はまだ7歳だから。チオリだってどうやらもうこんな話を続けたくないようだ。チオリは恋話とかあまり興味なさそうだしね。


 「ところで、コルヒア様はあの政変(クーデター)とは関係あるのか?」

 「多分、ないと思う。8年前コルヒア様もまだ13歳の子供だったから」

 「そうか。彼はいい人だしね。そんなことするわけないよね」


 チオリはコルヒア様のこと気になっているようで、ボクに訊いてきた。コルヒア様とはあの時すごく仲良くなってきたからね。時々ボクを嫉妬させてしまうくらい……。不本意だけど、コルヒア様はボクよりもずっと強くて背が高くてかっこよくて男前だ。いや、こんな話は今もうどうでもいいけど。


 言っておくけど、コルヒア様より、ボクの方がチオリと中がいいはずだったよ。一緒に過ごしていた時間も長かったはず。同い年だし。チオリもコルヒア様のことをただの中のいいお兄さんって認識していたらしい。特別な感情なんて……。いや、今そんなこと考える場合か? とにかくコルヒア様がいい人だからチオリも彼のことを気になっているようだ。


 「別に、いいか悪いか関係ないかもしれないね。さっきも言ったけど、父上の腐敗は政変(クーデター)の原因だよ」


 たとえコルヒア様があの政変(クーデター)に関わったとしても、彼が悪い人だとは思わない。あの時の人々の認識では、父上の方が悪なのだから。


 「あれは本当のことなの? ただ政変(クーデター)をするための口実かもしれないよね?」

 「よくわからないけど、その可能性もある。実際にあの人が最初から王位を(ねら)っていたようだから」


 あの時わたくしはまだ子供だったから、よく事情を把握できるわけではなかった。だから真偽は今でもまだ謎だ。


 「あの人って今の王様のこと? やっぱりか」

 「うん、彼は父上の弟、つまりわたくしの叔父上(おじうえ)だ」


 あの人はコルヒアの父上だけど、性格や価値観はあまり似ていないようだ。


 「やっぱり、あの人はいい人じゃないよね。謁見(えっけん)の時からあまりいい印象ではなかった」

 「そうだよ。でもあれは父上とはあまり変わらない。ううん、あれはまだましかも」


 これはただわたくし個人の偏見かもしれないけど、父上も、叔父上(おじうえ)も、どっちもいい国王だと言えない。だから王座が変わってもあまり意味がない。


 「じゃ、あの政変(クーデター)を引き起こしたのは正義だと言うの?」

 「いや、そこまでは……。でも、不本意ながら、あの件は父上の自業自得でもある」

 「たとえそうだとしても、なんでイヨヒくんが巻き込まれなければならないの?」

 「それは……」


 実はそうだよね。わたくしは全然関係なかったのになんで命を狙われなければならなかったの? エフェロア兄上も第1王子だったからすぐ処分された。彼はいい人だったのに。わたくしのことを可愛がってくれて、自分が死ぬとわかってもわたくしの心配していた。


 その他の兄弟たちも、悪い人もいたけど、いい人もいた。でもわたくし以外みんなは処分されたそうだ。そんなことは理不尽だよね。でも……。


 「仕方ないことだよ。あっちでは普通のことだ。歴史の記録を読めばこんなことは昔にも何度も起こったことがあるとわかるよ」


 だからあんな場所が嫌いだよ。これもあっちから去って日本に来たくなった理由の一つでもある。


 「そんなこと……」

 「チオリ、ありがとうね。ボクの代わりに怒ってくれたよね」

 「当たり前だよ。今すぐあの王様をぶっ飛ばしたいくらい」

 「そんなことしたら、たとえチオリが勇者様でも処刑されるかも」

 「イヨヒくんのためなら全然構わない!」

 「いやいや、そんな冗談は……」


 この台詞(せりふ)はどれくらい本気なの? よくわからないけどなんか嬉しい。ボクのことをそこまで心配してくれて。でもね、そもそもボクのためにそこまでする必要なんてないはずだ。


 「言っておくけど、ボクが復讐(ふくしゅう)などそんなこと考えていないよ。そんなの意味がないから。もう過ぎたことだし」

 「でもあれの所為(せい)でイヨヒくんがあんな目に……」

 「確かにそうだけど、そのおかげでボクがお師匠様と出会って、いっぱい魔法勉強してこうやって勇者パーティーに参加できるくらい強くなった。そしてやがてチオリと出会うことができた」


 すごく大変だったけど、悪いことばかりっていうわけではない。こういう時『結果オーライ』だと考えたら納得できるかも。


 あれ? 視界がぼやっとした。いつの間にか涙が……?


 「イヨヒくん……」


 こんなボクを見てチオリが心配そうな顔をした。


 「おかしいね。ボクがこんな簡単に泣くはずなかったのに」


 さっきもそうだったね。なんでボクがこんなに涙(もろ)い? 体が女の子になって精神が弱くなった所為(せい)かも。


 「ね、イヨヒちゃん……」


 緻渚さんがボクの頭を優しく()でている。


 「あんな辛い過去だったのに、わざわざ私たちに教えてくれてありがとうね。もういいよ。私たちはもう十分イヨヒちゃんのことを理解したわ。辛い過去なんて忘れて、これからここでゆっくり過ごしていていいよ」

 「そうですね。緻渚さん、本当にありがとうございます」


 チオリだけでなく、緻渚さんも緻羽ちゃんもいい人だ。ここに来て出会えてよかった。


 「では、もうこの話はお(しま)いです」


 ボクが笑顔を作りながらそう言った。


 過去なんてどうでもいい。今ボクがこうやってチオリと出会って、日本まで付いてきたのだから。


 だからこれからは幸せになるはずだよ。そうに決まっている。


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