待ち人来たりていざ行かん!
時刻は10時。場所は学園正門前。
うん、合ってるはず。確かに待ち合わせはそう聞いたと記憶している。
校門側には大きな時計台があり、時刻がすぐわかるから生徒には非常に助かっている。
カチッと時計の針が10時20分に進んだ。
(遅いなぁ)
二人共に何か用事ができたか、はたまた二人仲良くお寝坊さんか。まさか待ち合わせ時間を間違えちゃいないよね。
オルレア先生ならすべてありえる可能性はあるが、ブルー先生もとなると余程のことがあったのかと考えが及ぶ。
生徒は寮から出発するためこの学園の正門は通らない。誰も通らぬ中、ただそよ風だけ心地よく肌を撫でる。
そろそろ待ち時間20分というところで学園側より人影が現れた。
「ごめん!ちょっと遅くなった!」
待たせたね、と駆け足で現れたのはオルレア先生。
「あれ?ブルーは?」
「まだのようです」
え!?あいつが!?と驚きすぐに何かあったかな…と思慮深く学園側に目を向ける姿は二人の信頼度を垣間見た気がした。
「それにしてもカノンちゃん」
オルレア先生の目がじろじろと私を見るなり「今日は派手だね。」と感想を言われた。
あー、このギャル色ポンチョのことかな。山覇者の服は見た目地味系機能重視だが、確かにこのポンチョはなかなかにこの世界では見ない配色かもしれない。
「遅いぞーブルー!!」
「すまない、待たせた」
30分遅刻でブルー先生がやってきた。自分の事は棚に上げてブルー先生を責めるオルレア先生に、どの口が言ってんだと視線を向けておく。
「急用が入ってな……………」
言葉を切って私を目に納めるなり、「派手だな」とブルー先生までも私のファッションチェックをしてくる。
ブルー先生もオルレア先生も普段と違い動きやすそうな旅着だが、見るからに質の良さそうな生地のためとても品のある服を着こなしている。そこに私みたいなギャル色満載のポンチョ女子がいるととても浮いてみえる。
「さて、行くか」
ブルー先生がロッドを取り出し静かに集中しだすと、心得たとばかりにオルレア先生が前側に寄り添う。それに習い私もブルー先生の背後に寄ると、ブルー先生の肩越しにオルレア先生が意味ありげに目を細めた。そんなにこのポンチョが似合わないのだろうか。
晴れ渡る雲ひとつない青空に突如として現れた巨大な山、これがエンジェルマウンテン。壮大な山にのみこまれるようにポツンと現れた集落。
ブルー先生の移動魔法であっという間についてしまったのは、ジニアムードという名の小さな村。
山の麓というのもあり、森の中にひっそりとあるようだ。木材でできた控えめな建物が点在していて、住人の笑い声があちらこちらから聞こえる。
「酒場に案内人がいるはずだ」
酒場を探して道を進むと、狭い集落のためすぐに目的地は見つかった。お酒の看板が掛かっていて分かりやすい。年期の入った扉を開ければ、真っ昼間だというのに賑やかで繁盛しているのがわかる。
酒場で待ち合わせしているのは山を登るための案内人レンジャーガイド。山に詳しい山男はどんな人かな?
