惨殺
少し遅れて部屋に連れてこられたのは黒縁メガネの男、平島春太だった。
彼は売れない俳優で、つい最近深夜番組で一緒にボウリングをした(負けた方が自腹で会場代を払うという企画…結果は春太の負け)ばかりだ。彼は今回のロケには呼ばれていない。
春太は両手を縛られている。その後ろにはライフルを構えた民衆統轄局所属兵士が張り付いている。
「彼は反魔法技術同盟組織に所属しており、情報を漏らしていました。そのおかげで町が1つ完全に破壊されました」
「知らなかったんだ、あんな惨事になるなんて。俺はただ利用されたんだ」
必死の形相に6人は少しぞっとした。滝斗以外も、ようやく「こんな事をドッキリ番組でやっていいものか」と思いはじめる。遅すぎる。
春太はなおも続ける。
「それが和平への道だって言われたから、俺はあいつらに情報を売ったんだ!俺だって苦しい」
「和平なんてありえないよ。反魔法技術同盟が根絶されるまでこの争いは続く。和平などとそんなふざけた言葉に騙されるお前は本当に生きていても意味が無い、処刑開始」
「ひ!」
突然窓の向こうに作業用ゴーレムが現れた。ベルナー島からもたらされた技術により造られた人型機動兵器で、このタイプにはセージュという名前がついていた。
このパラフ国でも作業用に調整されたセージュが何機か使われている。
これは頭部がダークグレーの縦長センサーに変更されたパラフ国独特のカスタム機だ。コオロギの顔を連想させる…。
セージュは腕を大きく振り、壁面を突いた。
ボワアーン・・・「あーっ!」
衝撃波と破片に、春太は吹き飛ばされあおむけにぶっ倒れた。後頭部をぶつけ、大きくバウンド。
部屋の一部がえぐりとられたので、離れた位置に居た滝斗達にも振動が襲ってきた。事務所ごと崩れ落ちるのではないかと思うほどだった。
大きくきしむ春太の顔面を、セージュは手にしていた円錐型の廃材で突き刺して破壊する。
「ぎゃうう!」ブッシャアアーッ!
春太は顔面に大穴をあけて絶命した。顔面から噴水のように赤黒い血を噴き上げる春太はどこか非現実的でコミカルだった。
血の噴出が治まると顔面を完全にくり抜かれた頭部が姿を現した。
トレードマークの黒いメガネは粉砕されて頭にめり込んでしまっている。左のつるがわずかに飛び出しているのが見えるだけだ。
目の前で行われた殺人に滝斗以外の馬鹿どもはようやく事態を飲み込んだ。竹屋が唐突に口を開いた。
「これでわかったでしょ。グルメツアーは嘘だけど、デスゲームは本当でーす」
次の瞬間、六人のうどん旅団は白い光に包まれて、窓の外に見えるデスゲーム会場の「ガスラット集光施設」にランダムに転送されていった。