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狼・告白録  作者: 與部 仁人
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就職・戦争

 4年生は就活と卒論に襲われ、最後の大学生活を嚙み締める余裕はあまりなかった。面接はおろか筆記試験すらなかなか通らず、民間企業、公務員を問わず内定を勝ち得ていく周りに焦りと苛立ちを感じていた。夏頃の筆記試験では、自分以外の友人諸氏が合格していたと知った時には、自分自身の不甲斐なさと劣等感に潰されそうになった。聞いていた話とちがうじゃないか。民間と公務員は併願するな、どちらかのみに専念しろと言った講師の言葉を信じておこなったのに、このざまじゃあないか。いや、悪いのは自分だ。勉強のできない自分なんだ。そう言い聞かせ、劣等感と焦燥感に駆られながら鬱々とした日を過ごし、受けては落ち、受けては落ちを繰り返している内に11月を迎えた。いまだ内定はひとつもない。

 公務員試験対策講座を受講していた生徒にかがみ 景文かげふみという僕の友人がいる。彼は、同じサークル仲間で、いつも気怠い雰囲気を纏っていたが、圧の強い人間が苦手な僕にとって、彼と一緒にいることは、そう悪いものではなかった。いつもゲームの話やバイトの愚痴を言い合っており、楽しい時間を共有する仲ではあったものの、他人を見下したようなデリカシーのない発言をすることがあり、仲間が笑って許すことで事なきを得ていた。そんな彼は民間と公務員を問わず内定を勝ち得えていき、品定めでもするかのように、受かってはお断りの連絡を頻繫におこなっていた。

 講義が終わり、帰宅する道すがら、大学最寄駅で彼に捕まった。案の定、就活の進捗状況について尋ねてきた。あまり話したくないな、と思ったので、話題をそれと無く逸らそうと努力していたが「で?結局内定は?」と聞かれた時、僕はついに逃げ場を失った。沈黙は3秒間程だろうか。僕は、喉から絞り出すように「…無い」と答えた。すると彼は、吹き出し、苦笑しながら言った。

「え、大丈夫なの?もうすぐ年が開けるというのに内定が無いってのは怖くない?」

怖くないわけがない。でも。

「これでも頑張ってきたつもりだよ。遊んでたわけじゃない。しょうがないじゃないか。それが今の結果なんだ…」

「そうは言うけど、この時期に採用活動してる会社とかロクなのが無くない?」

「・・・」

 僕は押し黙るしかなかった。彼の発言が正しいかは分からない。しかし、内定を勝ち得ている優秀な奴の言い分なのだから間違いではないのかもしれない。僕はなんて愚かなのか。先見性を持たず、ただ時間を無為に過ごしてきただけじゃないのか。これだけ勉強して結果が出ないということは無能の証左ではないのか。そんな人間は欲しがる企業があるとすればそれは…。所詮、僕なんて…。

 考えれば考えるほど心は深い闇に沈んでいく。就活なんてクソだ。誰も助けてくれない。僕は孤独だ。


 光明が差したのは、新年の1月ごろだった。他県の商工同盟会が臨時募集をかけているのを大学の就活掲示板で知った。早速、説明会に参加し、その翌週にはエントリーシートを持って事務所に訪ねた。書類は問題無く受理され、優しそうな事務員の女性と少しだけ職務内容について話をし、面接対策のネタとして管轄地域のいくつかの町村を歩いて回った。

 果たして2回に渡っておこなわれた試験に合格し、3月にようやく内定を得ることができた。無論、僕は大いに喜び、家族も友人もこのことを祝福してくれた。新しい人生が始まる。


付記(就活ノートより抜粋)

 面接について

内定が欲しいなら、最後に言いたいことはありますかと聞かれ時に、「何でもやります」と言え。


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