VS魔法剣
オルレア先生が手にしたのは魔法剣。ということは魔法剣VSこん棒。絵面がウケる。
「もう少ししたら一年生も魔法剣の授業あると思うんだけど、軽く教えとこっか。」
対戦する前に知識だけでもと魔法剣講座が始まった。
「倉庫で教えた通り、魔法剣はこの魔法石が埋め込められてるんだ。この魔法石の役割は使い手の魔力を吸収する事によってその力を変える事ができる。こんな感じにね。」
オルレア先生が魔法剣をぎゅっと握りしめたとたん、ボワッと剣全体を火の帯が舞った。剣先も元の形より変わっているような気がする。
「俺の魔法属性は火と風だからこっちもできるよ。」
そう言って今度は剣全体を風の帯がヒュッと舞った。そしてまた剣先の形も変わっていた。使い手のレベル次第でその様も強さも変わるというのは、無限な魔法剣の奥深さが興味深い。この世界で生きていく上で避けては通れない知識だ。
「さて、実戦といこうか。魔法剣の威力を肌で感じてみようね。」
普通の剣の衝撃とどう違うのか、まずは体験させてもらいましょう。
オルレア先生の一挙手一投足に集中してどう攻撃してくるのか出方を様子見した。どうやら先に出てくれるようで、魔法剣を両手で握り、風の魔力を宿したばかりだというのにまた火の魔力を込めたらしく、ブワァッと火の帯が舞って火の粉を散らしながら此方に剣を向けてきた。
ガキンィィンッ!!
ジュッ!
「っ!(こん棒が焦げてる?)」
受け止めた火の属性の魔法剣は、見かけ通り赤みを帯びた刃が炎を通したみたいに熱くなっているらしい。お陰で刃を受け止めた部分が焼け焦げている。こっちはいたって普通の木材のこん棒だから火に焦げるのは当たり前だろう、むしろ炭化の可能性ありだ。だから風より火を選んだのか。
「そらそら!受けてばかりじゃ燃え尽きちまうぜ!」
どこの悪役かな?といったセリフを吐きながら生き生きと剣を振るう先生はとても楽しそうである。愛用の剣と言っていただけあって、先程の普通の剣の太刀筋より鋭さが増している。こん棒の傷みも気になるからこのまま受け止め続けるのもよくないな。
ガキンッ!
更に力を込めて受け止め火花が勢いよく散ったが気にせず反撃開始といきますか!
激しく打ち合いこん棒が傷むのも気にせず前に出だす。
「力業でおさえる気!?」
その方が早い気がするんですよね。実際魔法剣に変わったけどこん棒でさばけない程でもない。あと、実は私の持つこん棒さん、さっきから焦げてへこんでた所が元に戻ってきているようで、無意識に優しく聖女パワーで回復してあげていたみたいだ。まだ働けと。
どうやら打ち合いになると負けると察したのか、打ち合いからするりと逃げて射程外に先生は身をすべらせた。
「ははっ!魔力は未知数って前評判だったけど、正直武器を使った実技でここまで手応えあるとは思わなかったよ。」
離れたオルレア先生は、息を整えながらだが此方への殺気は収めず次に備えているようだ。一女子生徒に対してやる気満々が過ぎる。すると、今までの打ち合いに入る時と違い、体勢を低くした構えをとってきた。やな予感がする。
「今からの攻撃は簡単に言うと三段突きだ。速いから気をつけろよ。」
自己申告の攻撃とは、余程自信があるのだろう。先生の言葉を信じてこれからくるだろう攻撃に備えて集中する。
「いくぞ!」
助走をつけて真っ直ぐ此方を剣先が狙う。
ーーーくる!!
「炎突き!!」
燃え上がる炎と共に繰り出される高速三段突きだ!これはオルレア先生による必殺技なのか。いやいや本気が過ぎるわ!
一撃目は顔目掛け、二撃目は脚を狙いくる。それを間一髪避けて三撃目に備える。迷いなく突かれる先は。
心臓か!
ガッ!キィィィン!!
