12:十六歳でこんなショタっ子だなんて反則だ ◎
やっと意識が戻ってきた。気がついたら、ボクは緻渚さんの腕から解放された。あの温かい体感は離れていった。
先ほどの声と感覚は何なの? いきなり頭の中に……。会話の中に出た2人は誰? どういう関係? でもそれはボクには関係ない話のはずだ。思い出そうとしてみたら、何か浮かぼうとするようだけど、結局思い出せない。
「……サチちゃん」
ボクはついさっき聞こえた名前を小さい声で口に出してしまった。『サチちゃん』って誰? それに、『シオリ』って?
「イヨヒちゃん……?」
「イヨヒくん……?」
心配そうな緻渚さんとチオリの声が……。
「緻渚さん? ごめんなさい。話の途中なのにいきなりボクが」
そうだ。さっきボクが突然泣いたから雰囲気が陰気くさくなって話は途中で止まってしまった。
「わかってるよ。この話はイヨヒちゃんにとって深刻なこと。だから無理しないで」
緻渚さんはボクに気を遣ってくれた。
「話の続きは止めようか?」
チオリもボクに気を遣ってくれて、話の中断を提案した。
「ううん、続きをしていいよ」
そもそも今話しているのはチオリのことだから、ボクの所為で話が進まないのは悪いよ。とにかく話題を戻そうとした。
「わかった。そういえばさっきあっちの世界の人たちの話をしていたね?」
「その前に緻織があの神様と神官長に会ったことね」
「じゃ、次はあたしが神官長と話した後のことだね。その後は一緒に戦う仲間を紹介してもらった」
「緻織の仲間たちはどこから来た人なの? 旅の途中で出会うとか?」
「途中で仲間に加わる人もいるけど、一部の仲間は帝都ウハリレン市から一緒に出発した。イヨヒくんもそうだった」
「帝都? ウハリレン市?」
「うん、帝国の首都のこと。そういえば言い忘れたけど、ボクが召喚されたのはフレイェン帝国という国。そしてウハリレン市はあの国の首都で一番大きい都市」
「そうか。あっちでもいろんな国があるよね?」
「そう、魔王の拠点である魔王城が遠い場所にあるから、魔王討伐の旅の途中でいろんな国を通ったよ。その国の人が仲間に加わったこともある」
「国々の間で関係はどうなってるの? 仲がいいの?」
「うん、協力している。魔族のような強敵がいるから人間同士で争っている場合じゃないからね」
「共通の敵が現れたら、人間は争いを止めて一緒に協力し合うってのはよくある話だよね」
「まあ、そんな感じ」
「イヨヒちゃんも、あのフレイェン帝国の人?」
緻渚さんは話をボクに振った。
「はい」
「そういえば、さっきイヨヒくんは自分がフレイェン帝国の元王女って言ったよね?」
「まあ」
さっきも自己紹介しておいた通り、わたくしの名前はエフィユハ・フレイェン。『フレイェン』ってのは名字で、そして帝国の名前でもある。
「あ、ごめん。やっぱりまだこんなこと触れられたくないよね?」
ボクが無意識に暗い顔をしたから、またチオリに気を遣われた。
「いいよ。でもあれは昔捨てた身分だ。その後ボクは田舎に行ってあそこで育ってきた。帝都に戻ってきたのは4年前だ」
「でも、なんでわざわざ戻ってきたの?」
「学校に通うためだよ」
あの時ボクの正体は誰にもバレていなかった。完全に別人として戻ってきたからね。あの時ボクはただの上京した田舎者だった。
「イヨヒちゃんは学生だったの?」
「はい。あの時、ボクが帝都の国立師範学院に通っていたが、突然の魔王復活の所為で授業は中断されて、学生たちも帝都の戦士たちと一緒に魔物と戦うことになりました」
「学生でも戦いに参加するなんて大変ね」
「強制的ってわけではありませんけど」
「自分で志願したの?」
「はい。そしてその後ボクは神殿のお方から推薦されて、勇者様……チオリに紹介されました」
というわけで、チオリと出会った。話がここまで来たら、語り手はまたチオリに戻るね。
