パワフル聖女
ちょっ、ちょちょちょっっ!!
「聖女の証…ですか?」
ちょーっと内心滝汗ながらもなんとか平常声で答えることができた。持ってますけどぉ!持ってますけどねー!
私は女優!女優は焦りを気取られたりはしない!と暗示をかける。
「ディアラ先生が持っていたネックレスですよね。」
あくまで惚ける選択をし、ディアラ先生に同意を求めるように声をかけると、額に手を当て「はぁ~っ」と深いため息を吐き出していた。
ノリア先生は「え?聖女の証?この子が?」とお母様と私を交互に見て困惑気味だ。
「そう、これね。」
ネージュさんが自分の胸元から取り出したネックレスを見せてくれた。チェーンの先には勿論『聖女の証』である石がつけられている。
(髪色と同じオレンジ色だ。)
私の石は髪色と同じプラチナピンクだった。そういえばディアラ先生も自分の髪と同色の琥珀色、なるほど、『聖女の証』の石は自分の髪色と同じになるのか。
「ほんっとネージュは…、直球すぎるのよ。もっと順序ってものがあるでしょ。」
「ディアが回りくどすぎるのよ。」
どういうことかネージュさんには私が『聖女の証』を持っていると思っているらしい。
持ってるけどね。持ってるけどアイテムボックスに入っているから取り出さないかぎりバレることはない。うーん、背徳観。
わざわざここでカミングアウトするメリットも見当たらないし、しらを切り通す道を私は選んだ。
「お母様、彼女が聖女であるということですか?」
「小結界を扱えるという情報と魔力の未知数の高さだけで聖女と断定はどうかと思うけど、事前情報無しでもこの子は…」
穴が開くほどとはよく言ったものだ。大きめの透き通るような色の瞳で凝視され、危うく自白しそうになる小心者の心臓がばっくんばっくんである。
「強そうなのよ。」
何を言われるかと構えたら、お褒めの言葉だった。
「ネージュの場合動物的勘よね。」
「伊達に修行の旅に出てないわ。でもディアもなんとなく思ってるんでしょ?この子実は聖女の証持ってるんじゃないのって。」
なんですと?そうなんですかディアラ先生。
「まぁなんとなくね。」
この世界の聖女とやらはなんとなくで聖女を嗅ぎ付ける能力があるのか。
首を横に振ることで静かに意思表示したら、ノリア先生が「さすがに聖女の証を持っていないようですよ。」とナイスアシストをしてくれた。
「そーゆーことにしとくわね。ま、持ってないにしろ時間の問題でしょうけどね。」
完全に疑っているなネージュさん。
この先輩聖女は女の勘で要注意認定だ。
どちらかというと、ディアラ先生の方があっさり「さすがにね~」と引いてくれるのに対して、ネージュさんはこの先ずっと私を疑った目で見てくる気がする。自白しないかぎりはバレることはないと思うのだが、聖女の身で修行の旅に出かける脳筋さはとても危うい人物だ。
「もう少し喋っていたいんだけど、もう私行かなきゃ。」
忙しい身の上なのだろうに私に会うだけのために時間を割いてくれたようで、一先ずは挨拶だけで終わってしまった。
「ノリア、またしばらく空けることになるけど旦那様と屋敷のことよろしくね。」
「はい、任せてください。お母様の大切なお務め、お父様もわかってらっしゃいます。安心してお務めに集中してください。」
ノリア先生の家は母親が単身赴任で家を空けるのが常といった雰囲気かな?ハリーズ伯爵はきっと働く女性に理解あるできたお方なんだろう。
「時間とらせたわねネージュ。身体には気をつけてね、いってらっしゃい。」
「ふふ、ディアもね。じゃ、またそのうち!」
「送ります。」というノリア先生を伴い、ネージュさんは賑やかに帰っていった。
増える聖女の輪。きっとまた本当にそのうち会うことになりそうな予感。
「ネージュさんってもしかして、お城に一日中勤務しているのですか?」
「え?そうね…。まぁ、ほぼ一年中といったほうが正しいけど。」
「うわぁ。」
正直な感想が出てしまったがディアラ先生も同じ意見なのか微笑で流してくれた。
一年中ってどんだけブラック企業なんだ。首都防衛を一人に任せて縛りつけるとは、労働組合に訴え案件じゃないか。
明るいネージュさんからはそんなに悲壮感を感じはしなかったが、家族はどうなんだろうか。子供は立派に教師にまで成長してるとこを見ると家庭環境に問題はないようだが、理解と本心は別物だからねぇ。
「ところでカノンさん、ブルー先生に聞いたんだけどエンジェルマウンテンに行くの?」
「はい。明後日の昼頃ここを出るようです。」
「エンジェラスという魔物の説明は受けたかしら?」
「はい。図鑑を見せてもらって、魔物唯一の聖属性で味方を回復してまわると聞きました。」
「そうね。あと、もう一つ注意というか…エンジェラスの性格なんでしょうけど、何故か仲間以外の聖属性の相手に攻撃が集中しやすいの。」
それは初耳である。
エンジェルマウンテンに行くパーティーメンバーは私とブルー先生にオルレア先生。となれば明らかに私狙いで攻撃されるのが決定したようなものだ。
「あの2人がついているから大事には至らないと思うけど。元々あの山は危険地帯でもあるし充分注意して、他人だけじゃなく自分の回復にも気を回さないとダメよ。」
カノンは魔力的にも物理的にも攻撃力はかなりのモンスターではあるが、ディアラ先生は私の戦闘場面を見ていないから純粋に心配をしてくれている。
今生若干15年目の少女の心が感動しております!
実際親無しの身の上だからディアラ先生くらいの女性は母親を思い出される。こっちに転生してから親の顔を見ていないけど、カノンの記憶としてくっきり甦る親の顔は二人ともとても優し気に笑う。
「女の子なんだから無茶はしないようにね。」
「ありがとうございます。」
ディアラ先生からありがたい情報をもらい、自分に不利な敵がいるのに教えもせずパーティーメンバーに組み込む無慈悲なブルー先生め!!と脳内で非難しておく。
そもそもの元凶は私の魔力が高すぎるために起きた魔法石と剣バラバラ事件。人の物を壊した私が悪いのは認めるが、填まっていた魔法石もちょっとデリケートすぎないか?もう少し根性出してほしい。採りに行く魔法石は是非とも根性のあるものを選らばなければ!!
年初め投稿!
本年もゆったり投稿ですが、皆様よろしくお願いいたします!