13:ロリでもショタでも大歓迎です
「イヨヒちゃんが16歳だと知った時に、緻織もやっぱり驚いたよね?」
チオリとボクの出会いのお話をここまで聞いたら、緻渚さんはボクの年齢のことで突っ込んできた。
「うん、母さんもすでに知ったの?」
「さっき私の部屋で緻織が入ってくる前に聞いたばかりよ。ということは、イヨヒちゃんの男の姿も今と同じくらい幼く見えるのね?」
どうやらみんなはボクのことを実年齢より子供だと勘違いするね。まあ、実際にボクの体が小さいから、そう思われたことはしょっちゅうあるし、そんな気にすることなんてない……つもりだけど、それでもやっぱり子供扱いは嫌だな。
「あの時は一応今より背が高かったけど、童顔で声変わり前だ。だからまだギリギリで『ショタっ子』って呼べるくらいだよ」
「16歳でショタってすごいわね。今はロリになってるけど」
また『ショタ』って……。実はこれはチオリからよく聞いていた単語だ。気になってチオリに意味を訊いてみたら『イヨヒくんみたいな可愛い男の子のことだよ』と答えた。チオリはこれが褒め言葉だと言ったけど、ボクとしては微妙だ。
「さすがにあの世界でも小さい子供が旅に出るのも望ましくないし。あっちで一緒に戦っていた仲間たちはみんなあたしより年上だよ。同じ16歳はイヨヒくん一人だけだから、それも仲良くなったきっかけでもある」
「なるほど、だから連れてきたのね?」
「うん、イヨヒくんはあたしの一番大切な仲間だよ」
「そうか。そういえば、イヨヒちゃんを異世界からここまで連れてきたのは、どうするつもりなの? あっちへ帰れるの?」
「あ……、それは言い忘れてたね」
そう言われて気づいた。そもそもボクがここに来た理由についてまだ触れていなかったね。だから緻渚さんは恐らくボクがただ家に遊びに来た友達だとか思っていただろう。でも本当は……。
「母さん、急な話でごめん。あたしがいなくなったことだけでも随分母さんに迷惑かけたとはわかってる。あたしが我儘だということも認めている。勝手にこんなことを決めて悪いとは思っている。でもね……」
チオリ、ボクのために精いっぱい言葉を紡ごうとしているようだけど、なんか前置きは長すぎない?
「でも、お願い……。母さん、イヨヒくんをここに住ませて欲しい」
「……は? いきなりだな。どういうことなの。緻織、もっと説明していい?」
緻渚さんも予想外の展開に唖然としたようだ。やっぱり難しいかな?
「イヨヒくんがあたしから日本のことをたくさん聞いて興味を持ち始めた。それにさっきの話の通り、イヨヒくんはあっちで身寄りが残っていない。だから一緒に来ないかって、誘った。イヨヒくんがいい子なのにあっちでいろいろ理不尽な目に遭ってずっと大変だった。あたしと出会う前にずっと一人で過ごしてきた。だから今あたしがイヨヒくんにできるのは一緒にいてくれることだけ。イヨヒくんはいい子だから。だからお願い」
「なるほどね。ということは、イヨヒちゃんがもうあっちへ帰るつもりはないの?」
「はい、実はそれだけでなく、今帰りたくてももう帰れないはずです。そもそもこっちに来ることさえ簡単に許されることではないから」
異世界転移は神様の力で行ったことだ。詳しくは知らないけど、本来なら転移の対象は勇者くらいの重要な人物だけのようだ。ボクなんかがここに来られたのは勇者様チオリのおかげだ。
「そうなの? でも、イヨヒちゃんはそれでいいの? もう故郷へ帰れないって」
「いいのです。ボクがよく考えた上で決めたことなのですから」
あっちに未練がないわけではないけど、やっぱりそのままチオリと別れたくはない。だから結局ボクがここに来ると決心した。ここに来なければもうチオリに会うことができなくなるのだから。
「でもね、もしここに住むことができなければどうするつもりなの?」
「それは……、実はあたしあまり考えていない。ただ母さんがすごく優しいからきっとわかってくれると信じていたから」
「まったく……。本当に我儘で仕方ない子ね」
「本当に、ごめん。母さんに迷惑を」
「わかったわ。そこまで言うのなら。いや、実はそこまで言わなくても。私もイヨヒちゃんのことが気に入っているからね」
「本当? ありがとう! 母さん。やったね。イヨヒくん!」
「ありがとうございます。緻渚さん」
チオリの言った通りだ。緻渚さんはすごく優しい。
「緻羽もイヨヒちゃんのことが好きだよね?」
「うん!」
「ありがとう。緻羽ちゃん」
緻羽ちゃんもボクに懐いているからどうやら問題なさそう。
「私としても、イヨヒちゃんみたいな可愛い女の子が一緒にいるのはむしろ大歓迎よ」
「え? ボクが女の子だから……ですって?」
そんな言い方だと、ボクが女の子に戻っていなければ歓迎されないかもしれないってこと? これはなんか微妙な感じだ。そもそもボクは女の子に戻るつもりなんてなかった。今また男になれたらすぐなりたいくらいだ。
「いや、もちろん、男の子でも歓迎するわよ。……多分ね。うん」
「本当ですか?」
なぜ『多分』? やっぱり女に戻ってセーフかも。
「もちろんよ。男の時でもイヨヒちゃんは『ショタっ子』だよね。ならむしろ大歓迎よ!」
それって、つまりボクが『ショタ』ではなければ全然駄目ってこと? うん、ボクがショタでよかったかも。いや、こんな理由で納得していいの?
