3分マジカルクッキング
日も暮れ出した為、先生2人を残して私だけ一足先に解散となった。
ふぅ、今日は色々と経験したなぁ。学園生活だけでなく、RPG要素が加わると更に異世界の実感がすごい。なんだかんだでチートキャラなお陰で今のところのんきに無事生活できているのは本当に感謝しかない。神様ありがとうございます。
「…で?なぜ新入生相手に本気の技を出したのだ。」
「新入生ねぇ、俺にはそんな可愛らしいもんに見えないんだけど。」
「まぁ、能力的には可愛らしくないな。」
「つーかなんなんだあの子。正直打ち合いしてて勝てる気しない位腕っぷしが馬鹿強い。ただの平民出身の少女にしては…俺は恐ろしいと感じたぞ。」
「……」
戦闘特化型のオルレアが、カノン・サークレットの『強さ』を恐ろしいと感じるのなら、それは本物であるということだ。
「魔法剣が壊れたのも、お前の仮説があってるなら本当にあの子の魔力が普通では有り得ないとんでもない量だって事だろ。ただ、」
「本人にあまり事の重要さがわかってない。」
「そう!それ!」
「最悪を想定してまずうちの学園に委ねたのは、国にしても監視も含めこれから道を違えないよう教育をとの考えだろう。」
「はぁ、やっかいなの出てきたなぁ…」
「まぁそう言うな。剣技や魔法剣の扱い方面はお前が面倒みる事になるだろうから。」
「俺!?テゴール先生のが良くないか?」
「テゴール先生は騎士団の方に呼ばれる事があるからな、多分お前だ。」
「マジか~。」
どちらかと言えば生徒をバシバシしごくことに喜びを感じるオルレアをこんなにやる気を失くさせるとは、さすが注目度No.1。
「早く治さないとな~、コレ。」と愛剣を哀しそうに見つめる幼馴染みに見えない所で、そのしょんぼり姿が面白いと上がる口角を形だけ手で隠すブルーであった。
夕方6時、時間的にはそろそろ寮の方では夕食の時間だ。はやく寮に戻らないと揃って皆お上品に食べている所に遅刻して登場しなくてはならない。それは恥ずかしいので勘弁願いたい。
まずこの汚れた服を着替えないと食事の席に着くのはちょっと無理だろう。急がなければ!
寮までダッシュで帰り、寮の入り口を潜ると生徒がパラパラと食堂ホールに移動する姿があった。これは急がないと!
「きゃっ!」
「あっ!と。」
タイミング悪く行き交う一人にぶつかってしまい、ふらつく相手をなんとか掴んで転倒を防ぐ事に成功した。
しかし相手がアクアリータだったため内心すごい滝汗でしょうがなかった。頼むよ、カノンくん。起きなくていいからね!
「すみません、不注意でした。大丈夫ですか?」
「ええ、大丈夫よ。ありがとう。」
さっとアクアリータの足元を見て、足は挫いてなさそうなので安心する。顔に目を向けると若干頬に赤みをさした美少女に、お風呂上がりかな?と微かに香る石鹸の香りも相まって良い匂いがするなぁさすが公爵令嬢と感心する。こっちなんか汗やホコリまみれの薄汚れた平民服だ。
「朝からお出かけになってらっしゃったみたいだけど、その格好…お怪我は?」
体はピンピンなのだが、多少戦いのせいか服に擦り切れた箇所などが見られるから気になったのだろう。こういう些細な気遣いをされると、本当にこの子は悪役令嬢なのかなとキャラ設定を疑ってしまう。
「はい!洋服はこんなですけど怪我はありません。」
ありがとー!と言う気持ちを込めて超笑顔で答えた。なにせブルー先生に人間関係の距離の取り方に気をつけろとご忠告いただいたので。「そう、ならいいのだけど。」と照れたような様も華やかとかすごいな!2次元美少女!現状3次元ですが。
「でも汗かいちゃって、サッと流してきます。」
先を急ぐと示して、軽く頭を下げ急いで自分の部屋に駆け出す。
セーフ!!カノンくんセーフ!!身体を酷使作戦成功かも!今の防御力皆無のカノンの服じゃ隠しようがないから本当に良かったー!
カノンくんが大人しい手応えにほっとして自分の部屋にたどり着いたらすぐ浴室に向かった。平民階級のお陰で自分の部屋が食堂ホールと同じ一階なことは、こんな時とても都合が良い。最上階だったら汗を流すなんて暇はなかっただろう。
烏の行水よろしくバタバタと浴室を出てハッと気が付く。そういえばこの世界ドライヤー無い!髪濡れたまま貴族令嬢の中に食事に挑むのも少々印象悪そうだな。んー、ドライヤー…的な魔法とか?ざっと魔法ウィンドウを流し見てみる。普通に考えて風の魔法なんだけど、温風を考えると火の魔法の要素もほしい。攻撃や防御の魔法はあるけど日常で使えそうな威力、いや、ライトボールの時みたいに威力の軽減は可能…もしかしたら作れる?よし!
