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ドワーフの鍛冶屋


 ふと、おばあさんが魔物に襲われたのが2週間前位だと言っていたのが気になった。ブルー先生に魔物が強くなったのが何時くらいだったのか聞いていないけど、もしかしたら同じくらいなんじゃないかなと思う。それって、私が転生したからなんじゃないだろうか?転生したと同時にこの世界はもう一度オリジナルと違う軸で時間をスタートさせている。しかも前のデータを残しつつプラスアルファで改ざんみたいな、分かりやすいのはカノンのステータスが受け継がれてるのと魔物の強さが上がっている点。そうなると気になるのが、もしかしてだけど、「聖なる乙女のdestiny」に物語上のボスがいたように今のこの世界にも戦わなくてはならないボスがいるのではないか。



「うわ、あり得ない話じゃないな。」



 自分の考えに納得がいきすぎるなとつい独り言が出る。学園辞めて悠々自適に過ごそうかなとか甘い考えだったが、もしかして!!万が一にもボス戦なんてことになったらそんなこと言ってられないかもしれない。万が一に備えて戦闘慣れしていた方がいいのかもしれない。あれ?なんだか前向きな男前っぽい考え方だなぁ。女に付いてないシロモノ(カノンくんね)が付いちゃうと、中身女でも思考回路が男性ホルモン優勢にでもなるのだろうか。

 この世界が乙女ゲームといえどもRPG要素が入っているというのは忘れてはいけない。もしもということがある、命は大事に生きていこう。

 狭い路地を抜け、また大通りの方へ戻ってきた。一気に賑やかな喧騒に包まれる。王都の活気はその国のトップの手腕と比例する。高貴な同級生様の一族は相当優秀らしい。授業でもアカルナ王族の素晴らしさをまず始めにもってくるあたり、若い世代への教育も抜かりない。でも私が仮に第2王子エルフェンだったとして、学校の授業で俺ん家自慢は公開処刑に等しい。どんな顔であの王子様は授業を受けていたのかとても気になるものである。

 


「きゃー!エルフェン皇子よー!!」



 なんとタイミング良くというか噂をすればというか。

 女性達の黄色い奇声の的になっているのはアカルナ王家の紋章が豪華に装飾された立派な馬車に乗った第2皇子その人だった。

 用事か何かで実家に帰ってる所か。それにしても女性人気すごいな、流石金髪イケメン皇子様。

 興奮醒め止まぬギャラリーを置いて、アカルナ王家の馬車はあっという間に消えて行った。



「今度はプラコット公爵家の馬車だ!!」



 間髪いれずに今度はプラコット公爵家の馬車が続くらしい。馬車の窓から見えたのはアクアリータの姿だった。もう一人男性が乗っている、あれは……



「プラコット公爵様とアクアリータ様と言うことは、第2皇子様もついに婚約本決まりに近いのかもな。」


「あぁん!悔しいけど美男美女でお似合いだわ~!」



 ふーん、あれがプラコット公爵。アクアリータの父親か。チラッとしか顔を見れなかったけど厳格な感じの、どちらかというと冷たい印象を受けたなぁ。公爵様ともなると威厳はでるもんだろうけど。

 一気に周りのボルテージが上がってしまい、この人垣を掻い潜るのは一苦労しそうだ。しょうがない、ちょっと違う道を通ってみようか。通ろうと思っていた通りをあきらめ体の向きを変えた所で、こちらに視線を向ける人物に気がついた。通路を挟んで向こう側から指を差し何やら叫んでいる。残念ながら周りの歓声で何を言っているのか全く聞こえず、必死な形相でパクパクと口だけ動く様は失礼ながら口の端が上がってしまう。ふふっ、ごめんねオルレア先生。

 私の様子から自分の言ってることが伝わってないのを、埒が明かないとばかりにこちらに向かって先生がずんずん歩いてきた。



「こんにちはオルレア先生。昨日は手合わせありがとうございました。」


「ああ。一人かい?」


「はい、買い物に。先生は…」


 オルレア先生が大事そうに抱えているものに目をやる。高級そうな生地にくるまれた嵩張るサイズのそれはなんだろう。



「昨日カノンちゃんに破壊された可愛そうな俺の剣だよ。」



 類友なのかブルー先生同様オルレア先生も生徒相手にもずけずけ物を言うタチみたいだ。



「ウチご贔屓の鍛冶屋に持ってく所。治ればいいけど。」



 見るからにショボーン顔なオルレア先生に、折った本人としてはとても居心地悪く「私もついて行ってもよろしいですか?」と言う他なかった。昨日に引き続きオルレア先生の落ち込みは改善されていないようだ。

