連休開始
というようなことを夕食前にしたはずなのだが、夕食時にはエルフェンとトーランがすでに学園を出た話で女子が盛り上がっていた。
もしかしてあの2人は特訓するために早く帰ったんじゃないだろうか。ヤル気満々すぎる。
家が遠い生徒は夕方には学園を出る者もいるようで、男爵令嬢のマーガレットもその内の1人だった。マーガレットの家は南方の農地が多い地方らしく、「ここと違ってとてものどかな田舎なの。」と笑っていた。
明日帰宅組のセリスとパールは、場所は違えど学園からはさほど離れていない町に住んでいる。ゆっくり歩いても半日程で産まれ故郷に着くそうだ。久々の家族との再会を楽しみにしている2人はとても嬉しそうに家族の話をしてくれた。
セリスは母1人子1人のシングルマザー家庭。1人母を残して学園に来るのはかなり迷ったそうだ。
「でも勉強して将来的に稼げる職につくのが一番親孝行かなと思って。」
セリスは将来設計をしっかり考えられる子だ。これならお母様も安心して1人送り出すことができただろう。
パールは正反対に父母兄姉弟妹と大家族家庭。平民ながら父親は稼ぎの良い有能大工、母親は自家菜園で家計を支え、兄も姉も成人し働いて家族を助けている。
「私は真ん中だから結構自由にさせてもらえるの。自慢できる程の魔力じゃないけど、せっかく学園に入る機会をもらえたから反対されたけどおしきっちゃった。」
のんびりした印象のパールだが、結構自分を通す強い部分もある。
自分の高校時代はどーだったかなぁと思い返すと、文系だったから何となく大学行って教職とるかなぁくらいのノリだった。あまりしっかりした考えの持ち主ではなかった。お恥ずかしい。でも教職ついてからは生徒に日本の良さの詰まった国語の魅力を伝えたい欲求に基づき、頑張って教師をやっていたと思いたい。
程好くお風呂で温まった身体がふかふかお布団にくるまれ、極楽気分で明日の予定を確認する。
朝10時頃に学園の校門で先生達と落ち合う、ブルータクシーで麓の村に飛ぶ。
問題はその聖属性の魔物だなぁ。明らかに私狙いでくるから。
うーん、むしろ私はエンジェラスホイホイと化して別行動…意味ないか。
色々戦いのシュミレーションしてみたけれど、普通が一番、なるようになるだろうという結論に達して寝ることにした。
この身体になってびっくりしたことの一つに、眠りに入るのがとても早いことだ。ベッドに入って素直に眠りに入る健康的な身体のつくりには羨ましいやら、我が事なので自慢な部分であったりする。
明日は今までになく遠出となる。ちょっとした遠足気分で心うきうきながらも、既に眠りについた私は意識を手放すのだった。おやすみなさい。
チュンチュンチュン
チュンチュンチュン
いつもの朝のルーティン。きっと雀だろう鳥の姿を思い浮かべ、鳥の囀ずりに意識を覚醒させる。いつかその恥ずかしがり屋の鳥と会えるといいなとぼんやり思う。
寝そべったまま身体をのばすと、「ん゛~」と自然現象で出る声は仕方なし。
空席がいつも以上に目立つ朝食、家に帰る安心からか皆声も弾んで賑やかな朝だった。
「もうマーガレットは家についたかな~。」
「夜通し移動って言ってたよね。南のサンクラーナ地方ってどのくらい距離あるんだろう。」
「あら、知りませんの?サンクラーナ地方といえばここから約10000キロ南方の農業発達地方ですわよ。」
「この国の食料の半数はサンクラーナ地方で流通を占めるのですわ。」
いつもは隣にいるマーガレットが居ないため、石川2号3号の2人も話に加わっている。
故郷はのどかな田舎とマーガレットは言っていたが、話を聞くに農業のとても盛んな地方ということ。マーガレットの穏やかで広い心は、そういった豊かな環境に育まれた故だろう。
「ねぇ、カノンはいつ学園に戻ってくるの?」
「最終日には…帰ってると思う。」
話を聞けばそれぞれ学園に戻る日も違うようで、セリスとパールは1日余裕をもって戻るらしい。マーガレットのように遠い地方の生徒は連休最終日の夕方到着する予定の生徒が多い。
私の答えを聞いて「そっか、カノンもマーガレットも遅いのかぁ。」と一階組は寂しそうにしていた。