いってみよう!やってみよう!とばかりにその場のノリでドライヤー魔法を作ってみることにした。改めて思うとこの時間の無い時に何をチャレンジしているんだと突っ込みたいが、その時の私は至って真面目だった。
右手に風の魔法と、左手に火の魔法。髪を乾かすだけだから威力は小さく、火は風に比べて比率はかなり少なくしようか。これくらいで合わせたら…あっつ!もっと火を弱く!ん~、ん、そうそうこんくらい!程よい温風がブオォォォと髪を乾かしていく。あ!櫛!櫛!櫛を取りに移動したらドライヤー魔法も着いてきてくれたので、テーブルに置いてあった書類などが散乱してしまったが帰ってきたら片付けよう。大体乾いたから残りは火の魔法を止めて冷風で髪を整える。よし終了。
〈〈〈〈 合成魔法 ドゥ・ライヤー を覚えた 〉〉〉〉
ぶっふぉ!
急なウィンドウ出現にむせてしまった。ドゥ・ライヤーって!普通にドライヤーでよくない!?今度から使用する度笑いそうなんですけど!
今日1日一番のダメージをくらいつつ、食堂に行くため自分の部屋を後にした。
ざわざわと女子ひしめく食堂ホールに着いたのは、まだ多少余裕ある時間だった。流石令嬢の皆さんは時間厳守かほぼほぼ席は埋まっていたが、まぁビリではないから良しとしよう。しかも私の席は入り口に一番近いためある意味遅刻してもしれっと座れそうな感じだ。この食事の席も部屋と同じ並びのようなので、比較的ピリピリしない階級テーブルといえる。
自分の席を引いてゆっくりと座る。自然と目が合うのはお向かいのぽやぽやした性格が癒しのパール・ティット。部屋でもお向かいさんの平民仲間だ。
「カノンちゃん今日見かけなかったけどお出かけしてたの?」
「さっきまで居なさそうだったよね?もしかして今帰り?」
話に入ってきたのは部屋でも食事の席でもお隣の、こちらも平民仲間、サバサバした性格のセリス・キャプス。
「よかったわね、夕食に間に合って。」
にこりと笑いかけてくれたのは斜め前のマーガレット・パルマ。彼女は唯一家柄は階級持ち、パルマ男爵家のお嬢様だ。この寮の1階には居住部屋が4部屋あり、3部屋は平民、1部屋はこの男爵令嬢が住んでいる。平民が4人なら彼女が1階になることはなかったのだろうが、だがそんなことはどこ吹く風と、私達平民にも分け隔てなく仲良くしてくれている性格のよろしいお嬢様だ。
「うん、外にいってたの。夕食に間に合って良かった。」
私だってコミュニケーションは取れてるんだぞ!と言いたいが、第三者のブルー先生がああ言う位だから不自然な点があるのだろう。あれ?笑顔が悪いって言ってたっけ?超絶笑顔はダメなの?んじゃあ、ほほえみくらい?これくらい?
「「「 !!! 」」」
チリンチリンと夕食開始の鈴がホールいっぱいに鳴り響く。全員が席に着いたのを確認できたら寮を取り締まる先生が鈴で合図をだすのだ。
「んっ!んんっ!じゃいただこうか!」
ごほんごほんと何かを吹っ切るような咳払いをするセリスにパールとマーガレットがこくこくと首を振る。
学園の食堂は個人での食事スタイルだが、寮での夕食は皆揃っての配膳スタイルである。平日の朝と休みの日の朝昼はそれぞれ用事等あるためバイキング形式となっている。
今日の夕食もまぁ美味しそうなこと。
あったかいスープをいただきつつ、今日1日を振り返る。魔物退治だけにいえば、正直私一人でも難なくやれそうだ。今のところの経験則でしかないけれど今日行った地域位の強さの魔物なら、世界は広いから大陸大陸で強さも特徴も違うだろうとは思うけど。虚をついてだがレッドアースドラゴンに死亡とまではいかないが瀕死の撃沈も成功したくらいだし、強さ的に冒険者はアリかな~。
あ、あと今日の収穫といえば頼れる大人なブルー先生と血気盛んな子供っぽいオルレア先生という二大ティーチャーと親しくなった、のかな?そういえばオルレア先生の魔法剣どうするんだろう。直せるのかな、最悪弁償もしようと思えばできそうな資金はあるけど普通平民がそんな大金持っているわけがない。学園で顔を合わせる度平謝りするのもめんどいなぁ。今度ブルー先生にこっそり聞いてみよう。もぐもぐ、このチーズ焼きの美味しいな。