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被造物たちの宇宙  僕らは創造主に反逆する  作者: 井上欣久
第一章 ガスフライヤー破壊指令
5/20

5 分離・合体・変形

「Go」


 シグレの声とともにガスフライヤーは分解を始めた。

 各部の爆発ボルトが作動し、単一の形をとることを止めた。

 最初に分解を始めたのは翼だった。僕が翼端を破壊したことが影響しているのかも知れないし、単に空気抵抗の問題かもしれない。いずれにせよ、まずは翼の部分がバラバラになっていった。

 次にはがれたのは本体の外装だった。大気圏突入に耐えるための強靭な底面はそのままに、上部や側面の外装がはがれていく。

 風に吹かれた外装が僕のドーサンに接近する。

 僕は翼を動かして空力の操作だけでそれを回避した。


 シグレが何かおかしな物を見る目で僕のことを見上げたが、どういう意味か追求している暇はない。


 マーカーが見えた。

 剥き出しになった機体のフレームの間に打ち上げ式のタンクが詰まっている。

 あのタンクも全長100メートル以上?

 ドーサンよりもはるかに大きい。僕は自分のイメージを修正する。


 タンクに向けてワイヤーを撃ちこもうとして自制する。

 まだ早い。


 アキツがフレームごとバラバラになっていく。

 破片が広がる。

 広がる破片を回避し、潜り抜けて飛ぶ。


 タンクは大きさの割には軽く、落下速度は比較的小さい。だから後回しでよい。それに、早めにワイヤーを射出して、そのワイヤーにアキツの断片がぶつかったら最悪だ。単分子ワイヤーは滅多なことでは切れないが、ドーサンの機体はアキツの部品よりもまだ小さい。ワイヤーにであってもぶつかられたら酷いことになるだろう。


 最初に狙うのは多腕式の宇宙機だ。

 こちらのマーカーも見えてきた。


 この宇宙機は0G、真空中での使用を前提とした作業用だ。伸縮する二本の腕が本体のような物で、そこに移動するためのバーニアと小さなサブアームが申し訳程度についている。翼として使える物はなく、推力も1Gには程遠いので飛ぶことはできない。比重も重いので『石のように』落下していく。


 二機とも発見したのでワイヤーも同時に発射。両機をひっかける。


「上手い! 後はタンクを!」

「まだだ。もう一つ拾う」


 多腕式を回収するために高度を下げすぎた。

 このままではタンクの高度まで戻れない。多腕式の重量はドーサン以上だ。引っ張っていくのは無理がある。


 分解していくガスフライヤーの中で最後まで残ったパーツがある。

 底面装甲だ。

 だがそれも分解をはじめた。大きすぎるので一体整形では作れなかったようだ。全長100から200メートル程度の大きさに分かれていく。


 その中で僕が目をつけたのは機首近くの装甲だ。平らで左右対象なパーツならば何でもよかったが、その装甲はそのままデルタ翼に使えそうな形状をしている。

 三角形の頂点近くにワイヤーを打ち込み、接近する。その部分にドーサンを固着させる。

 ドーサンの翼をV字に開き、先尾翼として機能させる。


 ドーサンのエンジン出力を全開にする。

 巨体に対しての推力比は無惨な物だが、それでも簡易デルタ翼の助けがあれば航空機の真似事ぐらいはできる。


 多腕式に繋いだワイヤーを巻きとる。

 ある程度近づくと多腕式は自分で腕を伸ばしてデルタ翼の中央部左右にドッキングした。『腕を伸ばして』は普通の表現としてではなく、実際の動作として50メートルぐらい先まで伸びていた。


 その動きを見て気づく。


「シグレ、多腕式にジャイロは?」

「重作業用よ、強力なのが搭載されている」

「それの制御権をこちらへ」

「了解」


 多腕式には高速回転するジャイロがある。これの回転数を操作することでも多少の方向転換は可能だ。


 デルタ翼機となったドーサンの機首を持ち上げる。

 空気抵抗が増大し落下速度が減少する。

 一度、頭上へ消えた打ち上げ式タンクが近づいてくる。


 デルタ翼部分に補助翼が無いので操作しづらい。多腕式の腕を伸ばしてエアブレーキに使う。

 機敏な動作は出来ないがそれでもワイヤーの有効射程まで近づく。


 二本のワイヤーを同時に射出。どちらも命中する。


「ロッサって、どういう空間認識能力をしているの? 私でも状況の変化についていくのが精いっぱいなんだけど」

「そういわれても、僕にはこれが普通だからな。確かに宇宙機の操作は仲間内で一番だったけれど」

「どう見ても白兵戦型のタイプOの能力じゃない」

「僕は宇宙機操作用のタイプHの血が混じっているんじゃないかと言われていたから、そちら系の能力じゃないかな?」

「それはない」

「どうして?」

「異なるタイプ同士の混血は両親のどちらかの種族になる。常識よ」

「ハーフオーガーとかは作れないって事か」

「そう。……何を考えているのよ!」

「別に何も」


 そっちこそナニを想像した?