 折れた魔法剣がどうやって治るのかも興味あるし、鍛冶職人は確かドワーフと言っていたから本物のドワーフに会えるチャンスである。



「まぁ、いいけど。じゃ、ついてきなよ。」



 了承を得たのでオルレア先生の一歩後ろからついて歩くことにした。魔法剣を大事に抱えた先生は人混みを器用に避けつつ大通りを真っ直ぐ進んで、道を曲がる際には私が付いてきているのか顔を向けて確認し、また進んだ先で曲がる際に私を確認と、流石は貴族様、なかなかに女性をエスコートする男として株を上げる行動をとってくれた。実際は男性エスコートをする男なのだが内緒だ。

 賑やかだった大通りからかなり離れ、入り組んだ路地をしばらく歩いた。正直今どうやってこの道をやってきたのか頭の中はちんぷんかんぷんだ。この帝都の地理は頭に残ってないらしく、知らない土地を観光している気分で楽しい。基本中心地の大通り界隈はお店も多く人の賑わいがすごい、比例して大通りを逸れた道は居住区やひっそり営業している小店が点在している感じだ。

 なんとなく古い感じのお店が並ぶ通りにやってきた。この通りは武器や防具のお店があるようで、鎧を装備した厳つい男性や光り物を見せびらかすように持ち歩く貴族やらが目についた。



「ここだよ。祖父の代からお世話になってる凄腕の親方がやってるんだ。」


「随分古い鍛冶屋さんなんですね。」


「ドワーフは人間より長生きだからね、親方のモグワードさんは200歳は軽く越えてるよ。」



 ファンタジーだなぁ~。でも私達人間の寿命は普通なんだろうからその辺儚いままなのかと憂えてしまう。

 古い外観にマッチした年期の入った入り口の扉は、重い音をたて私達を迎え入れてくれた。



「お久しぶりですモグワードさん!」


「おお!オルレア坊っちゃん!久しぶりじゃなー!元気しとったか?!」



 オルレア先生とフレンドリーに接しているこのお爺さんがドワーフの親方か。私のドワーフのイメージはちっちゃいずんぐりした身体のおっさんだ。うむ、イメージ通りの完璧なるドワーフ爺。人間より長生きのドワーフでこれだけ立派な白髪白髭のお爺ちゃんなら、余程の年月を生きてきたんだろう。顔に刻まれたシワが貫禄をさらに上げている。



「まさかオルレア坊っちゃんの相手がこんな可愛らしいお嬢さんだとは。いやはやおめでたい。」



 親方が私の方を見て物騒なことを言い出した。



「いやいや違うから!この子は学園の生徒!俺の相手とかじゃないよ親方!!」



 チャラそうな割には生徒に手をだすのはいけないことだと常識ある人間のようだ。よかった、うっかりBLフラグが立つ所だったと警戒したわ~。



「今日は親方に大事な依頼があって、これなんだけど…」


「!!なんじゃ?!どうやってこんなことに!!」



 例の折れた魔法剣を見て驚愕の顔を見せる親方。折った犯人としては背筋に冷や汗が流れる思いである。



「この魔法剣はワシが3年かかって生み出した技法で作った上に、壊れるなどありえぬ特上魔法石を使用し、聖女様の加護までいただいた傑作…」


 

 ものすごい苦労してできた逸品だと理解した。



「父にバレる前になんとかならないかな…」



 なんとかしてくださいモグワード親方!私のためにも。



「うーむ。折れた刃は打ち直すとしてじゃ、問題は特上魔法石をどうやって手に入れるか」


「確か父はオークションで手に入れたとか言ってたな。」



 折れた刃は凄腕の親方でどうにかなるとして、魔法剣の核ともいえる魔法石の方が問題らしい。通常魔法石は店でも手に入るが、填めていた特上魔法石は魔法石の中でも上位の魔法石の為市場にはなかなか出回らない。オルレア先生の父親がオークションで手に入れる事ができたのは幸運中の幸運だったみたいだ。それにとんでもない資金力がないと落札は難しかっただろう。更には凄腕鍛冶屋に依頼とか、自分の息子に甘過ぎじゃね?息子大好きパパか!