「っっ!!!」
「ぐっ!!?」
瞬時の判断で心臓目掛けてくる剣を下から思いっきり打ち上げた。はぁ、危なかった、最後のは結構勘だった。
打ち上げた魔法剣が、夕方の淡い青空に向かって天高く舞い上がる。
「ウソだろ…」と呟いて剣が離れた自分の手を凝視して固まるオルレア先生の後頭部に、ポコンッと可愛らしい音が降り注ぐ。
「馬鹿者。生徒に技を繰り出すお前がウソだろう。」
「あ、ブルー先生。」
いきなり登場したブルー先生はオルレア先生の頭上にロッドを落として呆れ声だ。上への報告とやらは終わったのか、私達の様子を見にきてくれたようだ。
「サークレットが避けれなかったらどうするつもりだったんだ。」
「いやぁ、一応寸止めするつもりだったんだよ。」
「だが一撃目から避けられて意地になったと。」
「ぐ…。」
「お前のアレは最後に心臓を狙う技だ。生徒相手にはあまりにも酷い技を選ぶじゃないか。そんなに余裕がなかったのか。」
「ぐぐぐ。」
ブルー先生のトゲのある口撃にぐうの音も出ないオルレア先生という漫才が始まったので、仕方がないから飛んでいった魔法剣の落下地点に回収に向かった。
やっぱりあの攻撃はヤバいやつだったんだな。昔受けた事があるからなのか、勘の鋭さのおかげなのか、避けることができたのは自分を誉めてやりたい。よくやった!
なんにしても私の勝ちと言うことで一件落着。
「ちくしょ~!ありえねー!」「そもそも私は魔法は無しだと言っただろう。それなのに魔法剣を使うなど」「わーかってるって!すみませんでしたぁ~!」まだやってる漫才をBGMに、魔法剣の落下地点にたどり着く。草むらに横たわる魔法剣はよく見ると、すごい細かい装飾の高そうな剣だった。教師のくせになんだか派手なの持ってんのね、質素な我がこん棒さんを見習えと言ってやりたい。
魔法剣を拾い、2人の元に足を向けたその時、
カッ!!!
「なんだ!?」
「サークレット!?」
握った魔法剣からものすごい目映い光が!眩しい!目開けてらんない!なんなの!?
「サークレット!魔法剣から手を離せ!」
「はっ!はい!」
よくわからないけどブルー先生の指示通りに魔法剣をポイッと放った。地面に再び寝る事になった魔法剣からは徐々に光が失われていく。と、パキンッと小気味よい音がした。
「あ…」
「あ…」
「あ゛ー!!父に戴いた魔法剣がッッッ!!!」
そうか、お父さんに贈られた品だったのね。伯爵の父親が贈るくらいだからそれは素晴らしい魔法剣なのだろう。割れたけど。
「なんともないか?」
「はい。私は。」
「あ゛あ゛あ゛」
余程ショックなのだろうオルレア先生が不憫ではあるが、生徒の心臓狙ってくる先生より生徒を心配してくれるブルー先生の株が爆上がり中である。しかしわざとではないにしろ先生の大事なものを壊したことには変わりない。
「オルレア先生すみませんでした。」
傷心のオルレア先生に謝罪の言葉が届いているかはわからないが…うん、届いてないっぽい。愛用魔法剣を抱え「うあ゛あ゛ぁ、父になんと謝れば…!」と、更に悲壮感増し増し状態だった。
「うーん、もしかしたらサークレットの魔力にオルレアの魔法剣が耐えきれなかったのかもしれないな。」
「は!?魔力に耐えきれずに魔法剣が壊れるなんて聞いたことないんだけど!?」
ブルー先生の声には正気にもどるのか、仲が良いことで。
しかしブルー先生の仮説も妙に納得というか、ありえそうだなと魔力計を破壊した時の事を思い出す。
地面やこん棒のように、この魔法剣も直せないかとも思ったが、この魔法石というのがネックで直そうとしても魔力の許容量を越えて今度は粉々になりそうだ。そうなれば今度は確実にオルレア先生は私の命を狙ってくるだろう。こわいこわい。