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学園カフェテラス



 広い敷地に見るからに高級な材質の丸テーブルに座り心地の良さそうなチェアーがセットで綺麗に間隔を空けて設置されていた。ここに訪れているのは休日にお茶をしに来ている私服姿の生徒や、先生も使用しているみたいだ。遅い時間とあってか、席はパラパラと埋まっている。仲良く連れ立った友達同士やカップルの皆様はさすがお貴族様達、私服も豪華さが際立っている。主に私のお陰で。カノンの服はいたってシンプルな安っぽい生地だから引き立て役になるのは仕方がない。ブルー先生もこの空間には不似合いな格好なのでまぁいいだろう。



「適当に頼んでくるから座っていろ。」



 私に空いてる席を指定して、料理を注文しになのか建物の方に行ってしまった。周りは複数人グループもいるがあまり賑やかでもなく、ゆっくりできそうだ。一人でテーブルにつき落ち着くことにした。木の優しい風合いのテーブルとチェアーには細々と細工がされており素人目にもお高い代物だとわかる。

 ふぅ、慣れない事をしたからか思ったより疲れたのかも。ふくらはぎモミモミしたい。こん棒の振りすぎで右肩も重たいから肩モミモミしたい。あ~いい感じに身体に重力がかかってる気がする。このままお布団入りたい。



「すごい真顔だな。疲れたか?」



 うわっ!丁度いい疲労感についアラサーの思考部分が出てしまった!



「まぁ、さすがに私も疲れたな。これお前のな。」


「ありがとうございます。」



 なかなかないぞあの数のロックフロッグの相手は、と愚痴りながらお向かいの席にブルー先生が腰を下ろした。飲み物は紅茶だろうか、お上品な香りが癒し効果抜群だ。元々各名産地の日本茶や紅茶は好きな方で、30歳過ぎてからは健康茶にも手を出しはじめた位の飲み物にはちょっと煩い私である。中国茶はまだお店でいただく程度だったけど、もう少し生きていたら手を出していただろうな。

 いただきます。口をつけるとほのかに甘く飲みやすい紅茶。素直に美味しいですと感想を述べたら、ブルー先生も口をつけた所でティーカップ越しに微笑まれた。ここにもイケメンがいた。だが全くときめかない。元は女だというのに、身体が男だとやはりそうそう同性にときめかないものなんだなぁ。それかカノンの趣味じゃないか。



「ここは基本学園の者なら誰でも利用できるんだ。3年の校舎側だからかあまり1年の内は遠慮して来るものは少ないみたいだがな。」



 生徒も教師も使える休日専用娯楽施設というわけね。わざわざ外に外出せずにこんな素敵なカフェが学園内にあるのはすごいありがたいと思う。さすがに定員制限あるけど、ちょっとお茶したい時は利用したいな。

 


「お待たせいたしました。野菜と牛肉の煮込みです。」



 ウェイトレスさんが持ってきたのは、パンが添えられた煮込み料理だった。食欲そそる匂いが空腹を攻撃してくる!「そして焼き菓子セットですね。」と続けて置かれたのはマフィンとクッキーだった。女子を喜ばせる素敵チョイスに思わず(こいつできる!)とブルー先生の株を上げたのだった。



「ユーラ、こいつは1年のカノン・サークレットだ。お前と同じ平民出だからよろしく頼むな。」



 いきなりの紹介に驚いて顔を上げたら、赤茶色の髪をポニーテールにした大人っぽい美人のウェイトレスさんと目が合う。



「あら、そうなんですね。私は3年のユーラ・パレットよ。休みの日だけここで働かせてもらってるの。よろしくねカノンちゃん。」


「カノン・サークレットです。よろしくお願いいたします!」



 椅子から立ち上がり自分でも名前を名乗ったら「いいのよ、ゆっくり座っててね。ごゆっくり。」とやさしく促された。同じ平民出だというのに優雅な所作に魅入ってしまう。



「ユーラが1年の時にクラスを受持ってたんだ。学園を出た後の資金の為にずっとここで働いている。」


「副業は許されてるんですね。」


「ああ、学業に支障がないなら。ユーラは昔から学年トップグループに常にいるからな。」


 バイトOKなのか。そうよね、貴族なら兎も角平民出の生徒は卒業後の事は色々金銭的にも悩みは出てくるはず。私も卒業を目標にするなら資金調達は必要…いや、まてよ。ステータスやら何やら前のゲームを引き継いでいる所をみるともしや…。


0がッ多いッ!!!


 所持金ウィンドウに表示されていた金額は平民が持つにはありえない額で引いてしまった。うわ!私の所持金高すぎ!大抵のRPGってクリア時には使いきれないまま終了してしまうからね。どこに収納してるのか後で確認しなくては!