「滅多に手に入るシロモンじゃないからのぉ。」


「あの~、その石ってオークション以外で手に入れる方法ないんですか?」



 良心の痛みに耐えきれず、二人の会話に割って入った。ひとまずその特上魔法石さえ手に入れればいいのだろうと入手先を探る。普通ゲーム的にはそういうアイテムは魔物を倒して入手と相場が決まっている。



「そうじゃな、巨額を積めば魔法石商が口添えしてくれる可能性はある。」


「原石発掘場所とかは?」


「ホッホッホッ!掘りにいくか?嬢ちゃんじゃちとキツいかもじゃな。」


「行きにくい場所なんですね。」


「ああ、天空に近い山にあるからのぉ。」



 天空に近い山?日本でいう富士山、世界でいうエベレスト。鈴木羽織で生きてきた世界の高い山を想像して、今のカノンの身体なら登頂できるんじゃね?なんて調子に乗ってみる。



「天空に近い山…エンジェルマウンテンですか?」



 えらくファンシーな名前の山だな、さすが乙女ゲーム。



「そうじゃ、質の良い魔法石はあの山の中腹くらいに地層となっておる。」


「危険区域で冒険者もなかなか立ち入らない場所だからむずかしいかぁ。」


「登りましょう。」


「そうだね~、登…んん?カノンちゃん?」



 何言ってんのこの子?って視線を2人分感じるが私は至って真面目である。



「魔法石だけ採取を目的に動けばその日の内に下りてこれますよね?」


「ちょ!待って!あの山は下界の魔物と格が違うって話なんだよ!」


「そうじゃ、ギルドでもエンジェルマウンテンの仕事は破格の相場じゃよ。」


「え~、オルレア先生強いんでしょ~。」


「へ!?そりゃ!俺強いよ!」


「ブルー先生だって強力な魔法ガンガン使えるし、お二人なら仲が良いから連携も素晴らしいでしょうし!」


「あっはっはっ!まぁ~ね!小さい頃からずっと一緒にいるからアイツの事なら誰よりもわかるよ!ブルーも連れてくか!」


(よし!ちょろい!)



 案外扱いやすいオルレア先生もやる気になってくれたので、今度はお宝求めて皆で山登りをすることになった。



「お嬢ちゃん上手じゃのぉ。いやはや本当にお似合いなんじゃがなぁ。」



 また親方が恐ろしい事を呟いている。



「そうか、ブルー坊ちゃんも行くなら安心じゃな。それなら、あれを持って行くといい。」



 親方はブルー先生の事も顔馴染みらしく、危険な山に行くのを止めることはしなかった。そして何か探し物なのかお店の奥の方に消えて行った。「学園のこともあるからあんまり時間かけられないからな、今度の休みの前夜から移動して、」なんてぶつぶつ言っているオルレア先生はすっかり行く気になっているようだ。

 


「オルレア坊っちゃん、これ貸すからしばらく使うといいぞ。」



 店の奥から戻ってきた親方が、剣先から持ち手部分まで全てが赤い剣を持って現れた。



「これはちと個人的に凝って作ってみたんじゃ、まだ実用で誰も使ってはおらん。オルレア坊っちゃんの火の特性には相性良いと思うんじゃが。」


「いいんですか!?親方の新作試させてもらえるなんて有り難いです!」



 モグワード親方の新作と聞いては心踊りますぞー!!とばかりに嬉々として新しい魔法剣を掲げて瞳をキラキラさせる様はまさに少年の如し。余程レアな魔法剣ということなんだろう。よかったねオルレア先生!私が先生の剣を折ったお陰だね!




 

大丈夫。きっと誰も気付いていないはず…!

( ノ^ω^)ノ コソコソ


ひっそり登場人物の名前を変更することがあります。

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