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狼・告白録  作者: 與部 仁人
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『Ψυχικό σανατόριο』

おお君たち小さな舟にいる人よ、

 君たちは歌いつつ進む私の舟の後から。

 聴きたさのあまりついて来たが、

君たちの岸を指して帰るがいい、

 沖合に出るな。君たちはおそらく

 私を見失い、途方に暮れるにちがいない。


        ダンテ『神曲 天国篇』


 荒唐無稽な物語であるゆえに。



 夢―1。

 扉にはギリシア語が記されていた。僕はドアノブを捻り、中へと入る。

 荒野と夜空が果てしなく広がっている。曇りなく、透き通った空気。底の無い天地は全てを飲み込まんとするようでいて、空虚で、そら恐ろしかった。

 足元に枯れた大きな木の棒が落ちている。

 手に取ってみると、すべすべとしていて持ちやすく、そして頑丈だった。

 杖代わりの木は3本目の足で、歩き彷徨う内に、僕の腰はだんだんと曲がっていき、まるで老人のようになる。

 話し声が聞こえる。声の方へ近づいていくと、眼下に中心の人物を囲んで半円状に人だかりができている。

 話し手は、白い髭を蓄え、声高に叫ぶ。


「諸君らは、自分は正しい知識と見識を持っているというが、それは本当のことか。諸君らは、何を持って常識を語るのか」

「かつて、アポロンの宣託により、民衆の手によって処刑された者がいた。その時、彼は自らの潔白さ以上に、民衆が同じ過ちによって、これから後、深い業を背負わんために、弁明をおこなった。しかし、いついかなる時代も人は過ちを繰り返す。敢えて、私はここに宣言する。常識を打ち破り、諸君らが自らの可能性を閉ざさないために」


「まず、知らないことについて知らなければならない」

「人は、あれは知っているがこれは知らないという言い方をする。だが、知っていると思われたことが、実は間違いだったということは多分にある。知っていることが、それすなわち真実であるとは限らない。真の知識は神が覆い隠している。我々は、それを推論と検証によって真であると仮定しているにすぎない。

天動説は正しく、地動説は間違いだと人々は信じる。諸君らが学んだ教科書にも、そう記されている。故に、このことは真であるか。否!」

「なぜなら、宇宙に中心は存在しないからである。いや、宇宙に対しては、中心という概念すら通用しないだろう。立ち返って、宇宙の中心は無である故に、太陽ではない。論点は二つ。ある科学にとって、天動説を説明に用いた方が、都合が良かったという点。そして、教会が権威を保つために地動説を異端とした点。人間は、知識や思想を任意に変形させることができる」

「諸君らは、このことから学ばねばならない。まずは、自らが知っていると思っていることを疑うことだ。常識を疑え。世界を疑え」


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