 目で問いかけるとコツコツと後頭部ヘッドバットが返ってきた。


 笑いながらタンクと落下速度を同調、ワイヤーを巻きとってタンクをこちらに引き寄せる。


「タンクをドッキングさせる。二つ連続で行くぞ。準備はいいか?」

「いつでもどうぞ。ドッキングの相手はタンクだけね」

「了解」


 いや、保護欲はそそられてもツルペタ幼女ボディとドッキングしたいとは思わないから。


 一つ目のタンクとドッキングして二つ目にチャレンジするまでの間が危険だ。片側だけ空気抵抗が増大して機体がコマのように回転しかねない。かと言って二つ同時にドッキングするのはもっと危ない。ワイヤーで引っ張っているだけなのでタンク同士が接触、大破しかねない。


 二つのタンクが縦列で並ぶようにワイヤーの長さを調節する。

 運動性の悪いデルタ翼を操って一つ目のタンクの下側に潜りこむ。


 なんか面倒だな。

 以後、ドッキング後のドーサンは『ドーサン・デルタ』あるいは単に『デルタ』と呼称する事にする。


 シグレがデルタの右のアームを伸ばす。片腕が50メートル先まで伸びるのならば、左右合計で100メートル以上離れた物体を扱うことができる。

 タンクを掴んで引き寄せる。

 ドッキング完了。


 やはり、空気抵抗が大幅に増大した。

 回転しようとするデルタをジャイロを総動員し、ドーサンのロケット噴射の方向を調節して持ちこたえる。


「タンクの推力は利用できない?」

「ダメ、あれは打ち上げ用。細かい調整は効かない」


 先にドッキングしたタンクのロケットを使って空気抵抗を相殺する作戦は無理か。


 ジャイロの回転速度が犠牲になったが、二つ目のタンクも手に入れる。


 これで良し。

 V字の先尾翼となったドーサンの主翼を操作してデルタの機首を引き起こす。安全係数がとられているとは言え、ドーサンもガスフライヤーもガス惑星のこんな深さまで潜るようには出来ていない。

 早いうちに離脱した方がいい。


 ところが、シグレが小さく悲鳴を上げる。


 何があったのか? 僕にはその理由がつかめない。

 デルタの機体に異常は、無いとは言わない。しかし、急ごしらえの宇宙機もどきならばこんな物だろう。

 周辺にも脅威となる物は認められない。ガスフライヤーの破片の大半は僕たちよりも下へ落ちて行った。上昇気流に乗って舞い上がっている物もない訳ではないが、デルタの進路上には存在しない。


「何があった?」

「上空からの探査用のレーダー電波を探知。誰かが私たちを見ている」


 !

 僕はドーサンのエンジンをカット。アクティブ系のセンサーも切る。

 操縦も放棄した。


 見ているのは何者だ?

 ガスフライヤーを運営している公社が異常を察知して調べに来たのか?

 それともテロリストのヴァントラルが作戦の成否を調べている?


 僕とシグレは目を見合わせる。

 どちらの組織に対しても僕たちが死んだと思わせておいた方がいい。

 公社に帰ったらシグレはまたガラスケースの中だろうし、ヴァントラルに戻ったら僕は飼い殺しか殺処分だろう。

 組織に対する忠誠心が皆無になった、敵味方識別機能が壊れた兵器なんか危なくて使えるわけがない。


 デルタの機首が下がる。

 右側へゆっくりと傾いていく。


 間に合わせでつなぎ合わせただけの機体だ。デルタの空力特性は悪い。

 重心位置的に、たぶん放っておいたら上下がひっくり返ると思う。


「死んだふり?」

「そのつもりだ。電波の発信源は?」

「確定できるのは方向だけ。この方向にあるのはダフネ補給泊地」


 補給泊地と言うと、ガスフライヤーが集めた燃料を一般の恒星間宇宙船に補給する場所、だったか。もともとは補給だけが目的だったが、最近では停泊する宇宙船同士の取引も行われていると聞く。