「こっちだ!」
よく通る声が聞こえたと思ったら、ブルー先生が店の奥へと進んで行き私達もそれについていく。
「遠路遙々よく来たな!俺はルー・キスニングだ。ルーでいいぞ!よろしくな!」
「お世話になります。ブルー・イグラッドです」
レンジャーガイドさんは2mは有ろうデカイ図体にもじゃもじゃお髭という見るからに山男然とした見た目だ。森で出会ったら熊と見間違いしそうだ。
握手を交わし簡単に自己紹介が済んだら早速本題に入った話が始まった。
「依頼では魔法石の採取だったな」
「はい!私の剣にはめるサイズの魔法石がどうしても必要で、報酬金はいくらでも構いませんのでどうか手を貸していただきたい」
なんとも金持ちオーラ満載なオルレア先生の太っ腹発言に、ひゅう♪なんてチャラ男みたいな反応の熊男ルーさんがアンバランスでウケる。
「魔法剣に使うサイズなら、まだ比較的採取が可能だな。たまにあり得ない強欲依頼者もいるから相手するの大変でなぁ」
魔法石は欠片でもなかなかのお値段がする。魔法剣に使うサイズともなると一般市場では平民には手も足も出ない。
高価な魔法石は採取者、仕入れ業者、販売者、関わる者全てに利益しかない。
どこの世界にも強欲者はいるもので、悪どく利益をあげる者も少なくないだろう。
ここエンジェルマウンテンは数少ない魔法石の採取場で、魔法石目当ての客も多いのだという。
「俺の仕事はあくまで魔法石のある場所までのガイドだ。採取はノータッチだからな」
頑張れよとウィンク一ついただいた。
「出発だけどな、あんたら今着いたばっかりだし今日は一晩宿屋に止まって明け方早めにってのはどうだ?」
「そうですね、一先ず宿屋に手続きしてきます」
「ああ、それがいい。旅人で満室になる前にな。俺はまだここにいるから行ってくるといい」
山に登りだしたら勿論野宿生活が待っている。一晩だけでもベッドで休めるのなら、身体のためにも宿屋に泊まりたい。
ルーさんを酒場に残して私達は宿屋に向かうことになった。
宿屋は二軒先にあり、こちらも旅人がちらほらと見かけられる。
「いらっしゃい」とニコニコ迎えてくれたのはふくよかな女主人。
「すみません早朝まで三人なのですが、二部屋に分けて借りることはできるでしょうか?」
どうやら私と先生二人で別部屋をとってくれるらしい。密室に男性教師二名と女子生徒一名になるより、それくらいの配慮は当たり前か。
「二部屋…そーさねぇ、ああ!早朝までだね。それならお嬢さんだけ申し訳ないけど相部屋大丈夫かい?」
私の身体的には女性と相部屋はまずいが、体裁的に男性教師と女子生徒が相部屋よりは致し方がない。
「私は大丈夫です」
「すまないね!じゃあ先に入っているお客さんに話を通しにいこうか」
女主人を先頭にカウンター脇の階段を登っていく。歩く度にギシギシと鳴るのがこの建物の古さを強調している。
二階に上がって203号室のところで先生達は案内され、私は斜め前の209号室のドアの前へ。
コンコンと小気味良い音をたて、女主人が「ちょっとお客さんごめんなさいね~!」と中に声かけた。
反応がない?留守なのかな。
もう一度女主人が控えめにドアをノックし「エクスドさんいるかい?」と幾分優しく声をかえなおした。
するとカチャ…と数センチドアが開いた。
「休んでいるところすまないね。お兄さんいないけどちょっと話をいいかい?」
「…………」
私からはまだ姿は見えないが、女主人の話し方から相手は子供なんじゃないかなと思う。
相部屋の件を伝えて了承をとること数分。
「じゃあ自己紹介だね。えーと、」
「カノン・サークレットです」
「そしてこちらがキミル・エクスドちゃんだよ。本当はお兄さんと泊まってるんだけど今はキミルちゃん一人お留守番中でね」
女主人がこちらに話をふると、静かにドアが開いて部屋の住人が姿を現した。
居心地悪そうに両手を胸の前でもじもじするのは私の胸まで位しかない少女だった。
相部屋っていうくらいだから女であろうことは想像できたがまさかこんなに幼い子供が宿屋に一人でいるとは。兄不在のお留守番とはいえ、宿屋に一人残すには少々心もとないな。
なかなか顔を上げてくれない少女に少しでも安心してもらえるよう、少女の前に行き体勢を低くして顔を合わせて声をかけた。
「はじめまして、カノンだよ。朝までだけどお部屋にお邪魔していいかな?キミルちゃん」
キミルちゃんより低い位置から覗きこむように声をかけたら、大きな目がびっくりしたように見開いて可愛らしい顔を見せてくれた。
「キミル…です」
ポツリと返された言葉によろしくね、と笑いかけながら何時もの勝手にプライバシー侵害が現れるのに内心大声をあげた。
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キミル・エクスド 11歳
チェイス・エクスドの妹 隠しキャラ
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攻略対象キャラの妹かーーーーい!!!!
今年もこの聖女裏コンを
読んでくださった皆様、誤字職人様
ほんとーっにありがとうございました!
感謝感謝で今年も過ぎることができ、幸せでございます!
来年もまた、
鈍行更新にお付き合いくださればありがたいです!
よろしくお願いいたします!
(*^▽^*)