物語開始
整理しよう。
私の名前は鈴木羽織、日本の高校で国語教師をしている33歳のいたって普通のアラサー女子だ。
なのに今現在私がいる世界は、剣と魔法のファンタジー世界。高層ビルなど一つもなく、あるのは中世ヨーロッパで見られるような豪舎なお城や華美なお屋敷、石造りの建物。
そしてなぜか私が中に入り込んでしまったと思われる人物。記憶が確かなら乙女ゲーム【聖なる乙女のDestiny】の主人公カノン・サークレット。腰まであるプラチナピンクの美しい髪にまだあどけない少女の可憐さを残した端正な顔はまさしくthe!ヒロイン!
正直な話ゲーム自体はしておらず、知識としては少々他人の話の受け売りくらいのものである。
高校教師中に受け持っていたクラスの生徒、石川真奈のマシンガントークを思い出す。
「はおりん聞いて~!これ今流行りの乙女ゲームなんだけど~!まじでオススメなんだってー!
聖女な美少女主人公が高貴なイケメン男子を選びたい放題のゲームなんだけど~
ライバルな悪役令嬢とすったもんだの末一番好印象パラメーターイケメンとめでたく結ばれるどきどききゅんきゅん学園物語なのっ!」
石川よ、国語の成績上位のくせになんだその残念な語学力。あとはおりん言うな。
妙になつかれて自分の趣味の話を延々聞かされていた。生徒になつかれるのは教師として嬉しいことではある。
えーとつまり、聖なる力を宿した少女が3年間の学園生活で最終的に聖女の印を獲得できたら告白イベント発生。無事攻略キャラとハッピーエンディングを迎えて終了。ゲームの特色として、乙女ゲームには珍しいRPG要素もあり人気も絶大だそうだ。
この【聖なる乙女のDestiny】は特にお気に入りなのか死ぬ直前まで聞かされていたものだ…。
………………………………ん?
………………………………………………んん?
………………………………………………………………んんんっ?!
あれ?もしかして私死んでない!?あれっ?あれぇぇっ!
今一番重要なの思い出したわ!私死んでるわ!!
放課後石川にいつものごとくオススメエピソードなどを語られた後、
おつかれ~雨降りそうだから真っ直ぐ帰れよ~はいはい明日ね~って別れた後バス停までもうすぐって時…。風が強まってたせいか周りの音も聞こえない状態で、気がついた時にはビル建設中の上の方から落ちてきた鉄材の下敷きに…
………うん。死んだんだ私は。
そしてなぜか異世界転生。乙女ゲームの主人公。はー、人生何があるか本当にわからないものね。仕方がない。受け入れるのだ鈴木羽織。いや、カノン・サークレット。
「キミ!もうすぐ始めの式があるから早く入りなさい!」
記憶の振り返りに没頭してた為、新入生逹もあらかた居なくなっていた事に気づかずボーッとしていたようだ。注意を促した声の主に顔を向けると、黒髪に切れ長の涼しい目をした美丈夫が立っている。制服を着ていない所をみると教師かな?
「すみませんっ。急ぎます!」
新入早々遅刻はいただけない。急いで美丈夫の横を通り過ぎようと駆け出した。
「…待て。キミはもしかしてカノン・サークレット…ではないか?」
「え?はい。そうです。」
「…そうか…キミがあの。」
なんだその思わせ振りな物言いは。よく知っているな!そうです。私がカノン・サークレットです!
美丈夫の目に視線を合わせると、不思議な事にゲームの画面に出るような四角いウィンドウが現れた。
*****************
ブルー・イグラット (28)
種族 人間
イグラット伯爵家三男
聖ホーリュウ学園の魔法教師
生活指導も兼任
LV 40
HP 650
MP 297
攻撃力 50
防御力 32
魔法攻撃力 99
魔法防御力 89
精神力 130
すばやさ 64
魔法属性 水 風
******************
ゲームでよく見るステータスが出てきてしまった!人物紹介まであってありがたい。なに?!親切?!
それにしてもこの先生、レベルの割りに防御力が守ってさしあげたい数値だなぁ。
じっと見つめすぎたか怪訝な顔を返されてしまった。
「ああ、すまない…。稀に見る聖魔力の保持者が今年は入ると話題になっていてな…。しかも平民出というから、なかなかにキミは今年No.1の話題性なのだ。ははっ、そう緊張しなくていい。期待してるよカノン・サークレット。」
緊張を解くのか緊張させるのかどっちかにしてくださいブルー先生。まぁ、やさしそうな先生ではあるか。
まだカノン・サークレットとの記憶の融合が不完全な為、何となく落ち着かないがなんとかなるだろうという楽観的さもある。これは私ではなくカノン・サークレットの性格っぽいな~。