 シグレは首を傾げた。


「泊地からなら、電波の出本は公社かな?」

「泊地のステーションからならばそうだろう。停泊している宇宙船からならば結社かも知れない」

「どっちもあり得る、か。ここの装備からではそこまでの判別は無理。あ、電波が途切れた」

「そうか」

「再始動しないの?」

「まだ早い。一度電波を途切れさせて、時間をおいてからもう一度観測する。死んだふりを見破るための常とう手段だ」

「ホラー物でよくあるやつね。見回りが一度通り過ぎたと思ったら、こっそり戻って来てたっていう」

「……そういう事だ。機体がもつのならばこのまま一日ぐらい自由落下を続けたいところだが」

「さすがに、無理じゃないかな。機体にストレスが溜まっている。特にドーサン側に酷い。可動部分が多いし元々の造りもあんまり良くないから」

「仕方ない、15分ぐらいこのまま落ちてその後で無動力で立てなおそう。グライダーとして飛べるだけ飛んでから大気圏離脱に入る」

「15分もこの姿勢?」


 僕の予想通り、デルタは上下逆さまになってダイブを続けていた。

 空気抵抗による減速が大きいので無重力ではない。頭に血が上る。僕はともかく、シグレにはつらいだろう。


 結局、10分程度でデルタの姿勢を正常に戻した。

 落下によって増したスピードを使って無動力でその場から退避する。


「レーダー電波は探知できない。諦めたのかな?」

「少し警戒しすぎたかもしれない」

「どうして?」

「見ていたのがヴァントラルだとすれば、彼らはガスフライヤーの破壊が完了した時点で目的の半分を達成している。元から犯行声明を出すつもりならば、生存者の有無にはあまり興味が無いだろう」

「燃料公社なら?」

「生存者を見つけたら普通に救助に来るだけだな。こちらを撃墜しに来るわけではない以上、対処は容易だ」


 話している間に、僕は前方に障害物を発見する。

 ガス惑星内に障害物って、いったい何だ?


「シグレ、前方に何かがある。長さ10キロメートルクラスの紐のような物体。心当たりは?」

「珍しいものが出てきたわね。それは惑星ブラウの現住生物。ガスフライヤーがごくまれに遭遇することがある」

「それにしては数が多いぞ」


 センサーで捕捉できるだけでも10や20ではなさそうだ。かなりの広範囲にわたって広がっている。


「彼らはガスフライヤーの通常の高度より下を生活圏にしているみたいね。ふつうに飛んでいたらこんな大集団には出会わない」

「危険性は?」

「彼らは空気抵抗の大きな体で上昇気流に乗っているだけ。向こうから手を出してくることは無いわ」

「ただの障害物か」


 ぶつかった場合、デルタが損傷を負うかどうかは分からない。しかし最低でも速度を失う。早めにエンジンを始動しなければならなくなる。

 避けた方が良いのは間違いないな。


 前にも言ったが、デルタの空力特性は悪い。

 特にフラップに相当する物が無いのが困る。機敏・俊敏な動作など夢でしかない。障害物に近づくずっと前から旋回動作を開始し、鈍い動きでかろうじて避けていく。救いなのはこれだけの障害物があればレーダーやセンサーにも捉えられにくいという事だ。


 ひも状生物の群れを抜けた時には僕はびっしりと冷や汗でぬれていた。


「ロッサって、本当に非常識ね。いったいどうやったら今のを無傷で抜けられるの?」

「先を見ながら操作する以外、別に特別なことはしていないけど」

「見るだけでは無理でしょう。相手だって風に乗って動いているんだから」

「そう言われても、出来る物は出来るとしか」

「あなたがタイプ(オーガー)だとかあり得ない。絶対に何か別の物よ」

「何でもいいよ」


 どんなタイプだろうと僕は僕だ。


「機械操作でタイプ(グレムリン)とか? でなければ未来予知でタイプ(フォーチュン)。はたまた飛行特化でタイプ(ハーピィ)はホビットと被るわね」

「どれも聞いたこともない」


 僕は苦笑した。


「ロッサみたいな能力持ちの事も聞いたことがない。新型の強化人間ならばあり得るって」

「ならばもうタイプ(ニュー)でいいよ」


 僕は投げやりに言った。


 この答えが実は結構当たっていた、と知ったのはずいぶん後になってからだった。

 認識力特化型強化人間、開発コード『タイプThe new type』。それが僕だ。

 時の流れによる空間の変化がすべて見えてしまうんだよ、うん。


 どうでもいい事だけどね。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ドッキングは……いいぞ。 [一言] 障害物避けるときぴきゅーん!という効果音が入ってそう。 しかしガス惑星に生物が発生する余地があるというのはなかなか夢のある話ですよね。 あるいは衛星か…
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