第3話 冒険者ギルド
銀次郎が冒険者ギルドに踏み入れるとまずカウンターが目に入った。
よく見るとその奥にも扉が見える。従業員用のスペースだろうか。
カウンターの左には大きな石版があり、いくつもの羊皮紙が掲げてある。
そのさらに左には酒場のようなスペースがあり冒険者達が飲食をしている。
銀次郎は冒険者登録をするべくカウンターに向かい受付嬢に話しかける。
「すまないが冒険者登録をお願いしたい。このカウンターで合ってるか?」
「はい大丈夫ですよ。新規登録をご希望の方は簡単な審査を受けていただき、
その結果特に問題がなければ晴れて審査合格となります。
審査に合格された方は専用の羊皮紙に必要事項を記入していただき、
その際に登録料として50ゴッドを納付していただきます。
その引き換えとしてギルドカードを発行いたしますのでお受け取りください。
それをもちまして新規登録の完了となります」
そう答えた受付嬢は綺麗な栗毛が特徴的な20代前半と覚しき女性だ。
いわゆる看板娘というやつだろうか。チラチラとこちらを伺う者もいる。
こういう場面では新規登録者の5割が冒険者に絡まれるという話だったが、
誰も銀次郎に突っかかってくる様子はない。それもそのはずだ。
2メートル近くある筋骨隆々な大男にわざわざ絡んでくる奴は少ないのだ。
「50ゴッドなら持ち合わせがある。さっそく審査をお願いできるか」
銀次郎がそう言うと受付嬢は正方形の水晶を取り出し目前に設置する。
「分かりました。ではこの水晶に手を乗せてみてください」
銀次郎が手を乗せてみると一瞬だが電気ような何かが全身に流れる。
すると水晶は微弱な白い光を発し始めた。これが審査なのだろうか。
受付嬢は水晶を眺めて何かを確認したのかこう切り出した。
「審査は合格です。この水晶は特殊でして過去に冒険者資格を剥奪された人や
指名手配されている人だった場合赤く光るようになっているんですよ」
指紋認証のようなものか。恐らくはあの水晶はデータベースのような物で、
登録されている危険人物と照合し一致するか確認するのだろう。
「では次はこの羊皮紙に必要事項を記入していただけますか。
それと50ゴッドの新規登録料も一緒に納付してくださいね」
銀次郎は受付嬢に渡された羊皮紙に記入していく。
内容は名前・年齢・性別・職業・得意分野の5項目を記入するというもの。
職業は傭兵、得意分野は護衛と戦闘と記入し新規登録料を支払った。
「ではギルドカードをお渡ししますね。これにて新規登録は完了です。
登録は今回が初めてということですので冒険者ギルドについて
何か質問はございますか?私ができる限りお答えいたします」どやぁ
「ギルドのシステムについて詳しく聞きたい」
「分かりました。依頼を引き受けたい場合、依頼ボードに依頼内容を記した
羊皮紙がございますのでそれを持って受付までお持ちください。
注意点といたしましては、冒険者にはランクという階級制度があり、
当人の実績に見合わない依頼は基本的に受けられない点があげられます」
「例えば依頼書の推奨ランクという欄に二級冒険者と書いてあったとします。
この場合は基本的に二級以上の冒険者だけが依頼を受けられます。
冒険者ランクは4段階あり下から三級・二級・一級・特級となります。
ちなみに新規登録された方は三級冒険者からのスタートになりますね」
〈中略〉
結論から言うと銀次郎は途中からの内容を覚えていない。
一度で覚えろというには無理な情報量だったからだ。
その様子を確認した受付嬢が獣の眼光を向ける。
「・・・とこんなところですかね。今回私が説明した内容ですが、なんと!
偶然にもギルドが発行している指南書に詳しく記載されているのです!
冒険者ならば必須のアイテムが今ならたった1200ゴッドで入手できます。
規約違反をしないためにも是非購入をおススメいたします」キリッ
ここに悪魔がいるぞ。討伐依頼はないのか。考えてみればここは異世界。
魔王がいるのだから悪魔がいても不思議ではないのだ。
受付での話を終えた銀次郎は指南書を購入し、依頼ボードへ歩を進める。
三級冒険者が受領できる仕事の大半が城塞都市の雑用のようだが、
数は少ないながらも一応は初心者が可能な採取や討伐依頼もあるようだ。
例えば銀次郎が今眺めているひとつの依頼、ゴブリン討伐の依頼もそうだ。
だが迷ってしまう。このゴブリンは本当に自分の知ってるゴブリンなのかと。
知識の中にある世間一般的なゴブリンは裸で緑色の子鬼のイメージだが、
これは絵本や小説などから二次創作に広がっていった結果らしいのだ。
元を辿ればゴブリン=エルフ=シルフ=ピクシーというパターンもありえる。
ゴブリンは弱いという勝手なイメージが先行して相手を舐めてかかり、
徒党を組んだ美麗なゴブリン達が魔法で攻撃してくるかもしれない。
考えてみればその答えを見つけるのは案外簡単だった。
こんな時のための指南書ではないか。確かモンスター紹介もあるはずだ。
最初はギルドの策謀かと考えたが買っておいてよかったと銀次郎は思えた。
ギルドを疑った自分を恥ずべきか。情報とはそれだけの価値があるのだ。
さっそく指南書で確認してみると案の定、例の緑色のアイツであった。
この討伐依頼の場合は3人以上のパーティが推奨されているが、
恐らくこれは駆け出し冒険者のための安全マージンではなかろうか。
彼らの中には知能のある人型生物を殺す経験は初めてという者もいるだろう。
罠の可能性を考慮せず突っ込むかもしれない。そうなると危険なのである。
その点銀次郎は人を殺すのに慣れている。子鬼を殺すなど造作もない事だ。
この世界に来て初めての仕事であるから簡単なものでいいだろう。
早速依頼を受けるべくゴブリンの討伐依頼の依頼書を受付に提出する。
「こちらの依頼は3人以上のパーティーが推奨されておりますが、
大丈夫ですか。パーティメンバーの募集をすることもできますが」
「俺は一人で問題ない。こういう仕事は場数を踏んでるからな」
「受付を完了いたしました。それではお気をつけて」
ギルドを出た銀次郎は門番に保証金を返してもらい町の外に出た。
初めてのゴブリン討伐へいざ出陣である。