第3話 小杉秀夫
銀次郎視点
色々な情報に精通している舎弟に相談する話です
「アニキ! こっちですよ」
銀次郎が喫茶店に入店すると一生懸命に手を振る小型犬が一匹いた。
正確にはいつも元気ハツラツで小柄な知人男性なのだが、
どうにも茶髪の小型犬が尻尾を振っているようにしか見えない。
この人は小杉秀夫といって、銀次郎と同じ大和田組に所属する舎弟だ。
さらに兄の正義と同級生であり親友という間柄なのだが、
なぜか正義の弟である銀次郎をアニキと呼ぶ困った人でもある。
しかもタメ口を強制して秀夫と呼ばせる徹底振り。
推察するにヤクザ映画か何かの影響を受けているのだろう。
暴力団もといヤクザと呼ばれる連中は傭兵組織にとって
資金稼ぎの良いカモであったため社会から駆逐されて
そのほとんどが息絶えた、もはや都市伝説と化した組織だ。
アニキアニキと連呼されるとサブカルに詳しい奴らに
勘違いされるかもしれないが、それほど気にする事でもない。
それはさておき話を戻すとしよう。
今銀次郎が喫茶店にいるのは秀夫に連絡した結果なのだが、
実は5分ほど前までは入店するのに少しだけ躊躇していた。
というのも電話した際、秀夫が妙なテンションで喋っていたからだ。
「アニキの相談なら電話じゃなくて直接合って話を聞きたいです。
まったく水臭いじゃないですか。俺とアニキの仲でしょう。
それじゃ兄貴の家の近くにある喫茶店で待ち合わせしましょう。
アニキはあそこの店のナポリタン好きですもんね。
最近は密かにレモンスカッシュに嵌ってるのも知ってますよ。
まぁ電話はここまでにして積もる話の続きは店でしましょう」
銀次郎は秀夫と一緒に入店したことなどないし、
家の住所も教えた事はないはずだが何故そんなこと知っているのか。
最近やたらと距離が近い気がするが気のせいであろうか。
とりあえず秀夫と対面する形で席に座り注文を済ませ相談する事にした。
〈銀次郎説明中〉
「大体の事情はつかめました。異世界の仕事で
必要な物資と特殊能力に関する相談という事ですね」
荒唐無稽な話だが秀夫は信じてくれたようだ。
「アニキが嘘なんてつくわけないですからね。
俺は他の誰よりもアニキを信用してますから」
「どこからその信用が来るのか分からないが助かる」
「異世界の高級品の定番といえば塩や胡椒なんですが、
換金性でいえば人工宝石などが良いでしょう。
ただしこれは物が物だけに流通トラブルが必至ですが。
武器に関してですが銃器は注意が必要ですね。
普段使いはククリやマチェット、ボーガンなどが良いかと」
まるで見てきたような言い方だがなんとなく説得力を感じる。
「それと特殊能力ですが必須と呼べるものが2つあります」
なんだろうか。全属性魔法とかアイテムボックスとかであろうか。
銀次郎が爺から聞いた話ではそのあたりが定番という話であったが。
「それは異世界に転移する能力と、この世界に帰還する能力です」
どういうことだろうか?それで枠を埋めると言語理解しか残らない。
「まずこの世界に帰還する能力がなぜ必須か説明します。
例えば神等の力で異世界に転移した勇者が使命を達成し、
あとは無事に帰還するだけだなと思っていたとします」
ふむふむ
「ですがこの人は使命を達成したにも関わらず帰還することができません」
「なんでだ?」
「それは異世界から帰還する方法が存在しないからです。
よほど特別な力でもないかぎり異世界に行った者は帰還できません」
交渉の際は頭脳をCOOLに切り替えたつもりだったが思わぬ盲点だった。
仕事が完了すれば爺が元の世界に戻してくれると勝手に思い込んでいた。
元より銀次郎は異世界に骨を埋める気などない。
あくまで仕事に行くだけで、生活するのは日本のほうが良いからだ。
自分の能力で頻繁に戻れるようにするべきだろう。
「この世界に帰還する能力が如何に重要か分かってもらえましたか?
この世界にはアニキを待ってる人が一杯いるんですから。
アニキのいない世界なんてなんの価値もありませんから」
最後の言葉ニュアンスが気になるが余程気にかけてくれているのだろう。
「それと異世界に転移する能力がなぜ必要なのかですが」
最初に話を聞いたとき一番最初に浮かんだ疑問点であった。
爺を異世界行きのタクシーにすれば良いだけだと考えていたのだ。
「この理由は単純で神々が使う異世界召喚には制限があり、
頻繁に使えるものではないからです。ですから
アニキが異世界を頻繁に行き来をするのならこの能力も必須です」
「なるほど。でもなんでそんな制限があるんだ」
「これには諸説ありますが、一番有力なのは地球の神は世界を救う
という大義がある場合のみ召喚を許可する盟約をしている説です。
異世界召喚というのは要するに不当な拉致ですからね。
普通は余程のことがない限り地球の神が許可しないよねって話です。
その他に聞いておきたい事はありますか?」
「異世界で役にたちそうな情報があれば欲しい」
「では異世界で起きそうな事。いわゆるテンプレとその対処法を
まとめて伝えておきたいと思います。まずは・・・」
〈中略〉
とりあえず銀次郎が欲していた情報は全部聞けたようだ。
その後は適当に雑談をし、秀夫に礼を述べて家に帰った。
書いているうちに無駄話がどんどん長くなったので
なんやかんや削りました