「うん、こうやってあたしはイヨヒくんと出会うことができたね」
「2人の出会いって、どんな感じだったのかな? 聞きたいわ」
「じゃ、次はあたしがイヨヒくんと初めて会った時のことの話」
そしてチオリは自分の異世界物語を語り続けた。次はボクと出会った時。あれはボクにとって運命の出会いだったね。
チオリはボクのことをどんな風に描写するのかな? 今ボクはなんかつい緊張してきた。聞きたいけど、自分の話になるとなんか恥ずかしいかも。
・―――――・ ※
この世界のことや勇者としての役目について神官長に説明してもらった後、神官長はあたしを他の部屋に連れて行った。
「勇者様の仲間の一人を紹介します」
そう言って神官長は一人の少年を紹介してくれた。まだ若くて、外見から見ると多分……12~13歳くらいかな? 外見は中性的で女の子のようにも見える。髪の色は綺麗な白銀色だ。格好は薄い水色のシャツの上に、紺色のローブ。
「この子は、勇者様と一緒に魔王と戦う仲間の一人です。それと、案内役も。この子はこう見えても優秀な魔道士です」
魔道士か。確かにこの少年の格好から見れば大体こんな感じだね。彼はあたしと目が合うと驚きそうな顔をして一瞬目を逸らした。
「ボクはイヨヒと申します。えーと……勇者様」
イヨヒ……。名前はあたしとちょっと似ているね。
「あたしは稲根緻織、『チオリ』って呼んでいいよ。はじめまして」
また勇者様と呼ばれたな。これはなんか恥ずかしいから止めて欲しいね……。
「は、はい。はじめまして……」
彼の声はちょっと震えている。なんかこの子は喋ることが苦手かな? 人見知りで自信なさそう。ずっと暗い顔をしてあまり目を合わせてくれない。
でも可愛い男の子だ。弟になって欲しいくらいって感じ。笑顔になったらもっといけるはずだと思うけど、今のままではクールな美少年って感じだよね。
「これからよろしくね」
「はい。よ、よろしく……です」
反応や態度が堅苦しいな。表情も薄くてよくわからない。
「イヨヒ……くん? 魔道士なの?」
「はい……」
「すごいね。まだこんなに小さいのに。年齢訊いてもいい?」
確かに年齢を訊くことは国の文化によっては失礼な行動だと見做されることもあると聞いたが、子供なら普通は問題ないと思う。
「……ボクは……16歳……です」
「16歳? キミは!? てっきり……」
てっきり12歳くらいだと思った、と言い出そうとしたけど、口に出さない方がいいかなと気づいたから止めた。
正直言うと、小学6年生だと言っても信じるくらいだと思った。顔は若く見えるし、身長も150センチ前後。あたしより10センチくらい低い。
16歳でこんなショタっ子だなんて反則じゃないの!?
「ごめん、年下だと思っていた」
「……っ!」
一瞬彼は不機嫌そうな顔でこっちに視線を向けて、またすぐ目を逸らした。
「あたしも16歳だよ。同い年だから敬語は使わなくていいよ。名前も呼び捨てでいい。友達になろうね。イヨヒくん」
せっかく同い年だから友達として接した方がいいよね。
「いいえ、勇者様にそんなことはできません」
もっと仲良くなりたいのに、どうやらあっさりと断られたね。何だか告ってないのに振られた(?)って気分だ。
イヨヒくんの最初の印象は、いい子であるはずなのにずっと寂しそうで素っ気ない顔をしているね。
その後は帝都の中の案内をしてもらったり、一緒に買い物したりした。当初イヨヒくんは、あたしが何を訊いても短い言葉しか喋らなくて、あまり自分から話しかけることはなかった。
しかもあたしのことを『勇者様』と呼んだり、敬語を使ったり、距離を取ったりしていた。
でも時間が経てば、イヨヒくんは少しずつ変わってきた。今になって砕けた感じでタメ口で喋り合って、あたしのことを『チオリ』って呼び捨てにするようになって、自分からたくさん話しかけてきて、いろんな感情を現すようになってきた。