「でも、イヨヒちゃんはもう一度男に戻るつもりなの?」
「それは……、いいえ。実はよくわかりません。でも難しいと思います」
性転換の魔法が解けたし。ここでは魔法が使えない。何よりこの魔法をかけてくれたお師匠様はもうとっくに亡くなっている。つまり、また男に戻る方法なんてあるはずがない。
「そうよね」
緻渚さんはなぜかホッとしたような顔になった。やっぱり、ボクが男に戻れない方がいいと思っているの?
「イヨヒちゃんはそれでいいの?」
「はい。もう仕方ないことですから」
思ったのと違って、これからいろいろ大変になりそうだけど、どうしようもないことだから。不本意だけど、ここに着てチオリと一緒にいられるのだからそれでいい。悔しいけど納得するしかない。
「ならいいわ。ここでは突然性転換してしまったらなんか大変だよね。TS小説の主人公みたいに」
「ティエス小説?」
これもまた小説の話?
「いや、こっちの話よ。とりあえずイヨヒちゃんはこれからもう私たちの家族よ」
家族……いい響きだ。いきなり今日知ったばかりのボクをこんなに優しくするとは。
「ボクのことを受け入れてくれて、本当にありがとうございます」
女の子に戻ったことはまったく計算違いのことだ。でもやっぱりそのおかげであっさりと歓迎されるようだ。これでいいかもね。
「でもチオリのお父さんの意見を聞かなくてもいいの?」
「父さんも優しい人だから問題ないはずだよ」
「そうよ。私が言っておいてあげるから、イヨヒちゃん心配する必要ないわ」
「ありがとうございます」
そう言われて少し安心できたかも。でも実際に会ったらどうかな? そもそももしボクがまだ男だったらきっとこれは一番の難関だ。『娘が男を連れてきた』ってことになるのだから。お父さんの気持ちを考えてみればね……。でも今女になったことで難易度が大分下がって助かったはずだけど。
「でも、もしイヨヒちゃんが男だったら、これは『婿入り』ってことになるね」
「「へぇ!?」」
「いや、冗談よ。二人とも反応はなんか面白いわ。あんなに顔赤くなるとはね」
今チオリも照れているの? ボクはチオリから目を逸らしていたから、もちろん彼女の顔が見えていない。
「母さん、別にイヨヒくんはただの友達だよ。あたしの大切な友達だ。そして今は弟でもある」
「……っ!」
友達……。ただの友達……。弟……。まあ、それはそうだよね。それ以上でもない。
「イヨヒちゃん、どうしたの? 溜息吐いてるわね」
「いや、何でもありません」
今ボクがつい溜息を吐てしまったか。
そもそもなんで『友達』だと言われて落ち込む必要があるの? 本当のことなのにね。
大体チオリはボクのことなんて友達や弟以上思っているわけではないはずだよね。更に今は弟ですらなく、妹になったし。ボクは勝手に楽観的に脈ありだと思い込んでしまった。もう現実と向き合わないとね。
でも……。それでもやっぱり……、ボクはまだ諦め切れないのだ。
とりあえず、こうやってチオリと一緒に暮らすことができたから、これからだよ!




