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狼・告白録  作者: 與部 仁人
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労働・日々1

 仰向けに寝ていた右耳の近くで、アラーム音がけたたましく朝を知らせる。寝返りをうつように左手を無造作に伸ばしボタンを押す。ぼやける視界に映る目覚まし時計の二つの針は、6時を指しているらしかった。

 またアラーム音が鳴る。今度は長針が10分を指していた。布団から身体をひっぺがした瞬間、頭痛と軽い吐き気に襲われた。昨日の飲み会で飲んだアルコールの毒素が頭の中にそのまま残っているような感覚は実に気持ちが悪い。コンディションは良くないが、今にはじまったことではない。遅刻しないように出社しなければ…。

 朝食を5分程度で済ませ、スーツに着替える。ビジネスバッグを携えて自転車に跨り、駅へと向かう。

配属先の事務所へは地元の駅から2回の乗り換えを経て、1時間ほどで着く。事務所がある会館へと到着すると、僕は事務所の窓と玄関を開け、パソコンと印刷機に電源を入れ、先輩社員へ「おはようございます」と挨拶をする。朝の準備はそんなに苦痛ではないが、挨拶を無視されると少々辛いものがある。あれは1週間ほど前に怒らせてしまった上司だ。仕方がない。

 ここに勤めてから2年くらいだが、日中のやることは至って基本的な事務作業ばかりだ。電話対応も今では大分と慣れたが、最初はかかってくる電話に戦々恐々としていたし、ハンコの押し方も下手で、輪郭が薄くなってしまい、指摘されることがしばしばあった。ハンコはぐりぐり押すのが基本だと、恥ずかしながらこの時初めて学んだ。

 印刷機の使い方や伺いなどの事務文書の作り方、社内ルールなど、非常にミクロな部分のこれらの仕事は、関係する上司の機嫌を損ねないように気を配ってやるのが大事なのだと、他の上司から教わった。

 僕の仕事を要約すれば、上司に気を配りながら、キッチリと整えた書式を作って提出すること。そして、電話番や来客者への対応をすること。その他には上司の手伝い、担当客への職務支援云々だ。派手な仕事をしたいと思っていない僕にとっては、これら地味な仕事はストレスにはならなかった。ただ、目を光らせている一定の面倒くさい上司の逆鱗に触れないように働くというのは、なるほど確かに事務所というよりは監獄のようではあった。

 せっかくなので、ここでよくある質問に答えてみたいと思う。


Q:定時で帰れますか?

A:定時で帰ることは可能です。しかし、あなたの仕事が残っている時は別です。何事にも期限というものがあり、それに間に合うようにしなければなりません。なお、あなたに任された仕事量の大小と処理能力は加味されませんのでご注意ください。加えて、残業手当には限度があります。繁忙期には全て使いきれますのでご安心ください。


Q:土日出勤はありますか?

A:はい。あります。我々は地域の方々に愛されるために利益を目的としない活動をします。そこには何らの政治的策略も経済的動機も存在しません。我々は奉仕する存在であり、当然の義務を果たす故に、見返りを求めることはありません。手当があるとすれば、お客様からの感謝のお言葉です。参照:CASE1


Q:飲み会はどの程度ありますか?

A:勿論あります。我々の場合、お客様との接待として飲むことが多く、週1であります。なお、種々の注意が必要です。順に説明いたしましょう。まず、酒の席では自分の立場をよくわきまえた振る舞い方とルールを理解することが重要です。下座に着いたら、ビールを注ぎに行きます。ラベルは上にして、コップは斜め45度です。また、水割りの作り方も覚えておくといいでしょう。冷たい時と暖かい時では反対になるので気を付けてください。一気飲みコールがかかった時は、果敢に挑戦しましょう。世間では、アルハラなどと叫ばれていますが、ここではこれが常識です。参照:CASE2(編集者記:資料未発見)


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