 お金の事を考えながら目の前にある美味しそうな料理を口に運ぶ。美味しい!成金聖女美味しい、ではなく!この煮込み料理美味しい!お肉がとろけて食べやすいし、なんだか味も馴染み深い感じでビーフシチューに似た感じかな。この世界の食べ物は製作者が日本人だからか、日本人が思い浮かべる洋風の食べ物が主みたいだ。お陰で今のところ食べれないというほどの料理には当たっていない。



「うわっ!風紀教師が女子とデートしてる!」



 美味しい料理に幸せを噛みしめていると、えらく軽薄な雰囲気の知らない男がいきなりブルー先生を揶揄しながら絡んできた。とりあえずブルー先生が標的なようなので静かに食事を進める。この添えられたパンもほっかほかで美味しいなぁ。



「馬鹿者。今日は外部演習場付近の調査に行っていたのだ。」


「あ~、あの魔物の強さが変わったってやつか。どおりで汚れた格好してんなーと思ったよ。で、どーだった?」


「情報通りだった。まだ上に報告していないからこれ以上は教えん。」


「けち~!」


「誰がケチだ誰が!あっ!こら座るんじゃない!」


「いーじゃんいーじゃん~!お邪魔しまーす!」



 ふぅ、なかなかにお腹いっぱいになった。野菜と牛肉の煮込みとパンをもくもくと平らげた後、余韻を楽しむかのように紅茶を一口、いい時間だ。



「んでこっちのカノジョは?」



 どうやら今度はこちらに絡んできたので、食事も落ちついたので仕方がない、デザートに入る前に相手をするか。



「俺は魔法剣技を教えてるオルレア・コールって教師だ。よろしくな。」



 さりげにウィンクをかますこの教師は、オルレア・コール (28)コール伯爵家次男、魔法剣技学科担当である。金色の髪に翠の瞳が印象的な美青年。よく見たら腰に巻かれた鞘に剣が差されている。ブルー先生とは真逆な性格みたいだなぁ、でも先程の掛け合いを聞く限り仲良しっぽい。



「座って失礼いたします。私は1年3組のカノン・サークレットです。」



 相手も座ってしまったので、さすがに立ち直して挨拶するわけにもいかずそのままの挨拶となってしまった。この先生ならこのくらいの失礼は気にしないだろう。 



「カノン・サークレット…。なんかどっかで聞いたような、えー、アレだ、アレ、ん~、そうそう!魔力計破壊の子だ!」



 ぴんぽ~ん、正解でーす。しかしその憶えられ方はなんだかな~、心は乙女としては恥ずかしいぞ!全教師私の認識はそれで一致してるんじゃないだろうか。



「もしかして、一緒に調査行ったとか?」


「はい。ご一緒させていただきました。」



 へー、と半信半疑な様子を正直に顔に表したまま横のブルー先生に目を向ける様は本当に相手との気軽さを感じる。同い年だし幼馴染み設定大だとみた。食事の手を止め「想像以上の強さだった。」と私にチベットスナギツネみたいな目をやるブルー先生。なんだその目配せリレー、ゴールにされた私に何を求めているんですか。



「なー、今度調査に行く時は俺も誘ってな。」


「それは流石に上に報告次第では解らん。まぁお前なら声が掛かる可能性高いがな。それはそうとサークレット、体力はまだあるか?」


「はぁ、ありますが。」


 体力?まだ元気はあるのかってことかな?中身が三十路的には今日は頑張ったー!という達成感はあるが、実際身体的にはまだまだ余裕ではある。さすがピチピチ女子高生、魔物討伐してもご飯食べたら結構回復しているものである。



「オルレアはもう帰るのか?」


「ん~、そうだな~。魔法剣技部の練習は午前中で終わったしなぁ。」


「ヒマなんだな。じゃあ今からサークレットの相手になってやれ。」


「相手?カノンちゃん剣技やんの?」


「剣…いや、こん棒?」



 疑問形で私の使用武器をこん棒認定したブルー先生は、ちょうど通りかかったユーラ先輩に「これ後で食べるから包んでくれないか?」とお菓子をテイクアウト要求している。



「魔法剣じゃなく普通に軽く手合わせしてやってくれ。そしてボコボコにされろ。」


「俺がかよっ!」



 えーと、今からこの先生をこん棒でボコボコにしてこいとブルー先生は言ってるみたいだ。いいだろう!フルぼっこにしてやるぞ若造!密かにやる気を漲らせる私を察してか、「頑張れよ。」とブルー先生に激励された。そうこうしてるうちに仕事のできる女ユーラ先輩が包んでくれたお菓子を持ってきてくれた。



「食後の運動が終わったら食べろ。」


「あっ!先生お支払い代金明日お渡ししていいですか。」


「今日はいきなり魔物討伐に付き合わせたからな、気にするな。」



 本当にいい教師だなぁ、奢ってくれるだけじゃなくお菓子を持たせるとかさりげない気遣いに感謝感激。「お言葉に甘えて、ありがとうございます!」お菓子を受け取り頭を下げ超絶笑顔で感謝の礼をしておく。



「え~俺にはなんかないのブルー。」


「ないな。」



 この2人いいコンビである。

 



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