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知らぬは本人ばかりなり





(な~んか疲れた。)


 今日は色々あったな~、と寮の自室のベッドに直行しボフンとふわふわ布団にダイブした。


(うわ~寝そぉ~)


 緩慢に胸リボンをゆるめ、ボタンを一つ二つとはずしていく。重ダルい心地の中、今日の出来事を走馬灯のようにめぐらせる。


 合同授業はまだ何回もあると言ってたな。席は属性別だから基本ミューンの隣になるだろう。そのたびにトーランにいちゃもんつけられるのか、めんどいなぁ。


(そういえば結界…)


 結界魔法を使ったのは今日が初めてだったが、魔法自体はちゃんと対象者を守る役割を果たしていて機能していた。

 ただ気になるのは、今日結界を張った3人の女性のうち3人共セクハラ結界にあっていたということ。唯一男子のローシュだけ被害のない結界だった。

 いやいや答えを出すのはまだ早い、男女共にある程度数を試してみないと確実な話ではない。

 正直結界魔法を使わなければこんなに後ろめたい思いしなくてすむのだが、この世界観的にそうもいかないだろう。



(それにしても今日1日で攻略対象キャラと関わりすぎ。)



 攻略対象キャラにもれなくついてくるライバルとなる悪役令嬢も今日は勢揃いだった。

 まったくもって悪役な令嬢じゃない令嬢ばかりで今のところは心配ないが、どっちかというと攻略対象のトーランの方が悪役令息といったかんじだなと、嫉妬丸出しの顔が思い出されて乾いた笑いがでた。

 嫉妬といえばラムーシュもなんだかその気があったような。独占欲の強い男ばかりだな。

 エルフェンはどうだろう?私がアクアリータと親友なんてポジションに立ったら敵とみなされるのか。エルフェンは皇子様なだけあってそんな醜態じみた態度はとらない気もするが、思春期の男子というものは血気盛んな時期であるから油断はならない。


 基本攻略対象と悪役令嬢は懇意の状態でスタートなんだろうか。婚約者の間柄だから仲が悪いわけはないか。

 そこに三年かけて攻略対象キャラと仲良くなり、最終的にはヒロインにメロメロとか、悪役令嬢目線でいけばなんだそれな案件である。

 アクアリータにもミューンにもエレアにも幸せになってほしい。そう思うくらいには私も彼女達には好印象をいだいている。元々教師だったせいと彼女達より中身年齢が高いせいというのが多少の要因になっているのだろうが。 




(あ~、急に思い出した。聖女のしるし…)




 アイテムボックスのウィンドウは~、えーと、これだ。

 聖女であるディアラ先生にお近づきになったのは収穫だった。聖なる力を持つ存在というぼんやりした認識が、ディアラ先生の話で聖女の立ち位置というものが明確になった。

 

(これか。)


 アイテムボックスより取り出した【聖女のしるし】は、雫型の薄紅色をした宝石にチェーンがされたシンプルなネックレスだった。

 ディアラ先生のとは宝石の色が違うなぁ。

 証明に照らされた宝石がキラキラと光を放つのを眺めていたら、本格的に眠気が襲いかかってきたのを全身で感じた。

 

(夕飯まで一眠り、しようか…な)


 今とてつもなく眠りが襲ってくるほどの疲れを体感している。疲れというより気疲れが勝っているが、今日1日頑張ったなとご褒美の缶チューハイ…は無理なので砂糖たっぷりな甘くて美味しい紅茶をあとでゆっくり飲むとしよう。

 ふかふかベッドの力も借りてそのまま大の字で意識を眠りの底に手放した。
























コンコンコン











コンコンコン











 程よい耳心地の良い音。









コンコンコン









 木の音色だ。










コンコンコン










 規則正しく鳴る音が心地良い。















「カノーン!大丈夫?具合悪いの?」 








「うあっ!!??」




 セリアの声で目が覚醒し、勢いよく起きあがった。

 再度響くドアを叩く音にせかされ、そのままドアの方にヨロヨロと足取り怪しく来客を迎えにいく。

(は~、めっちゃ熟睡してた。)

 急な目覚め特有の頭の回らない状態でドアを開けると、真っ先に空腹を刺激する匂いに目が釘付けになった。

(ご飯の匂いだ。)



ぐぅぅぅ~



「やだカノン、お腹空いてるんじゃない!どうして夕食来なかったのよ。」


「心配したのよ、待っても待っても来ないから。」


「体調悪いの?お薬もらってきましょうか。」



 夕食を乗せたトレイを持ったぷんぷんセリアと心配顔なパールとマーガレットが立っていた。

 この話の流れからいうと、



「…もしかして夕食の時間終わってる?」


「そーよ!もぉ、一体どうしたのかって皆心配してたんだから。」


「ごめん、寝てたみたい。」


「でしょうね、なんて格好よ。」

 


 もう!制服乱れすぎだから!と目をそらされながら言われて自分の状態を見ると、なるほど、胸リボンゆるめてボタンを途中まではずした隙間からは下着が見えている。男なため胸はないが、一応女性用下着を身につけておいて良かった。



「ん。具合は悪くないから、心配ありがとね。」



 ボタンをかけ直しながら3人にお礼を言うと、「まったくよ!」というツンデレ発揮のセリアと、「ふふ、何もなくて良かったわ。」「ね。」と柔らかく笑うマーガレットとパール。お礼を言っただけなのになんだか3人共に照れているようで、可愛い反応をするもんだなと微笑ましい。



