それぞれの実力
各属性の名誉をかけた一対一の魔力勝負。一年生初めての合同授業のこの勝負でどの属性が一番だとかいう決めつけはおかしいが、とりあえずの指針、向上心には繋がっていくんじゃないだろうか。
ブルー先生が審判らしく中央に陣取り、最初の二人を呼び出す。
「雷の属性代表トーラン・モンタールと風の属性代表ライサ・グラーリは距離をとってくれ。」
十分に距離をとった位置に2人が誘導され、私達が座る側にトーランが近づいてくるが、チラリと一瞥しただけで、さすがに先生達の手前あからさまな敵意をこちらに向けてはこないようだ。代わりに自信満々な態度が鼻につくのでやっちゃってくださいライサさん!
「お互い自分の魔力全力で初級魔法を撃ってもらう。同等の魔力ならばぶつかり合った地点で相殺し合う。片方が強い場合は相手の魔法を打ち消しそのまま攻撃対象に向かうだろうが、当たる前に私の方で消すから安心しなさい。」
云わば魔法勝負だ。勝者の魔法が敗者に降りかかる危ない試合となる。前の時間の先生同士の模擬魔法合戦の時と同じで生徒に当たる前にブルー先生が魔法を消してくれるらしいが、相殺ということはその魔法と同等の魔力でブルー先生も魔法を撃ってこなければならない。ブルー先生は相手に合わせて瞬時に魔力を調整することができるのだろう。一緒に『やすらぎの森』に行った時に様々な魔法を使っていたのは見ていたが、先生同士の魔法処理も難なくやっていた所をみると、やはり実力のあるすごい先生なのだ。
雷の属性のトーランと風の属性のライサ、雷と風の強弱関係性で言えば個人的意見で雷に軍配が上がりそうだが、この世界の強弱は単純に術者の能力値の高さで決まる。ステータスを覗かせてもらったが、魔力値はほぼ変わらないようだった。だとしたら相殺か。引き分けの場合勝敗はどうするのだろうか。ブルー先生の独断と偏見により決まるとか。
「ライサ嬢、軍神の血を引くあなたに手加減は失礼に値する。全力でいかせていただきますよ。」
「当たり前です。女だからと手加減は不要です。」
相手を立てる紳士然としたトーランの物言いに、勇ましく毅然と答えたライサに石川2号を筆頭にギャラリーも一層に盛り上がる。歳よりやや大人びた綺麗な顔がキリリと引き締まる様は、見応えのある迫力を与える。美男美女の多さに流石乙女ゲーム、目の保養には事欠かない。
幼馴染み的にはどちらが優勢かミューンに聞いてみた所、「あれでトーランって結構器用だから…」、ふむ、トーラン優勢か。幼馴染みとして近くでみてきた評価が高いのだろう。私の予想は数値的に引き分けかな。
「準備はいいか?」
「「 はい!! 」」
ブルー先生の確認に大きな声で2人が返事をした。魔力勝負の始まりである。
集中しだした2人からはそれぞれ属性の魔力が練り上げられ、これは私の感覚的なものなんだけど、トーランからはピリッとした魔力、ライサからはサラリとした魔力が溢れ出している。トーランの攻撃的な性格は属性イメージそのまま現れてるな。
「雷のご加護に感謝し、雷の偉大さを尊ばん!金色の意思を携え、尊厳の弾丸を放て!【サンダーショット】!」
「風のご加護に感謝し、風の雄大さを尊ばん!銀色の意思を携え、勇猛の槍を射ろ!【ウィンドスピアーズ】!」
雷の初級魔法はバチバチと放電した無数の小さな弾丸が標的に一直線に飛び、風の初級魔法は風が集合し七本の槍となり標的に向かっていく魔法のようで、互いに一直線に向かっていった。
二人ともに、さすが属性の代表に選らばれるだけあり威力のある魔法を放つ。さて、どちらが勝つのか。それとも相討ちか。
ん?
私の視界からはトーランの姿は後ろ姿になっている。だからしっかりと見えているわけではないが、魔法を撃ったあとにトーランが手を動かしているような動作をした。
何をしてるんだろう?と思った瞬間、両者の中央、魔法がぶつかった衝撃音に目を向けたら衝撃の向こう、ライサの顔が歪むのがわかった。
七本の槍が四散し無数の弾丸が一直線にライサに向かう。その直後にブルー先生の放った魔法が弾丸を四散させたので彼女に当たることはなかった。
「勝者、雷の属性トーラン・モンタール!」
勝利確定に雷の属性は勿論、皆一緒になって大歓声が沸き起こった。
喧騒の中「モンタール家特殊能力なんだけど、トーランって放った魔法の威力を途中から変化させることができるの。」という幼馴染み情報を流すミューンも、幼馴染みの勝利を純粋に喜んでいる。同格の魔力を持っても微妙な差が勝敗を分けるようだ。
「さすがですね、トーラン・モンタール。私の負けです。」
「いえ。才ある貴女との貴重なお手合わせに感謝いたします。」
健闘を称え握手を交わす両者に大きな拍手が講堂内に響く。その光景だけみるとトーランも良い男なんだが、ちょっとな~私のタイプではないんだな~。あちらも何故か敵視してくれてるし恋愛フラグは建たないと思う。しかし喧嘩っプルなんてルートもなきにしもあらず。
次第にギャラリーの温度が変わるのがわかって、中央に出てきた2人を見てああ成る程と納得した。これまた花のある2人ですこと。
「火の属性代表エルフェン・ウル・アカルナ!水の属性代表アクアリータ・プラコット!」
この国の第二皇子様と婚約者様の人気はまさにアイドルといったが分かりやすいだろう。親衛隊がいるのだろうか、黄色い声援が各所で響き渡る。貴族子息子女といえど十代の青春真っ盛りの子供達だ、むしろ感性は歳相応で好感は持てる。