今回私は危険戦闘地への遠出だ。一応ブルー先生は最終日に帰ると予定していたが、それは予定通りいった場合の話。皆の帰省とはまた違うからアクシデントがないとも限らない。移動手段がブルータクシー魔法でひとっ飛びだからそうそう連休延長とは考えにくいけどね。
「連休明けは皆さん体調を崩しがちになると聞きますわ。」
「あまり羽目を外さないことですわね。」
チラチラと視線を感じるのはきっと平民生徒である私達を心配しての言動だろう。わかるぞ、君たちの云わんとするやさしさ。石川2号3号も平民だからと卑下してこない優しい子達だ。私の視線が煩かったのかゲフンゲフンと二人に目を反らされてしまった。
食後すぐにセリスとパールは出るというので、食事を済ませ2人の荷物を取りに部屋まで一緒に行った。私はもう少し時間に余裕があったから、そのまま寮門の所までお見送りをすることにした。
「2人とも道中気をつけて。」
「うん!」
「いってきまーす!」
カノンも十分気をつけてね!無事帰ってきてよね!と念をおされ、可愛い友達と暫しの別れを惜しんだ。
次々と寮から出てくる人波も増え、皆一様に笑顔なのを見て微笑ましく眺める。
もう鈴木羽織として自分の家に帰ることは無いのかもしれない。それに少しの寂しさはあれど、今のカノン・サークレットとしてはどうなんだろう?カノンは生家はあれど親はいない。家に帰れてウキウキな感じにはならない気がする。あ~ダメだ。まだカノン・サークレットに入りきれてない自分をたまに感じる。自分なのに他人の器にお邪魔している歪な感覚。
「どうしたの?」
急に意識を引き戻されたのは優しい声。は、と息を一つして声の主と目があった。
「あ…アクアリータ、様。」
引きずり込まれそうな葵の色。こちらを心配する瞳に「まだ頭が寝ぼけてるようで」と返しておく。アクアリータはその要領を得ない言葉に訝しきながらも「そう。」と返してくれた。
アクアリータはお付きのメイドさんと一緒に寮を出ていく所みたいだ。鋭い眼をしたメイドさんは相変わらず隙がない。
「いまからですか?お気をつけて。」
「…あなたも。」
では休み明けに、と一言二言しゃべりアクアリータを見送った。
ふぅ、やはりアクアリータは他の生徒と違って接するのに少々緊張感が生まれる。なんせ公爵令嬢の名は伊達じゃないオーラがすごくするのだ。それこそ視線の動きかたから所作の至るところまで気品に溢れている。まだ15歳なのにたいしたものだ。
私がボーっとアクアリータを見送っている間にも、次々と生徒達が寮から出ていく。自分の準備もあるので、人波に逆らい寮の中に戻ることにした。
寮の入り口扉を潜った時、今度は前方からミューンがメイドさんを引き連れて歩いてきていた。
私を見つけるなり笑顔で駆けてくるミューンを真正面で受け止める。ミューンは結構スキンシップが高めな女子だ。
「カノンおはよー!」
「おはようミューン。」
ミューンもかなり位の高い爵位の人間だが、元来の人懐こい性格からか比較的コミュニケーションがとりやすい。
「カノンと暫く会えないの寂しいな。」
私より少し高いミューンが真正面から可愛さの極地を仕掛けてくる。
深い瞳の色のアクアリータとは違い、ミューンの瞳は色素の薄い鳶色だ。
「数日の辛抱ですわミューン様。」
にこにことミューンの後ろで宥める言葉を発するのはレーモンド家のメイドさん。「初めましてカノン様。私ミューン様付きのメイドでササラと申します。お見知りおきを。」と挨拶されてしまった。
「こちらこそ。よろしくお願いいたします。」と無難に返すと、さらに笑みを深くしてこちらを様子見しているようだ。
さすが選りすぐりのメイドさん、一同級生の名前も確認済みとは。この人も侮れない頼もしさがある。
「ミューンも元気で6日後に会おうね。」
「うん!カノンも休みの間じゅーぶん!気をつけてね!」
きっとよ!と、これまたこちらの身を案じる言葉をいただいた。今日で何人目だろう気遣いに感謝する。
「ミューン様そろそろ行かれませんと。」
「わかったわ。」
尽きない話に休止符を打たれ、渋々ながらミューンも寮を出ていく。
今生の別れか!とつっこまれそうなくらい、見えなくなるまでお互い手を振るのが可笑しかった。
数ヶ月ぶりでございます!
まだ色々悩み中ではありますが、距離はキロメートルで。
とりあえず今のところはですね~
うーん、どーしようかな