「これ、部屋で食べるようにカノンの夕食分けてもらったの。」


「ありがとう。よかった、夕食抜きになる所だった。」


「これね、実はアクアリータ様が手配してくれたの。」


「アクアリータ様が?」



 なんとこの夕食テイクアウトはアクアリータによる心配りだということらしい。夕食の席的には一番遠くに位置する彼女がと思うと驚きである。

 セリアから夕食を受け取りながら、数時間前にはセクハラ結界を受けたというのになんという広い心の持ち主だとアクアリータに感謝する。



「皆も持ってきてくれてありがとう。今からいただくね。」



 持つべきものは友達かな。空腹を訴える我が腹を押さえお礼を言いつつ、笑顔で「おやすみなさい。」を言い合いドアを閉めた。


















 カノンがドアを閉めた後、3人とも無言で4歩後退りした。




「………………………はぁ。」


「心の準備ができてなかったわ。」


「ええ、持ってきたのが私達でよかった。」



 

 平民出の級友はとにかく自覚がない。自分がどのように見られているか興味がないのか、行動全てに無自覚なのだ。

 整った顔はどの美しい貴族令嬢にも引けをとらず、美しいプラチナピンクの髪も相まって非常に目立つ容姿だ。


 そしてもう一つ、人助けを嫌みなくこなすということを入学してから多数証言がなされていた。

 ある者は階段を滑りそうになった時に力強い腕で助けられ、またある者は寮に帰る途中貧血で踞っていた所たまたま通りかかったと部屋まで運んでくれたり、そしてまたある者は大荷物で上手く歩けず躓いた瞬間、身体を支え転倒を防いでくれ荷物も代わりに持ってくれたという。

 それも学年問わず各学年の女性徒からの証言で、皆一様に名前も聞けずサッと立ち去られて「あの方は一体どこのどなたかしら」と余韻を残す出来事となる。


 この学園には容姿端麗、家柄良し、性格良し、数々の男子生徒や教師が人気を博しているが、実はそこにじわじわと密かに食い込むダークホースが現れた。

 一部で密かに呼ばれるダークホースの名を【ヒカリの君】という。助けられた後、「待って!」と捕まえることができないことから『光』を連想しヒカリの君と呼ばれるようになったとか。



「無自覚で無防備、たちが悪いったら。」


「不思議だわ~、なんでこんなに同性なのにドキッとするのかしら。聖属性だからとか?」


「そうやって隠れファンが増えていってるのね。」



 いくら寝ていたとはいえ乱れた衣服のカノンは同性ながら正直直視するには心臓に悪かった。

 普通ならばそんな姿で人を迎えるだなんてだらしのないと非難されるだろうが、先程のカノンは寝起きのダルさからか緩慢な動きとかすれた声でなんともいえない気持ちにさせられる姿だったのだ。

 あまり積極的におしゃべりするわけではないが人見知りというわけでもなく、付き合ってみると歳の割に落ちついた所が一緒にいて心地いい。

 カノンという存在はほのかな憧憬を抱く存在といった認識がここ1ヶ月で浸透しつつある。

 しかしながら表立ってきゃーきゃーと騒がれないのは、主に隠れファンの性別が女性であり、カノンが爵位持ちではなく平民出であり、控え目な存在感で学園生活を過ごし、聖属性のためか神聖なオーラをかもしだしているから迂闊に近寄れない、といったことが要因だ。

 聖属性ということが周知になったのは実際は今日であるから、一緒に生活する中で聖なるオーラを深層心理で周りは察知していたようだ。



「また何か情報あったら教えるわね。」



 最近のカノン除く一階メンバーの楽しみが、マーガレットが持ってくる貴族子女に囁かれる内緒話の横流しだった。

 平民のセリアとパールではまだ話に入れない貴族同士の話でも、男爵令嬢のマーガレットならば社交界繋がりでの気安さで話に入っていけるのだ。


(ほんと、可愛らしいのに素敵って不思議よね。)


 カノンの評判はまだほんの一部の人間から上がっている程度だが、今日の合同授業を見るかぎり確実に隠れファンは増加したとマーガレットはふんでいた。

 容姿よし、性格よし、聖属性、頼りになる、欠点が見つからない。


(平民出をさしひかなくても、これで男性ならすごい競争率だったはずだわ。)


 貴族子女というのはあまり積極的に家族親族以外の異性との免疫がたくさんあるというわけではない。

 早くから婚約を結ばれる者はそれなりに相手ありきで交流も広がるが、普通の貴族子女は幼少期に家庭教師により勉学を学び15歳からの学園入学でやっと様々な異性と関わる生活になる。

 マーガレットの知るかぎり、カノンのような同性なのに魅力的な対象というのはなかなか出会えることはない。きっと他の貴族子女も同じなのではないだろうか。

 女同士というものは何かと特出した同性には妬みや嫉妬というものがつきまとうものだが、現状カノンへの周囲の反応は悪くはない。むしろ憧憬に近い印象を感じる。それは同じ平民出のセリスとパールも感じているようで、マーガレットの仕入れる噂話にも嬉々として興味を示して共有しているのだ。

 同性だから憧憬で済む話だが、たまにみせるカノンの無自覚な仕草に乙女心を刺激されるのも現実であった。

 

(今日の合同授業のアクアリータ様とミューン様を助けたくだりは見事にお二人の心を射落とされていたわ。)


 こんなに学園生活が楽しくなるとは、屋敷で大人しく生活していた頃は思いもしなかった。

 合同授業面白かった~とか、魔法難しい~とか、こうやって夜遅くでも友達と立ち話に興じれるという幸せをしみじみ噛みしめる男爵令嬢であった。

 



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