大声援に声がかき消され聞こえないからか、ミューンが私の耳元に小さな唇を近づけて喋りかけてきた。「アクアリータ様も優秀だけど、さすがに相手が悪すぎるわ。」確かに、アカルナ王家特有属性ということは普通以上にエルフェンは火の属性を使いこなせるということである。それにしてもミューンって微かに苺の香りがするんだよね。美味しそうなんて考えていたら前方向より険悪な気配を察知。睨むな睨むな。
止まない盛り上がりにブルー先生が小気味良く手を叩いて静粛にと促した。ピタリと静まり返る生徒に感動した!ここまで手拍子一つで鎮まる生徒にも鎮めるブルー先生にも。
私も教師の時憧れてたよ《鬼の阿比留の手鳴らし》。収集つかない全校集会でも体育教師の強面阿比留先生にかかれば一鳴らしで鎮めるという、いや~あれは凄かった。
「よし、両者距離をとってくれ。」
こちら側に歩いて来るのはエルフェン皇子だ。金色の髪が歩く度にサラサラ揺れて、そのフェロモンに女子生徒は目をハートにしている。
歩くフェロモン、さながら源氏の君だなとエルフェン版光源氏を想像し、ならば頭中将はトーランにしてみるかと妄想を繰り広げた所で配役が個人的にツボに入ったので脳内源氏物語ごっこを強制終了した。
一方『美しい』と形容しても劣らないアクアリータの歩く後ろ姿が制服の上からでもわかる程スタイル抜群すぎて、男なら自然と目を向けてしまうだろう。かくいう私もその1人である。だって一応男の子だもん。アクアリータの後ろ姿に視線をやっていると、こちらに歩いてきていたエルフェンからの鋭い視線をもらってしまい、覗きを見られてしまったかのような思いである。なんだこのやろう後ろ姿くらい見たって減るもんじゃないだろ。
ため息混じりに「やっぱり流石のアクアリータ様でも厳しいわ…。」という残念そうなミューンに自然と向き直り、エルフェンとのにらめっこを終了させた。
トーランといいエルフェンといい、私の事をどうもヒロインに対する、というか女子に対する対応と少々違うような、むしろ女子ではない存在だと気づいてるんじゃないかなと思う節がある。こんなに白玉肌の美少女フェイスなんだけどな、う~ん、流石に男だとバレてはないだろうがなんかひっかかる。
位置についた両者が向き合い準備が整うと空気を読んだギャラリーの黄色い声援も静まり返り、ブルー先生の声が響き渡る。
「では、始めるぞ。」
「「 はい! 」」
ステータス的にはやはり圧倒的にエルフェンが優勢で、ミューンが言うようにアクアリータにはちょっと不利だろう。実際の所選ばれた五人の中ではエルフェンより上の魔力はいないから、トップは言わずもがな皇子様の一人勝ちと私は予想する。
果たして、能力的には優秀だがか弱い女子相手に皇子様は全力で潰しにかかるか、ちょっとは手加減してアクアリータをたてるか。ルール上全力でとのことだし、手加減しすぎたらブルー先生から注意うけるか。
返事と共に魔力を練りだした2人からはそれぞれの魔力が溢れだす。アクアリータからは水の気配が漂い、なんというか、若いなー!といった瑞々しい爽やかな気配がする。例えるならアレだ、レモンスカッシュのような感じ。
対するエルフェンからは、まだ魔法を撃ってないのに攻撃を受けたかのような熱風がこちらまで伝わる。アカルナ王家は特殊な火の属性を代々引き継いでいる血筋のようで、チート火の属性者といった所だろう。
今のアカルナ王は4人の子宝に恵まれ、内3人は皇子という血筋存続には難しくない環境だ。血生臭い王位継承問題などにならなければだが。
「火のご加護に感謝し、火の偉大さを尊ばん。赤の意思を携えた恵みの球を降らせよ!【クリティカルファイア】!」
「水のご加護に感謝し、水の慈悲を尊ばん。青の意思を携えた恵みの雨を降らせよ!【ウォーターレイン】!」
攻撃対象に斜め上より振りかかっていく水魔法に対し、本来なら多数の火の玉を撃ち込む火の魔法が、急上昇してあろうことかウォーターレインを取り囲む程の数で空中にて押し勝つ早業だった。婚約者にも手を抜かぬ男だったようだ。クリティカルファイアはそのまま空高く外に出る勢いだったがブルー先生により四散させられた。さすがにブルー先生のが魔力高いようだ。
瞬時に勝敗がついたにもかかわらず、敗北したアクアリータは表情を変えることなく真っ直ぐ前を向いたまま佇まいを正した。
「勝者、火の属性代表エルフェン・ウル・アカルナ!」
勝者コールと共にギャラリーから割れんばかりの拍手と歓声が上がった。石川3号がハンカチを目元に当てつつ感動の拍手を贈っているのを発見。「お見事な魔法でしたわアクアリータ様!」と言ってるようである。
「エルフェン様、お手合わせありがとうございました。」
「すまない、大事ないか?」
「はい。ご心配ありがとうございます。」
穏やかな雰囲気で握手を交わす二人に、昔ながらの気安さを感じる。このゲーム同じ学年キャラが多いからか幼馴染み設定多いな。貴族の世界が狭いのもあるかもしれないけど。
今年初投稿です!
探り探り書いてますので急に前の文章改変とかやっちゃいますが、生暖かい目で見ていただけると幸いです。
見ていただけるって本当に力になりますね。ありがとうございます!
今年も地味~に更新頑張りますー!